HOME >> コンテンツ一覧 >> ほっと情報・ほっと商品 >> 医療の質・安全学会第4回学術集会 シンポジウム「医療情報システムと医療安全」

医療の質・安全学会第4回学術集会
シンポジウム「医療情報システムと医療安全」

2009年11月21日(土)、標記学術集会においてシンポジウム「医療情報システムと医療安全」が行われました。座長・秋山昌範氏(東京大学政策ビジョン研究センター)、朴勤植氏(大阪市立大学医学部付属病院・医療情報部)の進行で、楠岡英雄氏(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)、山口(中上)悦子氏(大阪市立大学医学部付属病院)、座長ら3名の講演後、パネラーからコメントがありました。

3名の講演を紹介します。

医療情報システムにまつわるインシデント
〜医療機能評価認定病院患者安全推進協議会の活動から 楠岡英雄

IT技術が医療現場に導入されたことにより、新たなインシデントが発生するようになりました。

過去にこのような実例がありました。ある看護師が肝臓疾患用剤・アレルギー用薬「ネオファーゲン」をPCで入力する際、聞き慣れている先発医薬品「ミノファーゲン」が頭に浮かび、「ミノフ・・・」の欄から薬剤を探しました。「ミノファーゲン」を選択するべきところを、あいまい検索機能が作動して「ミオブロック」が表示され、看護師はこの「ミオブロック」を選んでしまいました。ミオブロックは外科手術時の筋弛緩剤です。ネオファーゲンとは効能がまったく異なります。少量の投与で気づいたことが不幸中の幸いでした。あいまい検索は、薬剤名をうろ覚えであっても指定できて便利な一方、このような過誤につながります。 医療現場のIT化は医療過誤の原因も作ってしまうのです。

医療機能評価認定病院患者安全推進協議会では、アンケート調査「医療プロセスの電子化の進展と課題に関する調査」を実施し、ユーザー側・ベンダー側共通の課題の洗い出しと対策を検討しています。医療プロセスの電子化は、未だ標準フローが設置されていません。そのため警鐘的事例を分析し、対処法などを検討していく必要があります。薬品、医療用材料へのバーコード・ICタグを添付するなど、私たちはインシデント再発防止策の構築に力を入れています。

病院情報システム導入前後におけるインシデントについて 山口(中上)悦子

当病院(大阪市立大学医学部付属病院)では、2007年に新病院情報システムが稼動し、医事・診療録・画像・物流のすべてがIT化され、ペーパレス、フィルムレスになりました。当病院をひとつの事例として、IT環境を分析してみたいと思います。

このシステムの導入前後のインシデントレポート数は稼動2年経っても減少傾向はありません。

導入前 導入1年後 導入2年後
インシデントレポート数 4737件 4287件 5184件
看護師のレポート割合 91.5% 89.6% 88.1%
医師のレポート割合 3.4% 3.8% 3.1%
経験年数1年未満看護師のレポート数 804件 486件 1507件

レポートが減らない理由は、稼動1年後に新卒看護師を大量採用したこと、報告の意識が高まり、看護師以外の職種で報告が増えたことなどが考えられます。しかし指示・伝達・報告・連携・記載に問題があるとする報告や検体取り違えに関する報告は減少しているので、IT導入は医療過誤防止に役立っているといえるでしょう。

インシデントやシステムエラーの原因には以下のようなものがありました。

  • ・指示や変更が多く入力回数が多いため。
  • ・バーコード入力をまとめて複数同時に行ったため。
  • ・システムのバグにより、薬剤指示が変更されても、システム上の指示に乗らなかった。マスターの変更が他のPCでは反映されず、看護師は古い指示しか見られない状態だった。
  • ・血糖値を入力するとインシュリンの量が自動的に表示されるような設定になっているが、なぜか数時間後にインシュリン注射の指示が消えてしまった。

これらはシステム障害で起こるケースも多々あり、アプリケーションの改善が必要です。しかし医療従事者とSEの間で意思疎通がスムーズに進まず、アプリケーション改善希望箇所がSEにうまく伝わらないなどのトラブルが起こりがちです。SEにも医療現場を理解してもらわなければなりませんが、限界があります。解決策として医療従事者とSEの間に立って双方の言葉を「翻訳」して伝える認知心理学者、情報工学者といった媒介者が必要でしょう。

医療IT作りには継続的努力が必要です。病院情報システム導入後もIT関連の事故を分析し、改善していくべきだと思います。

患者安全のための5つの的確さ(5 Rights)〜注射システムでの検討 秋山昌範

医療は安心安全なものでなくてはなりません。安心はトラスト(信頼)そのものです。患者さんに信頼される医療でなくてはなりません。

私が勤めていた国立国際医療センターでは注射指示の手書き変更率は15%から40%にのぼります。患者さんの容態に合わせて変更されるのですが、変更回数が多いとどうしてもインシデントにつながってしまいます。

私が開発したPOAS(Point of Act System:医療行為発生時点管理システム)は注射業務プロセスの中で、発生源入力ができて、医療行為をリアルタイムに管理できます。医師による指示の発行、内容の変更、指示の中止の記録に加え、看護師による医師指示の確認、診療や医療行為の実施記録、薬局、検査部門などの診療部門における指示の確認、指示に基づく行為の実施記録もでき、インシデント対策ができます。

例えば、医師が注射の混注指示をした場合、看護師は指示に従って混注します。しかし指示の変更があったとき、看護師に変更指示がすぐに伝わらなければ、薬剤は混注されてしまい、使用されることなく破棄されます。国立国際医療センターでは注射の15%はこのような理由で廃棄されていることがわかりました。POAS導入後、中止指示がリアルタイムで看護師に届くようになったので、薬剤を混注せずに済み、さらに誤投与もほぼゼロになりました。このため1億円以上のコスト削減を実現しています。

インシデントは医療従事者が忙しいために起こる訳ではありません。POASアラームが鳴った時間を分析すると、申し送りの時間帯が最多でした。ということはインシデントは指示変更が多いから起こるといえます。そうであれば指示変更をシステマティックにIT管理すればよいだけです。

院長のカリスマ性で大病院をマネジメントすることは無理です。ひとりでとれるコミュニケーションは20人以下に限られています。国立国際医療センターのように看護師だけで800人、医師が300人いるような病院ではIT管理が必須です。 POASは医療行為の5つの的確さ(正しい患者、正しい薬剤、正しい分量、正しい経路、正しい時間)を守り、病院と患者との信頼関係の構築に大きく貢献しています。

WHOの医療安全プロジェクト紹介 秋山昌範

日本だけでなく世界中で医療の安心安全を求めています。そこで私が参加しているWHOの医療安全プロジェクトを紹介します。

医療安全のための国際協調プロジェクトのサイトからもわかるように日本だけでなく世界各国でも医療安全に力を入れています。「清潔な水と電力が供給されること」さえままならない発展途上国も世界中には多く存在します。求める医療安全のレベルは国によりさまざまです。しかしこの国際協調プロジェクトでは共通概念として医療のIT化を推奨しています。

WHOのプロジェクトを通して痛感したことは、価値観が異なる者が国際会議で同意形成する難しさでした。同様に病院内であっても、さまざまな立場で価値観が違う者が合意形成することは非常に困難です。コミュニケーションを勉強することが医療安全の近道ともいえるのではないかと実感しました。


2010年1月18日(記事:阿部純子)