判例速報

※この記事は、2007-11-19にメール配信されたものと同じ記事です。
Medsafe会員各位


 今回は,Aの相続人である原告らが,Aが死亡したのは,被告
が開設する病院の医師らの下肢閉塞性動脈硬化症等の治療におけ
る過失によるものであると主張して,損害賠償請求した事案です。

■年月日・裁判所
H19.7.19 奈良地裁 平成14年(ワ)第239号 損害賠償請求事件(医療過誤)

■当事者

・原告X1はAの妻。原告X2はAの養子。

・被告は,医療施設を経営し,科学的でかつ適正な医療を普及す
ることを目的とする医療法人であり,奈良県内において被告病院
を開設。

■診療経過

・Aは,平成8年11月26日ころから,B病院において,下肢
閉塞性動脈硬化症及び高血圧症の治療を受けていた。

・6月14日,C内科を受診したところ,間欠性跛行,顔色不良
等,下肢閉塞性動脈硬化症の病態の増悪が見られたため,B病院
を受診。

・6月15日,B病院の紹介で,被告病院の循環器科を受診し,
被告病院の医師であるK医師の診察を受けた。Aには,既に,閉
塞性動脈硬化症及び高血圧症との診断がされており,紹介状には,
「右下腿末梢,右足が冷感あり。入院加療が必要である事を説明
致しました。他の内服加療あるいはDSA再検も含め御高診,御
加療の程宜しくお願い申し上げます。」との記載があった。Aは,
K医師に対し,前日(14日)夜の安静時に,右下肢に痛みがあっ
たと訴え,K医師は,右大腿動脈以下の脈拍は触れなかったが,
虚血症状の進行は認められなかったので,外来診療での経過観察
とした。

・6月17日,前日(16日)に少しの歩行で痛みがあったと訴
えて,再び被告病院を受診。そこで,K医師は,当日から入院加
療を行うこととし,リプルの点滴投与を行った。また,その際,
K医師は,Aに対し,必要であればDSA検査を行うことを説明
した。K医師は,Aに対してDSA検査を実施することに決め,
A及びX1に対し,24日,局所麻酔にて,大腿部からカテーテ
ルを挿入して血管造影を行うこと,造影剤を使用すること,合併
症としてアレルギーや出血が起こり得ることを説明し,A及びX
1は,DSA検査に対する同意書に署名,押印した。

・午後4時40分ころから午後6時ころにかけて,Aに対して,
DSA検査が実施された。検査実施時及び実施直後において,A
の全身状態に特段の変化や異状は認められなかった。検査の結果,
Aには,閉塞性動脈硬化症,左大腿動脈閉塞及び右外腸骨動脈不
完全閉塞との確定診断が付された。

・午後8時ころ,しきりに起きあがろうとするなどやや興奮気味
で,午後9時ころには強度の興奮状態となり,起きあがろうとし
て服を脱いだり,点滴を引っ張ったりしたため,ドルミカム(鎮
痛剤)が投与された。すると,Aは,夕食を全部嘔吐した後,眠
りに入り,いびきをかいた。顔面から前胸にかけて冷や汗をかい
ていた。

・午後10時ころ,付き添っていた家族から,「またえづいてお
り,何かおかしい。」との報告を受けた看護師が,Z医師に回診
を依頼した。Aは,目がトロンとしており,眼球が上方を向いて
いたが,呼び掛けには反応し,眼球の左右・上下運動,両下肢の
屈曲に異常は見られなかった。

・翌6月25日午前1時ころ,Aの興奮状態は治まり,Aは,看
護師に対して,「さっきはどうも迷惑をお掛けしました。」と述
べた。

・午前3時ころ,Aは,異色物が混じったものを嘔吐した。

・午前6時ころ,Aに呂律困難が認められたが,呼び掛けには反
応し,両手の握力及び両下肢の屈曲に異常はなかった。

・午前9時ころ,Aは,呼び掛けには反応するが,やや傾眠状態
であった。K医師は,前日の夜に使用したドルミカムの影響であ
ると考え,経過観察とした。

・午後1時ころ,昼食時に食事動作が困難であったため,CT検
査を受けたところ,水頭症に伴う脳室拡大及び小脳中央部に小脳
出血に伴う血腫が認められた。K医師から引継ぎを受けた被告病
院代表者のY医師は,X1及びX2夫婦に対し,CT検査の結果,
小脳出血が見付かったこと,動脈瘤か血管奇形の可能性が高く,
これを確認するためには脳の血管撮影が必要であるが,危険を伴
うため,緊急の処置として脳室ドレナージをした方がよいと説明
し,Aに対し,VPシャント術を施行した。

・6月26日午前10時のAの状態は,意識状態がJCS(急性
期の意識障害を評価する指標)のI−1(意識清明とはいえないが,
刺激しないでも覚醒している状態)で,命令運動には従うが,時
々,測定中の体温計を布団の上に投げたり,創部のガーゼを外そ
うとするなどの行動に出ていた。

・同日午後3時ころ,Y医師がX1及びX2に対してAの病状説
明をした際,X2から,このままの状態で置いておくよりも血管
撮影をして手術をして欲しいとの希望があったが,Y医師は,血
腫除去した場所は良くなるが,その後体に起こり得る侵襲の方が
大きいとして,血管撮影はしない方がよいと説明。26日撮影し
た頭部CT検査の結果では,脳室拡大は消失し,血腫の変化も見
られず,また,バルブ(VPシャント)の機能は良好であった。

・6月26日から27日にかけてのAの状態は,意識状態はJC
SI−1ないし2(見当識障害があるが,刺激しないでも覚醒し
ている状態),自力で座位をとり,飲水することができる状態で
あった。また,Aは,何度も起きあがろうとしたり,手足を動か
して抑制帯を外そうとするなどの行動を取っていた。

・6月28日午前5時55分ころ,巡回した看護師に対し,「お
はよう」と挨拶するなど特に異状は見られなかったが,午前6時
5分ころ,突然,徐脈発作と意識レベルの低下を来し,救命処置
を受けるも改善せず,午前7時54分,被告病院において死亡。
なお,急変時に撮影した頭部CT検査によると,明らかな出血の
増大は見られず,脳室は拡大傾向であるが一応脳溝は見えており,
また,バルブの状態も良好であった。

・死亡後直ちにB病院において病理解剖に付され,主診断として,
小脳出血(小脳半球左より,4×4×4.5cm)及び第四脳室
に穿破,副診断として,(1)脳軟化症(小脳後面に4×2×1cm,
大脳左後頭葉後面に4×2×1cm),(2)大動脈硬化症(高度),
左腸骨仮性動脈瘤及び腎動脈硬化症,(3)肺うっ血及び左肺出血,
(4)脳室−腹腔シャント術術後状態,直接死因は小脳出血及び第四
脳室穿破と考えられるとの所見を得た。

■Aが死亡に至った機序等

「原告らは,Aの直接死因は,小脳出血ないし小脳出血後に発症
した脳ヘルニア等の脳の異常であり,その小脳出血は,本件DS
A検査によって生じたか,又はAが服用した薬剤によって誘発さ
れたと主張するので,まず,この点について検討する」

「・・・本件CT検査により小脳出血が確認された後の25日か
ら27日にかけてのAの意識レベルはJCSI−1〜2であり,2
8日朝の病状急変までは意識状態は比較的良い状態に保たれてい
たのであって,小脳出血及びそれに続発した水頭症による頭蓋内
圧は良好にコントロールされており,28日朝の時点においては
これらが原因となって意識障害を突発する状態ではなかったと考
えられること,28日の病状急変時に撮影した頭部CT画像によっ
ては,明らかな出血の増大は見られず,再出血が起こったとは認
められないこと,解剖所見等において,脳ヘルニア(テント切痕
ヘルニア)は認められていないこと,他方,病状急変後の同日午
前6時13分に測定された心電図には著明な徐脈と広汎な心筋梗
塞を示す所見が見られたこと,Aの死亡時刻はそれから約1時間
40分後の同日午前7時54分であったこと,担当医師は,剖検
依頼書に『通常,脳で死亡の場合は徐々に意識が悪くなり,昏睡
状態となり死亡されるのですが,急に死亡されました。この様に
直前まで意識がよく,急な再出血又は梗塞(心房細動あり)の様
なことがあったのでしょうか。それとも循環器系の発作でしょう
か。最後のEKGではSTの上昇がみられたのですが。』と記載
し,心臓死を疑っていたこと,Y医師は,死亡診断書には直接死
因として小脳出血と記載したが,一応の判断であり,十分には納
得していなかったことがそれぞれ認められる。また,証拠による
と,一般的に,心筋梗塞発症後余りにも早い死亡の場合には,心
臓壊死などの肉眼的病理所見が完成されず,顕微鏡的な病理所見
においても判断は容易ではないことが認められる」

「これらの事実を総合すると,Aの死亡直後の病理解剖において,
直接死因は小脳出血及び第四脳室穿破と考えられていたとしても,
Aは,小脳出血ないしその他の脳の異常が原因で急変死亡に至っ
たとは考えがたく,急性心筋梗塞を直接の死因として死亡した可
能性が高いと考えるのが相当である」

「・・・Aはもともと高血圧症で治療を受けていたが,被告病院
入院後のAの血圧は,本件DSA検査実施前で拡張期血圧が度々
100mmHgを超え,本件DSA検査実施後の24日午後11
時から翌25日午前6時にかけては,収縮期血圧が172〜18
8mmHg,拡張期血圧が90〜100mmHgであり高血圧状
態が続いていたこと,非外傷性脳出血は主として高血圧が原因と
され,高血圧性脳出血の好発部位の一つとして小脳が挙げられて
いること,AのCT所見は,高血圧が基礎疾患となって発症する
高血圧性脳出血の典型的な所見であること,Aのように全身に動
脈硬化を示す閉塞性動脈硬化症と高血圧症を併せ持つ患者は,ス
トレスや緊張などで容易に血圧が上昇しやすいこと,Aは,動脈
硬化を増強させる危険因子である喫煙を1日当たり10本程度続
けていたこと,Aの剖検所見において,小脳出血の原因となり得
る脳動脈瘤や脳動脈奇形等の脳血管病変の指摘がないことがそれ
ぞれ認められる」

「また・・・,血管造影の副作用(合併症)として脳出血は挙げ
られていないし,証拠によると,全身の血液量は約13リットル
であるところ,血管造影の際に造影剤を20〜25cc注入した
ことによって,血管全体の圧力が高くなるとは考えられないこと
に照らすと,本件DSA検査の実施が,直接,Aの小脳出血を引
き起こしたと認めることはできない」

「これらの事実を総合すると,Aの小脳出血は,本件DSA検査
や同検査実施後の体位固定によるストレスや緊張が付加され,血
圧が上昇して小脳出血を来す遠因の一つとなったことは否定でき
ないとしても,臨床的には,Aの高血圧症から合併した高血圧性
脳出血であったというべきである」

「原告らは,被告病院において使用された各薬剤が,(1)単独で又
はAの高血圧症と相まって小脳出血を誘発した,(2)他の薬剤と相
まって小脳出血を増幅させ,更なる出血を招き,Aを死亡に至ら
せたと主張する」

「確かに・・・,個々の薬剤情報における注意事項,副作用等と
して,Aの予後を悪化させ得る可能性のある記載が存在するが,
上記(1)の点については,本件全証拠によっても,ラクテック及び
パナルジンの投与が小脳出血を誘発したとの事実を認めることは
できないし,上記(2)の点についても・・・,本件VPシャント術
の実施後のAの意識状態は保たれていたこと,28日の急変時に
おいても明らかな血腫の増大は認められなかったことに照らすと,
Aにおいて,小脳出血の増大や更なる出血はなかったというべき
であり,これに加え,前判示のとおり,Aの直接死因は急性心筋
梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,被告病院におい
て投与されたペルジピン等の薬剤がAの予後を悪化させ,ひいて
はAの死亡に影響を与えたと認めることはできない」

「したがって,この点についての原告らの主張は,いずれも採用
することができない」

「以上のとおり,Aの直接死因は急性心筋梗塞である可能性が高
く,また,小脳出血が生じた原因はAの高血圧症によるものであ
る。そうすると,原告らが問題とする被告病院医師による作為及
び不作為は,いずれもAの死亡に直接結び付くものはないことに
なる」

■本件DSA検査を実施したことに関する責任の有無について

「・・・Aが前回DSA検査を受けたのは平成8年12月12日
であり,被告病院入院時には既に2年半が経過していたこと,A
は,以前は薬物療法によって300〜400mの歩行は可能であっ
たが,平成11年6月13日の朝には100mの歩行にて跛行が
生じる程度,翌14日には3歩くらい歩くと休みたくなる程度に
まで間欠性跛行の症状が進行していたこと,B病院のM医師は,
K医師に対して,Aを紹介するに当たり,DSA検査の実施も考
慮するよう依頼していること,DSA検査には,患部動脈内に造
影剤を直接注入して血管病変を明瞭かつ精確に描出できるという
利点があること,DSA検査を実施する際の身体に対する侵襲は,
鼠径靱帯の約2cm下の部位を2〜3mm切開するにとどまるこ
とがそれぞれ認められる」

「そうすると,被告病院入院時においては,Aの下肢閉塞性動脈
硬化症に対する治療につき,薬物療法以外の治療も含めて検討す
べき時期にあったということができるところ,その検討のために
は血管病変の進行の程度を精査する必要があったといえる。そし
て,K医師は,そのための検査として,多少の手術侵襲はあるも
のの,鮮明度において他の検査より優れているDSA検査を選択
したのであって,その選択は医師の裁量の範囲内であるというこ
とができ,ルチーンとして実施すべきではないとする・・・知見
も,このような必要性がある場合にまで検査を否定する趣旨とは
認められない」

「したがって,原告らが縷々主張する点を考慮したとしても,A
に対して本件DSA検査を実施した点につき,K医師に注意義務
違反があったということはできず,この点に関する原告らの主張
は,採用することができない」

■本件DSA検査の実施に際しラクテック及びパナルジンを投与
していたことに関する責任の有無について

「原告らは,ラクテックを大量・急速投与した場合の副作用とし
て脳浮腫が指摘されていることなどを根拠に,Aに対してラクテッ
クを投与した点に注意義務違反があると主張する」

「確かに・・・,ラクテックの投与量は,1回当たり500〜1
000ml,1時間当たり300〜500mlの点滴静注とされ
ているのに対し,Aには1日で2000mlを投与したことが認
められるが,本件全証拠によっても,それが急速かつ大量投与で
あるとまでは認めることはできないし,仮に,この投与を問題と
する余地があるとしても,前判示のとおり,ラクテックの投与に
よって,小脳出血が誘発されたと認めることはできない」

「したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することが
できない」

「原告らは,パナルジンについて,手術の場合出血を増強するお
それがあること,重大な副作用として脳出血が指摘されているこ
となどを理由に,Aにパナルジンを服用させた点に注意義務違反
があると主張する」

「しかしながら,証拠によると,パナルジン投与の注意事項とし
て記載された手術の場合に増強のおそれがある出血とは,術中の
手術手技によって直接的に生じる出血であると解されるし,また,
前判示のとおり,パナルジンの服用によって,小脳出血が誘発さ
れたと認めることはできない」

「したがって,Aに対してパナルジンの服用を継続させた点につ
き,K医師に注意義務違反は認められないから,この点に関する
原告らの主張は,採用することができない」

■本件DSA検査後の検査が遅れたことに関する責任の有無につ
いて

(過失)

「・・・Aは,25日午後9時ころに嘔吐し,午後10時ころに
もえづくなどの異状が見られ,その後,いったん症状は落ち着い
たものの,翌26日午前3時ころに再び嘔吐し,6時ころには呂
律困難が認められ,午前9時ころには傾眠状態であったのである
が,これらのAの症状は,いずれも小脳出血の初発症状(頭蓋内
圧亢進を示す症状)であるといえる」

「そうすると,被告が主張するように,Aの上記各症状がドルミ
カムの副作用と鑑別しにくいものであったとしても,Aの病態を
的確に把握するためには,同日朝か遅くとも午前中のうちには頭
部CT検査を実施すべき注意義務があったというべき」

「したがって,K医師が,同日午後1時まで頭部CT検査を実施
しなかった点につき注意義務違反が認められる」

(因果関係)

「しかしながら・・・,25日深夜から翌26日午前中にかけて,
Aは,終始,呼び掛けには反応し,意識状態もJCSI−1〜2と
比較的良い状態が保たれており,26日午前1時ころには,看護
師に対して『さっきはどうも迷惑をお掛けしました。』と述べ,
いったんは状態が回復している。これに加え,前判示のとおり,
本件CT検査後に行われた本件VPシャント術によりAの頭蓋内
圧は安定していたこと,Aの直接死因は小脳出血ではなく,心筋
梗塞である可能性が高いことをも併せ考えると,本件CT検査の
実施が遅れたことによる影響は,Aの予後を左右するものではな
かったというべき」

「そうすると,仮に,本件CT検査を26日の朝か午前中に行っ
ていたとしても,Aの死亡を回避し又は死期を遅らせることがで
きたと認めることはできないから,上記の注意義務違反とAの死
亡との間には相当因果関係はないといわざるを得ない」

「したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することが
できない」

■小脳出血判明後に本件VPシャント術を施行したことに関する
責任の有無について

「・・・小脳出血は血腫が大きく(3cm以上が目安),神経症
状が進行性に増悪している場合や,脳幹を圧迫して水頭症を合併
している場合に手術が行われ,神経症状が軽度な場合には手術を
行わずに保存的治療による経過観察が第一選択とされていること,
水頭症を合併している場合には,脳室ドレナージなどの水頭症に
対する治療を行うとされていることがそれぞれ認められる」

「そして・・・,Aの小脳出血の血腫は4cm大ではあったもの
の,25日の早朝から午後にかけてのAの意識障害の程度はJC
SI−1であって,神経症状は軽度のまま維持されており,頭痛の
訴えもなかったこと,Aは当時81歳であり,その脳は若年者に
比べて萎縮していたため,小脳出血が起こった後も頭蓋内圧の上
昇の程度が比較的軽度であったと考えられることからすると,2
6日の時点において,Aの生命に危険が及ぶほどの血腫による圧
迫は認められず,手術による血腫除去の必要性は低かったといえ
る。むしろ,血腫除去手術は,胸腹部が圧迫されがちな腹臥位の
姿勢で,手術時間及び麻酔時間が長時間にわたる開頭手術によっ
て行われるため,81歳のAには負担が重く,その選択は慎重に
行うべきであり,この点からも保存的治療が第一選択であったと
いうべき」

「なお・・・,Aの水頭症に対する治療として本件VPシャント
術が行われているが,Aは,本件DSA検査後及び本件VPシャ
ント術後において,安静を保てず起きあがろうとしたり,点滴や
抑制帯を外そうとするなどの行動に出ており,そのAに対して脳
室ドレナージを行うと,上記同様の行動によってドレーンが外れ,
感染や出血などの合併症を引き起こす危険性が高いと考えられる
から,体内埋め込み型のVPシャント術が行われたことは妥当で
あるといえる」

「したがって,Aに対して本件VPシャント術を実施した点につ
き,Y医師に注意義務違反は認められないから,この点に関する
原告らの主張は,採用することができない」

■小脳出血判明後にペルジピン,ラクテック,ニトロール,デカ
ドロン及びプレタールを投与したことに関する責任の有無につい
て

(ペルジピン,ラクテック,ニトロール及びデカドロンの投与)

「原告らは,出血時には投与が禁忌とされていることなどを根拠
に,Aに対してペルジピン等の上記各薬剤を投与した点に注意義
務違反があったと主張する」

「しかしながら,本件全証拠によっても,これら各薬剤の投与が
適応を外れた誤使用であったと認めることはできないし,仮に,
これら各薬剤の投与を問題とする余地があるとしても,前判示の
とおり,Aは再度の脳出血を起こしていないし,これら各薬剤の
投与が,Aの死亡に対して影響を及ぼしたと認めることはできな
い」

「したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することが
できない」

(プレタールの投与)

「・・・25日以降は,パナルジンからプレタールに変更する旨
の指示が出ていたが,Aは,同日午前10時にはプレタールを服
用しなかったことが認められ,また,本件全証拠によっても,そ
れ以降,Aがプレタールを服用した事実を認めることはできない」

「したがって,Aはプレタールを服用していない以上,この点に
ついての原告らの主張は,採用することができない」

■説明義務違反の有無について

(本件DSA検査前の説明)

「原告らは,本件DSA検査前に,DSA検査の危険性等につい
ての説明を受けなかったと主張する」

「しかしながら・・・,K医師は,A及びX1に対し,DSA検
査の方法及び合併症等についての一般的な説明をし,A及びX1
は,本件DSA検査の実施に同意したのであるから,この点につ
き,K医師に説明義務違反があったということはできない」

「また・・・,一般的には,DSA検査によって脳出血が起こる
ことは考えがたい上,本件においても,臨床的に,本件DSA検
査の実施がAの小脳出血ないし死亡に対して影響を及ぼしたとは
認められないのであるから,DSA検査に際して,脳出血の発生
や死亡についての危険性まで説明すべき義務は存在しないという
べき」

「さらに,原告らは,K医師が,MRA検査やCT検査について
の説明をしなかった点も問題とする」

「しかしながら,そもそも患者に対する医師の説明は,患者が当
該療法を受けるか否かについて熟慮し,決断することを助けるた
めに行われるものである。本件のように考え得る検査方法が複数
存在する場合,医師の合理的な裁量に基づいて選択された検査が
行われることが診療契約の内容となり,かつ,患者もそれを望ん
でいるのが通常であるところ,身体への侵襲がない検査方法が他
に存在するからといって,その検査方法を積極的に選択すべき事
情がないにもかかわらずその検査方法について説明したとしても,
患者の決断に影響を及ぼすことはないばかりか,かえって患者を
混乱させる危険性もあり得るのであるから,患者から特に説明を
求められていないのであれば,それらの検査方法について説明す
べき義務があると解することはできない」

「本件においては,K医師が,A及びその親族に対して,MRA
検査やCT検査についての説明をしなかったことにつき被告は特
に争わないが,Aにおいて,DSA検査ではなく,MRA検査や
CT検査を積極的に行うべき事情や,A及びその親族から,これ
らの検査方法についての説明を求めた事実を認めるに足りる証拠
はないから,MRA検査やCT検査について説明しなかった点に
つき,K医師に説明義務違反があると認めることはできない」

「したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することが
できない」

(小脳出血判明後の薬剤投与の説明)

「原告らは,Aに小脳出血が見付かったのであるから,リプル,
パナルジンなど出血時に禁忌とされる薬剤を用いるのであれば,
その必要性及び危険性について説明すべきであったなどと主張す
る」

「そこで検討するに,証拠によると,Aの小脳出血は25日未明
に発症した可能性があること,Aに対するぺルジピンの投与は,
高血圧に対する処置として,同日午後4時10分以降に行われた
が,この時点では,小脳出血の発症から半日以上が経過しており,
小脳からの出血は止まっていた可能性が高いことがそれぞれ認め
られる。そうすると,Aに対するペルジピンの投与は禁忌とされ
ている投与には当たらないし,また,ペルジピンの副作用として
再度の出血を来す危険性があることを認めるに足りる証拠はない
から,原告らの主張は,その前提を欠くといえる」

「なお,本件全証拠によっても,Aに小脳出血が生じた可能性の
ある25日未明以降,Aに対して,リプル,パナルジン,プレター
ルが投与された事実を認めることはできないから,やはり,原告
らの主張は,その前提を欠くといわざるを得ない」

「したがって,この点に関する原告らの主張は,採用することが
できない」

■判決主文
(請求棄却)