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「NDP公開シンポジウム〜医療の質安全の向上をめざして〜」

 先日このコーナーでご紹介した、「NDP公開シンポジウム〜医療の質安全の向上をめざして〜」が、平成16年3月20日(土)〜21日(日)、早稲田大学理工学部(大久保キャンパス)で開催された。
 3月20日の部に事務局も参加したので、内容の一部をお伝えする。


 3月20日は「医療の質と安全の向上をめざす病院合同改善プロジェクトの報告」と題し、NDP(=National Demonstration Project on TQM for Health)に参加している病院(平成15年度は17病院が参加)が、グループごとに研究報告を行った。平成15年度の研究テーマは次の5つ。
  1. インスリン治療の安全管理
  2. 注射薬指示の標準化
  3. 薬物投与の安全管理
  4. 臨床研修の安全管理
  5. 転倒転落の防止

 それぞれについて、内容の一部を紹介する(以下、各講師のスライドデータの抜粋)。

1.インスリン治療の安全管理;菅野一男氏(武蔵野日赤)
 
(インスリン治療の問題点)
  • 注射薬の中で圧倒的にエラーが多い
  • 日常的に使用するHigh-Alert Drug(危険薬)である
  • スライディングスケールのエラーが多く、スライディングスケールの指示出し、指示受けが大きなストレスになっている
(対策と効果)
 指示の複雑さが記憶負荷の増大、確認の困難さの要因と考えられることから、武蔵野日赤病院では平成13年2月よりインスリン・スライディングスケールの標準化を実施した。その結果、平成12年4月から8月までのインスリン事故件数が50件だったのが、平成13年4月から8月までは39件となり、減少傾向を示した。


2.注射薬指示の標準化;高橋英夫氏(名古屋大学)、菅野隆彦氏(武蔵野日赤)

(指示に関する一般的問題点)
  • 間違いの発生頻度: 3.99/1000order
  • 薬剤名、投与方法、略号の間違い
  • 投与量の間違い
  • 投与量の計算間違い
  • アレルギーの見過ごし
  • 腎機能・肝機能障害患者に対する投与量調整の間違い
(手書き指示に関する問題点)
  • 指示の判読困難
  • 不正確な情報及び情報の欠落
    患者氏名、薬剤名(一般名、商品名)
    容量(mg, g, mEq, mmol, etc.)
    用量(A, V, 本, ml, cc, etc.)
    投与方法
(注射薬指示に関するエラー防止対策としての標準化〜具体例〜)
  • 薬剤名:全て日本語で商品名で記載する
  • 薬剤の投与量(用量):「本」を使用する
  • 薬剤の液体の容量:「ml」とする
    「cc」は「00」と混同するので使用しない
  • 投与方法:病院内で標準化した略号を必ず使用
  • 投与ルート:複数存在する場合は、必ず記載


3.薬物投与の安全管理;杉山良子氏(武蔵野日赤)

(輸液ポンプ・シリンジポンプの取り扱いに関する事故やインシデントの実態調査)
 調査は2003年9月、NDP参加8病院の看護師を対象に行い、1,844名からの回答を得た。その結果、以下のようなことがわかった。
  • 約60%の看護師が1勤務で1回以上ポンプ操作をしている
  • 76%の看護師が先輩や同僚から操作を学んでいる
  • 35%の看護師が文書化された操作手順書がないと回答している
  • 約56%の看護師がマニュアル(操作手順、ポンプ使用適応、使用者資格、保守点検)はないと回答している
  • 30%の看護師は操作時のダブルチェックをしていない
  • 32%の看護師がインシデント経験があると回答している
  • 輸液ポンプの機械の原理(フリーフロー=過量注入)について60%が知らない
  • シリンジポンプの機械の原理(サイフォニング現象=過量注入)について70%が知らない
(アンケートのまとめ)
  • ポンプ類の事故・インシデントを防止していくには、緊急の対策実施が必至(いつでも、どこでも、起こりうることが確認された)
  • 看護師がポンプ類を使用するにあたっての、教育や訓練の機会が院内で制度化されていない
  • ポンプ類の標準マニュアルの整備及び周知が不十分である
  • 看護師のポンプ類使用についての知識(機械原理等)が薄い
  • 看護師の安全行動に対する認識が薄い


4.臨床研修の安全管理;上原鳴夫氏(東北大学大学院教授)、伊澤敏氏(佐久総合病院)

 基礎調査として、(1)研修医や新人ナースが関わったインシデントに関するレビュー調査と予備調査、(2)研修医が行う侵襲処置の実施状況、(3)技能訓練に関する研修指導計画の現状、の3調査をNDP参加7病院を対象に行った。また、研修医や新人看護師が行う侵襲処置について、リスク因子の予知分析の方法を開発し安全対策の課題を検討した。

(所見)
  1. 手順が標準化されていない
  2. 手技上の留意事項について、根拠が確認できないものが多い
  3. 機器や医用材料も標準化されていない
  4. 研修医が実施する処置の範囲は施設によってかなり異なっている
  5. 合併症の理解にばらつきがある
  6. 頻度の少ない事故については発生機序が明らかでない
  7. 技能評価の方法、危険手技の実施資格要件が明示的でない
  8. 事故発生時の対応指針が未確立
(今後の課題)
  • 同じような手技でも種類別にその手順を作成したほうがよいものがある
  • プロセス上の留意点を書くときは、その目的がわかるようにする
  • 指導計画、指導要領の作成が必要


5.転倒転落の防止;井上文江氏(麻生飯塚病院)、藁科えりか氏(早稲田大学)

(対策カタログ作成)
 事故対策はたくさんあるが、現場の使用感、アイディアなどは生かされていない。他の病院の失敗や成果が生かされていない。そこで、他病院の経験も活用できるような、現場の視点での対策カタログを作成した。転倒・転落事故防止対策カタログの目次は以下のとおり。
  • ベッド関連の対策:1
  • トイレ関連の対策:15
  • 車椅子関連の対策:19
  • 歩行、その他の対策:23
  • 患者への対処方法、ケア方法:27
  • 事故に対する意識付けの方法:31

(安全シール、安全パンフレットの検討)
 転倒転落防止対策として、イメージイラストに次のようなコメントを加えた注意シールを作成した。
  • フットレストの上に立ち上がらないでください
  • 背もたれに寄りかかりすぎないでください
  • オーバーテーブルに寄りかからないでください
  • エレベーターやトイレの出入り時にキャスターがつまずかないようにしましょう
  • フックをカーテンの前にひっかけないでください
  • お子様がベッドにいるときはベッド柵を完全に上まであげてください
 これら注意シール、対策カタログ等をCDに収めて、NDP参加13病院に配布した。運用は各病院で決定することとした。



ポスターセッション

 また、お昼休みを利用して、プロジェクト参加17病院が、ポスター展示による活動発表を行った。それぞれの病院担当者が、発表に見入る参加者の質問に応じていた。
 
 その中で事務局が注目したのは、前橋赤十字病院が発表していた業務中断カード(イエローカード)。看護業務において、業務の中断からインシデントやアクシデントが発生する事が多い。平成14年度看護部のインシデントアクシデントレポートの集計分析結果から、導入が決定された。業務がまだ終了していないことを視覚的に訴え、注意喚起を促すとともに、責任の所在を明確にするのが目的だ。カードを見た他の人が「このままでいいの?」と気づき、本人にアドバイスすることもあるという。今年の3月から全職員に2枚ずつ配布されることになったそうだ。


ポスターセッションの様子


イエローカード。横11cm×縦5cm。
サッカーのイエローカードに類似したプラスチック製材でできている。