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「医療現場の事故予防―針刺し切創とその予防」

2009年2月21日、NPO失敗学会第66回「失敗学懇談会」が文京区民センターで開催されました。その中の講演「医療現場の事故予防―針刺し切創とその予防」(財団法人労働科学研究所・吉川徹副所長)について、読者よりレポートが届きましたので掲載します。

なお失敗学会ホームページにも懇談会の様子が掲載されていますので併せてご覧下さい。

医療機関におけるリスク

■医療・介護従事者がさらされるリスク

  • ・医療従事者の特徴として▼労働集約型▼女性が多い▼研究・教育機関でもある▼サービスは原則24時間、患者中心▼仕事で感染する恐れがある▼化学物質・放射線曝露の恐れがある▼自己犠牲が尊ばれやすい職場風土 ― が挙げられる。
  • ・安全と健康を脅かす課題として▼生物学的(感染)▼化学的(消毒薬、抗がん剤など)▼物理的(放射線、騒音など)▼エルゴノミクス的(腰痛、夜勤交替勤務、転倒など)▼社会的(ストレス、院内暴力、院内セクハラなど) ― なものが挙げられる。

■針刺し切創

  • ・シリンジ付き注射針、静脈留置針、翼状針、縫合針での針刺し切創が多い。
  • ・経皮的曝露後の伝播リスクは、HIV=0.3%、HCV=1.8%、HBV=6〜30%。
  • ・針刺し切創は、不注意や過失ではなく、予防措置を講じなかったために発生した医療現場の労働災害である。
  • ・治療を行う医療従事者が治療を受けることになるが、針刺し切創にかかわるコストは治療費だけではない。▼労働時間の損失▼医療サービスの質の低下▼人的資源の損失▼職場環境の悪化▼病院機能評価の低下▼病院の社会的責任の低下▼従業員に対する安全配慮義務違反▼患者の安全性への懸念 ― などが更にコストとして跳ね返る。

■いつ、誰が、どんなときに、どんな器材で針刺し切創を起こしやすいか

  • ・木戸内清らの1996〜1998年の調査(※エピネット日本版による解析)では、11,798件のうち看護師が65%、医師が26%であったが、100名あたりの発生頻度では、看護師3.4件、医師3.1件であり、ほぼ同じである。
  • ・「職業感染防止のための安全製品器材カタログ集(第3版、2006年2月、職業感染制御研究会 )」によれば、4大原因器材は、注射針、翼状針、縫合針、静脈留置針である。
  • ・包装を開けてから廃棄するまでの作業工程のどの過程で事故が発生するかを調べたところ、使用後のリキャップや廃棄での事故が目立った。

対策

■グループワーク

3グループに分かれ、対策を出し合った。グループワークで、原因・対策を出し合って議論していくことは、職場の安全確保において重要と思われた。

事例

12月29日午前8時30分、病棟ベッドサイドにて採血。採血後、穿刺部をアルコール綿で押さえ、キャップをしないままの針付きのシリンジを床頭台に置いた。アルコール綿をテープで留める作業をしていたところ、シリンジが落ち、右大腿部に針が突き刺さった

リストアップされた対策

  • ・時間的に余裕が持てる採血日・採血時間の工夫
  • ・そもそも採血が必要なのかの検討
  • ・手際よくできるような事前の準備
  • ・ナースステーションあるいは採血室で行うなど採血環境の再検討
  • ・シリンジが滑り落ちないようなトレーなどの器具の使用
  • ・2人以上での作業分担
  • ・床頭台を使わざるを得ない場合は、シリンジが滑り落ちないような形状の工夫
  • ・万が一シリンジが落ちてきても針が刺さらない服装またはプロテクターの装着
  • ・手順の再確認及び教育研修の徹底
  • ・器具の工夫としては▼通常は内筒に格納され使用時だけ針が出てくる▼採血が終わったら自動的に格納される▼採血が終わったら溶けるなどで消滅する▼血圧計のように腕を入れたら自動的に採血される▼針でない形式で採血する ― など

■針刺し切創防止対策の具体例、安全器材の役割

  • ・事故は予防すべき健康問題との認識になりつつある。
  • ・予想し難い避けられない事故(accident:「針刺し事故」)対策という認識から、予想が可能で予防可能な事故(injury:「針刺し切創」)対策という認識へ変わりつつある。
  • ・予防対策として、器材の工夫と特性の理解は重要である。
  • ・高リスク器材と医療行為については優先的に検討していく必要がある。
リスク 対策
注射針
(採血関連)
リキャップ
翼状針との同時操作
血液のスピッツ等への注入
安全装置の理解不足
リキャップしない
使用後すぐに廃棄する
安全器材の活用・研修
真空採血に切り替える
翼状針 リキャップ
廃棄時の針刺し
ルートのため針が踊る
安全装置の理解不足
リキャップしない
使用後すぐに廃棄する
安全器材の活用・研修
使用場面の制限
縫合針 使用時や器材の受け渡し 縫合針を使わない外科的処理(テープでの縫合など)
鈍針の使用
ハンドフリーテクニックの採用
縫合針の直接の手渡し禁止
受け渡し時の声かけ
静脈留置針 内径が大きく血液量が多い
リキャップ
介助者も負傷しやすい
落下による足の負傷が多い
リキャップしない
使用後すぐに廃棄する
安全器具の活用
内針を手渡さない
使用者が廃棄する
事前の物品準備

■まとめと参考ホームページ

  • 対策1. リキャップしない。
  • 対策2. 作業終了後すぐに針を捨てられるような作業環境を整える。
  • 対策3. 安全工学的工夫がされている、損傷防止機能付き器材を採用する。
  • 対策4. 鋭利な器具を使用する医療行為、手技を標準化・文書化する。
  • 対策5. B型肝炎ワクチンを受け、曝露後の予防策を適切に講じる。
(参考)

※エピネット日本版については職業感染制御研究会またはこちら(日本BD株式会社)をご覧下さい。