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医療過誤訴訟への対応強化を盛り込んだ民事訴訟法改正要網中間試案

 平成13年6月18日、法務大臣から法制審議会に対し、「民事司法制度をより国民に利用しやすくする観点から、民事訴訟法及び人事訴訟手続法を改正する必要があるので、要綱を示されたい」という諮問がなされた。
法制審議会はこの諮問を受けて、民事・人事訴訟法部会を設置し、審議を開始した。部会は8回にわたる審議を経て平成14年6月7日「民事訴訟法改正要綱中間試案」を取りまとめた。また、これを公表し、幅広く意見を求めることとした。(詳しくは法務省のホームページ「パブリックコメント」コーナー http://www.moj.go.jp/ に掲載)
部会では、試案に対して寄せられた意見の結果を踏まえ、今秋から審議を再開し、平成15年の通常国会に改正法案を提出する予定である。

以下、医療過誤訴訟と関係のある中間試案の一部を紹介する。


【計画審理の導入】
 医事関係事件のような専門的知見を要する事件においては、より一層の審理の充実・迅速化が求められている。そのためには、審理の期日をあらかじめ定める等、計画的な審理を行う必要がある。そのような観点から、計画審理の推進を図るための規定を設けようとするものである。
審理の計画の具体的イメージ

○手続きの早い段階で比較的大まかな審理の計画を定める。


○審理の進行に伴い、必要に応じて審理の計画をより具体的なものに変更



○審理の進行に伴い、争点整理後又は証人調べ後に、和解を勧試することとするといった予定を審理の中の計画に定める。

○裁判所は、当事者双方との間で、審理の計画を定めるための協議をし、その結果に基づいて審理の計画を定めなければならない。


【専門委員制度の創設】
 医事関係事件のような専門的知見を要する事件においては、より一層の審理の充実・迅速化が求められている。そのためには、より早い段階から専門的な知識経験を有する専門家が審理に関与し、裁判官を補助する必要がある。そこで、裁判所が審理の過程において、当該事案に適切な専門家を指名し、その専門家から専門的な知識経験に基づく意見を聴く等の関与を求めることができる制度を創設することとしている。なお、「専門委員の権限の範囲(裁判所は、どのような場面で専門委員の関与を求めることができるのかという問題)」や、「裁判所が専門委員を関与させるに当たり、当事者の意向をどの程度反映させる必要があるのかという問題」については、部会で議論が分かれたため、複数案記載している。また、専門委員は非常勤の裁判所職員としての地位を有するものとすることを考えているが、専門委員の任免及び手当ての具体的な在り方については、今後検討が行われる予定である。

医療安全推進者ネットワーク会員の皆様も、これに関するご意見を「掲示板」へご投稿願います。

〜本件に関するコメント〜
前田 正一

(医療安全推進者養成講座では「法律学概論」「紛争・訴訟予防論」のテキスト執筆を担当)

 本小稿は、その概要に基づき、法制審議会の中間試案が示す方向の意義について、医療訴訟への医学専門家協力の重要性との関連から若干のコメントを寄せるものである。

 近年、わが国においても、医療訴訟が急激に増加している。この医療訴訟においては、行われた医療が適切なものであったかどうかが問題となるため、裁判のために医学上の専門知識が必要となる。しかし、実際の裁判においては、裁判官も弁護士も、ほとんどの場合、専門知識をもっていない。つまり、このような状況のもとでは、「適正な裁判」を実施することができないことになる。このため、裁判所が、裁判のために医学専門家の協力を得て専門知識の不足を補うことが重要となり、これは、高度な専門性の壁から患者が勝訴しにくいとされる医療訴訟を適正なものにするためにも、また、過誤行為を行っていないにもかかわらず訴えを提起された医療機関や医療従事者を保護するためにも、不可欠であると思われる。
 ところで、この医学専門家の医療裁判への協力は、裁判のあらゆる段階で必要となるであろう。例えば、鑑定の実施においても、その必要性が高いのである。鑑定実施においては、前提たる争点が十分に整理されていなければ、たとえ鑑定を実施しても、その結果は「適正な裁判」には寄与できないし、そもそも、医学・医療の専門知識を持たない裁判所は、適切な鑑定人を選任することも容易ではないのである。また、鑑定結果も十分に理解できないこともあろう。
 いま、鑑定の実施を一例に上げたが、このように、専門家不在の医療裁判は、その制度ゆえに、裁判の適正性は、十分には担保できない可能性があることがわかる。そればかりではなく、こうした専門家不在の裁判は、専門家が不在であるがゆえに、不要な時間を要すことにもなる。つまり、裁判の迅速性も担保できなくなるのである。

 以上、医療訴訟における医学専門家の協力の重要性について簡単に述べた。このことからもすでにわかるように、法制審議会の中間試案の示す方向は、医療訴訟における患者の側、医療の側に、共に、重要な意義があることがわかる。いかなる専門家を選任するのか、時間的な制約がある中で計画審理に代理人の協力が得られるかなど、実務上の検討すべき課題はなお多くあると思われるが、いずれにしても、本試案が示す方向を重視し、それを基礎に、慎重に、審議を進めていくことが重要であると思われる。

(なお、本コメントに関しては、<Sakamoto N., Maeda S. The use of experts in medical malpractice litigation in Japan. Medicine, Science and the Law,2002の次号>に詳述しているし、<Maeda S., Sakamoto N. The problems of Medical Malpractice Litigation in Japan: The significant factors responsible for the tendency of patients to avoid litigation.Legal Medicine 3(1):56-62,2001>や、<日本医師会総合政策研究機構 紛争・訴訟予防論 日医総研,2000>、<医療紛争―メディカル・コンフリクト・マネジメントの提案 医学書院,2001>のなかでも、関連既述を行っている。)