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医療安全推進者養成講座講習会(2)「医療事故防止に対する現場の取り組み」

望月泉氏

望月泉氏

2008年11月9日、日本医師会館で医療安全推進者養成講座講習会が行われました。「医療事故防止に対する現場の取り組み」(岩手県立中央病院副院長・岩手県医師会常任理事 望月泉(もちづき いずみ))の概要を掲載いたします。

具体的取り組み

当院は一般病床685床、救急車搬送台数が月平均453台の病院です。当院の具体的な医療事故防止に対する取り組みを紹介します。

院内の救急カートの統一です。一段目は救急薬剤。二段目に注射器や輸液のセット類。三段目が挿管のセット一式、四段目がアンビューバッグと酸素マスク、輸液類と整理し、定期的にメンテナンスしています。これにより当直医やICUの医師が呼ばれてもすぐにどこに何があるのか分かります。看護師が病棟を移ってもスムーズに救急処置ができます。

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転倒・転落防止の意味でベッドサイドプロテクターを設置しています。また、「転倒むし」という離床センサーを使用しています。クリップを患者さんの着衣に付けて、コードの先端をナースコールに接続します。頭と体が磁石で付いていて、転倒すると磁石が外れ、ナースコールが鳴る仕組みです。

「転倒むし」(写真協力:ニプロ株式会社)

「転倒むし」(写真協力:ニプロ株式会社

外向きに開くドアがあります。開く部分は外来の患者さんが通る可能性のあるスペースで、人にぶつかったことがあります。注意してくださいという意味で黄色いシールを張りました。また、トイレの足下の手を使わずに水を流せるボタンにつまずき、患者さんが倒れたことがありました。やはり床に黄色く「注意」というシールを貼りました。

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患者さんに名乗ってもらい、協力していただかないと医療安全を推進できませんというスタンスでポスターを作って院内に掲示しています。

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タイムアウトとは手を休めるという意味です。医師・看護師が一斉に手を休めて手術前の確認作業を行います。執刀医の責任の下で実施します。全員参加していることを確認し、指差ししながら台本通りに実行します。最初は嫌がる医師もいたのですが、今は全員でスムーズにやっています。

◆術者 「タイムアウトを行います。」
「(  )さん(  )手術を行います。」
「(  )側です。」*みぎ、ひだりの区別を確認
◆外回り看護師 「確認しました。」
◆麻酔科医 「血液型は(  )型RH(  )です。」
「輸血の準備は(  )です。」
◆外回り看護師 術者・麻酔科医の発声がカルテと一致していることをカルテに指差し確認する。
「確認しました。入院カルテ、外来カルテ、X-P(  )さんです。手術伝票・麻酔同意書の内容と一致しました。」
◆術者 「すべて確認されましたので、手術を開始します。」
*タイムアウトの実施記録を外回り看護師が記録する。

インシデントレポートからの改善例を示します。5人のチェックをすり抜けて別な抗生物質が患者の元へ行ってしまいました。パセトクールとセフメタゾールナトリウム。いずれもニプロの製品で、キャップが両方ともピンクでした。容器の色も似ています。メーカーに話をしたら、すぐ対応してくれ、キャップの色を変えてくれました。非常に良いことです。

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「指差し呼称」の徹底を今年度の取り組みとしています。「確認すべき対象を指で指し示し、声に出して確認する方法(河野龍太郎)」です。指差しすることにより、視覚情報だけの判断から、意識の焦点化・集中化が図られミスを少なくすることができます。声に出すことから、視覚刺激を音声に変えることで、聴覚情報から間違い発見につながるとのことです。実際にやってみると効果があることが分かります。看護師はいつも指差し呼称をしています。

医師が指示書に「1万単位」と書いたのを看護師が「15万単位」と読み間違えました。声を出すと「15万単位は変だよね」と気づくはずだと思います。

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院内感染予防対策

標準予防策・感染経路別予防策として、手洗い・手指の消毒を徹底しています。病室の入り口に擦式のアルコールを置き、入るときと行為を行った後にはアルコールで消毒しています。どの医療施設でも行っていると思います。それからPPE(Personal protective equipment:個人防護用具)、具体的にはエプロン・眼鏡・手袋の正しい着脱を指導しています。PPEの着用・安全機材は職業感染防止、すなわち針刺し・切創防止としても重要です。

スタンダードプリコーションは感染があるなしにかかわらず全ての患者に適用されます。血液、全ての体液、汗を除く分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜にふれる場合に必要なバリアを用います。基本的には全部手袋をつけて外科の処置をしています。これは院内感染を防ぐと同時に医療者を守る目的もあります。

手洗い
手袋着用
マスク、アイ・プロテクションの使用
適切なガウンの使用
患者ケアに使用した器具の処理方法
環境対策
使用リネンの扱い
職業感染防止

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健康診断も重要です。胸の写真を年一回は必ず撮ってもらうようにしています。結核を発症しながら診療に携わった事例が最近報道されていましたので、新聞記事をコピー・配布して健康診断をするように努めています。

ワクチンプログラムとしてはHBV・麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎・インフルエンザなどです。麻疹は今の若い人はせいぜい1回、または0回で、研修医が麻疹に対する抗体がありません。昨年ごろ、小児科で子供から麻疹を貰ってしまった研修医がいました。これからは麻疹対策を行っていく必要があります。

多忙な職員にどのように教育活動を実施するかが課題です。研修会を開いてもなかなか集まってくれません。病院によっては研修会を受けた職員の名札にシールをつけて、一目で院内感染予防対策の研修を受けているというのが分かるようにしています。ICD(感染症専門医)、ICN(感染管理専門看護師・感染管理認定看護師)、BCICPS(感染制御専門薬剤師)、ICMT(感染制御認定臨床微生物検査技師)といった専門家の不足も課題として挙げられます。

当院での針刺し・切創事例の職種別人数を見ると、一番多いのは看護師ですが、研修医が大きな割合で事故を起こしています。研修医教育が非常に大事です。

インシデント事例では、手術室で誤ってメスを落としたらサンダルに刺さった事例がありました。マニュアルでは医師が自分でメスを取ることにしています。それから、サンダルが危ないことは意識していまして、昨年の7月から自分の靴で手術室に入って、靴カバーを付けることを指導しています。

手術中目に血液が入ったこともあります。眼鏡はしていたが、アイシールドをしていませんでした。若い医師は特にそうですが、最近は細い眼鏡が流行っているので、アイシールドを付けて下さいと言っています。

関連記事では、2002年6月、20代の女性外科医がHCVに感染している乳がん患者の手術で助手を務めた際、アイシールドをせず患者の血液が目に入りました。同年10月、妊娠時の感染症の検査でHCVに感染していることが判明し、詳しい分析の結果、ウイルスの遺伝子型は手術患者のものと一致しました。翌年出産後母子感染が確認されました。

先日、点滴治療を受けた患者が体調不良を訴え、一人が死亡した事故が報道されました。点滴調剤時の基本として、次のことが要求されます。

  • 手洗いまたは手指消毒
  • 点滴調製台の清潔な管理
  • 点滴薬剤の消毒と清潔な調剤
  • 調剤後の管理(調剤後の保管時間・保管場所)
  • 点滴施行時の清潔操作

当該診療所では消毒綿からセラチア菌が検出されました。消毒綿にはヒビテン5%を1000倍希釈して使用していたことが保健所の調査で分かりました。使用基準では10倍から50倍希釈ということになっています。また、布製のタオルを共有しており、タオルをぶら下げ、手洗い後は皆同じタオルを使用していました。感染源ではないのですがタオルからもセラチア菌が検出されました。点滴液は10本単位で調合し、使用残は廃棄せず、次診療日まで点滴室机上で保管し、翌日または翌々日使用していました。

報道事例をきちんと職員に通達し、感染対策は患者さんを守るとともに自分を守ることでもあるということを強調しています。