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SARS対策緊急セミナー〜香港・トロントの現地に学ぶ〜


 
 10月11日、都内で「SARS対策緊急セミナー」(朝日新聞社主催)が行われました。講師は許樹昌氏(香港中文大学医学部副教授)、キャロリン・ファーカソン氏(トロント マウント・サイナイ病院ナースクリニシャン)、川名明彦氏(国立国際医療センター呼吸器科病棟医長)の3氏。いずれも、今年実際に現場でSARS対策に関わった方です。それぞれの経験を踏まえた報告の中から、この冬の参考になると思われることを紹介します。


(香港の現場からのレポート:許樹昌氏)

(今回の問題点)
☆構造/環境上の問題
−香港においては感染症専門病院が少ない
−隔離施設(ガウン着用室、着替え室、シャワー室など)が少ない
−スペースが不十分、患者の密度が高い

☆患者の問題
−非協力的(マスクをせずに頻繁に咳をするなど)

☆プロセスの問題
−準備がなかった
−突然、大量に、急速に患者が増えた
−不十分な感染管理対策
−長時間労働/疲労
−患者との長時間の密接な接触

(実施された対策)
☆衛生管理
−ハイリスクエリアへの入退出時に手洗いする
−下図のような入退出時の手順を掲示して注意喚起

(IN) (OUT)
1 洗手 Hand rub 1 Cap
2 口罩 N95 2 Gown
3 眼罩 Goggles 3 手套 Gloves
4 Cap 4 洗手 Hand rub
5 Gown 5 眼罩(紙袋) Goggles(Paper Bag)
6 洗手 Hand rub 6 N95(紙袋) Mask(Paper Bag)
7 手套 Gloves 7 洗手 Hand rub
8 外科口罩 Put on Surgical Mask
(if neccessary)
9 洗手 Hand rub

☆スタッフの行動規則
−共同で食事をしない
−使い捨ての食器
−トイレでの安全な距離
−仕事に来る前には体温をチェック

(この冬に向けて)
 SARSは動物由来のウィルスである。また、ウィルスは冬場に活性を増す。中国では、野生動物を食する習慣があり、それを扱うマーケットが開催されるため、この冬も再発する可能性は否定できない。
 香港では、患者の密度が高いことが大きな要因であることから、ベッド数を減らして個室や2人部屋を多くしたり、換気を良くしたりするなど患者の過密状態を無くす努力をしている。
 また、待合室にいる人もサージカルマスクを着用させる、見舞客を制限し(患者1人当たり2人)、見舞い客もマスク着用を義務付ける、といった対策も必要と考えている。



(トロントの現場からのレポート:キャロリン・ファーカソン氏)


(今回の問題点)

第1の症例の発症:2月23日
第2の症例の発症:5月22日
最後の症例の発症:6月12日

 一度制圧されたかにみえたが、2回目のアウトブレイクがおこってしまった原因は、警戒心をなくしてしまったから。検出されていなかったSARS患者が急性期病院からリハビリセンターに転移となり、同室の患者に感染させてしまい、そこから第2の発症が起きた。急性期病院への注意・警戒心を怠ってはいけない。

(実施された対策)
☆オンタリオ州のオペレーションセンター(POC)の開設
 −リーダーシップの確立
 −省庁間、部門間の協働
 −科学委員会(医者、微生物や公衆衛生の専門家などにより構成)
 
☆各市町村の公衆衛生部の働き
 −ホームページ:http://www.toronto.ca/health
 −公衆衛生による隔離ガイドラインの決定
  自宅隔離
自宅から出ず、同室に他の家族がいる場合はマスクを着用し、個人的なものについては共有せず、頻回に手洗いし、他の家族とは別室で就寝し、体温やその他の症状のモニタリングを行う。
  職場隔離
・自宅においては自宅隔離の規則に従う
・職場ではN95マスクを着用する
・可能な限り自家用車で通勤する
・自宅と職場以外の場所に出かけない
・症状のモニタリングを行う
・症状が発症したら仕事を休む
☆スタッフのPTSDについて
−現場に精神科医が来て対応

(この冬に向けて)
 病院見舞い客への対応戦略として、患者1人当たりの見舞い客の数を制限することを考えている。また現在病院を改装し、個室や閉鎖したスペースを作るといった対策を行っている。



(ベトナムでの知見と取り組み:川名明彦氏)


(徹底した院内感染対策の開始)
  1. 敷地内の別の病棟への患者隔離
  2. 日本から運んだ、N95マスク、フェイスシールド、ディスポーザブルガウン、手袋の着用
  3. 面会の制限
  4. ゾーニング(病院の敷地内を重傷度別にエリアを分けた)
  5. 換気(陰圧室がないので、窓を大きく開けて自然換気を行った)
(ベトナムのバックマイ病院が制圧に成功した要因)
  1. 最初から「未知の感染症」として対応できた
  2. 最初から敷地内の別棟の病棟に患者を隔離した(市中に蔓延する前に、病院内に囲い込むことに成功した)
  3. 情報を公開し、WHO、日本などの援助を積極的に受け入れた
  4. 最初からN95マスク、ガウン、ゴーグル、手袋などを使用できた
  5. もともと感染管理の意識が高かった(スタッフ教育等)
(この冬に向けて)
1.インフルエンザを防ぐことのできる感染対策レベルを実現する
・SARSと他の急性呼吸器感染症は区別できないと考えていた方がよい(無理に分けず、両方への感染対策を行うのが良い)
・医療スタッフはサージカルマスクを着用 
・患者にもマスク着用をお願いする 
・待合室でインフルエンザが広がらないような配慮
2.紛らわしい他の呼吸器感染症をコントロールする
・インフルエンザワクチンの接種を強化する(医療スタッフ・患者ともに) 
・呼吸器感染症の診断を強化する 
・レントゲン撮影
3.より組織的なSARS診療体制を作る
・感染対策班(SARS感染対策マニュアル、教育、サーベイランス) 
・SARS診療班(診療の実際を担当する) 
・知見回収、データ解析班(SARSに関するデータをまとめ、情報を発信する)
・病院機能班(一般の病院機能の混乱を防止する)
4.大小の疫学情報にアンテナを張り巡らす
・WHO、マスコミなどの情報に注意する 
・病院の入院患者の中で原因不明の肺炎が増えていないか 
・医療スタッフの中に原因不明の肺炎にかかっている者がいないか 
・職員の病欠が増えていないか

(参考資料)
2003年10月4日までのSARS統計
症例数 死亡数 死亡率
全世界 8,098 774 9.6%
香港 1,755 300 17.1%
カナダ 251 41 16.3%
中国全土 5,327 349 6.6%
台湾 346 37 10.7%
シンガポール 238 33 13.9%
米国 33 0 0%



 (講演を聞いた感想)
 日本の病院も香港と同様に開放型で患者の密度が高い。院内感染を防ぐポイントは、ベトナムのような病院内への囲い込み、患者の過密状態をなくすこと、換気を良くすることのようです。制圧に成功した他国の例は対策をたてる上で非常に有益だと思われました。