判例評釈

No.13「県が設置した2次救急病院で、交通事故患者が外傷性急性心タンポナーデにより死亡。県の責任を認定」 

平成15年10月24日 大阪高等裁判所判決

(争点)

  1. 被控訴人Eが十分な検査をせず、心嚢内の血液の貯留を見落とした過失の有無
  2. 損害

(事案)

 Fが平成5年10月8日午後4時23分ころ、Jを助手席に乗せた乗用車を運転中に民家のブロックに衝突した。FとJは、救急車でP県(被控訴人P県)が設置した本件病院(2次救急病院に指定)に午後4時47分ころ搬送された。P県には、高度救命の3次救急病院としてKとLがあり、本件病院から救急車で前者は30分程度、後者は1時間以上要する距離にある。本件病院には救急専門医はいなかった。
 本件病院では主に被控訴人E医師(本件病院の脳神経外科部長)がFとJの診察に当たった。Jについては容体急変により、Kに転送されたが同日午後6時40分ころ外傷性心破裂のため死亡した。Fについては、頭部CT検査、頭部・胸部・腹部のX線撮影、血液検査などの後、経過観察とされ午後6時30分ころ一般病室への入院措置がとられた。
 しかし、同日午後7時ころ、Fの容体が急変し、同日午後8時7分に死亡した。
 Fの相続人4名が原告となり、P県とE医師を被告として提訴。一審は原告が全面敗訴(推測)し、原告が控訴した。

(損害賠償請求額)

●原審で原告が請求した額
 不明
●控訴審で控訴人(原告)が請求した額
 控訴人合計で7,929万9,172円(内訳:逸失利益3,709万9,172円+葬儀費用100万円+Fの慰謝料2,200万円+相続人固有の慰謝料1,200万円+弁護士費用720万円)

(判決による請求認容額)

●原審で裁判所が認めた額
 ゼロ(推測)
●控訴審で裁判所が認めた額
 控訴人合計で4,866万4,636円(内訳:逸失利益2,866万4,638円+葬儀費用100万円+Fの慰謝料1,500万円+相続人固有の慰謝料ゼロ+弁護士費用400万円 合計額が内訳と合わないのは、故人の逸失利益を控訴人の法定相続分で割ったときの端数処理のためと考えられる。)

(裁判所の判断)

(Eが十分な検査をせず、心嚢内の血液の貯留を見落とした過失の有無)について
 鑑定結果などから、Fの死因が外傷性急性心タンポナーデ(注)であると認定。死因を腹腔内出血とした別の鑑定については、胸部正面単純X線撮影で中心陰影が縮小していないことから、急速な出血が死亡原因であるとは考えられないとして、採用しなか った。
 Fの交通事故の態様から、Fが高エネルギー外傷を受けている可能性が高いことを前提として診察をすべきであり、遅くとも経過観察を講じた時点で速やかに胸部超音波検査を実施する必要があったと判示。それをしていれば、心嚢内の出血に気づき、 直ちに心嚢内穿刺により血液を吸引除去し、あるいは手術的に心嚢を開放(心嚢切開又は開窓術)し、仮に本件病院で開放できないのであれば3次救急病院に搬送することによって救命することができたとした。更に、本件で被控訴人Eは、脳神経外科医 に一般に求められる医療水準を満たしていたとしながらも、救急病院の認定要件や、救急病院の医師に求められている知識及び経験から、本件においては2次救急医療機関の医師として、救急医療に求められる医療水準の注意義務(担当医師の具体的な専 門科目による注意義務ではない)を負うとして、被控訴人Eの過失を認定(但し後述のとおり不法行為責任を否定)した。
 被控訴人P県について債務不履行責任を認定。
 他方、被控訴人Eについては、救急医療行為は都道府県知事の認定した医療機関において行われるものであり、被控訴人P県が設置した本件病院での救急医療行為は、公権力の行使に当たるとして、被控訴人E個人の不法行為責任を否定。

(注)【心タンポナーデ】 シンタンポナ−デ cardiac tamponade
《pericardial tamponade》
 心筋外傷で心膜損傷が小さく損傷部より心膜(心嚢)内への出血が持続した場合や、心筋梗塞で心破裂をきたした場合、急性心膜炎などにおいて、心膜内の血液貯留(心嚢血腫)や大量の心嚢液貯留のため心臓の拡張障害をきたした状態をいう.心膜は伸展しにくい組織であるため、血液や液体の貯留が急速な場合にタンポナーデを起こしやすく、その量は200ml程度とされている.静脈還流が著しく障害されるため心拍出量が低下して血圧が下がり、ショックに陥る.本症状に対しては緊急的な心嚢の穿刺・吸引によるタンポナーデの解除が必要である。
出典:CD-ROM最新医学大辞典スタンダード版(医歯薬出版株式会社)
(損害)について
(1)逸失利益の算出
 死亡時38歳のFについて、平成5年の賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者の平均賃金315万5,300円を基礎収入とし、労働能力喪失期間を67歳までの29年間、生活費控除率を4割として
 3,155,300×(1−0.4)×15.1410(ライプニッツ係数)=28,664,638円
と算出。

(2)慰謝料
 Fの死亡慰謝料を1,500万円と認定し、控訴人らの固有の慰謝料は、債務不履行責任による損害賠償請求であることから否定。

(3)遅延損害金
 控訴人らが事故日からの遅延損害金を請求しているのに対し、債務不履行による損害賠償請求であることから、訴状送達の日の翌日から起算。