判例速報
※この記事は、2006-11-29にメール配信されたものと同じ記事です。Medsafe会員各位 今回は,ポリープ摘出手術を受けた患者が術後に出血性ショッ クにより死亡した場合につき,担当医が追加輸血等を行わなかっ たことに過失があるとはいえないとした原審の判断に採証法則に 反する違法があるとされた最高裁判決です。 ■年月日・裁判所 H18.11.14 最高裁判所第三小法廷 平成16年(受)第2226号損害賠償請求事件 ■原審 平成16年09月22日東京高等裁判所 平成16年(ネ)第2589号損害賠償 請求事件 ■当事者 上告人側:B(昭和19年生)は,被上告病院で上行結腸ポリー プの摘出手術を受けたが,平成12年5月2日,術後急性胃潰瘍 による出血性ショックにより,満56歳で死亡。X1はBの妻, X2はBの子。 被上告人側:被上告法人は,千葉県市川市において被上告病院を 開設。Y1は,消化器外科を専門とする医師であり,平成12年 当時,被上告病院に勤務。 ■診療経過(原審の確定した事実関係) ・平成12年2月,Bは,近隣の医院で受けた成人病の検診で大 腸の精密検査が必要であると指摘された。 ・3月4日に被上告病院を受診,4月4日,Bは,検査入院をし て,Y1による大腸の内視鏡検査を受けたところ,上行結腸から 横行結腸への移行部に,径1.5cm大のポリープが認められた。 Y1は,内視鏡ではこのポリープの全貌が確認できず,また,こ のポリープが皺壁上に存在し,穿孔や不完全切除などの危険性が あったことから,内視鏡による切除を断念し,開腹による上行結 腸部分切除術を検討することにした。 ・4月11日,Y1から病理組織検査の結果を聞き,ポリープは 手術によって切除した方がよいとの説明を受けて,これに同意し, 4月13日に被上告病院に入院した。 ・4月24日,C医師の執刀により,上行結腸部分切除術による ポリープの摘出手術が行われた。手術は,午前11時30分にB が手術室に入室の後,全身麻酔の下で腹部を正中切開して行われ, 午後3時過ぎに終了した。術後から,抗生剤のパンスポリンが投 与された。 ・4月25日,Bは,37.6度の発熱があった。4月26日に なると,Bの体温は39.0度まで上がり,下痢が2回見られた。 嘔気,吐血,心窩部痛,下血,ドレーン排液の汚染はなかった。 Y1は,同日,ボルタレン座薬50mgを3回投与した。4月27 日,Bの体温が最高で39.7度まで上がり,暗茶色の便が出た。 Y1は,この日も解熱剤としてボルタレン座薬を3回投与した。 Y1は,吻合部の縫合不全の可能性もあると考えて腹部CT検査 を実施したが,縫合不全による貯留像はなかった。Y1は,抗生 剤のミノマイシンを追加投与し,抗生剤2剤で経過観察をするこ ととした。 ・4月28日朝,Bの体温は38.3度あった。Y1は,抗生剤 のパンスポリンをチエナムに変更し,グロブリン製剤も併せて使 用した。同日午後には,Bの体温が37度台となったが,暗赤色 のうすい下痢による下血が出現した。ドレーン排液の汚染はなかっ た。この日は,2回,ボルタレン座薬が使用された。 ・4月29日,Bの体温は37度台であったが,午後2時ころ, 収縮期血圧が94mmHg,拡張期血圧が72mmHg(以下,血圧につ いては,例えば,94/72として収縮期血圧と拡張期血圧を/ で区切る形式により,単位を省略して数値のみで示す。)と低下 し,脈拍は103(毎分。以下同じ。)となった。その後,Bの 血圧は,午後8時51分に89/54に低下し,午後11時30 分にも96/64となり,午後11時38分には,血圧が90/ 50,脈拍が96となった。ただし,Bの収縮期血圧は,上記の とおり100以下に低下しても,その都度100を超える数値に 回復した。この日は,粘血便が10回あり,そのうち午後4時3 0分以降はタール便(コールタールのような色をした便)となっ た。この下血の状況から,出血量は1000〜1500mlと推定 された。 ・C医師は,BとX1に対し,輸血が必要であると説明したが, Bはこれに同意しなかった。そこで,Y1からBに対し,本日出 血したと考えられること,腹腔内に血液の貯留がないため,吻合 部から腸管内へ出血し,今は止まっていると考えられること,血 圧90,ヘモグロビン値6台なら輸血をする方がよいことなどの 説明をし,Bはこれを了解した。Bは,同日,輸血の必要性を 「鉄剤では十分治療できない貧血」,輸血方法を「赤血球のみの 輸血」,予想される輸血量を「200ml×4」とする輸血同意書 をD医師あてに提出した。Y1は,X1や親族に対し,経過とし ては,吻合部の炎症から血管が破たんし,貧血になったと考えら れること,上部消化管からの出血も可能性ゼロではないこと,輸 血などで保存的に治療し,経過がよくなければ再手術も考えられ ることなどを説明した。この日,Bに対し,2200mlの輸液が され,また,酸素投与も開始された。 ・4月30日,Bの体温は37度台であった。血圧は,収縮期で ほとんど100以上を維持していた。下血は17回あり,下血量 は合計約1000gであった。Y1は,朝のヘモグロビン値が5. 6であったため,午前8時50分から 濃厚赤血球400m lを輸 血した。Y1は,過度の輸血は心不全や肺不全を併発する可能性 があると考え,Bの血圧が80を割るまでには至っていないこと から,午後3時から濃厚赤血球400mlを輸血して,この日の輸 血量を800mlにとどめた。Y1は,輸血によって,ヘモグロビ ン値7以上,ヘマトクリット値20以上を目標としたが,これら の値に改善は見られなかった。Bに対する同日の輸液量は,22 00mlであった。Y1は,4月27日の便の培養検査の結果につ いて,電話連絡により,グラム陽性球菌が陽性という中間報告を 受けた。 ・5月1日,Bの体温は37度台であった。血圧は115/67 以上を維持していたが,下血は14回あり,タール便や暗赤色便 があった。下血量は約1100gであった。ヘモグロビン値は, 朝が5.3,午後3時30分が5.6であり,ヘマトクリット値 は,それぞれ14.6,15.2であった。Y1は,午後9時, BとX1に対し,下血が続くため,翌日のヘモグロビン濃度を見 て再手術を考える旨説明し,Bはこれを承諾した。Y1は,翌日 の再手術の可能性や患者の急変も考えて,この日は病院に泊まる こととした。 ・5月2日,Bの体温は37度であったが,朝のヘモグロビン値 は5.0,ヘマトクリット値は13.5であった。そのため,Y 1は再手術を予定した。Bには,午前6時に1475gの大量の タール便の下血があったが,「おはよう」との会話もあり,意識 は清明であった。 ・午前7時20分,心電図モニターが50台に低下して意識レベ ルも低下するなど症状が急変し,ショック状態となった。Y1は, 濃厚赤血球の輸血を行うとともに,心マッサージを施したが,午 前8時31分,Bの死亡が確認された。 ・同日,千葉大学病理学教室で解剖が施行された。解剖の結果, 結腸の手術部位には吻合不全や吻合部出血などの所見はなかった。 胃から直腸の内腔に血液の貯留が認められ,胃粘膜面には露出血 管を伴う多発性の潰瘍が認められたので,これが出血源と考えら れた。前立腺には多発性膿瘍を形成した化膿性前立腺炎が認めら れ,これが発熱の原因と考えられた。 ■原審の判断 「原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して, Y1の注意義務違反を否定するとともに,Y1の行為とBの死亡 との相当因果関係を否定して,上告人らの請求を棄却すべきもの とした」 「Y1がBに対し,4月30日及び5月1日にそれぞれ800ml ずつの濃厚赤血球の輸血をしたにもかかわらず,同人のヘモグロ ビン値とヘマトクリット値は十分な回復に至っていないのである が,前記確定事実とE(F病院外科教授)作成の鑑定意見書(以 下「E意見書」という。)を総合すると,上記の輸血によってこ れらの値の更なる悪化を防止できていた側面も存する上,ヘモグ ロビン値が5.0の状態であっても通常の社会生活を送っている 人もおり,その許容値には個人差があり相対的なものであること, Bも術後とはいえ,当時の意識は清明で,会話も可能な状態にあ り,尿量も十分に確保されているなど症状が比較的安定していた ことが認められるのであり,このような事情に照らすならば,上 記の時点においては,緊急の大量輸血をしなければならないよう な強い医学的徴候は存在しなかったとみるのが相当である。また, 前記確定事実とE意見書によれば,輸血も移植の一つと考える医 師が増加しており,輸血による合併症も問題視されていることが 認められることに加えて,B自身が輸血に消極的であったことも 考えると,輸血量をできるだけ少なくする合理的な理由も存在し たといえるのであるから,4月30日及び5月1日の時点におい て,Y1が,各当日の800mlずつの輸血に加えて更に800ml 以上ずつの輸血の必要性を認識しなければならなかった特段の事 情はなく,追加輸血の選択は,医師の合理的裁量の範囲内であっ たというべきである。したがって,Y1がBに対し十分な量の輸 血をしなかったことに注意義務違反があったとはいえない」 「さらに,Y1が,4月28日から5月1日までの間に,Bの出 血の部位が胃潰瘍であることを強く疑うことは困難であり,Bが 胃の内視鏡検査に強いおう吐反応があり,同検査によってショッ クの誘発などの事態もあり得ることをも考えると,上記時点で胃 の内視鏡検査を実施するかどうかは医師の裁量の範囲内であり, これをしなかったことに過失があったとはいえない」 「Bは,5月2日の早朝に胃潰瘍の悪化に伴う消化管からの突然 の大出血があったものと推認することができる。そして,上記大 出血という緊急事態がBを襲わなければ,死亡という結果を回避 できたと考えられる反面,仮に,4月30日と5月1日の輸血量 を更に800mlずつ追加したとしても,上記大出血があれば,心 肺停止の回避は困難であったがい然性が高かったものと認められ る」 ■最高裁の判断 「しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。そ の理由は,次のとおりである」 「原審は,前記確定事実及びE意見書に基づいて上記判断をして いるが,記録によれば,E意見書は,原審の第1回口頭弁論期日 において初めて被上告人らから提出されたものであり,第1審で はE意見書とは意見の異なるG(H病院顧問,元I大学医学部及 びJ大学医学部講師。以下『G講師』という。)作成の鑑定意見 書(以下『G意見書』という。)が上告人らから提出されていた ところ,第1審は,前記確定事実とほぼ同一の事実認定の下で, G意見書に基づき,Y1としては,4月30日には800mlの輸 血をしたにもかかわらず,5月1日にヘモグロビン値やヘマトク リット値の数値は改善されなかったのであるから,遅くとも5月 1日の段階では,ヘモグロビン値を目標とした7まで上昇させよ うとすれば,800mlの輸血では不十分で,更に800mlの輸血 をする必要があったといわなければならないのに,十分な量の輸 血をしなかった過失があるとして,原審とは異なる判断をしたも のであることが明らか」 「まず,Y1にBのショック状態による重篤化を防止する義務違 反があったか否かに関して,E意見書は,『実際の臨床において は,Hb値が5.0の状態でも,通常の生活を送ることは可能で, 息切れがするという程度の主訴で患者が来院することはよく経験 される。例えば,内痔核による下血や,子宮筋腫などの場合で, このような場合は,原因をつきとめ,止血し,鉄剤を投与するこ とで,通常の状態に回復させることが可能である。外傷性の肝損 傷の患者が来院した場合,あっという間に腹腔内に出血を起こす ような場合,出血量に見合った量を緊急的に輸血しなければ,生 命は維持出来ないが,本症例のような出血の場合は,緊急輸血の 必要性は,なかったと思われる。』,『輸血を開始する前日,貧 血は進行し,若干の血圧の変動も認められたが,その後,血圧は 正常に保たれており,意識も清明,尿量も充分,確保されている ことから,亡くなる当日まで,循環動態を含め,全身的な状態は, ほぼ,良好に保たれていたであろうと考えられ,出血量に相当す る800mlの輸血量は必要かつ充分であり,妥当なものであった と考える。』として,輸血を追加する必要性を否定している」 「これに対して,G意見書は,『赤血球数,ヘモグロビン値及び ヘマトクリット値が4月29日に急激に下がったこと,同日午後 3時の血圧も94/72に下降し,頻脈も出現していること,看 護記録には,同日午後2時の欄に粘血便5回ありとの記載があり, 同日午後4時30分の欄にはタール便にて多量にありとの記載が あることなどからすれば,同日午後4時30分の時点では迷うこ となく上部消化管出血の可能性を考え,緊急内視鏡検査で出血源 の検索と止血術を行い,出血性ショックに備えるべきであった。』, 『4月29日から30日にかけての赤血球数,ヘモグロビン値及 びヘマトクリット値の下降は極めて急激で,大量の消化管出血が 生じていることは明らかであり,4月30日のヘモグロビン濃度 約5.2g/dlを10g/dlまで上げるには,400cc由来のMA P約4本を半日以内に輸血する必要があった。』などと指摘して いる」 「前記確定事実によれば,(1)Bは,4月29日には粘血便が10 回あり,そのうち午後4時30分以降はタール便となり,出血量 は1000〜1500mlと推定されること,4月30日の下血量 は約1000gであったこと,5月1日にはタール便や暗赤色便 となる下血が14回あり,下血量は約1100gであったことな どからして,4月29日から5月1日にかけての下血,血便の量 が相当多量になっていたこと,(2)術後におけるBのヘモグロビン 値やヘマトクリット値の推移を見ると,4月24日に上行結腸の 手術を受けて1週間も経ない4月30日に,ヘモグロビン値が5 g/dl台に,ヘマトクリット値が13〜15%台にそれぞれ参考基 準値をかなり下回る値にまで急に下降していること,(3)Bには4 月29日から同月30日にかけて頻脈が見られ,ショック指数も 1.0を超えることが少なくなかったこと等の事実が認められ, これらの事実は,4月30日及び5月1日の各日において,Bが それまでの出血傾向によりその循環血液量に顕著な不足を来す状 態に陥り,その状態が継続したこと,そのためBに対し各日の8 00mlずつの輸血に加えて更に輸血を追加する必要性があったこ とをうかがわせるものである。そして,E意見書が挙げる子宮筋 腫などによる貧血の場合と本件のBのように術後の出血により急 に循環血液量が減少した場合とを同列に扱うことができるのか疑 問であり・・・医学的知見によれば,後者の場合の方が,生体組 織の酸素代謝に障害が起き,出血性ショックを起こしやすいとも 考えられる。E意見書の中にも,『術後の患者では一般的には, Hb値が7.0を切った場合,輸血を考慮する。この理由は,こ れ以下の値の場合,組織の酸素代謝に障害が起きることが,考え られるためである。』との記載がある。E意見書は,Bについて, 亡くなる当日まで血圧が正常に保たれ,意識も清明であり,尿量 も十分確保されていたことを根拠として,循環動態を含め,全身 状態がほぼ良好に保たれていたとしているが,上記Bの出血量や 下血量,ヘモグロビン値やヘマトクリット値の推移,ショック指 数の動向に照らせば,Bの全身状態が良好に保たれていたとの意 見をそのまま採用することはできない」 「原審は,Y1において,4月28日から5月1日までの間にB の出血の部位が胃潰瘍であることを強く疑うことは困難であり, 上記時点で胃の内視鏡検査を実施するかどうかは医師の裁量の範 囲内であり,これをしなかったことに過失があったとはいえない としているが,G意見書が指摘するとおり,看護記録には,既に 4月29日午前9時30分の欄に『便暗赤色にて』,午後4時3 0分の欄には『タール便にて多量にあり』と記載されているので あるから,Y1としては,この段階でBの上部消化管出血を疑う べきであり,内視鏡検査を実施するかどうかが医師の裁量の範囲 内にあったとはいい難く,Y1は,緊急内視鏡検査で出血源の検 索と止血術を行うべきであったとするG意見書の意見は,合理性 を有するものであることを否定できない」 「そうすると・・・,原審は,Y1において,Bに対し輸血を追 加すべき注意義務違反があることをうかがわせる事情について評 価を誤ったものである上・・・,G意見書とE意見書の各内容を 十分に比較検討する手続を執ることなく,E意見書を主たる根拠 として直ちに,Bのショック状態による重篤化を防止する義務が あったとはいえないとしたものではないかと考えられる。このこ とは,原審が,第1回口頭弁論期日に口頭弁論を終結しており, 本件の争点に関係するG意見書とE意見書の意見の相違点につい て上告人らにG講師の反論の意見書を提出する機会を与えるよう なこともしていないことが記録により明らかであること,原審の 判示中にG意見書について触れた部分が全く見当たらないことか らもうかがわれる。このような原審の判断は,採証法則に違反す るものといわざるを得ない」 「次に,Y1の行為とBの死亡との相当因果関係の有無に関して, E意見書は,『5月2日の早朝,突然の消化管からの大出血につ いては,まったく予測不能であり,地裁判決のとおり,1600 mlの輸血が,行われたと仮定しても,このような,大出血の場合, 心肺停止は防ぐことが出来なかったと考える。』として,上記因 果関係を否定している」 「これに対し,G意見書は,『出血源の明確な同定が出来ていな いとはいえ,消化管内のいずれかの場所から出血していることは 間違いなく,4月29日には,vital signからもプレショック状 態と判断できるはずであった。それにもかかわらず輸血の開始時 期が遅く(4月30日午前8時50分になって初めて輸血開始), しかも輸血量が少ない(中略)など,出血に対する治療が,きわ めて不十分であった。』,『輸血とともに重要なことは,出血源 の検索である。主治医は当初,大腸の吻合部からの出血と考え, まずCT検査や超音波検査などをおこなっているがその所見から 腹腔内への出血は否定された。その結果,下血の原因が『吻合部 からの腸管内への出血』との考えにこだわり,対応が遅れてしまっ たと考えられる。(中略)4月29日に出血源に対する究明がな され,迅速な対応がなされていれば,本件の患者の救命の可能性 は高かったであろう。まず,中心静脈圧を測定しつつ,ショック を起こさないだけの充分な輸血・輸液を行い,迅速なショック対 策を講じると同時に,緊急内視鏡検査を行って急性胃潰瘍からの 出血が確認されれば,露出血管のクリッピング,エタノールの局 所注入,(中略)などの方法によって,出血をコントロールしえ た可能性がある。急性出血性胃潰瘍に対する緊急内視鏡検査と内 視鏡的止血術により殆どの患者は救命しうると考えられ,上記の ようなさまざまな方法の組合せにより止血の確実性も増している。 (中略)もし,内視鏡的な止血術が不成功に終わった場合は,た だちに開腹術を行い,出血部位を確認して,胃切除などの観血的 な治療を行えば,患者の救命は可能であったと考えられる。』と している」 「前記確定事実によれば,Bは,5月2日早朝に初めて多量の出 血があったのではなく,4月29日から既に出血傾向にあったの であるから,5月2日早朝までに輸血を追加して,Bの全身状態 を少しでも改善しながら,その出血原因への対応手段を執ってい れば,Bがショック状態になることはなく,死亡の事態は避けら れたとみる余地が十分にあると考えられ,G意見書・・・の意見 は,相当の合理性を有することを否定できないのであり,むしろ, E意見書・・・の意見の方に疑問があるというべきである。それ にもかかわらず,原審は,G意見書とE意見書の各内容を十分に 比較検討する手続を執ることなく,E意見書・・・の意見をその まま採用して,上記因果関係を否定したものではないかと考えら れる。このような原審の判断は,採証法則に違反するものといわ ざるを得ない」 「以上のとおり,Y1にはBのショック状態による重篤化を防止 する義務に違反した過失はないとするとともに,Y1の行為と結 果との因果関係も否定した原審の判断には採証法則に反する違法 があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。こ れと同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そ こで,Y1の上記過失の有無,Y1の行為とBの死亡との間の因 果関係の有無等について,更に必要な審理を尽くさせるため,本 件を原審に差し戻すこととする」 ■判決主文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。