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「行動変容の基本原理〜コーチング手法の活用〜」 ハーバード大学准教授 Elizabeth Pegg Frates 氏

Elizabeth Pegg Frates氏

Elizabeth Pegg Frates氏

2012年6月23日、日本コーチ協会第14回年次大会(メディカルコーチング研究会総会)が開催された(関連記事はこちら)。

プログラムの中からハーバード大学准教授 Elizabeth Pegg Frates氏の基調講演「行動変容の基本原理〜コーチング手法の活用〜」の一部をご紹介する。

きっかけは父

とある患者の話。働き過ぎでストレスがたまり、甘いものが大好きな75歳の男性。ある夜、電車に乗った途端、胸痛に襲われ息切れ状態になってしまった。病院に運ばれたところ、心筋梗塞と判明した。男性はそれ以前に脳梗塞も発症していた。その後、ライフスタイルを改善し、食生活も野菜・果物中心に変え、チョコレートケーキを食べるのも控えるようにした。その結果、今では左手がちょっと動かせないもののほとんど回復した。実はこれ、講師の父のことだった。88歳の今も孫の世話ができるほど元気だという。ではなぜライフスタイルを変容できたのか。これには講師の母(つまり患者の妻)の関わり方も影響した。母の職業は教師であり、元々ポジティブ心理学を使うことができたのだ。こうした印象的な導入からコーチングを活用した行動変容に向けての講演が始まった。

行動変容には何が効果的か

患者のためにはアドバイスをしがちだが、時間をかけてアドバイスをしても効果がない。それよりも「何があればやろうと思いますか?」「運動をライフスタイルに組み込めたらどんな変化があると思いますか」などと聞いていき、患者の目標や動機付けを明確にすることだ。「元気になって孫と遊びたいから」など明確な動機付けが示せれば次につなげられる。アクション可能な短期的、現実的な目標を設定し、小さくても1歩ずつふみしめていく。スマートゴールを設定するのだ。

また、こちらがいくら骨粗しょう症について説明しても、患者が本当に知りたいのは運動の方法だということもある。患者の気持とのギャップを埋めるべく傾聴すべきである。そしてシャーロックホームズになったような気持ちで、患者の表情、声のトーンの変化、躊躇したような話し方などに気付くことが大事だという。

Knowledge and the Coach Approach

Knowledge and the Coach Approach

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Listening and the Coach Approach

Listening and the Coach Approach

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失敗はチャンス

もちろんうまくいかないこともある。もしうまくいかない問題が起きたらそれはチャンスと捉える。ここでまたある患者の話。塩分の多いスープの大好きな糖尿病の患者。どんなに注意をしても来院をくりかえすので、解剖学の教科書も見せながら、塩分を控えるように1時間もかけて説明した。しかしまたもや来院。どうしてこう繰り返すのか。その後、患者の家の台所の戸棚を見て驚愕の事実が発覚した。なんと食塩たっぷりのスープの缶詰だらけだったのだ。こうして聞き取りが足りなかったことに気付く。単に塩分を控えるように説明するだけでなく、台所に何があるか聞くべきだったのだ。行動変容には時間がかかることも理解しなくてはならない。急いてはいけないということも知らされた。

コーチング介入群が非介入群より有意に改善したケース

続いてコーチング手法を活用したグループ(介入群)とそうでないグループ(非介入群)を比較したデータが紹介された。介入群には、看護師がコーチング手法をほんの2週間訓練を受けただけ、患者に1回のコーチングセッションを行っただけという程度のものも含まれているが、有意な差異が見られたケースとして次のようなものがあったという。

  • コレステロールが減少
  • 糖尿病が改善
  • 喘息患者の再入院率が減少
  • 減量に成功
  • 骨密度(BMD)の改善
  • 高齢者の有酸素運動量の増加
Weight Loss - RCT Tucker et al.

Weight Loss - RCT Tucker et al.

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Conclusions From Research Studies

Conclusions From Research Studies

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これらの研究結果から見えてきたことは、コーチングトレーニングの標準化、効果測定の標準化ができていないということ。長期のフォローアップが必要であること。また1対1の関係が効果的であることなどである。

Issues in Research
Issues in Research

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共感、そして扉は常に開けておく

「運動をしようとしてスニーカーを履いたときに電話がかかってきてしまって・・・やる気はあったのだが」「以前はできていたのだが、出産して子育てが忙しくなってできなくなってしまった」「たばこは絶対やめられない」などという患者もいる。そんなやる気のない人、「できない、やらない」と言う人にはどうしたらよいか。ねじふせようとしても決してうまくいかない。それどころか時間の無駄である。それよりも「やりたくても時間がないのですね」などと共感を示し、「その気になったら、やる準備が出来たら、いつでも来院してください」と種をまいておき、門戸を開けておくのだ。もちろん種が根付かないこともあるが、共感をいかに示すかで患者のアウトカムは変わる。

そして、現在実行できている人にも支援は必要だ。「次回3ヶ月後に来院するまで、行ったことを紙に書いておいてください」として、メンテナンス状態を確認すべきである。ずっとつきっきりで時間を使うのではなく、時間を決めておく。患者が自分1人では無理な場合は、地元のジムやYMCAに加入してもらうなど、いろいろなコーチング技術を使う。友人や家族の支援も重要だ。サポーターとして患者の変容に気付ける人を見つけること。こうして、医師と患者のお互いにメリットのある形で共生関係が築けると良いだろう、と締め括られた。


2012年7月13日