判例速報

※この記事は、2006-11-24にメール配信されたものと同じ記事です。
Medsafe会員各位


 今回は,被告病院において,乳頭腺管癌との診断を受けて,左
乳房摘出手術を受けた原告B及びその夫である原告Dが,被告病
院において病理診断を担当した被告Cには,原告Bの病変が実際
には癌ではなかったにもかかわらず,誤って癌であると診断した
過失があるとして,損害賠償を請求した事案です。


■年月日・裁判所
H18.6.23 東京地裁 平成16(ワ)11608号 損害賠償請求事件


■当事者

・原告Bは,昭和31年1月10日生まれの女性であり,原告D
は,原告Bの夫。

・被告Aは,静岡県三島市所在のE病院を設置・運営する社団法
人。被告Cは,本件当時,被告病院に勤務し,原告Bの細胞診検
査を担当した医師。

■診療経過

・平成13年10月,原告Bは,三島市の乳がん検診を受診し,
左乳腺腫瘤を指摘された。

・10月13日,F病院のI医師の診察を受けたところ,触診に
よって腫瘤様のものが触知され,エコー検査によって,触診部と
一致して,腫瘤が確認された。

・10月23日,I医師の紹介により被告病院を受診し,G医師
の診察を受けた。G医師は,触診,エコー,マンモグラフィー,
吸引細胞診等の検査を行った。超音波検査の結果は,癌を疑うと
するものであったが,マンモグラフィーによっては,癌は描出さ
れなかった。

・被告Cは,G医師の依頼により,吸引細胞診によって得られた
検体を観察し,「血性で汚い背景です。クロマチン増量,核小体
腫大,核大小不同を示す不規則重積性の見られるatypical cell
(異型細胞)が見られます。papilo tubular Ca(乳頭腺管癌)を考
えます。診断PAP ClassV(パパニコロウ分類V)」等と記載した細
胞診検査報告書を作成し,G医師に報告。

・10月31日,G医師は,原告Bに対し,検査の結果,原告B
の左乳腺腫瘤はがんであったと報告し,同年11月7日に手術を
行うことを決定。

・原告Bは,原告Dに,G医師から癌と告知されたこと,11月
7日に手術を行う予定であることを告げたところ,原告Dは,原
告Bに対し,他の病院でも見てもらうようにとアドバイスをした
が,原告Bは,癌への恐怖心から,一刻も早く手術をしようと考
え,他の病院を受診しなかった。

・11月6日,被告病院に入院。

・11月7日,G医師の執刀により,原告Bの左乳房について,
本件切除手術が行われた。本件切除手術は,非定型的切除術(児
玉法)の術式で行われ,小胸筋は切離されなかった。G医師は,
リンパ節については,レベルIIIまで郭清し,レベルIには,腫大
したリンパ節を確認した。肋間上腕神経は温存せず,十分に頭側
まで郭清した。

・本件切除術後に,組織及び細胞について組織診及び細胞診が行
われた。被告病院病理部内で検討した結果,報告書において,
「全体像を総合的に検討すると,病変は,増殖が強く,典型的と
はいえないが,乳管内乳頭腫である可能性を第一に考える。」と
診断された。
 また,原告Bは,平成14年1月,被告病院から組織及び細胞
診標本を借り出し,訴外J大学K医師の意見を求めたところ,同
医師も,乳管内乳頭腫との診断であった。

 さらに,原告Bは,平成15年,被告病院から術前の細胞診プ
レパラート及び術後の組織及び細胞診標本のプレパラートを借り
出し,訴外癌研究会附属病院の医師の意見を求めたところ,前者
については,「核異型の乏しいduct cells(乳管細胞)が血管間
質茎を中心として増生しています。集塊を構成する細胞は筋上皮
との二相性を保持していることから,Benign papillarylesion
(良性乳頭病変)と考えます」との所見で,クラスIIの判定とさ
れ,後者については,悪性腫瘍はないとの所見で乳管内乳頭腫と
の診断であった。

・手術から4日後の平成13年11月11日,原告Bは,リハビ
リテーションプログラムと題するパンフレットを受け取り,リハ
ビリについての指導を受けた。また,原告Bは,被告病院入院中
に,いわゆる壁はい運動を行った。しかし,入院中には,正確な
肩関節の可動域の計測は行われなかった。

・原告Bは,11月26日に被告病院を退院したが,退院の際に
は,退院後のリハビリについての説明はされなかった。

・原告Bは,11月30日,被告病院を受診し,G医師は,原告
Bの左乳腺腫瘤はがんではなかったこと,念のため経過観察をす
ること,増殖傾向が強く,細胞異型はあったため,切除は妥当で
あったをことを説明した。また,G医師は,原告Bに対し,がん
ではないのでやることはないから,3ヶ月後に来てくださいと告
げた。原告Bが,リハビリについて,G医師に尋ねたところ,G
医師は,普通の家事仕事をすることがリハビリである旨を告げた。
また,同日の診察においては,原告Bの左肩の可動域についての
検査はされなかった。

・原告Bは,F病院のI医師に本件切除術の結果等について相談
し,同医師は,G医師宛に,原告Bが詳しい説明を求めているこ
と,乳房喪失についての心のケアや,リハビリ面でのフォローに
ついて不満を感じていること等について記載した診療情報提供書
を作成。

・12月4日,上記の診療情報提供書を持参して,原告D及び同
人の母とともに,被告病院を訪れ,G医師に説明を求めた。G医
師は,原告Bらに対し,細胞診や超音波検査等の結果から,乳が
んという術前診断に基づいて手術を行った,最終的な病理診断は
良性腫瘍であるが典型的なものではない,非典型例では術前診断
と最終診断が一致しないことがある等の説明を行ったが,I医師
が求めた心のケアに資するような語りかけはなく,原告Bの左腕
の可動域の検査も行わなかった。

・12月28日,腕が十分に上がらず,本件切除術の創部に違和
感を感じたことから,被告病院を受診した。原告Bは,G医師の
指示により,上肢を上下に動かしたところ,G医師は,その角度
等を計測することもなく,カルテ上に「ROM(関節可動域)f
ull(完全)」と記載。

・平成14年2月8日,原告Bは,被告病院を受診し,G医師の
診察を受けた。G医師は,カルテ上に,「ROM(関節可動域)
improved(改善)」と記載。

・ 9月30日,M病院の乳腺外科において,右乳房のがん検診を
受診した。その際に,むくみや左肩が上がらないことを相談し,
同病院のリハビリ科の浮腫外来を紹介された。

・10月18日,M病院のリハビリ科を受診し,N医師の診察を
受け,可動域の検査を行った。原告Bは,N医師と相談の上,そ
の後は,自己の勤務先であるF病院で,理学療法士のもとリハビ
リを実施。

・平成15年5月15日,M病院を受診し,N医師が診察したと
ころ,左上腕は右上腕に比べて,周計が1ないし1.5センチメー
トル太く,軽度のリンパ浮腫が認められた。また,左肩関節の可
動域は,屈曲が140度,外転が140度であり,制限が認めら
れた。このとき健側である右肩の可動域は測定されていない。さ
らに,上肢に負担がかかると,浮腫の増悪,肩甲周囲の痛みが増
悪するため,家事動作や職業上の制限があり,日常生活に障害を
きたしているとの主訴があった。診察にあたったN医師は,上記
内容の診断書を作成。

・7月1日,同病院を受診し,N医師が診察したところ,左上腕
は右上腕に比べて,周計が1センチメートル太く,リンパ浮腫が
認められた。また,左肩の拘縮が認められた。また,左肩関節の
可動域は,他動運動で,屈曲が135度,外転が120度,内旋
が70度,健側である右肩関節の可動域は屈曲及び外転が180
度,内旋が90度であり,左肩の可動域には制限が認められた。
診察に当たったN医師は,原告Bの症状は固定したものと認め,
上記内容の診断書を作成。

・ 原告Bは,M病院に,リハビリや精神的治療のために,合計1
8日間通院。

・平成15年10月7日,乳房再建術を受けるため,東京都港区
所在のH医院を受診した。同院のO医師は,同日,原告Bに,組
織拡張器を挿入する手術を行った。原告Bは,同院に入院はしな
かったものの,痛みが強かったことから,同日は,東京都所在の
ホテルに宿泊。

・平成16年5月1日,左乳房にシリコンを挿入する手術を受け,
その後,平成17年1月22日まで,同医院に合計16日間通院。

・原告Bの左腋は,陥凹の状態となっており,左胸部の約12セ
ンチメートルの醜状痕が存在する。また,原告Bは,重量のある
物を持つと痛みやむくみを感じ,左腕を上げると創部が突っ張る
感じがするため,右腕と同じ高さまでは腕を上げられない状態。

■左乳房の病変につき,乳がんと誤診した過失について

「細胞診の判定としては,従来より,パパニコロウ分類が用いら
れている。このパパニコロウ分類においては,細胞診所見におい
て異型細胞をみないものがクラスI,異型細胞はあるが悪性細胞を
みないものがクラスII,悪性を疑わせる細胞を見るが確診できな
いものがクラスIII,悪性の疑いが極めて濃厚な異型細胞を認める
場合がクラスIV,悪性と診断可能な異型細胞を認める場合がクラ
スVとされている」

「このように,クラスVとの診断は,疑いを超えて確診に至ったも
のであるから,クラスVというためには,診断時の所見に照らし,
悪性と診断できる確実な根拠があることが必要であるというべき」

「・・・本件では,術前の細胞診の結果,クラスVと診断されてい
るにもかかわらず,術後の組織検査においては,被告病院を含む
三つの医療機関において,いずれも良性である乳管内乳頭腫との
診断がされており,術前の細胞診のプレパラートについても,他
院において,クラスIIとの判定がされている」

「その上,本件当時被告病院に勤務していた細胞検査技師は,他
施設の検査技師も悪性を疑うという意見であったこと及び被告病
院で再度検討した結果としても癌の可能性がないとは言い切れな
いとの判断であったことを陳述しているところ,これらの判断を
上記分類に当てはめた結果については何ら言及されていないが,
悪性を確診するとか,これを強く疑うとの記載がないことからす
ると,せいぜいクラスIIIに分類すべきとの判断と理解でき,この
陳述からしても,被告Cの判定は誤りであったとうかがわれる」

「被告Aは,・・・を提出し,被告CがクラスVと判断した根拠
について明らかにしているが,・・・からは,被告Aの指摘する
所見が存在することは認められるものの,それによって良性を疑
う余地がないとか,又は悪性をこそ強く疑うべきか否かについて
は明らかにならず,他にこれを認めるに足りる証拠はない」

「その上,被告らは,被告Cの過失の有無について,これを争っ
て上記書証等を提出したものの,自ら鑑定や人証申請をしないば
かりか,原告らにもこの点の主張を強く求めないまま・・・特段
の立証をしなかった」

「・・・被告Cには,細胞診の検体からは良性の可能性も否定で
きず,さらに生検等によってこの点を精査すべきであったにもか
かわらず,良性の可能性を疑う余地がないかのような判定をした
点において,細胞診の診断を誤った過失があると認められる」

■被告らの行為と乳房切除手術との因果関係

「G医師は・・・,被告Cが作成した細胞診検査の結果を基に,
乳癌であるという診断をして,それに基づき,乳癌の治療として,
原告Bの左乳房切除手術を行ったのであるから,被告らの過失と
原告Bの左乳房切除との間には,因果関係があるというべき」

「被告Aは,仮に,被告病院の術前診断の誤りに過失があったと
しても,乳管内乳頭腫では,切開手術自体はいずれにせよ必要で
あったと主張するところ,これは,被告らの過失と手術自体との
因果関係はないと主張するものと解される」

「しかしながら,一般的に,乳管内乳頭腫については,乳頭状病
変は癌との確定診断が難しく切除を推奨するとされていることは
認められるものの,本件において,原告Bに生じた乳管内乳頭腫
について,切開手術の適応があったことを認めるに足りる証拠は
なく,本件においていずれにせよ切開手術自体が必要であったと
認めることはできない」

「また,仮に手術が必要であったとしても,乳管内乳頭腫の治療
としての手術と,乳癌の治療としての手術は,その内容が大きく
異なるところ,本件乳管内乳頭腫の手術としてどの程度の手術が
必要であったのかを認めるに足りる証拠はない」

「したがって,被告Aの上記主張は,その前提事実を認めること
ができず,採用できない」

「被告Cは,癌との診断は,他の検査結果との総合評価で行われ
るもので,この総合判断は臨床医が行うものであるから,細胞診
の評価を誤った被告Cの行為と,乳房切除との間には,因果関係
がないと主張する」

「しかしながら,乳癌の診断のための検査手順としては,次のと
おりとされていることが認められる。すなわち,まず,問診,視
診,触診を行い,次に必ずマンモグラフィー,超音波などの画像
診断のいずれかを併用する。マンモグラフィーで異常所見がなけ
れば経過観察とし,異常があれば,超音波,吸引細胞診,生検を
行う。視診・触診で異常が見つかった者は,マンモグラフィーに
引き続いて超音波を行う。良性であれば経過観察とするが,必要
であれば生検を行う。癌の疑いのある者に限って吸引細胞診を行
い,吸引細胞診の結果がクラスI,IIであれば経過観察とし,クラ
スIII,IVのみ生検を行う。クラスV又は画像診断で明らかに乳癌
と診断されれば手術を行う」

「以上のように,細胞診が癌の疑いのある者に限ってなされるも
のであるという検査手順からすると,細胞診は,病変の性質をよ
り正確に判断するために行うものであり,細胞診の結果は,癌で
あるとの最終診断をなすにあたって,極めて重要な意味を有する
ものであるといえる。特に,細胞診の結果がクラスVであるとされ
れば,さらなる検査を経ずに切除手術の適応があるとされるので
あるから,細胞診の結果が,乳癌であるとの最終診断に決定的な
影響を与えるものであることは明らか」

「このことからすると,本件において細胞診の結果が異なるもの
であったら,最終的なG医師の判断としても,更なる検査なしに
は乳房切除手術は行わなかったと認めることができるから,細胞
診の結果についての判断が,乳房切除手術の実施と因果関係を有
することは明らか」

「また,被告Cは,手術をするにしても,乳房温存療法等の方法
があったと主張するが,原告Bの手術前の所見からして,乳房切
除術よりも温存療法をこそ選択すべきであったと認めるに足りる
証拠はなく,本件において乳房切除術を選択することもまた通常
の医師に与えられた選択肢の範囲内の行為であったと認められる
から,被告C作成の細胞診の結果に基づき,乳房切除手術を選択
した臨床医であるG医師の判断が,通常の因果の経過からはずれ
た判断であったと認めることはできない」

「したがって,被告Cの上記主張には理由がない」

■原告Bの左肩の後遺症の存否

「・・・原告Bは,左腋が陥凹の状態となっていることが認めら
れる。また,原告Bは,現在の症状につき,重量のある物を持つ
と痛みやむくみを感じ,左腕を上げると突っ張る感じがするため,
右腕と同じ高さまでは腕を上げられない状態にある旨を陳述し,
供述する」

「原告Bの上記陳述及び供述の信用性につき検討するに,一般的
に,乳房切除手術後には,肩関節可動域制限やリンパ浮腫が生じ,
腋窩リンパ節郭清が施行された患者では,腋窩部の痛みやひきつ
れ感による肩の挙上困難が特に強く生じるとされていることが認
められる」

「また・・・,本件切除手術から,約1年8ヶ月経過した平成1
5年7月1日のM病院受診時に,原告Bには,左上肢のリンパ浮
腫及び左肩の可動域制限が生じており,その症状は,症状固定さ
れたものと診断されたことが認められる」

「さらに,腋窩リンパ節は,小胸筋の外側から内側にかけてレベ
ル1から3に分類されるが,レベル1及び2の郭清で重傷のリン
パ浮腫を起こすことはまれで,レベル3の郭清は,浮腫を起こす
危険性が高いとされていることが認められるところ・・・,原告
Bに対しては,リンパ節はレベル3まで郭清されている」

「上記のように,リンパ浮腫や肩関節可動域制限が,乳房切除手
術の合併症として認められること,原告Bの主張する現在の症状
が,乳房切除手術の合併症としてのそれに合致すること,実際に,
リハビリの専門医によって左肩の可動域制限及びリンパ節浮腫が
存在すると診断されていることからすれば,原告Bの上記の陳述,
供述は信用することができ,原告Bには上記の症状が存在すると
認められる」

「これに対し,被告Aは,被告病院入院時及び退院時において原
告Bに可動域制限が生じていなかったと主張した上,それを根拠
として,現在の原告Bの左肩の後遺症の存在を否定する」

「そこで,被告病院入院時及び退院時における原告Bの左肩の可
動域制限の有無につき検討するに,上記認定事実のとおり,被告
病院入院中及び退院時には,左肩の可動域についての検査はなさ
れていない。また,退院の6日前の平成13年11月20日の看
護記録には,「壁はいあまりすすまず」との記載があることから
すれば,この時点で,原告Bの左肩の可動域に何らかの異常があっ
たものと推認できる」

「また,さらに,原告Bは退院直後の同年12月3日に,F病院
のI医師を訪れ,被告病院におけるリハビリ面でのフォローが不
十分であることを訴えたことが認められる。この事実からすれば,
原告Bは,当時,リハビリの必要性を感じるほどに,何らかの身
体の不都合を感じていたことが認められ,間近い時期の被告病院
退院時においても同様であったことが認められる」


「これらの点からすれば,被告病院入院時及び退院時において既
に原告Bに可動域制限が生じていたと認めるのが相当であり,被
告Aの上記主張はその前提を欠くもの」

「以上のとおり,原告Bには後遺症の存在が認められる。」

■原告Bの後遺症と被告らの過失との因果関係

「次に,原告Bの上記症状と,被告らの行為との因果関係につき
検討するに,一般的に,肩関節可動域やリンパ浮腫の発生が,乳
房切除手術後の合併症として認められており,原告Bには実際に
それに合致する症状が生じていることからすれば,その症状は,
乳房を切除したこと,すなわち,被告らの過失を直接の原因とし
て生じたと推認できる」

「これについては,被告らは,被告病院において適切にリハビリ
の指導がなされたにもかかわらず,原告Bがリハビリを怠ったた
めに,後遺症が生じたと主張する。そこで,まず,被告病院にお
いて,術後に,リハビリについていかなる内容の指導が行われた
かにつき検討する」

「・・・原告Bは,平成13年11月11日に,リハビリテーショ
ンプログラムと題するパンフレットに基づき,リハビリについて
の指導を受けたことが認められる。また,その際には,両手の手
のひらを胸の前で合わせ,軽く力を入れる等の,パンフレット記
載の軽度の運動の方法につき指導されたと認められる」

「もっとも,指導されたリハビリの具体的な内容については,看
護記録上,11月12日以降は,リハビリに関する記載は「壁は
い運動」との記載のみであること,証人Lも壁はい運動以外は,
その内容について具体的に証言していないことからすれば,被告
病院で行われたのは,パンフレットを渡した際に,その内容につ
いて簡潔に説明したことにとどまり,壁はい運動以外の内容につ
いて,実際に原告Bに行わせることはなかったと認めるべき」

「次に,被告病院退院時において,被告病院においていかなる内
容の退院後のリハビリ指導がなされたかについて検討するに・・
・,退院時には,被告病院においては,リハビリについては何ら
の指導がなされなかった。また・・・,G医師は,同年11月3
0日に,原告Bが,被告病院を受診し,リハビリについて質問し
た際に,普通の家事仕事をしていればよく,それがリハビリとな
ると述べたことが認められる。この発言の趣旨は,特に患部をか
ばったりせず,通常の生活をしていればよい,とするものである
と解される」

「以上のような被告病院におけるリハビリ指導の内容を前提とす
ると,原告Bは,入院中に被告病院から指導を受けた壁はい運動
を毎日行っていたほか,手の運動を自主的に行っていたことが認
められるから,入院中に,原告Bが,指導された内容のリハビリ
を怠ったということはできない」

「また,退院後についても,原告Bの供述によれば,同人は,退
院後には,G医師の指示通り,不十分ながらも家事を行い,翌月
の12月10日からは,ボランティアとして,職場に復帰してい
たと認められるから,やはり指導されたリハビリを怠ったという
ことはできない」

「これらのことからすると,原告Bは,G医師の指導のとおりに,
家事仕事を行った上,ボランティアとしての活動も行っていたに
もかかかわらず上記の後遺症が生じたのであるから,原告Bが被
告病院において指示されたリハビリを行わなかったことにより,
原告Bの損害が生じたということは到底できない」

「したがって,原告Bの後遺症が,同人が被告病院の指導にもか
かわらず,頑なに自発的リハビリをしなかったことによって生じ
たということはできず,この点についての被告Aの主張には理由
がなく,原告Bの後遺症と被告らの行為との因果関係は認められ
る」

「以上より,原告Bの左肩の後遺症の存在及び被告らの過失との
因果関係は認められる」

■損害額

(1) 治療費 17万6660円

(2) 入院雑費 21日×1500円=3万1500円

(3) 器具購入費
特殊のシリコンや専用の下着等3万3075円

(4) 休業損害
就労不能期間は73日
賃金センサス平成13年第1巻第1表によれば,学歴計全年齢女
子労働者平均収入は,352万2400円
よって,
73日×352万2400円÷365日=70万4480円

(5) 逸失利益
左肩の可動域は,主要運動である屈曲が135度,外転について
は自動運動で110度,他動運動で120度であるのに対し,健
側である右上肢の可動域は,屈曲については180度,外転につ
いても180度であって,左上肢の可動域は,4分の3以下に制
限されていることが認められる。また,内旋についても,健側が
90度であるのに対し,左については70度であって,可動域の
制限が認められる。
(労働能力喪失率は14パーセント)
352万2400円×12.462(20年のライプニッツ係数)
×0.14=614万5460円

(6) 乳房再建費
本件乳房再建にかかる治療費 108万6635円
乳房再建術のために医院へ通院するための交通費 13万113
0円
宿泊費 8000円
休業損害
乳房再建手術に関連して,H医院に合計16日通院
賃金センサス平成14年によれば,学歴計全年齢女子労働者平均
収入は,351万8200円
よって,
16日×351万8200円÷365日=15万4222円
通院慰謝料 60万円

(7) 慰謝料 605万円

(8) 損害賠償関係費用
診断書作成費用等 8400円
証拠保全費用
原告がカルテの開示を請求したとすれば,被告病院は,任意にカ
ルテの開示に応じたと認められ,証拠保全の費用が,被告らの過
失と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

(9) 弁護士費用 150万円

■損益相殺

「 以上に対し,原告Bは,健康保険傷病手当金として,合計17
万5890円の支給を受けたことが認められる。この健康保険傷
病手当金は,患者が被った損害を填補するために支給されるもの
であるから,損害額から控除するのが相当」


■判決主文

1 被告Aは,原告Bに対し,1645万3672円及びこれに対
する平成13年11月7日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。

2 被告Cは,原告Bに対し,1645万3672円及びこれに対
する平成13年11月7日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。

3 原告Bのその余の請求及び原告Dの請求をいずれも棄却する。
<以下略>

注)両債務は,不真正連帯債務(判決理由中に明記)