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 本Medsafe会員の三谷洋氏より情報提供がありましたので、以下にご報告いたします。



安全運航の現状とヒューマンファクター的アプローチ

〜航空事故・重大インシデントを中心に〜


 2007.1.26日本人間工学会にて、「安全運航の現状とヒューマンファクター的アプローチ〜航空事故・重大インシデントを中心に〜」と題する講演会があった。演者は、実践女子大学教授・日本人間工学会航空人間工学部会長の垣本由紀子先生である。先生は、航空・鉄道事故調査委員会の航空関係の調査委員でもある。
 講演は、航空事故発生の状況、航空・鉄道事故調査委員会における事故調査の進め方、最近5年間に見るヒューマンファクターに関わる事例であったが、最近5年間に見るヒューマンファクターに関わる事例を中心に報告する。

関連サイトを以下に示す。
日本人間工学会
日本人間工学会 航空人間工学部会

  1. オハイオ大学のR.D.Jansen(1997年)は、ヒューマンファクターが目指す方向を次のようにまとめている
    • オペレーターの特性を生かしながら最適な方法でデザイン・システムを作ること。
    • これらシステムにおけるオペレーターの選抜とトレーニングを行うこと。
    • このシステムにおいて、トレーニングの必要性が最小限になるようデザインし、且つ、エラーの介入を最小限にし、破滅的事態に至る前にオペレーターが気づき、且つ、修正操作を可能にすること。
  2. 事故調査委員会で扱った事例のうち「人間に関わる」ものは、以下のようにまとめられる
    1: ターゲットファッシネーション
    従来は、戦闘機が射撃訓練をしている時、標的に夢中になり標的に激突する事例。
    最近は、写真撮影のセスナ機等が撮影目標に近づき過ぎて失速・墜落する事例。
    飛行時間2500時間程度で経験が少ないわけではないが、同乗のカメラマンのリクエストに過剰に反応したためと思われる。
    2:必要操作の忘れ
    【基本操作の忘れ】脚出し忘れの胴体着陸など。レジャーフライトで、飛行時間は1000時間程度で、自信が出始めた頃離陸前に定められたチェック項目を確実にチェックしていないことによる。自衛隊機でも脚出し忘れが見られ、教育による周知徹底が図られたが改善しない。脚出し忘れに共通に見られる事項は、いったん行ったかあるいは行おうとした脚出し操作が中断した脚出し以外の作業に注意が集中した(注意の転導)。
    【置き換え操作による忘れ】
    他の作業に注意を惹かれ、且つ、それに関連した作業を行った。
    限られた時間の中でやるべきタスクが多く余裕が無い。
    3:加齢の影響
     日本のエアラインを対象とした調査(Miura.Y.2002)では、60歳から63歳のパイロットは1件も事故を起こしていない。60歳以上のパイロットが多い超軽動(超軽量動力機)での最近10年間の統計を見ると、年齢より、飛行時間100時間未満の初心者に多くの事故が見られた。
    4:燃料枯渇
    5:コミュニケーション齟齬
    • マン−マシンインターフェース
       マン−マシンインターフェースの問題は、人間工学発展の端緒である。使いにくいものは使いやすくすれば良いと言う発想が行き届いていない。ものの性能を充分把握しないでクリティカルな場面で使用している。
       天候の良くない中、周囲の制止を振り切り、GPSによる飛行を行ったが、そのGPSに頼りすぎ、小豆島で墜落した2001.3のパイパーの事例及び天候情報を確認しなかったうえ、経験の無い計器(GPS)飛行で、GPSの作業中、空間識失調に陥ったと思われている。2002.1発生のセスナ機の熊本県白岩山での墜落事例が紹介された。
    • パイロット−航空交通管制官(ATC)とのコミュニケーション
       通信を介して行われるコミュニケーションは、航空システムの特徴であり、且つ、脆弱な部分でもある。聞き違い、言い違い、聞き落とし等のエラーが多発している。
      例えば、管制官側
      • パイロットからの呼びかけの聞き落とし、聞き違え
      • 言い間違え、タイミングの遅れ
      • パイロットの間違ったコールバックの聞き落とし
      • 高度指定の間違え
      • 適切でない用語(例えば、OKとは言わない)の使用
      • 管制官同士の連絡ミス
      パイロット側
      • 周波数の見落とし
      • 疑わしいコミュニケーション内容を確認しない
      • 自機に対する許可の見落とし
      • 他機への許可の横取り、自機への許可と勘違いする
      • 管制官からの疑わしい内容の指示を、クルー内で「多分こうだろう」と解釈するあるいは、「期待している」ように解釈する
       2001.1の100名以上の重軽傷者をだした日航機同士のニアミスが紹介された。管制官がJAL958と言うべきところをJAL907と呼びかけ、降下する必要のないJAL907が降下を開始。コックピット内では、警報機が鳴っているのに更に降下を続けた。回避行動に入るときも、JAL958と言うべきところを存在しないJAL957に呼びかけを行った事例。
      • コックピット−客室とのコミュニケーション
      • 制作者−ユーザーとのコミュニケーション
      • パイロット−地上作業員とのコミュニケーション
  3. まとめ
    • エアラインにおける事故は、全世界では100万回出発あたり1回、日本では1985年の御巣鷹山での墜落事故以来、死亡事故は皆無であるが、毎年30件近い事故が発生しており、鉄道や車の事故に比べれば少ないものの「事故ゼロ」は程遠い。
    • 人間特性である「注意」に起因する事故は継続して発生している。人間の「注意喚起」に期待するだけの対策では事故はなくならない。
    • 航空における通信コミュニケーションは今後も継続すると思われるが、「確認する」という態度の欠如が目立つ。
    • 規則の遵守の意味、定められたチェックを行うことの意味が忘れられてきた。なぜ守らなければいけないのかが忘れられてしまい、結果として重要な手順が省略されてしまう。
    • 真実を知るためには情報が必要であるが、公表しない、裁判において使われないなどの保証が無い限り協力が得られにくく、現状は情報不足となっている。
    • ヒューマンファクター的要因は、「物証」ではなく「可能性」である。