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人間工学と労働安全

会員の三谷氏より事務局に報告が寄せられましたのでご紹介いたします。
ありがとうございます。

お茶の水女子大学公開講座「人間工学と労働安全」で、事故の多くの原因となっているヒューマンエラー、本質安全に関わるフェールセーフ、事故を起こしやすい人はどのような人かについて産業医科大学の担当講師より講義があった。職場での事故防止の参考になると考え報告する。

失敗と人間工学

顕在的失敗と潜在的失敗 参考1
顕在的失敗:
システムの最前線の者(パイロット、オペレーター、整備士、麻酔医、手術執刀医、調剤する薬剤師、看護師など)によって犯された危険行為。実際に事故が起きなくても、安全装置をかいくぐったり、無力化するような行為も含まれる
潜在的失敗:
一般に組織上層または社会全般でなされる誤った決定から起きる。潜在的失敗について根本的な責任のある人々は多くの場合、時間的、距離的にも危険な現場から切り離されている
  • 以上のように考えると、「最前線の者」による事故は、システム的な、潜在的な失敗を顕在化させるような状態を作った「失敗を引き継いだ者」であり、「ヒューマンエラーは原因ではなく、結果である」と言える
  • しかし、「最前線の者」に責任がないわけではなく、エラーを引き起こす原因のトップは「仕事の内容について良く知らない」のであり、管理者による仕事内容、その仕事の危険度に関する教育も重要である
  • 現場での手順の変更は柔軟に行われても良いが、その作業の危険性、安全性を充分に理解したうえで行われるべきである
人間工学の考え方の変遷
第1世代:
レバーの形状、計器類の配置・表示といった機器類やワークステーションにおける設計の工夫。ヒトの身体的、知覚特性を研究し、ヒューマン・マシン・インターフェース設計へ生かされた
第2世代:
60年代後半から70年代におけるコンピュータの導入によりヒトの情報処理形式、能力に関する研究が行われ、ヒューマン・マシン・インターフェース設計へ生かされた。マイクロエルゴノミクスと呼ばれる
第3世代:
更に高度なコンピュータ化及び情報技術の進歩により、在宅など労働形態の変化、労働力の高齢化、婦人労働の増加など、労働者の非均一化が進んだ。また、労働者を取り巻く環境変化の大きき、個人の属する組織、社会、環境、文化までを考慮にいれた、より広い視野での全体的・総合的アプローチが重要となった。マクロエルゴノミクスと呼ばれる
第4世代:
労働者を取り巻く環境変化は更に進み、仕事における楽しみ、面白さの検討に重点が移りつつある

ヒューマンエラー

ヒューマンエラーとは何か 参考2
  • システムから要求されたパフォーマンスからの逸脱
  • 課せられた機能を行わない(省略エラー)、課せられた機能を誤って行う(実行エラー)、課せられた機能を誤った順序で行う、課せられていない機能を行う、課せられた機能を誤ったときに行う―などがある
  • ヒューマンエラーには作業状況に原因があるもの(SCE:Situation-caused Error)と人間に原因があるもの(HCE:Human-caused Error)がある
  • mistake:誤った知識や不完全な知識があるときに起きる。意図の形成に関与している。slip:意図を正しく実行しようとする過程で失敗する。適切な動作が始められたにもかかわらず、わき道にそれてしまう
  • HCEには、知識不足に加え、経験不足、勘違いや錯誤、憶測による間違い、作業手順を飛ばす省略行為などがある
ヒューマンエラーへの取り組み 参考3,4
  • 前提として、人間は完全でないし、完全ではありえない。間違いをしたいと思っている人はいないので、罰則規定を作ることに意味がなく、罰則を強化すると人はミスを隠す(非罰則的報告制度によりヒヤリハット事例を積極的に収集することに力を入れたほうが得策)。管理者と従業員は協力し、意思疎通を図ることが重要である
  • 事故惹起者への「安全カウンセリング」の実施。事故に関して、自由に話せる雰囲気を作る。罪悪感・不幸感・絶望感を払拭した後、事故の客観的探求を試みる。これら作業をもとに事故防止の総合的な結論を導くようにする
  • ヒトは間違えるのが常(to error is Human)だが、機械は壊れる
  • フェールセーフ:失敗しても安全、機械が故障しても人が間違えても安全を確保する(故障したときに、中途半端な位置でではなく安全な位置まで動いて機械が止まる)
  • フォールトトレランス:欠陥があっても許容する、できるだけ機械の正しい機能を維持することで安全を確保する、バックアップを取ったり、多重システムを用いて、信頼性の向上を目指す
  • どのようにしてリスクを低減するか
    安全確保の優先順位 要求事項(実施内容)
    最小リスク達成の設計 危険源除去の設計。危険源を除去できない場合、設計によりリスクを低減
    安全防護装置との組み合わせ 上記で不足の場合、安全防護装置でリスクを低減
    警報装置の提供 上記2項目でなおリスクを低減できない場合、危険状態を検出して通報
    手順書の作成 上記3項目が実施できない場合、手順書と訓練に基づく
    (米国軍用規格.MIL-STD-882C:1993.システム安全プログラム要求事項)
  • 一般的な日欧米の安全意識の違い 参考5
    日本 欧米
    事故は努力によって防げる 事故は安全方策の技術レベルによって起きる
    事故の主原因はヒトであり、技術対策よりヒトの対策が重要である 事故を防ぐのは技術の問題であり、ヒトの対策より技術対策が重要である
    ヒトを教育し、規制を強化すれば安全を確保できる ヒトは必ず間違いをするので、技術力向上がなければ安全は確保できない
    法律で規定し、事故が起きるごとに規制を強化する 安全理論に基づく合理的運用及び事故が起きても大事に至らない技術対策
    安全は基本的にただである
    • 安全コストは認め難い
    • 眼に見える「具体的危険」には最小限の投資
    • 起こらないはずの事故対策に技術的な追求をしない
    安全にはコストが必要
    • 危険源を洗い出し、リスクを評価し、評価に応じたコストをかける
    • 起こるはずの事故低減に努力し、本質安全を目指す合理的技術を創出する
    見つけた危険をなくす技術 理論的に安全を立証する技術
    発生件数重視 事故の大きさを重視

事故傾性(事故を起こしやすい人)

交通事故を起こしやすい人はどんな人か 参考6,7
  1. 軽率、落ち着きがない、おっちょこちょいではやのみこみ
  2. 自制心がなく興奮しやすい、すぐカッとなる
  3. 自分勝手、他人への思いやり・相手の身になって考えられない
  4. でたらめな行動が多く、他人と上手く協調しない
  5. 腕に自信があり、強がり屋、スリルを求める、自己中心的
  6. 内気で動作が遅い(もらい事故)
  7. 神経質的に小さいことにこだわる、いつまでも気にする
  8. 遵法精神の欠如、スピード違反、規則違反をよくする
  9. 車の清掃をあまりしない
  10. だらしのない身だしなみ、いいかげんな態度
意志決定質問票(DMQ French.D.J 1993) 参考8

英国で自動車運転者を対象とした意志決定スタイル、運転スタイルに関する調査を行ったところ、周到性が高いほど事故が少なく、直覚性が高いほど事故が多いという相関が見られた。また、周到性は運転スタイルの全てと相関が認められた。

意志決定を行う時、最もあてはまると思うものを1〜6の中から選択して下さい
意志決定質問票(DMQ French.D.J 1993)

Type A行動様式(性格分類のひとつ)と事故責任には正の相関があることが報告されている
  • Type Aの3特性:時間切迫と焦燥、攻撃-敵意、競争性を含んだ達成努力
  • Type Aの人は心筋梗塞にかかりやすい。常に交感神経が興奮している―成功への強い達成欲求。短気。過敏で落ち着きがなく、いつも時間に追われているような気持ち。仕事を抱え込む。ストレスを体験した時、執着性格のように抑うつ感や無力感に陥るという情緒的な体験をするより、心筋梗塞にかかりやすい
心理的特性別にみる事故者の特徴
  • 事故者は、知覚運動機能が劣り、知覚から反応に至るまでの時間が長く、反応のエラーも多い
  • 反応が速すぎたり、知覚より動作の方が勝る
  • 知覚より筋肉反応が勝るものは事故を起こしやすいと言われている(どちらかというと何も考えていない。ドレークの仮説)
  • 事故に繋がりやすい情報処理:手抜き、勝手に優先順位をつける、詰めの甘い処理、間違った処理
  • 不安全行動に繋がりやすい事象:家族の病気や健康の悪化、友人・知人・家族との人間関係。住宅ローン、金銭問題。上司との関係。これら事象が現れると無事故者が事故者に変わり、これら事象がなくなると事故者が無事故者に変わる
  • 事故者が無事故者に変わる時には、事故経験、それに伴う安全教育を受ける、教育的立場になるなども寄与する
認知スタイルと事故傾性 参考10
  • 認知スタイルとは、情報の処理や判断の様式にみられる個人のタイプ。外部環境を概念化したり体制化する仕方は個人内で一貫した傾向を示す
  • 刺激同士を分析的に見比べようとするか?(場依存性/独立性)。刺激の差異点あるいは類似点のいずれに注目しようとするか?(熟慮性/衝動性)。情報受容の段階で生じた葛藤をどう処理するか?(熟慮性/衝動性、場依存性/独立性)
場依存性/独立性:
ある対象を知覚する際、その周囲の環境からの影響にどこまで左右されないで判断できるか、という「独立の程度」を規定する認知スタイル
場独立の人:
心的分析の程度が高く、身体的境界や自己の内部基準について明確な意識をもつ、物の見方が分析的で細部にも注意が行きわたる。活動的、自己主張的、情緒安定ではあるが、社会的規範を受けにくく、自尊心が高く、事故を起こしやすい分類に入る
場依存的な人:
物の見方が総合的で細部を見落とす傾向がみられ、心的分析は低い
参考文献
  1. ジェイムス・T・リーソン(山内桂子訳).安全学研究会訳.医療事故における人的要因.医療事故.pp.1-18.1998.ナカニシ出版
  2. 正田亘.ヒューマン.エラー.pp.33-34.エイデル研究所.1988
  3. 向殿政男.安全管理講座(4)フェールセーフとフォールトトレランス.安全.1(4)42-43. 2000
  4. 芳賀繁.ミスをしない人間はいない.p.185.2001.飛鳥出版
  5. 働く人の安全と健康.2(7)19.2001
  6. NIP研究会.21世紀の産業心理学.pp.92-93.1997.福村出版
  7. 垣本由紀子.事故多発者はどのような性格を持っているか.日本交通心理学会編.安全運転の人間科学2.ドライバーの特性をさぐる.企業開発センター.1982
  8. French,D.J.,et al.
    Dicision-making style,driving style,and self-reported involvement in road traffic accidents.Eregonomics.36(6).624-644.1993
  9. 山崎勝之.田中雄治.宮田洋.日本語版成人用TypeA検査の作成.大阪青山短期大学研究紀要.16.49-70.1990
  10. Ross.1976