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医療事故紛争のリスクコミュニケーションのあり方


 12月12日(金)、日本予防医学リスクマネージメント学会の分科会セミナー「医療事故紛争のリスクコミュニケーションのあり方−医療法の立場から」が都内で行われました。

 講師は和田仁孝(九州大学大学院法学研究員・教授)、稲葉一人(科学技術文明研究所特別研究院・元裁判官)、佐藤彰一(法政大学法学部教授・弁護士)、中西淑美(九州大学大学院修士課程)の4氏。参考までに、講演内容の一部を紹介します。


(医療情報を巡る最近の動き〜稲葉一人氏〜)

 医療情報を巡る最近の動きとしては、個人情報保護法の成立がある。個人情報取扱事業者の対象となるのは5000人以上の個人情報を持つ者とされているが、実態調査によると、1診療所あたりのカルテ保有件数は、医科で平均6000件、歯科で平均4800件とのこと。これによると、ほとんどの病院が対象となり、それに伴い紛争も増えることが予測される。これからは単なるリスク・マネジメントではなく、コンフリクト・マネジメントが必要になってくるであろう。
 また、学会での発表の際にも、さらなる配慮が必要となってくるであろう。事例を目にした遺族が「これはうちの家族のことではないか」と気付く可能性があるからだ。

(医療事故をめぐる法のしくみ〜佐藤彰一氏〜)
 裁判所のサイトから平成14年の結果を見てみると、医療事故関係の訴訟は、通常事件全体と比べて、裁判内で決まることが多い(裁判志向)。また、通常事件よりも、判決による解決の比率が高いこともわかる(下表参照)。

医療事故 通常事件
判決 43.7% 38.0%
和解 43.8% 40.7%
認容率 ほぼ4割 7割〜8割

 しかし、法廷は当事者を対立させる構造にあり、お互いの気持ちを説明する場としては特殊である。患者側も医療側も不信感を持ち、裁判外交渉の余地がなくなり、長期化もする。3ヒロウ(費労・日労・疲労)とも言われている。説明する場として、もう少し違う場があってもよいのではないか。

(医療事故ADRの可能性〜和田仁孝氏〜)
 医療事故ADR(Alternative Dispute Resolution=裁判外紛争解決)の可能性はどうなのだろうか。
 紛争とは、人が、ある状況において、「被害」があると主観的に認知して(naming)、さらに誰か(何か)に責任があると主観的に認知すること(blaming)で発生する。紛争は、ニーズと現実のズレをめぐる認知の問題として理解すべきである。

被害患者側のニーズ 医療者側のニーズ
真実を知りたい 真相究明
謝罪を含む誠意ある対応・言葉が欲しい 謝罪も含む誠意の表現(人間として誠意のある態度を示したい)
二度と事故を起こさないようにして欲しい 再発防止のための分析とフィードバック
金銭の問題ではない 金銭の問題とは捉えたくない

 ところが、このように比較してみると、実は被害患者側と医療者側のニーズは共鳴していることがわかる。これを紛争解決の新たな手がかりに出来ないだろうか。
 ADRの類型としては、Negotiation(交渉)、Mediation(調停)、Arbitoration(仲裁)がある。医療事故のADRとしては、この中の「調停」が今後のあるべき方向性として考えられる。調停のメリットとしては、対決でなく協調(win-loseからwin-winへ)であること、当事者こそ/のみが紛争を解決できることなどが挙げられる。
 そこで、メディエーション(調停)、その担い手としてメディエーター(調停者)に注目したい。

(医療事故メディエーションの技法〜中西淑美氏〜)
 ここで言うメディエーションとは、従来のような調停者の権威等を背景にするのではなく、あくまでも当事者の紛争解決能力を信じ、自立的解決を促す新しい形の調停である。紛争において、相互の感情が交差する中で、メディエーターが第三者的視点から、それらの感情を共感的に受け止めながら、両者の関係のもつれを解きほぐし、個々の対話を促進するというものである。

 そのため、メディエーターには、
  1. Open end Question:Yes/Noで答えられない当事者に対する効果的な質問
  2. Paraphrasing:当事者の言葉を使った言い換えで要旨をまとめる
  3. Reframing Reiteration:当事者が伝えたい意味を肯定的な表現で言い換える
といった技法が必要である。
 例えば苦情・トラブルの場面でこんな風に会話を進めるのだ。 
患者
「別の先生に換えて欲しいんですが・・・・」
メディエーター
「どうかなさいましたか?」
(Yes/Noでは答えられない質問をする)
患者
「・・・・ということがありました」
メディエーター
「・・・・だったのですね」
(できるだけ当事者と同じ言葉を使って言い換える)
患者
「先生の言葉が威圧的ですごくいやな思いをしました」
メディエーター
「先生の話し方でいやな思いをされたんですね。」
(「威圧的」「すごく」の部分を取って客観的な表現に変える)
 ただし、クリアな答えが出ないことや、ケースによっては逆効果になってしまう可能性もある。海外でもいろいろな批判はある。メディエーターとして活躍している人も日本では殆どいない。まだまだ多くの問題点を抱えている。
 
 しかし、患者と医師の対話を促進する場の確保は今後不可欠である。訴訟の抑制ではなく、当事者の成長を促す技法として、医療事故の場にメディエーションを活かしていくことができるのではないか。また、メディエーターは、今後はリスクマネジャーの役割としても注目されそうである。