判例評釈

No.94「救命救急センターである市立病院が、交通事故で重傷を負った患者の受け入れを拒否しその後患者が死亡。市に不法行為責任を認めた地裁判決」

神戸地方裁判所平成4年6月30日判決(判例時報1458号127頁)

(争点)

  1. Y病院が患者Aの診療を拒否したか
  2. 診療拒否があったとして、拒否に正当事由が認められるか

(事案)

 Y市が開設しているY病院は、救急告示病院であり、医療法31条以下に規定されている公的医療機関であり、Y市内における救命救急センターとして特に重篤救急患者(第三次救急患者)の医療を確保する医療機関である。
 平成元年5月14日午後8時10分ころ発生した交通事故(本件交通事故)により、患者A(当時20歳の男性)が両側肺挫傷・右気管支(中間幹)断裂の傷害を受けた。
 Y市消防局管制室は本件交通事故の連絡を受けて救急車の出動を指令し、救急車はS病院の玄関口までAを搬送した。S病院医師がAを救急車内で診察したうえ、Aを第三次救急患者と診断し、S病院ではAを受け入れられないと述べた。
 救急隊員からの依頼を受けたY市消防局管制室が同日午後8時34分ころY病院に対し第三次救急患者の受け入れが可能か否かを問い合わせた(本件連絡)。当時Y病院には少なくとも11名の当直医師がいた。
 Y病院の当直受付担当者が夜間救急担当医師の指示を受け、管制室に対し「今日は整形も脳外科もない、遠いし、こちらでは取れません」等応答した。
 管制室は同日午後8時39分ころK大学医学部附属病院にAの受け入れ方を要請したが、手術中のため受け入れられないということであったため、管制室は午後8時48分ころ近隣のN市立N病院に連絡したところ、受け入れる旨の回答があったので、救急車がAをN病院に搬送し、Aは同日午後9時13分ころN病院に収容された。
 N病院では、直ちにAに対する応急処置を採り、両側開胸手術の準備にかかり、翌日午前1時ころから午前6時ころまで同手術が行われたが、Aは午前6時50分、前記受傷に起因する呼吸不全により死亡した。
 Aの遺族(兄弟姉妹)がY市に対し、Y病院の当直医師が、本件連絡の際、正当な理由が無いのにAの受け入れを拒否したことは、診療義務に違反したものであり、Aは、この診療拒否により、Y病院において適切な医療を受けるという法的利益を侵害され、肉体的、精神的な苦痛を被ったとして、損害賠償請求訴訟を提起した。

(損害賠償請求額)

患者遺族側の請求額(遺族合計)200万円
(内訳:死亡患者の慰謝料200万円)

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額(遺族合計)150万円
(内訳:死亡患者の慰謝料150万円)

(裁判所の判断)

Y病院が患者Aの診療を拒否したか
 Y市側は、本件連絡における対応は、Y病院の状況についての情報提供にすぎないと主張しましたが、裁判所は、管制室と当直受付担当者との応答の具体的内容等を踏まえて、Y病院の夜間救急担当医師は、管制室の本件連絡に対し、Y病院の当直受付担当者を介してAの受け入れ(診療)を拒否したと認定しました。
診療拒否があったとして、拒否に正当事由が認められるか
 この点につき、裁判所は、まず、Y病院所属の医師が診療を拒否して患者に損害を与えた場合には、Y病院に過失があるという一応の推定がなされ、Y病院は、診療拒否を正当ならしめる事由に該当する具体的事実を主張・立証しない限り、患者の被った損害を賠償すべき責任を負うと判示しました。
 Y病院側は、正当事由として、当時のY市とその周辺における救急医療体制は、整備充実されており、本件当時Aを受け入れ得たのはY病院のみではなかったから、Y病院がAを受け入れなかったことに正当事由があるとの主張をしましたが、これに対して、裁判所は、いかにY市内における救急医療体制が当時整備充実されていたとはいえ、その医療体制内において第三次救急医療機関であるY病院が、Y市内における第一次、第二次救急医療機関の存在をもって、本件診療拒否の正当事由とすることはできないと判断しました。
 また、Y病院側は、当時、夜間救急担当医師が診察中であったことや、脳外科医師及び整形外科医師が本件連絡当時宅直で在院しなかったことから診療拒否に正当事由があるとも主張しましたが、裁判所は、Y病院側が訴訟において、夜間救急担当医師(このなかには外科の専門医師も含まれる)が本件連絡当時具体的にいかなる診療に従事していたのか等の具体的事実を主張・立証しなかったことから、診療拒否に正当な理由があったとは認められないと判断しました。
 そして、患者は、医師が正当な理由を有さない限りその求めた診療を拒否されることがなく診察を受け得るとの法的利益を有するのであり、本件診療拒否により患者Aはこの法的利益を侵害され精神的苦痛を被ったと認められるとして、150万円の慰謝料の支払いをY市に命じました。