判例速報

※この記事は、2007-03-16にメール配信されたものと同じ記事です。
Medsafe会員各位


 今回は,被告医療法人社団Aが設置・運営するB総合病院に通
院し,被告Cのもとで肝臓疾患の検査及び治療を受けていた亡D
が,肝細胞癌により死亡したことについて,被告らには,肝細胞
癌早期発見のための検査の実施を怠った過失があるとして,損害
賠償請求した事案です。

■年月日・裁判所
H18.9.1 東京地裁 平成16年(ワ)第2353号 損害賠償請求事件(医療過誤)

■当事者

・亡Dは,昭和31年生の男性であり,平成14年4月18日に
死亡。原告は,亡Dの妻。

・被告医療法人社団Aは,横浜市緑区所在のB総合病院等の病院
等を設置・運営する医療法人社団。被告Cは,平成12年1月5
日当時,被告病院に非常勤で医師として勤務しており,被告病院
の肝臓病の専門外来で診察。また,被告Cは,それ以前から,自
らが勤務するE病院及びF病院においても,亡Dを診察。

■診療経過

・亡Dは,昭和60年頃,上海の病院において,慢性B型肝炎と
診断された。平成元年頃,全身倦怠感が生じたことから,L病院
に通院し,漢方薬の処方を受けたが,通院を中止し,その後放置。

・亡Dは,平成7年10月11日,全身倦怠感が増強し,M病院
を受診した。M病院においては,肝硬変(B型)との診断がされ,
11月9日,同院に入院の上,強力ミノファーゲンによる治療が
開始されたが,亡Dは,インターフェロンの投与を希望し,知人
から重症の肝炎治療の専門家として被告Cを紹介され,治療費に
関する便宜をも期待して,11月21日,E病院を受診し,被告
Cの診察を受け,11月29日,E病院に転院。

・E病院では,12月1日,腹腔鏡下肝生検を行い,肝硬変と診
断された。また,今回の急性増悪の後も,さらに活動性を持続し,
再燃する可能性もあると診断された。

・被告Cは,12月7日から,インターフェロン及びサイクロス
ポリンの投与を開始した。この投与に当たっては,被告Cは,健
康保険の適用とすることにより,亡Dの経済的負担を軽減するた
め,保険病名をB型肝炎とし,また,サイクロスポリンにかかる
費用は,被告Cの研究費で負担。

・亡Dは,同月12日,E病院を退院し,F病院に転院した。F
病院においても,被告Cが亡Dを診察し,インターフェロン又は
イントロン及びサイクロスポリンの投与を継続した。平成8年1
月20日,亡Dは,F病院を退院した。

・亡Dは,F病院退院後はE病院に通院し,同年2月6日まで,
同様の処方を受けた。その後,平成8年11月13日から,平成
9年1月7日まで,F病院において,インターフェロン及びサイ
クロスポリンの処方が継続。

・亡Dは,その後もF病院への通院を継続していたが,被告Cは,
B型肝炎ウィルスの激しい増殖が見られ,インターフェロンが有
効性を示さなくなったことから,同月8日以後は小柴胡湯とウル
ソサン投与を行いながら経過観察をする方針として,平成10年
5月16日まで同様の処方を継続。

・5月20日,抗ウィルス剤であり,当時はHIVにのみ認可さ
れていたラミブジン(商品名エピビル)が入手可能になったため,
被告Cは,亡Dに対し,同薬を処方し平成10年8月5日まで投
与を継続したが,効果が明らかではなかったため,以後投与を中
止した。以後は,引き続きウルソサンを投与したのに加えて,強
力ミノファーゲンCを投与したが,後者については,平成10年
12月以降,亡Dの希望により,近医であるN診療所に投与を依
頼。

・平成11年10月,F病院が閉院となったことから,亡Dは,
11月17日,被告病院を受診し,問診票にはそれまでに肝臓病
と診断されたことがあると記載して,被告Cの診察を受けた。同
被告は,平成7年末以降長期間にわたって,保険病名を慢性肝炎
として診療を継続してきたことから,亡Dが肝硬変に罹患したま
まそれが治っていない状況にあることを失念し,診療録に傷病名
をB型慢性肝炎と記載して,超音波検査を行ったところ,その結
果は,「慢性肝炎ないし肝硬変及び肝内に室間占拠性病変3コ」
との所見であったが,これを見ても亡Dが肝硬変に罹患している
ことを思い出せなかった。

・10月24日,亡Dは被告病院を受診した。被告Cが不在であっ
たため,代診に当たった医師が,腹部CT検査及び超音波検査を
行った。CT検査においては造影される病変は認められなかった
が,超音波検査では高エコー塊が認められ,診察に当たった医師
は,B型肝硬変と診断した。また,同日行った腫瘍マーカー検査
においては,α‐フェトプロテインCLIAが44.9ng/mlと高
値を示しており,同医師は,次回に腫瘍マーカーであるAFP及
びPIVKA‐IIの検査をすることを指示。

・12月8日の被告病院での診察時に,被告Cが亡Dに対しE病
院でのMRI撮影を指示したため,同月10日,亡DはE病院を
受診し,平成12年1月5日MRI検査が行われた。その結果は
「MRI上,肝の辺縁は不整で,脾腫も認められ,LC(肝硬変)
のpatternと思われます。今回MRI上,Advanced HCC(進行した
肝細胞癌)の像は確認出来ません。経過観察して下さい。」との
所見であった。被告病院においては,その後,超音波検査,CT
検査及びMRI検査等の画像検査並びに腫瘍マーカー検査を行わ
なかった。

・なお,亡Dは,平成11年12月10日のE病院における内科
質問表において,自己の病名について,慢性肝炎と申告した。

・亡Dは,平成12年3月1日及び同年5月17日に被告病院を
受診したが,その後平成12年11月8日に再度被告病院を受診
するまで,被告病院を受診しなかった。

・平成12年10月から,B型慢性肝炎に対してラミブジン(商
品名ゼフィックス)が健康保険の適用になったことから,平成1
2年12月13日から,ラミブジンとステロイド中断療法による
慢性肝炎の治療が開始された。その後平成13年4月11日まで,
亡Dは一か月に1ないし2回の頻度で被告病院を受診し,被告C
の診察を受けていた。

・ 亡Dは,平成13年6月15日,激しい右季肋部痛が出現した
ため,G病院を受診した。CT検査の結果,肝腫大が著名で,
mass像が認められた。

・亡Dは,6月20日,G病院の紹介状及びCT画像を持参して,
原告とともに,被告病院を受診した。被告Cは,CT検査を行っ
たところ,手拳大の肝癌と思われる腫瘤状陰影が認められ,亡D
の病変につき,肝癌と診断したが,そのことを亡Dにも原告にも
告げず,亡Dから中国への出張の予定があると告げられたのに対
し,特にその期間を確かめず,次の診察日も決めないまま,短期
間の出張であろうとの理解の下にこれを許可し,帰国後直ちに入
院するようにと告げた。被告Cは,同日,G病院担当医師宛ての
紹介患者経過報告書に,「遠隔地の患者でキメ細かいfollowがで
きず,また・・・,HCC(肝細胞癌)の増大を見てしまいまし
た。緊急に入院して頂き治療を開始します。」と記載。

・亡Dは,平成13年6月下旬から,香港,北京及び上海への出
張に出かけたが,同月29日,体調不良を感じたことから,H医
院を受診し,同年7月3日に同院に入院した。CT検査等の結果,
肝臓の右葉に腫瘍があると診断され,同年7月11日,肝V,VI,
VII部の部分的肝臓切除術を受けた。手術の結果,腫瘍の大きさは
12×7cmであり,肝細胞癌は右横隔膜筋にも浸潤し,肝門部リ
ンパ節に転移していることが確認された。

・亡D及び原告は,7月29日に帰国し,8月7日,I病院を外
来受診し,8月17日,同病院に入院した。同日,TAEが施行
され,また胸水の貯留が認められたため,入院中に合計3回,穿
刺吸引が行われ,8月25日,退院した。

・亡Dは,同月27日,I病院の紹介により,TAE施行目的で,
J病院に入院したが,I病院でのTAEの効果により肝臓癌が認
められなかったため,TAEは施行されず,同月29日に退院し
たが,同年9月28日には再び胸水による呼吸困難を訴えて同病
院に入院し,その時点で左冠動脈に28mmにわたる腫瘍栓が認め
られた上,同年10月11日の造影検査により,肝両葉に多数の
腫瘤染色がみられ,肝臓病の進行度は,最高度を示すStageIV‐B
と診断され,TAEの施行により小康を得たため,同年11月2
6日に退院した。

・その後,亡Dは,平成14年4月4日まで,I病院等への入通
院をしたが,症状の好転がないまま,同日,原告とともに上海に
帰省。

・4月5日,上海で容態が悪化し,K医院に入院し,4月18日,
同院にて,原発性肝癌により死亡。

■平成12年1月5日以降,腫瘍マーカー検査及び画像検査を行っ
て,肝細胞癌を発見すべき義務を怠った過失の有無

「亡Dが平成7年以降肝硬変に罹患しており,それが治癒しない
ままの状態であったことは被告Cも認めているところ・・・,同
被告がより適切な医療をより安価に提供できるよう亡Dに便宜を
図るために,同人の保険病名を慢性肝炎として,長期間診療を継
続したことから,同被告及び亡Dはともに平成11年11月ころ
までには亡Dの疾患が肝硬変であることを失念し,それが慢性肝
炎であると思い込むに至っていたと認められる」

「しかし,このように患者の疾患が何であったかを失念し,他の
疾患であると誤解すること自体が,医師としての初歩的かつ重大
な義務違反に当たると言わざるを得ないし,次のとおり,その後
の診療過程において,その誤解を解く機会が十分にあったと認め
られる」

「すなわち,第1に・・・,平成11年11月17日の超音波検
査の結果は,『慢性肝炎ないし肝硬変及び肝内に室間占拠性病変
3コ』との所見であり,肝硬変の可能性が示唆されていた。第2
に・・・,同月24日に診察に当たった被告病院医師は,亡Dの
疾患について肝硬変と診断し,その旨及び腫瘍マーカーを追加す
べきことをカルテに記載したことが認められ,次回以降も同じカ
ルテを使用していることからすれば,このカルテの記載について
は,当然に被告Cも確認したと認められる。第3に・・・,被告
病院での診察時における被告Cの指示により,平成12年1月5
日に行われたE病院でのMRI検査の結果,『MRI上,肝の辺
縁は不整で,脾腫も認められ,LC(肝硬変)のpatternと思われ
ます。今回MRI上,Advanced HCC(進行した肝細胞癌)の像は
確認出来ません。経過観察して下さい。』との所見であった」

「以上の事実からすれば,被告Cは,平成12年1月5日に行わ
れたE病院でのMRI検査の結果を確認した以降は,亡Dの疾患
が肝硬変であったことを思い出し,それに対応した経過観察措置
をとるべきであったというべき」

「他方・・・,一般に肝硬変患者の経過観察のためには,腫瘍マー
カーであるAFPやPIVKA−IIを1〜2か月に1回測定する
必要があるとされていること,慢性肝炎症例は,6か月に1回の
超音波検査,肝硬変症例においては,3か月に1回の超音波検査
の施行が必要とされていることが認められる」

「亡Dについては,前記認定のとおり,平成7年から肝硬変となっ
ていた上,平成11年11月の超音波検査で肝内に占拠性病変が
3個発見され,腫瘍マーカー値にも異常値があらわれ,平成12
年1月5日に実施したMRI検査においても,進行した肝細胞癌
は発見されなかったものの,経過観察の必要性が指摘されていた
ことからすると,一般の肝硬変患者以上に厳密な経過観察の必要
性が生じていたと認められ,被告Cは,同日以降,少なくとも一
般の肝硬変患者の経過観察措置として要求されている腫瘍マーカー
であるAFPやPIVKA−IIを1〜2か月に1回測定すべき義
務及び3か月に1回の超音波検査を施行し,異常所見が認められ
た場合には,さらにCT検査ないしMRI検査を行うべき義務が
あったと認められる。しかしながら,被告Cは,平成12年1月
5日以降なんら画像検査を行っておらず,また,腫瘍マーカー検
査も行っていない」

「したがって,被告Cには,平成12年1月5日以降腫瘍マーカー
検査や画像検査を怠った過失があるというべき」

「そして,亡Dの肝臓癌は,上記のとおり平成12年1月時点で
はいまだ確認できなかったところ,平成13年6月に発見された
際の大きさなどからすると,平成12年中には2cm以内の大きさ
にとどまっていたものと認められるから,亡Dが約半年間の受診
中断の後に受診を再開した平成12年11月8日及びその次の受
診時である同年12月13日に上記各検査を行えば,同月27日
の受診日にはそれらの結果に基づき,2cm以内の大きさの肝細胞
癌の存在を診断でき,すみやかにそれに対する措置がとれたと認
められる」

「これに対し,被告は,インターフェロンの処方に当たり,健康
保険の適用において原告に有利な扱いをするために病名を肝炎と
したのを契機に,真実の病名が肝硬変であることを失念したもの
であり,かかる誤認の下では,平成12年1月5日以降に腫瘍マー
カー検査及び画像診断検査を実施しなかったこともやむを得ず,
過失はないと主張する」

「確かに,被告Cが亡Dの便宜を図っていたことについては,医
師としてそれなりに評価されるべき行為ではあるが,そのような
行為に起因するとしても,患者の疾患を失念又は誤解することは,
前記のとおり医師として初歩的かつ重大な義務違反と言わざるを
得ないのであり,しかも,上記のように,平成11年11月及び
平成12年1月5日の諸検査の結果等から,肝硬変の可能性が指
摘されているのであるから,原告の疾患が肝硬変であったことを
想起し,又は,再検討することは容易であったと認められる」

「その上,被告らは,平成12年1月5日のMRI検査の結果や
本件患者の肝機能の状態等の総合判断から,亡Dの病名について
慢性肝炎であるとの認識を変えるに至らなかったと主張するが,
慢性肝炎との認識を継続していたとしても・・・,肝癌のスクリー
ニングのための措置をとらなかった被告Cの判断が合理的である
とは認められない」

「したがって,いずれにしても,被告のこの点についての主張に
は理由がない」

■被告らの過失と死亡との因果関係について

「本件では,被告Cが,平成12年1月5日以降に腫瘍マーカー
検査及び画像診断検査を実施しなかったという不作為による過失
が問題になっているが,医師が注意義務に従って行うべき診療行
為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の
判断においては,経験則に照らして統計資料その他の医学的知見
に関するものを含む全証拠を総合的に検討し,医師の当該不作為
が患者の当該時点における死亡を招来したこと,換言すると,医
師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその
死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る
高度の蓋然性が証明されれば,医師の当該不作為と患者の死亡と
の間の因果関係は肯定されるものと解される」

「したがって,本件では,被告Cが,平成12年1月5日以降に
腫瘍マーカー検査及び画像診断検査を実施していれば,平成14
年4月18日の死亡が避けられたかにつき検討することになると
ころ・・・,亡Dについては,上記各検査を実施することにより,
平成12年末の時点で腫瘍径2cm以内の肝臓癌を発見できたもの
と認められる」

「そして・・・,肝癌の切除術の適応は,肝機能の程度,癌の進
行程度及び病変の径の大きさ等によって決定されるところ,開腹
時においても腫瘍は1個であったことからすると,この時点にお
いても腫瘍は1個であったと認められる。また,肝機能について
も,平成11年11月17日の被告病院受診時のデータについて
であるが,肝機能が十分保たれていることは被告らも認めており,
その後も肝機能が大きく悪化したとも認められない」

「したがって,平成12年末に亡Dに腫瘍が発見されたとすると,
外科的切除の適応はあったと認められるし・・・,腫瘍径3cm以
下及び個数3個以下の場合にエタノール注入療法の適応があると
されるところ,上記の亡Dの状態からすれば,エタノール注入療
法についても適応があったと認められる」

「他方,この平成12年末から亡Dの現実の死亡時までは約1年
4月が経過しているところ・・・,第15回全国原発性肝癌追跡
調査報告によれば,肝細胞癌に対する肝切除が行われた症例にお
いて,腫瘍の個数が1個で腫瘍径2cm以下であり,臨床病期Iすな
わち肝機能が良好なケースにおける2年生存率が94.2%,5
年生存率が75.5%である。また,同様の条件で肝細胞癌に対
するエタノール注入療法が単独で行われた症例においての2年生
存率は93.7%,5年生存率が67.1%である」

「以上のデータからすれば,亡Dに対し,平成12年1月5日以
降に肝切除またはエタノール注入療法を行っていれば,亡Dの現
実の死亡時である平成14年4月18日において亡Dが生存して
いた高度の蓋然性が認められるというべき」

「したがって,被告Cの過失と亡Dの死亡との因果関係は認めら
れる」

「平成12年3月以降の亡DのHBVウィルス値は,1回の計測
時を除き,いずれも6.3LGE/mlから7.7LGE/mlであったこと
については,当事者間に争いがないところ,被告らは,B型肝炎
ウィルス関連の肝細胞癌においては,ウィルス量が重要な予後因
子であり,亡Dの上記ウィルス値からすると,亡Dの予後は極め
て不良であり,肝切除を行ったとしても,本件患者がその死亡の
時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の
蓋然性は認められないと主張する」

「確かに,長崎大学病院におけるB型肝炎ウィルス関連の肝細胞
癌患者74名を対象に行った調査では,B型肝炎ウイルスDNA
値は,腫瘍の大きさと並び,独立した予後不良因子であったとの
結果が報告されている。この調査では,e抗原陰性でB型肝炎ウイ
ルスDNA値が3.7LGE/ml未満の患者は3.7LGE/ml以上の
患者よりも明らかに生存率が高かったとしている」

「また,大阪市立大学病院におけるB型肝炎ウィルスDNA陽性
で肝細胞癌切除を行った患者48名を対象として行った調査でも,
ウィルス量が,患者の予後についての危険因子であるとしており,
このような報告からすると,B型肝炎のウィルス量が肝細胞癌の
予後に有意な影響を与えていることは否定できない」

「しかし,これらの調査報告は,いずれも前記・・・の全国的な
調査報告に比べると,基礎となる症例が極めて少ないことから,
ウィルス量の多いことが具体的にどの程度予後に影響するかを明
らかにするものではないといわざるを得ない。その上,亡Dにつ
いては,上記のとおり,腫瘍径,腫瘍数及び肝機能の点において
予後良好な因子が存在するところ,長崎大学の報告においては,
このような予後良好因子を有し,かつウィルス量の高い者の予後
がどのようなものかというきめ細かな報告がされていないため,
同報告は亡Dの予後を予測する資料として不十分といわざるを得
ないし,対象者74名中,ウィルス量高値の患者が53名とかな
りの割合を占めているにもかかわらず,腫瘍径2cm未満の患者の
中央生存期間は4.9年とされており,ウィルス量の多い患者を
含めても,腫瘍径の小さい患者については,5年程度の余命が期
待できることを示している」

「また,大阪市立大学の報告についても,予後良好因子を有しか
つウィルス量の高い患者の予後について具体的に明らかにされて
いないし,同報告は全例が手術後の予後に関するものであるとこ
ろ・・・,腫瘍径の小さい患者については,手術を行わないまま
内科的療法を行うとの選択もあり得るところであるから,亡Dが
そのような治療を受けた場合の予後については,同報告は参考に
ならないといわざるを得ない」

「このように,被告の依拠する調査報告が必ずしも亡Dの予後予
測に適切でないことに加え,上記のようにウィルス量の多寡にか
かわりなく行われた全国的な調査報告において,亡Dのように予
後良好な因子を有する者の5年生存率が7割前後と非常に高水準
であり,被告の依拠する長崎大学の調査においても,ウィルス量
高値の者の割合が高いにもかかわらず,腫瘍径の小さい者は5年
程度の余命が期待できることが報告されていることからすると,
ウィルス量が亡Dの予後に何らかの影響を与えたとしても,なお,
適切な検査及び治療を行っていれば,亡Dは,平成12年末から
5年程度の余命が期待できた,すなわち,平成12年末から平成
17年末までの5年間生存していた高度の蓋然性が認められるの
であって,平成14年4月18日時点で亡Dが生存していた高度
の蓋然性は認められるというべき」

「したがって,この点についての被告の主張には理由がない」

■損害額
(1) 死亡慰謝料及び原告固有の慰謝料
亡Dの死亡慰謝料2800万円,原告固有の慰謝料200万円と
するのが相当。

(2) 死亡による逸失利益
・平成12年末に癌が発見され,適切な治療が行われれば,それ
から5年間,平成17年末まで生存した高度の蓋然性が認められ,
亡Dの現実の死亡時が平成14年4月18日であることからする
と,逸失利益の基礎となる生存期間は3年8か月。ライプニッツ
係数は,3.2761

・死亡時である平成14年4月18日には約45歳9か月であっ
たところ,賃金センサス平成13年第1巻第1表・男性労働者学
歴計45〜49歳の年収額は金686万9300円。

・生活費控除率を30%
 686万9300円×(1−0.3)×3.2761=157
5万3159円(1円未満切り捨て)

(3) 葬儀関係費用
原告は,亡Dの死亡により,葬儀関係費用として120万円支出。

(4) 証拠保全費用
本件において証拠保全が行われた平成14年当時においては,医
療機関が診療録等の記録を開示するとの対応が一般的でなかった
ことに照らすと,原告が,証拠保全に係る費用として支出した1
8万2060円は,本件と相当因果関係のある損害と認められる。

(5) 相続
原告は,遺産分割協議により,本件についての損害賠償請求債権
につき,全額を取得。

(6) 弁護士費用
470万円が相当。

■判決主文

1 被告らは,原告に対し,連帯して金5183万5219円及び
これに対する平成14年4月19日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

<以下略>