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第25回日本環境感染症学会総会
シンポジウム「手指衛生のコンプライアンスをするための取り組み〜部門の特徴を捉えた取り組み」

2010年2月5日(金)、標記学術集会においてシンポジウム「手指衛生のコンプライアンスを改善するための取り組み〜部門の特徴を捉えた取り組み」が行われました。座長・渡邉都貴子氏(岡山大学病院 看護部・感染制御部)、菅野みゆき氏(東京慈恵医科大学附属病院 医療安全管理部感染対策室)より、本シンポジウムの意義について「各部署における手指衛生コンプライアンスの改善のための介入方法や工夫、測定方法やその効果などについて報告していただき、より効果的な方法を検討していきます」との発言があり、引き続き井川順子氏(京都大学医学部附属病院 看護部・感染制御部)、川野佐由里氏(久留米大学病院 感染制御部)、上灘紳子氏(鳥取大学医学部付属病院 感染制御部・看護部)、堀井俊伸氏(鳥取大学医学部付属病院 感染制御部)、菅野みゆき氏、四宮聡氏(箕面市立病院 看護局)、宮田貴紀氏(埼玉社会保険病院 腎センター)の講演がありました。

手指衛生改善のための病棟での取り組み 井川順子

当院での手指衛生改善のシステム改革の契機になったのは、2004年に発生した多剤耐性緑膿菌による感染アウトブレイクでした。その際に手指衛生における問題点を把握するために、職員対象のアンケートを実施しました。アウトブレイク後手指消毒薬によるマニュアル通りの手洗いの遵守率などは向上しましたが、さらにマニュアルの整備、教育、環境整備、業務の効率化を通して手指衛生の遵守率向上を目指しました。

■ マニュアルの整備
院内感染対策マニュアルは、安全管理室が作成するものだけでなく、各部署が独自にマニュアルを監修し、毎年改訂を重ねている。
■ 教育
マニュアルを作成するなど部署ごとに改善できる人材を増やしていくことに主眼を置き、教育を行っている。院内全職員対象の講習会、新規採用者向けオリエンテーション、看護部の集中講習(3日間と10日間)、部署ごとの講習会(’09年は31回開催)の実施。
■ 環境整備
自動開栓の導入、手指消毒薬や防護用具ラックの設置、手荒れ予防にハンドクリームの導入及び評価。
■ 業務のスリム化
病棟での一時洗浄廃止、ベッドパンウォッシャーの導入、超音波ネブライザーや蓄尿廃止など手指衛生遵守のための業務のスリム化。

手指衛生のアウトカムとして、耐性菌サーベイランスを実施しました。2004年頃と比較してMRSAや耐性緑膿菌などは発生が低く抑えられているので、これら4つの取り組みには効果があったと評価しています。遵守率は時間経過とともに低下するので、根気よく介入を継続し、地道にスタッフを育成することが重要と考えています。

NICUにおける手指衛生教育の取り組み 川野佐由里

NICUに入院する子どもは、皮膚の正常な細菌叢を獲得する前に医療者の手によって病原性細菌を獲得する危険性があります。従って基本的な手指衛生の方法に踏みとどまらず、手指衛生や手袋交換の適切なタイミングを理解し、実践に繋げていく教育を行うことにしました。

具体的には、NICUにおける手指衛生のタイミングを設定し、医師3名、看護師7名に手指の細菌培養を実施し、その結果を用いて勉強会を行いました。細菌培養の実験を通し、流水手洗いと手指消毒が適切にできているか、処置前後の手指衛生ができているかを確認しました。見た目には汚れが見えなくても、例えば赤ちゃんのおしりを拭いた後の手袋は細菌に冒されているなど、細菌を可視化することで手指衛生を深く意識することにつながります。

勉強会前後でアンケートを実施した結果、手指洗浄へ対する意識が浮き彫りとなりました。勉強会前は83%のスタッフが「衛生的手洗いができている」と答えていましたが勉強会後は68%に低下、また勉強会前は58%が「適切なタイミングで手指衛生ができている」と答えていたのに勉強会後は32%とやはり低くなりました。これは培養された細菌を実際に見て、実際は適切に手洗いができていなかった事実を知ったことによると思われます。

手洗い効果の可視化を用いて手洗い法の知識向上を図ったり、患児処置前後の手洗いタイミングの徹底を図ったりすることにより、思い込みや勘違いを排除し、適切な手洗いの遵守率を向上させることができたと考えます。今後全員が手指衛生のタイミングを理解し、お互いが意識しあうことでコンプライアンスの向上に繋げるようさらに努力していきたいと思っています。

ICUでの取り組み 上灘紳子、堀井俊伸

集中治療室(ICU)に入床する患者は、乳幼児から高齢者と患者層が幅広く、人工呼吸器やカテーテル類をはじめ感染のリスクとなるデバイスが多く装着されているほか、侵襲の大きい手術後や、侵襲的な処置や治療を行っているなどの易感染状態です。さらにオープンフロアなので空間的隔離が困難で、感染リスクが高くなってしまいます。そこで、ICUでMRSA検出患者が増加したことを契機に、行動観察による手指衛生の問題点抽出と改善に向けた介入を行いました。

方法としては、手指衛生の方法、手順、タイミングについての評価を行った上で、手順を一部省略していること、手洗いの時間を予定に組んでいないことなど問題点を明確にしました。そして観察結果をフィードバックし他部署・他職種のスタッフともこれらの結果を共有しました。介入によりアルコール、石けんの使用量は増加傾向にあったので、効果はあったと考えています。今後もデータを出して病院内スタッフのモチベーションを維持していくことが課題です。

モチベーションを高めるためには、自発的に現場の医師とナースで検討してもらう現場主導型を採用しています。そして要望が上がれば、外部からの刺激として私が介入し、継続的に成果報告と行動観察を行っていくようにしています。

救急部での取り組み 菅野みゆき

当院では救急車搬送患者はICUの3割を占めます。救急車で搬送されるICUの患者に対して、スタッフは診断がつく前に対応しなくてはなりません。スタッフは患者の血液や吐瀉物など感染源に暴露しやすく、侵襲性の処置が多いので、手指衛生が極めて重要です。今回、リンクナース(専門的な知識や技術を身に付け、またそれを病棟へ伝達し繋ぐ役割を担う看護師)を中心に取り組んだことを紹介します。

■ アルコール手指消毒の設置場所の見直し

250mlのものを手洗いシンクの壁などICU内20カ所に設置。使用量を細かくチェックしたところ、減りが早かったのはベッドサイドにあるカウンター上のアルコールでした。

■ キャンペーンポスターの作成

救急部の副部長の医師をモデルにしたポスターを作成し、ICUを挙げて手指衛生に取り組みました。ICUにはいろいろな診療科の医師が出入りするので、彼らが必ず見るカウンターの上にそのポスターを貼り、「救急部は手指衛生を強化しています」と意気込みを伝え、手指衛生を促しました。

■ 携帯用60mlの消毒剤を配布

携帯用消毒剤を看護師がポケットに入れて持ち歩くようにしました。これについては、54%が「使いやすい」と、約70%が「今後も使いたい」と回答しています。逆に「今設置しているもので十分では」という声もありますが、選択肢を広げるという意味で有効と考えています。

■ 細菌可視化検査

手指消毒がどれだけ細菌に対して効果があったか、ATP試薬で測定しました。例えば手指の測定値362RLUがアルコールで消毒することにより12 RLUまで下がるなど、目で見て数値が出ることにより教育ツールとしてかなり効果的でした。これがもっとも啓発に効果があったと思います。

手術室での取り組み 四宮聡

手術室の手術ルームは室内洗浄度を保つ必要性があるため密室に近い環境であり、手術中はよほどのことがない限り、出ることができません。手術ルームには手洗い設備がないため、流水の手洗いにはアクセスできず、手術中は速乾性擦式手指消毒剤が使われています。

当院では平成16年から手術ルームに手指消毒剤を設置し定期的な消費量の調査・フィードバックを継続してきました。開始当初は標準予防策の導入が病棟と比べて遅れており、日常的な手指衛生についての知識が十分でありませんでした。

対策としては、2週間ごとに各手術室の消費量を調査することから始め、慣例で行っている手術部位感染対策の学習会に標準予防策を組み込み、実際の業務で行うべきタイミングを繰り返し啓発しました。ポスター掲示、スタンド式手指消毒剤の導入、定期的なフィードバックの実施などを行い、消毒剤の消費量は増加しました。増加量をデータで示すことはモチベーション形成に大きく役立ちました。

当初は看護師のみを対象としていた調査ですが、看護師から積極的な声かけで医師を巻き込む形となり、定期的に入れ替わる医師や立ち会い業者など滅菌手袋の着用前に麻酔医が手指衛生を確実に実施するような広がりも見せています。消毒剤の使用量は確実に増えていますが、適切なタイミングで使用されているか、さらに調査が必要です。手術室では環境は制限されますが、清潔・不潔の概念が他部署よりも徹底されています。手術室の特徴を踏まえ、現場の意見を聞きながらの戦略的なアプローチが効果的だったと考えます。

手指衛生のコンプライアンスを改善するための透析室での取り組み 宮田貴紀

透析室における患者の感染の外的要因は、外来と入院の複数の患者が透析を実施していることや、透析機器の共有などの特殊環境、また長期透析などが挙げられます。内的要因としては腎不全による易感染状態や各種血管カテーテルによるバリア機能の破綻などがあります。透析室で起こりうる感染症は、HBVやHCVなどの血液媒介病原体のほか、インフルエンザやMRSA等多岐にわたります。そのため医療従事者と患者の双方に感染症のリスクがあることを十分理解する必要があります。

血液透析は、外来患者と入院患者が一日4時間という限られた時間で開始・終了操作、透析中の緊急時アラーム対応を行っていきます。これらの状況や手洗い場の位置の問題もあり、流水での手指衛生は困難で、ベッドサイドでのアルコール消毒が中心です。

透析室の手指衛生の教育として行った内容は、適切なタイミングでの手指消毒の実施の指導、血液など湿性生体物質が付着した場合は、流水と石けんによる手洗いの実施、手技ごとの未滅菌手袋の活用と正しい手袋の着脱方法、手荒れ防止対策等です。手荒れは感染症の原因ともなるので、ケアグッズをワゴンに置くようにしました。

今後の課題としては、年一回教育の機会を設け、一人一人の手技の違いなどを改め、手袋の正しい着脱方法など共通認識を形成することです。そして医療従事者だけでなく患者さんにも理解してもらう必要があると認識しています。今後も手指衛生サーベイランスを継続的に行って透析室に適した感染症対策を心がけていくつもりです。


2010年3月24日(取材:阿部純子)