判例速報

※この記事は、2007-01-29にメール配信されたものと同じ記事です。
Medsafe会員各位


 今回は,原告が,被告の設置・運営するA病院において,左眼
につき黄斑部網膜上膜形成症と診断され,黄斑部網膜上膜形成症
に対する黄斑上膜手術(硝子体切除術・膜処理を含む)並びに白
内障に対する超音波水晶体乳化吸引術及び人工レンズ挿入術を受
けたところ,同手術においては,担当医師が,誤って薬剤を眼内
に混入させる等の過失があり,それにより,原告の左眼に視力低
下等の症状を発生させたとして,損害賠償請求をした事案です。


■年月日・裁判所
H18.7.28 東京地裁 平成16年(ワ)第25179号 損害賠償請求事件(医療過誤)

■当事者

原告:昭和12年生まれの男性。平成17年6月までB株式会社
の代表取締役社長

被告:A病院(被告病院)を設置・運営する学校法人

■診療経過

・原告は,平成4年ころから,左眼の視界のゆがみを感じるよう
になり,医師の診察を受けたところ,網膜の上に膜が付着してい
るため視界にゆがみが生じているが,まだ手術が必要な状態では
ないため経過観察とするとの診断を受けた。

・ 原告は,平成14年8月ころ,左眼の視界のゆがみが原因で疲
れやすくなったため,8月28日に,左眼の視力低下を訴えてC
医院にて診察を受け,視力は右の1.2に対して左は0.9であ
り,左眼の黄斑部網膜上膜形成症が進行していると診断され,網
膜の上に形成された膜を除去する手術を行うために,被告病院の
眼科部長であるD医師を紹介された。

・原告は,8月31日に,被告病院を受診し,D医師及びE医師
の診察を受けたところ,視力は左右ともに1.2であったが,D
医師は,左眼の黄斑部網膜上膜形成症について網膜の上に形成さ
れた膜を取る手術を行い,これにより視機能回復を図ること,た
だし,この手術をすると白内障が術後進行しやすいので白内障の
手術もした方が良い旨の診断をした。

・10月ころ,原告は被告との間で,本件手術を行う旨の診療・
手術・入院契約を締結した。

・10月31日,入院期間約1週間の予定で被告病院に入院し,
11月1日,D医師の執刀のもと,本件手術が実施された。

・ 本件手術の翌日である11月2日,原告が眼帯をとると,原告
の左眼はかすんで殆ど見えず,視界は常に薄暗い状態になった。
また,原告の虹彩は手術前は茶色であったのが,手術後には灰色
に変色していた。

・11月5日,D医師は,原告に対し,角膜が濁っており,濁り
がある間は眼が見えない,角膜の内皮が痛んでしまっていて,ポ
ンプ作用がうまくいかず角膜に水がたまっている,その症状は機
械的な刺激で起こることもあるが,原因は分からない旨を説明し
た。

・原告は,11月13日に,被告病院を退院したが,退院時は視
力は測定されておらず,入院中の左眼の状態にはそれほど変化は
なかった。

・原告は,退院後も被告病院に通院し,D医師の診察を受けてい
たが,左眼の視力は回復しなかった。そこで,D医師は,原告に
対し,視力回復のため,角膜移植を受けることを勧め,その実績
があるというF総合病院のG医師を紹介した。

・平成15年1月29日,F総合病院を受診し,G医師の診察を
受け,角膜移植を受けることとした。

・3月4日,F総合病院に入院し,3月6日,G医師の執刀によ
り,左眼の角膜移植手術を受け,手術経過自体は良好であったも
のの,視力の回復は思わしくないまま,3月14日に退院した。

・4月5日,D医師による診察を受けた。この際,D医師は,角
膜移植手術によって角膜が透明になって奥の網膜の状態が見える
ようになったが,左眼の網膜には本件手術中に生じた何らかの異
常な刺激が原因で再び膜が生ずるなどしており,再々手術が必要
であることが判明した,また再々手術は,数か月は待つ必要があ
る等の説明をした。

・5月24日,被告病院を受診し,D医師の診察を受けたところ,
D医師は,網膜の増殖が予想以上に進んでおり,除去手術が必要
であるとの診断を受けた。そこで,原告は,6月12日,被告病
院に入院し,同月13日,D医師の執刀により,左眼の硝子体切
除術(膜処理を含む)を受けたが,左眼の状況は,光は明るく感
じるようになったものの,見えづらさには変化がないまま,6月
20日に退院。

・再々手術の結果,左眼の薄暗さは改善されたものの,物が薄ぼ
んやりとしか見えず,字は全く読めないという状態であった。

・6月28日,D医師による診察を受けたところ,D医師は,網
膜の増殖は,本件手術の際の刺激によるものである可能性がある,
予定どおり網膜の増殖は除去できたが,網膜に皺がよっており,
この皺が伸びれば左眼は見えてくると思われる,今後も網膜の増
殖は再発する可能性があり,放置すると黄斑部の上にこびりつい
てしまうので,将来,再度,除去手術が必要である旨を説明。

・平成16年1月13日,被告病院を受診したところ,D医師は,
左眼の視力の回復は望めない,左眼の黄斑部に見えない点がかかっ
ているので見えない,視界のゆがみは更なる手術でとれるかもし
れないが,この見えない部分が問題である旨を説明した。そして,
D医師は,原告の症状の原因としては,本件手術における薬の間
違い,膜外しの失敗及び強烈な光を眼に当てすぎたことが考えら
れるが,消去法で考えると,薬の間違いだと思う旨を説明。

・3月19日,H病院を受診したところ,右眼の視力は1.2で
あるが,左眼の視力は0.08で矯正不能となっていると診断さ
れた。

・また,原告は,4月12日,H病院を受診したところ,左眼は
黄斑部機能障害であり,視力は0.09でそれ以上の矯正は不能
である,ゴールドマン動的視野検査で中心から鼻側への暗点及び
photopic ERGでα波の減弱を認める状況であると診断された。

・原告は,本件手術後,平成14年中に6回,平成15年中に1
5回,平成16年中のうち上記診断を受けるまでに4回の合計2
5回,被告病院を外来で受診をした。また,平成16年4月27
日に,被告病院を外来受診した。また,原告は,本件手術後に合
計10回,F総合病院を外来で受診した。

■被告病院担当医師の過失について

「・・・原告は,本件手術を受けたところ,その翌日には,原告
の左眼はかすんでほとんど見えず,視界は常に薄暗い状態になり,
また,手術前には茶色であった虹彩が,手術後には灰色に変色し
たこと,また,原告の左眼の視力が術前は1.2であったのに対
し,術後は視力が0.04程度に低下し,角膜に浮腫が生じたこ
とが認められる。このように,術後すぐに,手術を受けた左眼に
大きな異常が生じていることは,術前に合併症として予想されて
いた症状が術後に発生したなどの特段の事情がない限り,手術の
際に,何らかの不手際があったことを推認させるものである。そ
して,本件の場合,上記のような特段の事情は認められない」

「また・・・,本件手術の執刀に当たったD医師自身も,F総合
病院に宛てた紹介状・診療情報提供書の中で,原告の症状の原因
としては,術中の機械的刺激や薬剤の迷入などが考えられると記
載し,また・・・,原告の症状の原因としては,本件手術におけ
る薬の間違い,膜外しの失敗及び強烈な光を眼に当てすぎたこと
が考えられるが,消去法で考えると,薬の間違いだと思う旨を原
告に説明しており,術中の何らかの過失を認めている」

「さらに,被告も,本件訴訟の中で,過失の存否について積極的
に争わないばかりか,眼内に局所麻酔薬などを誤って混入させた
可能性があると認めており,このような被告の態度も考え合わせ
ると,本件においては,過失の態様を特定するのは困難であるも
のの,被告担当医師には,上記D医師が説明する3点のいずれか
の過失があると認められる」

■原告の症状と被告の過失との因果関係について

「・・・原告は,同年4月12日,H病院を受診し,左眼は黄斑
部機能障害であり,視力は0.09でそれ以上の矯正は不能であ
る,ゴールドマン動的視野検査で中心から鼻側への暗点及び
photopic ERGでα波の減弱を認める状況であると診断されている」

「また,原告の自覚症状としては,左眼について,中央から右に
かけて黒い見えない点があり,その他の部分はかなり白っぽく歪
んだ画像に見え,文字については歪んで見えるために読むことは
できず,両眼で見ても,白い霧の中にいるような状態であり,遠
近感がない状態であることが認められる。また,これらの症状に
より,長時間の会議に耐えられない,書類やパソコンのメールを
長時間読むことができない,また,人の顔も判別できない等の不
都合が生じていることが認められる」

「これらの原告の症状が,被告の過失によって生じたものである
かについて検討するに・・・,手術翌日から,原告の左眼はかす
んでほとんど見えず,視界は常に薄暗い状態になり,手術前は茶
色であった虹彩が,手術後には灰色に変色しており,また・・・,
被告病院退院時には,術前が1.2であった視力が0.04に低
下し,角膜に浮腫が生じている。術前においては,原告の左眼の
視力は1.2であり,視界にゆがみがあったものの,日常生活を
ほぼ不自由なく送っていたことからすると,本件手術を契機とし
て,原告の左眼の状態は急激に悪化したと認められ,また,その
症状は,術前に生じていた症状とは大きく異なるものである」

「さらに・・・,本件手術の執刀にあたったD医師自身も,再手
術後に,原告に対し,左眼の網膜には本件手術中に生じた何らか
の異常な刺激が原因で再び膜が生じるなどしている旨述べており,
D医師も,原告の症状の原因が本件手術が原因であることを認め
ている」

「以上の点からすれば,原告の症状は,本件手術における被告の
過失を原因として生じたものであると認められる」

「・・・以上より,原告の症状と被告の過失との因果関係は認め
られる」

■損害額(治療費)について

「・・・原告は,平成14年10月31日に被告病院に入院し,
同年11月1日に本件手術を受けたことが認められる。原告は,
この入院及び手術に際して,概算60万円の治療費を支出し,そ
れが損害となると主張する」

「しかしながら,上記・・・のとおり,本件手術には被告病院
担当医師の過失があり,それによって原告には後遺症が残存した
ことは認められるものの・・・,原告は,被告と本件手術に関す
る診療契約を締結しており,この診療契約には,原告が治療費を
支払う旨の内容が当然に含まれる。そして,診療契約は準委任契
約であるところ,この治療費については,診療行為の内容が契約
当初に予定された範囲に属する限りは原告が支払うべきものであっ
て,診療行為に違法な点があったことにより増加した部分につい
てのみ,当該違法行為によって生じた損害と評価すべきものであ
る」

「この点につき,原告は,本件過失により入院期間が長引いたと
主張しているので検討するに・・・,当初から入院期間は約1週
間と予定されていたことのほか,現に入院8日目の11月7日に
は,院内を歩き回れるまでに回復し,同月9日及び10日には外
泊許可を得て帰宅していること,術後の左眼の状態がよくないこ
とを踏まえてD医師が同月5日に『いろいろ調べてみましょう。』
と述べたことが認められることなどからすると,本件手術によっ
て本来必要な入院期間は約1週間であり,現に入院期間が2週間
に及んだのは,左眼の後遺症の原因を検索するためのものである
から,被告の過失により少なくとも6日は入院期間が延びたと認
められる。そして,弁論の全趣旨によると,この入院全部に要し
た治療費は60万円であると認められ,その内訳は明らかでない
ものの,入院期間からすると,その少なくとも3分の1は延長さ
れた入院期間に要したものと推認でき,これを左右するに足りる
事情は見当たらない。また,原告は入院期間を通じて個室を利用
しているところ,この個室料を損害から除外すべきではないこと
は後述のとおりである。したがって,この点についての原告の主
張は,損害額20万円の限度で理由がある」


「原告は,平成15年3月4日にF総合病院に入院し,同月6日
に再手術を受け,これに対して65万9163円を支払ったこと
が認められる」

「この再手術は,本件手術によって濁りの生じた角膜を移植する
ものであり,この入院及び手術について支払った費用は,被告の
過失と因果関係ある損害と認めることができる」

「これに対し,被告は,上記金額のうちの室料負担額50万円に
ついては,個室管理の必要性が明らかではなく,損害とは認めら
れないと主張する。そこで検討するに,上記金額のうちのF総合
病院では,海外からの角膜輸入に要する費用を室料に含めて請求
していること,角膜移植に際しては,国内の角膜を移植する場合
と,海外からの輸入の角膜を使用する場合があるところ,国内に
おける角膜の調達が困難であることから,これを用いようとする
と4年以上の順番待ちを強いられるのに対し,輸入角膜を使用す
ると,早期にかつ予定した時期に手術を行うことができ,この事
情の下に,F総合病院では国内の角膜を使用するか,輸入角膜を
使用するかを患者の選択に委ねていることが認められるこのよう
な事情に加え,大学病院である被告病院においてこれを行わなかっ
たことからも明らかなように,我が国では角膜移植を行う医療機
関が限定されていること,原告のように突然に視力が大幅に低下
し,その回復には角膜移植が必要とされた患者としては,1日も
早く移植術を受けることを希望することは無理からぬことであり,
その希望を実現するには,輸入角膜の使用を選択し,これに伴っ
て高額の室料負担という病院側の示す条件を受け入れざるを得な
くなるのが通常の事態であると評価できる(なお,被告は,この
ように評価することについて医療保険制度上の問題点を指摘する
が,損害賠償義務の範囲を定めるに当たっては,そのような公的
制度の内容にかかわらず,それが被害者にとって通常の出費であ
る以上,そのような出費をすることが公序良俗に反する事情が認
められない限り,これを損害の範囲と認めるべきであり,本件に
おいて上記室料の負担が公序良俗に反するような事情は見当たら
ない。)」

「もっとも,電話料1200円はF総合病院における診療内容と
関係があると認めるに足りる証拠はなく,被告の過失と因果関係
のある損害であるとは認められない」

「したがって,F総合病院入院及び再手術にかかる損害としては,
65万7963円を認めるのが相当」

「原告は,平成15年6月12日に被告病院に入院し,本件手術
を受け,これに対して43万7570円を支払ったことが認めら
れる」

「平成14年度被告病院通院にかかる損害としては,9000円
を認めるのが相当」

「平成15年度被告病院通院にかかる損害としては,2万250
0円を認めるのが相当」

「平成15年度中の10回の通院(引用注:F病院分)に要した
治療費としては,合計2万円を認めるのが相当」

「平成16年度被告病院通院にかかる損害としては,6000円
を認めるのが相当」

「原告は,本件手術後,頑固な頭痛が生じており,鍼灸,カイロ
プラクティック,指圧等の施術を受けて頭痛を緩和することによ
り,その業務や日常生活を送ることが可能な状態であるから,鍼
灸,カイロプラクティック,指圧費用は,被告の過失と相当因果
関係のある損害であると主張する」

「そこで,まず,原告に生じたとする頭痛の存否及びその内容に
ついて検討する」

「原告は,頭痛の症状につき,会議等の後には非常に目が疲れ,
頭が重くなって,何も考えられないような状態になると供述する。
原告は,被告病院や他の医療機関を受診し,複数回にわたり,同
様の頭重感を一貫して症状として訴えていることからすれば,か
かる原告の供述は信用でき,供述どおりの症状が原告に生じてい
ると認められる」

「この原告に生じた頭痛の原因について検討するに,原告は平成
17年3月3日にH病院神経内科を受診しており,診察に当たっ
たI医師は,原告の症状について,左弱視に伴う緊張型頭痛の疑
いと診断している。この診断について,I医師は,左弱視による
眼精疲労又は精神的ストレスが誘因となっている可能性のある緊
張型頭痛という趣旨であると回答する。このように診察に当たっ
た医師が視力低下との関係を認めていることは,原告の症状と本
件手術に伴う視力低下との関係を認める大きな根拠となり得るも
のである。また,原告自身もその症状につき,書類を見ながらの
会議等があると,終わった後で非常に目が疲れて頭が重くなると
供述しており,原告の頭痛が眼精疲労に由来するものであること
がうかがわれる」

「もっとも,I医師は,左弱視が頭痛の誘因になっている可能性
は否定できないが,緊張型頭痛の原因が全て左弱視によるもので
あるとはいえないと回答し,また,被告病院脳神経外科において
も,頸椎症並びに眼精疲労による筋緊張性頭痛と考えられると診
断されており,原告の頭痛が,目の症状に由来するものであるこ
とは肯定しつつも,それが原因の全てではない旨の診断がされて
いる。しかしながら,原告の頭痛の症状が,後述のように本件手
術後に新たに発症したものであること,また,その症状も,左眼
の視力低下に由来することを強くうかがわせるものであることか
らすれば,その主たる原因は,左眼の視力低下にあるというべき
であり,原告の頭痛と,本件手術による視力低下との因果関係は
認められる」

「これに対し,被告は,本件手術前から原告は頭痛の症状を有し
ていたのであるから,原告の症状は本件手術とは無関係である旨
を主張するので,この点について検討するに,本件手術直後の平
成14年11月19日,半年前からの頭痛を症状として訴えて,
被告病院脳神経外科を受診したことが認められる。もっとも,こ
の診察時に原告が訴えた症状は,寝入り端に激痛が左後頭部に突
然,一瞬出現するというものであり,上記のように本件手術後に
原告に生じたと認められる頭重感というべき症状とは異質のもの
であるといえる。したがって,本件手術後に,この症状とは別個
に新たに頭痛の症状が生じたと考えられ,本件手術前から頭痛が
生じていたことを理由に,本件手術と原告に生じた頭痛の症状の
因果関係を否定することはできない。I医師も,手術前後で頭痛
の性質や程度が異なるということであれば,左弱視との関連は否
定できなくなると回答しており,この回答も,本件手術による視
力の低下と原告の頭痛の因果関係を裏付けるものである」

「上記の判断を前提に,鍼灸,カイロプラクティック及び指圧が,
原告の頭痛の症状に対して有効であるのかにつき検討する」

「上記のI医師作成の診断書においては,その有効性につき,左
弱視に伴う緊張型頭痛に対して,マッサージ,鍼灸,カイロプラ
クティックが有効であると考えられるとされている」

「この診断書の記載につき,I医師は,書面尋問において,緊張
型頭痛で精神的ストレスなどが関与するものであれば,緩和され
る可能性があると考えたと回答する。また,原告自身も,その効
果について,長時間の会議の後等に,目がかすみ,頭が重くなり,
何も考えられないような状態になるのが,カイロプラクティック
等の施術を受けると,元の状態に戻るなどとして,その有効性に
ついて供述する。この原告の供述は,その症状との関係で自然な
ものであり,また,原告はその有効性について感じるからこそ,
業務に支障をきたしつつも頻繁に上記の施術を受けていると考え
られ,上記の施術の有効性についての原告の供述は信用できる。
これらの点からすれば,鍼灸,カイロプラクティック及び指圧が,
原告の頭痛の症状に対して有効であると認められる。なお,頭痛
に対する各種の非薬物療法の有効性について検討した文献(慢性
頭痛の診療ガイドライン)においては,指圧については,頸部指
圧に限定して,行うよう勧められるとされており,鍼灸について
は,行うよう勧めるだけの根拠が明確でないとされている。また,
カイロプラクティックについては言及されていない。しかし,実
際に診察に当たったI医師は,これらの施術の有効性について認
めており,書面尋問においては,その根拠となる文献も摘示して
いる。また,鍼灸等のいわゆる東洋医学については,その根拠等
が必ずしも明らかではないこともあり,根拠が明確でないことは,
その有効性を否定する事情とは必ずしもなり得ないというべきで
ある。さらに,原告自身もその有効性について詳細に供述してお
り,少なくとも原告に対しては,上記施術は,一定の有効性を有
するといえ,上記の文献をもってしても,鍼灸,カイロプラクティッ
ク及び指圧の,原告の症状に対する有効性は否定できないという
べきである。以上より,鍼灸,カイロプラクティック及び指圧の
有効性は認められる」

「以上のように,原告の頭痛の症状が,被告病院担当医師の過失
による視力低下を原因として生じており,その頭痛の緩和に鍼灸,
カイロプラクティック及び指圧は有効であるといえる。また,こ
れらの施術を受けた後は,目のかすみがとれ,ややものが見やす
くなるという効果を原告は感じている」

「原告は,この頭痛により,何も考えられないような状態になる
と供述しており,このような状態は,原告の生活の質を著しく害
し,また,その業務にも支障を生じさせるものといえ,このよう
な症状の緩和は必要なものと認められるのであるから,原告の症
状に有効な,鍼灸,カイロプラクティック及び指圧に係る費用は,
被告病院担当医師の過失と因果関係のある損害であるというべき」

「もっとも,これらの治療については,一般に長期間継続しても
効果が期待できるとは考えられておらず,I医師もその旨回答し
ていることからすると,損害の範囲としては術後2年程度に限定
するのが相当であるところ,原告は,実際に施術を受けた証拠と
して,平成17年度分については,J治療院,K治療室,L治療
室及びMの領収書を提出するが平成15年度及び平成16年度分
については,J治療院,L治療室及び有限会社Nの各1回分領収
書を提出するほか,同年度の確定申告に利用したとされる医療費
控除申請のための医療費の明細書が,原告本人尋問終了後に至っ
て提出されたのみである」

「この明細書については,その裏付けになる領収書等が存在せず,
実際に確定申告に当たって提出されたものであるかについても証
拠上明らかではない。また,被告病院及びF総合病院についての
診療費の内容も,本件における原告の請求とは異なるにもかかわ
らず,それについての合理的な説明はされておらず,その記載内
容についてはなお,疑問を払拭しきることはできないというべき」

「したがって,この医療費の明細書の記載内容については,信用
できず,平成15年度及び平成16年度における上記の施術を受
けるのに要した費用全体については,これを直接証明し得る証拠
はないと言わざるを得ない」

「もっとも,上記のわずかに残された領収書と弁論の全趣旨から
すると,原告は,本件手術後2年間のうちに,これらの費用とし
て,通院交通費を含めて,少なくとも100万円を超える支出を
したものと推認でき,これを左右するに足りる事情は見当たらな
いから,鍼灸,カイロプラクティック及び指圧費用並びにそれに
伴う通院交通費については,100万円の限度で,被告の過失と
因果関係のある損害と認めるべき」


■その他の損害賠償

・入院雑費 3万6000円

・被告病院への入通院交通費 8100円

・F総合病院への入通院交通費 1万4520円

・ 後遺障害による逸失利益

 原告は,本件手術前後を通じて,B株式会社の代表取締役社長
の地位にあり,平成17年6月28日に退任して,代表取締役会
長の地位に移動するまでは,報酬が年額2700万円で変化がな
く,社長退任に伴い報酬年額が2520万円に減額されることと
なった。

 原告が勤務会社の代表者として自己の収入についても決定権を
有するという特殊な地位にあり,その収入額も一般人と比べてか
なり高額なものであるという事件の特殊な事情も考慮すると,現
に従来どおりの報酬を受けている以上,その間については,逸失
利益はないものと評価。

 原告の逸失利益としては,平成17年から原告が社長として在
職する予定であったとする72歳に至る平成21年までの5年間
に上記減額分年額180万円の減収が生じたものとし,これから
中間利息を控除した額と評価するのが相当。
180万円×4.329(5年ライプニッツ係数)=779万2
200円
・入通院慰謝料 200万円
・後遺症慰謝料 600万円
・弁護士費用 150万円

■判決主文

1 被告は,原告に対し,金1970万3853円及びこれに対す
る平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

<以下略>