|
このコーナーでは、会員の方からの疑問・要望にできるだけお応えしていきたいと思っています。 こちらで取り上げて欲しいことがありましたら、是非掲示板へ投稿してください。 〜横浜市立大学附属病院「安全管理部門」の活動について〜本ネットワークの「Medsafe掲示板」に「横浜市立大学附属病院の医療安全のための専門部門について、具体的にどのような活動を行っているのか知りたい」という声が寄せられました。 ご要望にお応えし、事務局が直接取材してまいりましたのでここにご報告します。 「安全管理部門」の立ち上げと業務 ![]() 横浜市立大学附属病院は、平成11年1月に起こした医療事故以来、病院を挙げて医療安全管理の徹底に努めている。事故直後、大学内に組織された「事故対策委員会」、および横浜市に設置された「事故調査委員会」から、病院改革の実施と、院内でのメディカルリスクマネジメントの導入が提言された。この提言を受け、平成11年4月に「市立大学病院改革委員会」と「事故予防委員会」を発足させた。後者の「事故予防委員会」は医師、看護婦、事務など7名で構成され、事故予防に取り組んできた。しかし、「事故予防委員会」から、さらなる機能の強化を目指し、平成12年4月に「安全管理部門」と名称を改めて設置された。3年目を迎えた現在、統括安全管理者(副病院長)1名、安全管理指導者(医療安全管理学教授)1名、専任スタッフ2名の合計4名で構成されている。今回お話を伺ったのは専任スタッフの一人平林明美さん。部門の設置当初は看護部との兼務で、時間の調整に苦労があったようだ。しかし上司や周囲の理解により、看護部の仕事を縮小してもらい、最近は安全管理部門の仕事に集中できるようになってきたという。 |
|
「安全管理部門」の中心となる業務は
などである。 では、具体的にどのような活動を行っているのであろうか。以下から3つのKey Wordに沿って紹介していくことにする。 インシデント報告 インシデント報告システムとは、各従事者から報告された、事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」した体験事例について、インシデントの背景要因を探り、組織としての改善策を講じるためのものである。横浜市大病院の場合、報告書は原則としてインシデント発生から48時間以内に各部門のリスクマネジャーに提出し、リスクマネジャーはこれを部門責任者に報告、コメントを記入後、この「安全管理部門」に提出する。 横浜市大のインシデント報告書は表と裏の2面式である。 |
|
| <表>(701KB) | <裏の一例>(711KB) 放射線部・臨床検査部・病理部を除く全職種が使用する一般型 |
![]() |
![]() |
表は院内共通であり、全職種が用いる。裏は、放射線部、臨床検査部、病理部、それ以外、の4種類がある。報告者にとって記入しやすくするために、全てを院内共通の書式にするのはむずかしかったためだ。ただし、4種類の裏面の下部には、共通して「安全管理部門」からコメントを記入する欄がある。報告事例について、部署内で対応が可能か、あるいは調査が必要か、またリスクマネジャー会議への報告が必要かどうか等をチェックする欄とコメント欄である。 ![]() この欄に記入し、各部門のリスクマネジャーへ返却するのが「安全管理部門」の仕事である。実際に報告としてあがってきたものを見ると、ほとんどはそれぞれの部署内で対応できるものだという。しかし中には、院内で共通して認識すべきものが含まれている。そうしたものを掬い上げて、月に1回行われる「リスクマネジャー会議」で取り上げたり、また報告書だけではわからない場合には、実際に現場に行って事実を確認することもある。報告書の行間を読み取り、重要な情報を見逃さず、皆で話し合うきっかけ作りをしているのである。平林さんはこれが大切だと強調している。 報告内容の入力、分析も「安全管理部門」で行われる。これまでに提出されたインシデント報告を職種別・事象別に12年度、13年度と分析したところ、構成割合にほとんど変化はなかった。どちらの年度も、職種では看護婦が約7割、事象別では薬剤投与に関するものが約4割といった状況である。おそらく今後もこの割合は変化しないだろうと予測している。そこで、今年度の「リスクマネジャー会議」の課題として、この報告のあり方について検討していくことも挙げている。報告書の質の向上をめざし「オカレンスレポートシステム(あらかじめ報告義務事項を定めておくもの)」との組み合わせなど、改善策を話し合っていく予定である。また、報告書を記入する現場の人たちの力をつけることも大切である。そのためには、教育により院内全体の水準を上げることが必要だと考えている。 リスクマネジャー会議 リスクマネジャー会議は、各部門の安全管理者(リスクマネジャー)が月に1回一堂に会して、様々な事例について検討する場である。現在リスクマネジャーは66名。看護の各部門からは婦長が、管理部・診療科・中央部門の各部署からは主にリーダー層や中堅層が選任されている。この会議の資料作成・議事作成といった事務的な準備を行うのも「安全管理部門」の仕事である。会議をいかに効率的に行うか、いかに皆の興味を失せないようにするか、などといった点に気を配り設定をしている。この会議がもたらしたメリットは、何と言っても職種間の壁が取り除かれたことであろう。今まで、異なる職種間どうしで話し合ったり、相談したりする機会をこの規模で持つことはほとんどなかった。しかし、ある事例を皆でディスカッションしていく中で、お互いに話しやすい雰囲気が生まれ、問題に対しても原因を共通認識した上で対策を立てることができるようになったのだ。 平成14年度の第1回の会議は5月13日の17:30から約90分にわたり開催された。出席率は約90%。遅刻者もほとんど無かった。この会議の存在意義が院内に浸透してきた証であろう。実際、リスクマネジャー会議で決まったことは、ほぼ院内で認められるようになってきている。 5月13日の議事次第には、
等の項目が挙げられている。 また、「安全管理部門」では平成13年度から、この会議に参加するリスクマネジャーを20人ぐらいずつ3つのグループに分け、分科会とし、それぞれにテーマを検討してもらい改善策を提言としてまとめるという企画を立てた。今年度は66名のリスクマネジャーが知的にも満足してもらえるように、例えばその分野の専門家を招いたり米国の文献を読み解くなど、分科会の内容にもいろいろと工夫を凝らすという。 平成13年度は各分科会が次のようなテーマについて検討し、改善策をまとめ管理会議に提言して実現につなげた。継続審議になったものは今年度に引き継ぐ。 第一分科会
第二分科会
第三分科会
ちなみに第三分科会で検討を重ねてきた「医療事故予防マニュアル(共通編)第3版」が、2002年3月に完成し、委託職員も含めて職員全員に配布されている。 教育・研修プロジェクト 横浜市大病院に特徴的な活動として自主的に企画された教育・研修活動が挙げられる。 例えば「人工呼吸管理研修」。病院では医師、看護師、技士などがそれぞれの認識で動いていて非効率的であり、安全性の上でも十分でない現状があった。そこで「安全管理部門」は平成12年度、人工呼吸管理教育・研修プロジェクトを立ち上げた。その結果、平成13年度から講習会が実施されることとなった。この講習会の内容で注目すべき点が3つある。 1つめは医師・看護師・臨床工学技士がチームを組んで教育を行ったことである。各職種には、得意分野というものがある。それを生かし、エキスパートのエッセンスを盛り込んだプログラムを開発した。この研修を積み重ねることにより、どの職種が欠けても駄目だということがわかり、お互いの力を認め合うことができた。 2つめは講義と実践を結びつけた形で行ったことである。 又、3つめは研修を単発ではなく複数回行ったことである。単発の研修では、受講が必要な全ての人数を網羅することは不可能である。平成13年度は計7回行われ、研修医45名と看護師延べ200名が受講した。平成14年度も計5回の実施を予定している。第1回はすでに4月26日に研修医46名を対象に実施された。実は「人工呼吸器」のメカニズム、装着手技やケアの方法は、当大学に限らず医学部ではほとんど教えられていないらしい。出席率は100%。また回収されたアンケートから、ほとんどの受講生が内容に満足していたことが伺われた。 活動成果の一例 以上挙げてきた「報告」「会議」「教育」が連携して、成果に結びついた例をここで1つ紹介する。 前述の「医療事故予防マニュアル(共通編)」の中には「病棟、ICU、CCUで行われる血液浄化療法についての取り決め」がある。 事の発端は小さなCCUからのインシデント報告であった。それまで、血液透析室以外で行われる血液浄化療法についての院内ルールは明文化されていなかった。その為、このCCUで血液浄化療法が行われる場合、慣れていない現場のスタッフが困ることがある、というものであった。詳細を確かめるために、関係各部署の話を直接聞きに行った。すると、「開始時に人が集まらなくて困る」「MEと医師の業務連携がうまくいかない」「看護師が医師に連絡をとろうとしても連絡先がわからないことがある」など、いろいろな問題が存在していることがわかってきた。 そこで、これに関する院内ルール作成に向けてのプロジェクトを立ち上げた。ルールの素案作りのために関係者に集まってもらい、会議を設けて話し合ってもらった。しかし、参加者の立場は様々であり、全員の意見はなかなか折り合わなかった。喧喧囂囂の会議が何回か続いた後、現場の医師が「大筋は決まったのであとは医局で話し合ってまとめてきます」と引き受け、次の会議で文書化したものを提出してくれた。するとあとは流れに乗った。素案をもとに話し合い、微調整して、院内のさらに上の会議へ提出、やがて組織の中でのルールとして認められるに至った。今まで困っていた現場の婦長看護師長たちからも喜ぶ声が聞かれたのはいうまでもない。 さらに、正しい基礎知識を学んでもらうために、平成14年3月5日に院内セミナーを開催した。題して「楽しく学ぼう 血液透析療法の基礎」。教育を担当したのは血液透析室の医師、看護師、臨床工学技士によるチーム。医師、看護師、薬剤師、栄養士、臨床検査技師、放射線技師ら104名が参加した。このセミナーは平成14年度も実施していく予定だという。 多くの人たちが関わって、何度も討議を重ねた上で決めたものだからこそ、院内で生きたルールとなっていく様子がみてとれる。 安全管理部門の役割・方向性 「安全管理部門の役割とは、従来あるラインのサポートシステムなのだと思うようになりました」と平林さんは語る。このような大きな病院の中で、たった4人の安全管理部門だけで安全に関して全てまとめることなどは到底できない。しかし、部門間の壁をとりはらい、皆がコミュニケーションをとりやすくする、医師に対して何でも話しやすくする、各人がもっている能力を発揮してもらう場をつくる、そういったサポートをしていくことで、皆の安全に対する意識を高めていくことはできる。「安全管理部門」の全ての業務に共通しているのは、皆の盛り立て役、徹底した裏方役と言えよう。何か報告をした時にそれを受け止める人がいる、動かしてくれる人がいる、と思ってもらえれば、報告につながる。それが、どんどんいい方向に向かっていく。最近では、現場から安全管理部門に「相談したいことがあるので時間を取って欲しい」と電話が入ってくることもある。また、課題について「会議で話し合おう」と提案したときに、拒んだり、話に乗ってこない人はほとんどいない。「安全管理部門」設置から3年目。わかってきたことは、各人の認識に基づく「ルール」「手順」、「教育」「自主性」、そして継続することの大切さであるという。そして、そのために今まで続けてきた努力は着実に功を奏し、院内で信頼を得て、認められるようになりつつある。 |
|
![]() |
|
安全管理部門の専任スタッフ
(平林さん・井口さん)
(平林さん・井口さん)




「安全管理部門の役割とは、従来あるラインのサポートシステムなのだと思うようになりました」と平林さんは語る。このような大きな病院の中で、たった4人の安全管理部門だけで安全に関して全てまとめることなどは到底できない。しかし、部門間の壁をとりはらい、皆がコミュニケーションをとりやすくする、医師に対して何でも話しやすくする、各人がもっている能力を発揮してもらう場をつくる、そういったサポートをしていくことで、皆の安全に対する意識を高めていくことはできる。「安全管理部門」の全ての業務に共通しているのは、皆の盛り立て役、徹底した裏方役と言えよう。何か報告をした時にそれを受け止める人がいる、動かしてくれる人がいる、と思ってもらえれば、報告につながる。それが、どんどんいい方向に向かっていく。最近では、現場から安全管理部門に「相談したいことがあるので時間を取って欲しい」と電話が入ってくることもある。また、課題について「会議で話し合おう」と提案したときに、拒んだり、話に乗ってこない人はほとんどいない。「安全管理部門」設置から3年目。わかってきたことは、各人の認識に基づく「ルール」「手順」、「教育」「自主性」、そして継続することの大切さであるという。そして、そのために今まで続けてきた努力は着実に功を奏し、院内で信頼を得て、認められるようになりつつある。