判例速報

※この記事は、2006-09-26にメール配信されたものと同じ記事です。
Medsafe会員各位


 本件は,被告の開設する病院において造影剤を使用した頸部C
T検査を受けた患者(当時68歳の女性)がアナフィラキシーショッ
クを起こして死亡したことに関し,その夫及び子である原告らが,
当該死亡は,(1)当該検査の実施を決定した耳鼻科の担当医師にお
いて,造影剤の副作用等についての説明を怠るなどしたこと,(2)
当該検査を実施した放射線科の担当医師において,早期に気管内
挿管を行うなどの救命救急処置を怠るなどしたこと,(3)被告にお
いて,アナフィラキシーショックに対する短期集中的な処置が可
能となるような救命救急態勢ないしシステムの構築を怠ったこと
によるものであると主張して損害賠償請求した事案です。


■年月日・裁判所
H18.4.27 東京地裁平成14年(ワ)第27719号 損害賠償請求事件(医療過誤)

■当事者

・原告AはE(昭和8年生)の夫であり,原告B・Cは,原告A
とEとの間の子である。

・被告は,東京都文京区内に「順天堂大学医学部附属順天堂医院」
という名称の病院を開設している学校法人。平成14年1月当時,
F医師は被告病院の耳鼻科に,G医師は被告病院の放射線科にそ
れぞれ勤務。

■診療経過

・Eは,平成13年7月27日及び12月3日,H(足立区の病
院)を受診した際,喉の痛みを訴え,喉頭内視鏡検査を受診。

・12月26日,被告病院を受診。

・平成14年1月16日,被告病院を受診。左側だけ喉が痛く,
それがずっと続いている旨訴えた。F医師は,喉頭内視鏡検査で
は異状が見られなかったことから,食道入口部から甲状腺,食道
の病変の有無を精査するため,放射線科に対し,頸部の造影CT
検査を依頼。

・撮像終了直後,G医師及びL技師がCT検査室に入ったところ,
Eの口腔内には液体が貯留しており,呼名に反応がにぶく,呼吸
困難も認められた。G医師らは,直ちに,口腔内の内容物の吸引
とマスクによる酸素投与を開始するとともに,既に刺入している
サーフロー針を使用してソリタT1(500ml)の点滴静注を全
開で行い,その静脈路の3方活栓からソル・コーテフ(500mg)
を静注し,ボスミン(1アンプル)を上記ソリタT1のプラボト
ルに混入して点滴静注を開始した。そして,このような処置をし
ながら,Eをストレッチャーに移して処置の行いやすいCT検査
室の隣の血管造影室に移動。意識レベルは回復せず。

・麻酔科のK医師が午前9時18分ころ駆けつけてEを診察した
ところ,チアノーゼは全身ではなく四肢末梢に限局し,瞳孔は中
等散大で左右不同なく,自発呼吸は残存していたが,舌根沈下が
認められたため,アンビュウバッグによる呼吸介助を開始したと
ころ,胸郭の動きは良好で,換気も良好と思われたが,口腔内か
ら多量の液体が吸引されたこともあって,午前9時20分ころ,
K医師が気管内挿管を施行した。

・口腔内の液体吸引や酸素投与を受けていた際,自発呼吸があり,
気道が狭窄して換気が完全に障害されるような呼吸状態ではなかっ
たが,午前9時20分ころに気管内挿管がされるまでは有効な換
気が十分に得られていなかった。

・造影剤の投与によって,全身の肥満細胞が反応して血管を広げ
る物質が体中の組織から放出された結果,アナフィラキシーショッ
クに陥り,全身の血圧の低下,循環虚脱によって組織に酸素が供
給されなくなり,肺の毛細血管の透過性亢進のために徐々に肺水
腫が進行し,肺におけるガス交換に障害が生じた。これにより,
低酸素血症となり,心筋障害及び急性心不全を起こし,心原性肺
水腫を引き起こすなどしてさらにガス交換が悪化。血圧低下,肺
水腫による低酸素状態のため,脳への血流と酸素供給が不足して,
意識障害が生じ,脳幹の呼吸中枢の障害が換気障害をさらに悪化
させるという悪循環に陥り,急性の全身状態の悪化のため,心停
止・死亡。

■検査適応の不存在について

「・・・Eは,平成13年7月に喉の痛みを訴えていたことがあ
り,さらに,同年12月ころから左側の喉の痛みが継続していた
ところ,喉頭内視鏡検査では異状が見られなかったのであるから,
食道入口部から甲状腺,食道の病変(悪性腫瘍等)の有無を精査
するためには頸部の造影CT検査を受ける必要性があったといえ
る」

「他方・・・,Eは,アレルギー性鼻炎及び慢性関節リウマチを
患っていたが・・・,アレルギー性鼻炎及び慢性関節リウマチの
患者は造影剤の投与を回避すべき禁忌患者には該当しない」

「よって,Eに本件造影CT検査を受けさせるべきではなかった
とはいえない」

■F医師の問診,説明義務違反について

「・・・本件造影剤副作用大規模調査の結果によれば,非イオン
性造影剤(イオパミロンを含む。)の副作用は,16万8363
例中,総副作用発現症例が5276例(3.13%),重篤例が
70例(0.04%),極めて重篤例が6件(0.004%),
死亡例が1例(0.00%)である。また,アレルギー歴のある
患者のうち花粉症の患者1532例について見ると,副作用発現
症例が115例(7.51%),重篤例が1例(0.07%)で
ある」

「このように非イオン性造影剤の副作用によって重篤な状態になっ
た例や死亡した例が極めて少数であること及び・・・検査の必要
性に照らすと,Eは,仮に原告ら主張の問診や検査の必要性及び
造影剤の副作用について説明を受けていたとしても,本件造影C
T検査を受けなかったとはいえない」

「したがって,仮にF医師が問診や造影剤についての説明をして
いなかったとしても,それとEの死亡との間には因果関係がない」

■医師の慎重投与指示義務違反について

「Eは・・・,本件造影CT検査を受けた当時68歳で,アレル
ギー性鼻炎があったのであるから,本件添付文書によればイオパ
ミロンについて『慎重投与』の対象となる患者であったといえる。
他方,慢性関節リウマチの患者が『慎重投与』の対象となるとは,
本件全証拠によっても認められない」

「この点・・・,本件添付文書には重要な基本的注意として『投
与量と投与方法の如何にかかわらず過敏反応を示すことがある。
本剤によるショック等の重篤な副作用は,ヨード過敏反応による
ものとは限らず,それを確実に予知できる方法はないので,投与
に際しては必ず救急処置の準備を行うこと。』『投与にあたって
は,開始時より患者の状態を観察しながら,過敏反応の発現に注
意し,慎重に投与すること。また,異常が認められた場合には,
直ちに投与を中止し,適切な処置を行うこと。』との記載がある。
そして,・・・,造影剤によるアナフィラキシーショックのメカ
ニズムは不明であり,発現の確実な予知・予防方法は確立されて
いない。そうであるとすれば,放射線科医師は,造影CT検査を
実施する際には,『慎重投与』の対象となる患者に該当するか否
かを問わず,また,原疾患の主治医の指示の有無を問わず,本件
添付文書の重要な基本的注意事項に従うとともに,副作用発現時
の救命救急態勢を整えておくべきであるといえる」

「したがって,原疾患の主治医であるF医師において,放射線科
の医師に対し,原告らが主張する『慎重投与』の指示をすべき義
務があったとはいえない」

■不適切な水分摂取制限について

「・・・脱水症状のある患者は慎重投与の対象とされ,脱水は急
性腎不全,不整脈及び血圧低下等の重篤な副作用の誘因となるの
で,脱水を起こしやすい患者については,極端な飲水制限は避け
るべきとされている。しかし,F医師がEに対して水分摂取の制
限を指示した事実は,本件全証拠によってもこれを認めるに足り
ない」

「なお,仮に水分摂取の制限があったとしても,それがなければ
アナフィラキシーショックが起きなかったと認めるに足りる証拠
もないから,死亡との間の因果関係を認めることはできない」

■G医師の問診義務違反について

「・・・Eは,イオパミロンについて『慎重投与』の対象となる
患者であったが,その投与を避けるべき『禁忌』には該当しない。
よって,仮にG医師が原告ら主張の問診を十分に実施していたと
しても,本件造影剤は投与されたはずであるから,アナフィラキ
シーショックの発生とそれによる死亡を回避することはできなかっ
たというべきであり,死亡との間に因果関係は認められない」

■G医師の造影剤の投与方法の誤りについて

「・・・本件造影CT検査ではイオパミロン300シリンジが使
用されている。しかし,かかるシリンジ製剤(注射器型製剤)に
ついて点滴静注によらなければならないという医学的知見や秒間
1mlによる静注が重篤な副作用を誘発させるなど不適切であると
いうような医学的知見は,本件全証拠によっても認めるに足りな
い」

「したがって,造影剤の投与方法が不適切であったとはいえない」

■G医師の検査中止義務違反及び救命救急処置義務違反について

「・・・アナフィラキシーの症状は,原因物質に曝露した後,数
秒から数分後に症状が発現するのが通常であり,アナフィラキシー
ショックという重篤な状態に陥る危険性がある」

「よって,放射線科医師は,造影剤を投与するに当たっては,開
始時より患者の状態を観察しながら,過敏反応の発現に注意し,
異常が認められた場合には,直ちに検査を中止すべき」

「この点・・・,G医師は,本件造影剤を注入した直後,Eから
『ちょっと気分が悪い。』と訴えられた」

「しかし・・・,造影CT検査において,造影剤投与後に少し気
分が悪いと訴える患者は少なくないが,そのような場合でもしば
らくすると落ち着くことが多いこと・・・,本件造影剤副作用大
規模調査の結果によれば,非イオン性造影剤(イオパミロンを含
む。)の副作用として,重篤でないもの(悪心,熱感,嘔吐,か
ゆみ,蕁麻疹等)については約3%の患者に発生すること・・・,
G医師は,直ちにCT検査室に入室して,Eの様子を観察すると
ともに,Eに対し,『吐きそうですか。』,『検査はすぐに終わ
りますが受けられそうですか。』と質問したところ,それぞれ
『大丈夫です。』,『できると思います。』との返事を受けたこ
と・・・,撮像自体は12.5秒で終了することに照らすと,上
記のようなEの悪心の訴えをもって直ちに検査を中止すべき異常
であるとは認められない」

「なお・・・,アナフィラキシーショックの患者は,初期症状と
して,顔や体から手足に向かって赤くなることが多いとされるが,
必ずそうなるというわけでもなく,本件において,そのような初
期症状が撮像前にあったという事実は,本件全証拠によっても認
めるに足りない」


「・・・Eは,撮像後,口腔内に液体が貯留しており,呼名への
反応や意識がなく,呼吸困難,血圧の低下が見られた。よって,
G医師は,Eが本件造影剤によってアナフィラキシーショックを
起こしたことを疑って,直ちに救命救急処置をとるべきであった
といえる」

「具体的には・・・,救命救急処置のために可能な限りの人的・
物的資材を集めて,(1)気道確保・酸素投与(気道を確保してマス
クによる酸素投与を行う。喉頭浮腫等による上気道閉塞の所見が
あるなど呼吸困難が高度であれば気管内挿管をする。気管内挿管
が困難な場合には,緊急気管切開を考慮する。アナフィラキシー
ショックの場合,喉頭浮腫等によって短時間で気道閉塞状態に陥
る可能性があり,そうなるとバッグマスク換気や気管内挿管が困
難となるため,気管内挿管や気管切開を常に念頭に置いて対処す
る必要がある。),(2)静脈路確保・急速細胞外液輸液(静脈路を
確保した上で,通常1000ml以上の細胞外液(生理食塩水,乳
酸加リンゲル液等)を短時間で投与する。),(3)薬剤投与(第1
選択として速やかにエピネフリン(製品名ボスミン)を投与し,
必要に応じてこれを繰り返し投与する。エピネフリンは,交感神
経刺激作用,末梢血管収縮作用,気管支拡張作用を持つ。なお,
βブロッカー服用中の患者には,エピネフリンの効果がないため,
グルカゴンを投与する。気管支痙攣が問題となっている場合には,
吸入βアドレナリン作動薬を投与する。副腎皮質ステロイドは,
即効性を期待することができないが,遷延性,遅発性の反応を抑
制する効果があるものとされている。抗ヒスタミン薬についても,
即効性は乏しいが,症状の遷延化防止を目的として投与されるこ
とがある。),(4)心肺停止に対する処置(心肺停止があれば,絶
え間ない心臓マッサージと換気を徹底する。)を実施する必要が
ある」

「この点,本件では・・・,直ちに,M医師,J技師,I技師,
看護師らがCT検査室に駆けつけ,すぐに,口腔内の内容物の吸
引とマスクによる酸素投与を開始するとともに,既に刺入してい
るサーフロー針を使用してソリタT1(500ml)の点滴静注を
全開で行い,その静脈路の3方活栓からソル・コーテフ(500
mg)を静注し,ボスミン(1アンプル)を上記ソリタT1のプラ
ボトルに混入して点滴静注を開始した。また,J技師が放射線科
のN医師に,I技師が麻酔科医師にそれぞれ応援を要請し,上記
のような処置をしながら,Eをストレッチャーに移して処置の行
いやすいCT検査室の隣の血管造影室に移動させた。また,午前
9時20分ころK医師によって気管内挿管が実施された後も,適
宜,ボスミン,エフェドリン,メイロン,イノバン,硫酸アトロ
ピン等の薬剤が投与されるとともに,心拍数の低下に対する心臓
マッサージや心停止に対するDCが実施されている。よって,G
医師らは,下記の気管内挿管の点以外については,アナフィラキ
シーショックに対する標準的な救命救急処置を実施したといえる」


「もっとも・・・,アナフィラキシーショックの場合,喉頭浮腫
等によって短時間で気道閉塞状態に陥る可能性があり,そうなる
と気管内挿管が困難となるため,気管内挿管を常に念頭に置いて
対処する必要があるところ・・・,Eは,撮像終了直後に既に意
識がなく呼名にも反応しない状態にあったこと,口腔内の液体貯
留が続いており,呼吸困難もあって,肺水腫が生じていると疑う
べき状態であったことに照らすと,自発呼吸があったにしても,
有効な換気が得られているか否かについてサーチュレーションに
よる動脈血酸素飽和度等の確認がされていない(証人G)以上,
午前9時20分よりも早期に気管内挿管をすることが望ましかっ
たといえる」

「しかしながら・・・,アナフィラキシーショック時の気管内挿
管は,一般の放射線科医にとって,困難を伴い,麻酔科医等の専
門家に任せざるを得ないのが実情であることに照らすと,放射線
科医であるG医師が気管内挿管を行わなかったことをもって診療
上の注意義務違反(過失)ないし義務違反(債務不履行)がある
とまではいうことができない」

■薬剤選択の誤りについて

「アナフィラキシーショック・肺水腫を起こした患者に対してボ
スミンを投与すべきではなくエフェドリンを投与すべきという医
学的知見は,本件全証拠によっても認めるに足りない」

「この点・・・,ボスミンには重大な副作用として肺水腫,呼吸
困難及び心停止があるが,かかる重大な副作用の発生原因・機序
に関する証拠はなく,アナフィラキシーショック・肺水腫を起こ
した患者に対してボスミンを投与すべきではないとする根拠には
ならない」

「かえって・・・,造影剤によるアナフィラキシーショックが起
きた場合には,第1選択として速やかにエピネフリン(製品名ボ
スミン)を投与し,必要に応じてこれを繰り返し投与する必要が
あるとされている」

「したがって,Eに対するボスミンの投与が不適切であったとは
いえない」

「・・・ボスミンには重大な副作用として肺水腫,呼吸困難及び
心停止があるが・・・,ボスミンの投与前に既にアナフィラキシー
ショックに陥ってたことをも考慮すると,ボスミンの投与がEの
肺水腫や呼吸困難を生じさせたと推認するに足りず,他にかかる
事実を認めるに足りる証拠はない」

「また,ボスミンの投与が既に発生していた肺水腫,呼吸困難及
び心停止を増強・進行させた事実は,本件全証拠によっても認め
るに足りない。したがって,ボスミンの投与とEの死亡との間に
因果関係を認めることはできない」

■救命救急態勢の構造的な欠陥について

「本件添付文書には重要な基本的注意として『投与量と投与方法
の如何にかかわらず過敏反応を示すことがある。本剤によるショッ
ク等の重篤な副作用は,ヨード過敏反応によるものとは限らず,
それを確実に予知できる方法はないので,投与に際しては必ず救
急処置の準備を行うこと。』『投与にあたっては,開始時より患
者の状態を観察しながら,過敏反応の発現に注意し,慎重に投与
すること。また,異常が認められた場合には,直ちに投与を中止
し,適切な処置を行うこと。』との記載があること,また・・・,
造影剤によるアナフィラキシーショックのメカニズムは不明であ
り,発現の確実な予知・予防方法は確立されていないことに照ら
すと,放射線科において造影剤を使用する場合には,常に副作用
発現時の救命救急態勢を整えておくべきであるといえる」

「この点・・・,本件造影CT検査が実施されたCT検査室は地
下1階にあり,通常,CT検査は,医師1人,研修医2人,看護
師1人,診療放射線技師3人の態勢で行っていた。また,CT検
査室の隣には読影室があり,緊急の際には,そこにいる医師が直
ちにCT検査室に駆けつけられる状態にあった。そして,重篤な
副作用の発現時には,麻酔科医師に直ちに応援要請をすることと
なっていた。さらに,CT検査室には,酸素投与と吸引ができる
設備があるほか,救急用のカートが置かれ,救急措置に必要な医
薬品(ボスミン,ソル・コーテフ,エフェドリン等)及び医療機
器(気管内挿管用の機器,除細動器等)が準備されていた。この
ような救命救急のための環境からすると,被告病院の救命救急態
勢は,後記の麻酔科医の到着が午前9時18分ころになった(気
管内挿管の実施が午前9時20分ころになった。)点を除けば,
当時の医療水準に満たない不適切なものであったとは認められな
い」

「麻酔科医(K医師)の到着が午前9時18分ころ(撮像終了直
後に異変が確認された時から原告らの主張では約18分後,被告
の主張では約10分後)になった点について検討する」

「本件造影剤副作用大規模調査(16万8363例)の結果によ
れば,非イオン性造影剤(イオパミロンを含む。)の副作用のう
ち,重篤例が70例(0.04%),極めて重篤例(重篤な副作
用が生じた例のうち麻酔科医の応援を依頼した例又は入院を必要
とした例)が6件(0.004%),死亡例が1例(0.00%)
であることに照らすと,造影CT検査の際に麻酔科医の常駐まで
を要求するのは相当でないが,これまでに判示したところによれ
ば,造影剤によるアナフィラキシーショックに対する救命救急態
勢としては,麻酔科医(本件のような場合に気管内挿管等を行う
ことのできる医師。以下同じ。)の応援が必要となったときに,
麻酔科医が速やかに現場に駆けつけられるような病院内の連絡手
段を整えておくべきであるといえる(造影剤によるアナフィラキ
シーショックが起きたときに麻酔科医が速やかに現場に駆けつけ
られないようでは,救命救急態勢として問題があるといえる。)」

「この点,本件において,本件造影CT検査の撮像終了時刻が被
告主張のとおり午前9時8分ころであった場合,G医師らが,E
の状態を観察して放射線科内部の他の医師,診療放射線技師及び
看護師に応援を要請するのに要する時間,麻酔科医の応援を要請
する必要があると判断して麻酔科医がいる部署に連絡をするのに
要する時間,連絡のついた麻酔科医が現場に駆けつけるのに要す
る時間,現場に駆けつけた麻酔科医が患者の状況を把握して気管
内挿管が必要か否かを判断し,必要と判断した場合にこれを実施
するのに要する時間などを考慮すると,平成14年1月当時の被
告病院(大学病院)と同程度の病院の医療水準として,麻酔科医
が到着するのに10分程度かかるとしてもやむを得ないというべ
きであって,麻酔科医であるK医師が血管造影室に駆けつけた時
刻が午前9時18分,気管内挿管を行った時刻が午前9時20分
であったことが,救命救急態勢として不適切であったとまではい
えない(不適切であったというだけの事情を認めるに足りる証拠
はない。)他方,本件造影CT検査の撮像終了時刻が原告ら主張
のとおり午前9時ころであった場合,K医師が血管造影室に駆け
つけた時刻が午前9時18分,気管内挿管を行った時刻が午前9
時20分であったことは,救命救急態勢としては不適切であった
というべき余地がある(麻酔科医が救命救急の現場に駆けつける
のに18分程度かかったということになる。)」

「しかしながら,仮に上記のように気管内挿管の実施時期が遅く
救命救急態勢が不適切であったといえるとしても,それとEの死
亡との間に因果関係は認められない。すなわち,前記のとおり,
Eの病態は,アナフィラキシーショックに肺水腫(ARDS)を
合併したもので,各種の治療の効果が続かない極めて難治性のも
のであったといえることのほか,Eの死亡原因・・・を考慮する
と,仮に,本件造影CT検査の撮像終了直後に異変が確認された
時刻が原告ら主張のとおり午前9時ころであって,麻酔科医の到
着に時間を要する10分後ころの午前9時10分ころに直ちに気
管内挿管が行われていたとしても,Eの死亡が避けられたとまで
は認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない」

■判決主文
(請求棄却)