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キュアリング・ヘルスケア

 1990年に発売されて以来、アメリカで話題となっている“Curing Health Care”の日本語訳が出版されました。著者の一人ドナルド・M・バーウィックは、医療の質改善のパイオニアである医学博士。本誌の内容は、1987年にバーウィック氏が中心となって実施した質改善に関する全米実証プロジェクト(NDP:National Demonstration Project)について、その成果と教訓を検証するものとなっています。
 監訳者の上原鳴夫氏は東北大学大学院医学系研究科社会医学講座国際保険学分野教授、保険学博士。
 本誌内容の一部を以下にご紹介したいと思います。

キュアリング・ヘルスケア
-新しい医療システムへの挑戦-


中山書店
ISBN:4-521-01481-X
定価:3,400円+税

著:D・M・バーウィック、A・B・ゴッドフリィ、J・ロスナー
翻訳:立石春雄・竹内百重
監訳:上原鳴夫

(質改善に重要な10の教訓)

 質改善プロジェクトは、21の医療機関と21人の製造業を中心とした品質管理の専門家がそれぞれペアでチームを形成し、8ヶ月間にわたり実施された。
 各チームがとった手法は次の5つのステップである。
  1. 取り組むべき問題を選定する。
  2. 改善プロジェクトを実行するチームを組織する。
  3. 問題を診断する。すなわち、根本原因(root causes)をみつけるために、問題を構成しているプロセスについて理解し、そのプロセスに関する情報を収集する。
  4. プロセスに関する知識に基づいて、対策処置を立案し、吟味し、実施する。
  5. プロセスの達成状況を新たな水準に照らして点検し、観察を続ける。必要とあればこの対策処置を改訂するためにさらなる行動を起こす。
 その結果、21のうちの15チームが成功したと評価された。
 この成功例から得られた10の教訓を以下に紹介する。
教訓1:質改善のツールは医療においても役に立つ
ツールとはプロセス・フロー図、簡単なチェックシート、散布図、管理図などである。参加者は、質管理の専門家から手法を学び、現在のプロセスを地図にし、データを収集し、分析していった。これにより、物事を新しい違った方法でみることができたという。
教訓2:医療のプロセス改善には職種を越えたチームが有益である
職種を越えたチームを組むことにより、互いのニーズを新たに理解するようになった。また、職種を越えてプロセスを見渡してみると、プロセスが誤っていたどころか一度も機能していなかったことに気付いて驚いた、という報告もされている。
教訓3:医療の場には質改善に役立つデータがいっぱいある
医療の場には大量に既存データがあり、この資源は医療にとっての利点である。しかし、情報豊かなデータベースが目の前の問題に対してはたいてい焦点が合っていないことに気付いた。
教訓4:質の改善手法は使って楽しい
科学的手法を学び、プロセスについての役立つ知識をさらに学びたいと考える人々やチームは、新しいことを理解したり、持続的改善を達成する喜びを手に入れる。実際にチームは楽しんでいた。
教訓5:低品質はコストが高く、節約は手の届く範囲にある
低品質によるコスト(医療の日常的なケア・プロセスでの日常的な欠陥に対して支払わされる罰金)は、医療システムにとって大きな負担になっている。参加者はプロジェクトを通じて、無駄、仕事のやり直し、過度の複雑さ、低信頼性がもたらすコストを発見し、指摘していった。そして8ヶ月のプロジェクト終了後、これらの経費を節約できた例がいくつか報告された。
教訓6:医師を巻き込むのは難しい
報告書の記述から、医師はチームワークに参加するのにあまり前向きでない、忙しすぎる、などが暗に示された。医療機関は、医師をプロジェクトに巻き込むために、質の保証と聞くと「余分な仕事」を連想するといった懸念を克服し、無償の仕事に時間を捧げることに感じる障害を克服し、医師たちを支援しなければならない。
教訓7:研修は早いうちに
プロジェクト参加医療機関の1つは、「基本的なツールについて部署を教育するのにもっと多くの時間をかけていれば、もっと早く成果を得ることができたにちがいない」と述べている。また、次の課題としてさらなる研修の必要性を挙げている。
教訓8:初めの関心は非臨床部門のプロセスに向けられる
プロジェクト参加チームによって選ばれた最初のプロジェクトは、経営事務システム、情報システム、登録・受付システム、職員配置システムなど、非臨床的なプロセスが多かった。医師の縄張りに踏み込むことに対する慎重さが理由と思われる。
教訓9:医療機関は質をもっと広い意味でとらえるべき
多くの病院が質という言葉を直接的な診療だけにほぼ限定して使っている。病院の質に対する狭い考え方よりも、産業界で使われている“総合的品質”(total quality)という、より広い概念の方が組織全体にとってはより有用である。
教訓10:産業界と同様、医療でも、質改善の運命はリーダーが握っている
プロジェクトでは、最高責任者やその他の経営トップが主導した病院が大きな成功を収めた。高位のリーダーがいなかった病院は大きな挫折を味わう結果となった。時間、資源、責任を持って関わっていくリーダーがいれば、他の産業での例のように質の改善方法が医療にも広まるだろう。それによって患者、臨床医、経営管理者、支払い者、そして社会全体が恩恵を受けるであろう。

(未来への構想)

 医療へ質の改善手法を適用する上で問題となりそうなポイントとして以下の3つがあった。
1.医療におけるインプットとアウトプットの不明確な関係
企業と違って、医療ではどの活動がどんな臨床的な結果を導くのか必ずしも明確でない。
2.顧客(患者)が医療の質が高いか低いかを区別することは非常に難しい
いくつかのケースの場合、技術面での治療の質の差異は、高度な専門的判断による以外はまったく識別しえない。
3.組織としての問題
大病院は、管理部門と医療部門という2つの違った権力のラインで動いているが、企業は、一般的に権力はひとつのプラミッド型をなす。
 しかし、プロジェクト参加者の経験から、医療の質の改善は効率性の向上と費用削減に結びつくということが示唆された。産業界の品質改善の考え方や手法が医療の分野においてもプロセスの質を改善するために用いうるということが示されたのである。
 品質改善への取り組みが明らかにしたことは、リーダーシップの重要性であり、職種を越えた様々な分野の人の参加であり、問題解決の慣習を身につけること。そして、プロセスにおいて学ぶためにさまざまな手法を系統的に使用する機会である。
 近年、医療における競争の基本は、純粋な価格競争から価格・サービス・ケアの質などを複合したものに変わっていく傾向が強まりつつある。今後、質の問題は、多くの医療機関にとって生き残りをかけた基本的な問題になっていくであろう。