Q: レポーティング・システムについて
インシデント・レポートがなかなか集まりません。そこでオカレンス・レポーティング・システムを導入しようと思っていますが、その際、インシデント・レポートは全くなくなってしまってよいものでしょうか。
インシデント・レポートがなかなか集まりません。そこでオカレンス・レポーティング・システムを導入しようと思っていますが、その際、インシデント・レポートは全くなくなってしまってよいものでしょうか。
(更新日:2002-4-17)
A:まず、アメリカで「インシデント・レポーティング・システム」というと、「事故」と「事故に至る手前のひやりとした事例」を区別することなく報告する制度として理解されていることを確認しておきます。
アメリカの場合、すべて報告して下さいというインシデント・レポーティング・システムではなかなか集めることができない、例えば医療の質に深く関わる事故やひやりとした事例を集めることを目的として、オカレンス・レポーティング・システムが導入されたという経緯があります。
ただ、病院によって、インシデント・レポーティング・システムだけのところ、オカレンス・レポーティング・システムだけのところ、二つのシステムの併用、また部署や事故の対象を限定しての使い分けや併用など、その活用の方法は様々です。
インシデント・レポーティング・システムか、オカレンス・レポーティング・システムか、といった二者択一でなく、事故やひやりとした事例を集める目的に応じて、併用も含んで、柔軟にそれぞれの活用方法を検討されればいいのではないかと思います。
ひとつ整理しておきたいことがあります。「なかなか集まりません」とありますが、目的は報告書を集めることではなくて、事故防止に必要な情報を集めることだということです。
少々乱暴な言い方ですが、「たくさんの小さな事故の報告」より、「明日大変なことになるかもしれない重要なひやりとした事例の報告」が欲しいのです。とはいえ、何が重要なのか基準を設けることも難しいし、また一見重要そうには見えないけれど実は大変な問題が隠れていることもあったりしますから、取りあえず全部報告してもらっているわけです。もちろん、集まるたくさんの報告を通してこそ重要な共通の問題が見えてくることもあります。それぞれの組織で、報告書の考え方、活用の仕方を整理されることが大事だと思います。
アメリカの場合、すべて報告して下さいというインシデント・レポーティング・システムではなかなか集めることができない、例えば医療の質に深く関わる事故やひやりとした事例を集めることを目的として、オカレンス・レポーティング・システムが導入されたという経緯があります。
ただ、病院によって、インシデント・レポーティング・システムだけのところ、オカレンス・レポーティング・システムだけのところ、二つのシステムの併用、また部署や事故の対象を限定しての使い分けや併用など、その活用の方法は様々です。
インシデント・レポーティング・システムか、オカレンス・レポーティング・システムか、といった二者択一でなく、事故やひやりとした事例を集める目的に応じて、併用も含んで、柔軟にそれぞれの活用方法を検討されればいいのではないかと思います。
ひとつ整理しておきたいことがあります。「なかなか集まりません」とありますが、目的は報告書を集めることではなくて、事故防止に必要な情報を集めることだということです。
少々乱暴な言い方ですが、「たくさんの小さな事故の報告」より、「明日大変なことになるかもしれない重要なひやりとした事例の報告」が欲しいのです。とはいえ、何が重要なのか基準を設けることも難しいし、また一見重要そうには見えないけれど実は大変な問題が隠れていることもあったりしますから、取りあえず全部報告してもらっているわけです。もちろん、集まるたくさんの報告を通してこそ重要な共通の問題が見えてくることもあります。それぞれの組織で、報告書の考え方、活用の仕方を整理されることが大事だと思います。
Q: アクシデント、インシデント、ヒヤリ・ハットなどは診療記録に含まれるのでしょうか。
(更新日:2002-4-17)
A:事故報告書やヒヤリ・ハット報告書等のいわゆる報告書は、業務管理記録であって診療記録ではないということを明確にしておく必要があると思います。
もちろん、医学的な視点から必要なことを診療記録にきちんと記載しておくことは大前提になります。
もちろん、医学的な視点から必要なことを診療記録にきちんと記載しておくことは大前提になります。
Q: 「インシデント」と「ヒヤリハット」は同義語として使ってよいのでしょうか。
(更新日:2002-12-13)
A:日本の医療の現場では、「インシデント」も「ヒヤリハット」も、患者さんに傷害が起きていない場合に使うというのが一般的です。ただし、これは言葉の定義の問題です。それぞれの組織で決めて使っていただけばよいと思います。ちなみに、アメリカの医療の現場では、患者さんに障害が起きている場合も起きていない場合もインシデントという言葉を使うのが一般的です。日本の医療の現場でも、そうした使い方をしているところもおありです。
Q: 「リスク」と「クライシス」の言葉の定義はどのように考えたらよいでしょう。
(更新日:2002-12-13)
A:「リスク」と「クライシス」については、厳密な使い分けがされているわけではありませんが、一般的に、クライシスはリスクよりも損害の程度も緊急性も高いとされています。
なお、2001年にリスクマネジメントシステムがJISのシステム規格として制定されています。「リスクマネジメントシステム構築の指針」の中の「規格制定までの経緯」に「平成10年からは、事後対策に主体をおいたものと狭義に解釈されるおそれのあった“危機管理”という用語から、緊急事態発生の事前、事後のすべての時期を扱うものとして国際的にも使用され、より広義に解釈できる“リスクマネジメント”という用語に変更され・・・・・・」とあるように、JIS規格の中では、クライシスはリスクの一局面として整理されています。
なお、2001年にリスクマネジメントシステムがJISのシステム規格として制定されています。「リスクマネジメントシステム構築の指針」の中の「規格制定までの経緯」に「平成10年からは、事後対策に主体をおいたものと狭義に解釈されるおそれのあった“危機管理”という用語から、緊急事態発生の事前、事後のすべての時期を扱うものとして国際的にも使用され、より広義に解釈できる“リスクマネジメント”という用語に変更され・・・・・・」とあるように、JIS規格の中では、クライシスはリスクの一局面として整理されています。
Q: 「クリニカルパス」と「クリティカルパス」の使い分けはどうでしょうか。
(更新日:2002-12-13)
A:基本的には、同じものと考えていただいてよいと思います。クリティカルという言葉のニュアンスが、医療の現場になじまないのではないかということから、クリニカルという言葉が使われるようになってきているようですが、今のところどちらを使うか、学会や団体、そしてそれぞれの組織で選択しておられるようです。
Q: リスクマネジャーについて(1)
どのくらいの規模の病院から、専任のリスクマネージャーを必要とするのでしょうか。実際には、兼任の人間が多く片手間業務になりがちなのが現状だと思われますが。
どのくらいの規模の病院から、専任のリスクマネージャーを必要とするのでしょうか。実際には、兼任の人間が多く片手間業務になりがちなのが現状だと思われますが。
(更新日:2002-12-13)
A:専任のリスクマネジャーの配置が必要かどうかは、組織の規模で決まるものではないと思います。どんな規模であっても、また病院でも診療所でも、専任が必要だというのであれば、配置されればよいと思います。
専任のリスクマネジャーについて、あらためて2点、お話しておきたいと思います。
1点目は、その配置は組織の規模で決まるのではないということです。その組織で必要だというのであれば、配置されればよいと思います。
2点目は、言うまでもないことですが、配置すればよいというわけではないということです。専任のリスクマネジャーを機能させたいのであれば、その目指すところを機能させていくために、周囲を変えていかなければならない場合があります。そうしたことに手をつけずに、専任を配置しました、頑張りなさい、成果があがりません、というようなことではいけないと思います。配置した後、機能させていくために、では周囲はどのように変わっていくべきなのか、そして変わっているのか、そのようなことも考えていく必要があります。
ところで、周囲が変わらなければならないことがあるというのは、専任のリスクマネジャーの配置だけのことではないと思います。例えば、事故の再発防止策として、いろいろな機器やシステムが導入されます。それらが、目指す機能を果たしていくためには、単に導入するだけではなくて、周囲のシステムや手順を変えていかなければならない場合があるはずです。せっかく導入したのに機能しない、成果があがらない、実は周囲が全然変わっていない・・・・・・というようなことがないか、ひとつのチェックポイントだと思います。
専任のリスクマネジャーについて、あらためて2点、お話しておきたいと思います。
1点目は、その配置は組織の規模で決まるのではないということです。その組織で必要だというのであれば、配置されればよいと思います。
2点目は、言うまでもないことですが、配置すればよいというわけではないということです。専任のリスクマネジャーを機能させたいのであれば、その目指すところを機能させていくために、周囲を変えていかなければならない場合があります。そうしたことに手をつけずに、専任を配置しました、頑張りなさい、成果があがりません、というようなことではいけないと思います。配置した後、機能させていくために、では周囲はどのように変わっていくべきなのか、そして変わっているのか、そのようなことも考えていく必要があります。
ところで、周囲が変わらなければならないことがあるというのは、専任のリスクマネジャーの配置だけのことではないと思います。例えば、事故の再発防止策として、いろいろな機器やシステムが導入されます。それらが、目指す機能を果たしていくためには、単に導入するだけではなくて、周囲のシステムや手順を変えていかなければならない場合があるはずです。せっかく導入したのに機能しない、成果があがらない、実は周囲が全然変わっていない・・・・・・というようなことがないか、ひとつのチェックポイントだと思います。
Q: リスクマネジャーについて(2)
医療機関内においてリスクマネジャーは、どこに配置しておくことが最適でしょうか。
医療機関内においてリスクマネジャーは、どこに配置しておくことが最適でしょうか。
(更新日:2002-12-13)
A:リスクマネジャーを組織上どのように配置しておくことが最適かは、その組織におけるリスクマネジャーの職務内容によって、またその組織の機構によって、大きく違ってくると思います。例えば、組織全体の事故防止・安全管理をその職務とする専任で、それなりの権限と責任を持たせて機能させていこうとするのであれば、事故防止・安全管理の責任者、例えば副院長の直属とすることが適切かもしれません。
いずれにしても、リスクマネジャーだからどこに配置すべきかではなくて、それぞれの組織がリスクマネジャーをどのように機能させたいかによって、どこに配置すべきかが決まってくるということだと思います。
いずれにしても、リスクマネジャーだからどこに配置すべきかではなくて、それぞれの組織がリスクマネジャーをどのように機能させたいかによって、どこに配置すべきかが決まってくるということだと思います。
Q: リスクマネジメント部門も多職種のチーム編成が望ましいと考えますがいかがでしょうか。例えば、実務担当として看護師と薬剤師、医療の質の評価として医師及び事務職、特に診療情報管理士、それから法的な立場から、助言者としての院外の弁護士などです。
(更新日:2002-12-13)
A:「リスクマネジメント部門」がどういうものを意味しておられるのかわからないのですが、ここでは「リスクマネジメント委員会」としてお話していきます。具体的な編成メンバーは委員会が何をその職務範囲とするかによることになりますが、いずれにしても、基本的には多職種のチーム編成が望ましいと思います。
委員会の編成について、3点お話しておきたいと思います。
まず1点目は、事務職にも加わっていただくということです。特に、組織のマネジメントそのものの見直しというところに踏み込んだ瞬間から、医療職だけでは駄目だということに気づきます。例えば、研修医のオリエンテーションの問題、院内通知の徹底の問題などは、医療職だけではなく、事務職も一緒になったディスカッションが必要になってきます。実際、いろいろな組織の取り組みを拝見する中で、活発な活動を展開しておられる組織に共通することのひとつには、この事務職ががっちり取り組みに加わっておられることが挙げられるようにも思います。
2点目は、やはり、事故防止・安全管理に熱意のあるメンバーを選ぶということです。メンバーが事故防止・安全管理にそれなりの思いを持っている、やる気がある、ここのところが重要な選考の基準だと思います。メンバーが変わることで、委員会の活動そのものが大きく変わることもあります。やる気のある人たちが集まっている委員会と、そうでない、とりあえず集められた人たちが集まっている委員会では違う、ということです。
3点目は、事故防止・安全管理という視点のディスカッションには、組織の外、医療界ではない他の領域の方の参加も大変有効だということです。どこの組織でも出来るということではないと思いますが、特に産業界で事故防止・安全管理に関わっておられた方に参加していただくと、事故やヒヤリハット事例の分析などにおいても、新鮮な視点でいろいろな指摘をしていただくことができます。
委員会の編成について、3点お話しておきたいと思います。
まず1点目は、事務職にも加わっていただくということです。特に、組織のマネジメントそのものの見直しというところに踏み込んだ瞬間から、医療職だけでは駄目だということに気づきます。例えば、研修医のオリエンテーションの問題、院内通知の徹底の問題などは、医療職だけではなく、事務職も一緒になったディスカッションが必要になってきます。実際、いろいろな組織の取り組みを拝見する中で、活発な活動を展開しておられる組織に共通することのひとつには、この事務職ががっちり取り組みに加わっておられることが挙げられるようにも思います。
2点目は、やはり、事故防止・安全管理に熱意のあるメンバーを選ぶということです。メンバーが事故防止・安全管理にそれなりの思いを持っている、やる気がある、ここのところが重要な選考の基準だと思います。メンバーが変わることで、委員会の活動そのものが大きく変わることもあります。やる気のある人たちが集まっている委員会と、そうでない、とりあえず集められた人たちが集まっている委員会では違う、ということです。
3点目は、事故防止・安全管理という視点のディスカッションには、組織の外、医療界ではない他の領域の方の参加も大変有効だということです。どこの組織でも出来るということではないと思いますが、特に産業界で事故防止・安全管理に関わっておられた方に参加していただくと、事故やヒヤリハット事例の分析などにおいても、新鮮な視点でいろいろな指摘をしていただくことができます。
Q: 報告書について(1)
インシデントレポートの分析方法はどのモデルがいいのでしょうか。具体的に教えてください。一般的にはシェルモデルが使われているようですが、当院では一般産業界出身からQC手法で使われるフィッシュボーンや系統図の活用が提案されています。
インシデントレポートの分析方法はどのモデルがいいのでしょうか。具体的に教えてください。一般的にはシェルモデルが使われているようですが、当院では一般産業界出身からQC手法で使われるフィッシュボーンや系統図の活用が提案されています。
(更新日:2002-12-13)
A:今、分析のためのモデルとして、4M4E、SHELL、フィッシュボーン、系統図、そして、RCA、FMEAなど、さまざまなモデルが紹介されていますが、その目的もそれぞれ違いますし、誤解を恐れず言うならどれも一長一短があって、これがよいと申し上げることができません。
こうしたモデルを使った分析にはかなり時間を必要とすることがありますから、現場レベルでどのように活用していくかについては現実的な判断が必要になると思いますし、分析モデルを完成させることが目的となってしまうことがないよう注意しなければならないと思います。ただ、分析にあたって見落としているところはないかをチェックする物差しとして、こうしたモデルを活用することは有効ですし、また、組織で活用するモデルを決めていくことは、組織の分析の視点を整理するために役立つと思います。
こうしたモデルを使った分析にはかなり時間を必要とすることがありますから、現場レベルでどのように活用していくかについては現実的な判断が必要になると思いますし、分析モデルを完成させることが目的となってしまうことがないよう注意しなければならないと思います。ただ、分析にあたって見落としているところはないかをチェックする物差しとして、こうしたモデルを活用することは有効ですし、また、組織で活用するモデルを決めていくことは、組織の分析の視点を整理するために役立つと思います。
Q: 報告書について(2)
報告書が医療側の不利な証拠とならないような保護する仕組みはないのでしょうか。
報告書が医療側の不利な証拠とならないような保護する仕組みはないのでしょうか。
(更新日:2002-12-13)
A:今のところ、いわゆる「保護する仕組み」というようなものはありません。事故防止には、医療の現場の情報が不可欠であり、それを共有していくことが重要です。ただ、医療の現場の再発防止のために使われているはずの報告書が、違った目的に使われてしまうのでは、報告書のリスクマネジメントがなっていないということになってしまうと思います。医療の現場で起きた不幸な事故、また、その事故になる手前の事例、こうしたことを事故防止、再発防止につなげていけるように、環境整備を早く実現しなければいけないと思います。
Q: 同意書について
患者さんや家族は何か処置、治療にて合併症が発生すると、「医療ミスですか」とすぐに言われます。事前のインフォームド・コンセントは行っているようですが、同意書のようなものは複写して、患者さんにも1枚渡すようにしておくべきでしょうか。患者参加の事故防止を詳しく教えてください。
患者さんや家族は何か処置、治療にて合併症が発生すると、「医療ミスですか」とすぐに言われます。事前のインフォームド・コンセントは行っているようですが、同意書のようなものは複写して、患者さんにも1枚渡すようにしておくべきでしょうか。患者参加の事故防止を詳しく教えてください。
(更新日:2002-12-13)
A:同意書があれば、悪い結果が起きても、すべて免責されるというわけではありません。悪い結果が起きて、そこに過失がある場合には、その責任を問われるということはご存じの通りです。
ただ、同意書があるということで、きちんと説明をしたということは示すことができます。ですから、同意書がどのような書式になっているかが重要になるわけです。同意を取るだけの書式ではなくて、同意に向けての説明が書かれているかどうか。また、同意書の中には、文章の中にわからないことがあったらいつでも聞いてくださいということや、この同意をした後でも、気持ちが変わったら申し出てください、そのことが診断、治療の不利益にはなることは決してありませんというようなことも書き加えているものもあります。そのようなことも含めて、同意書の書式を考えていただきたいと思うし、当然、同意書の写しを患者さんに渡していただきたいと思います。そこに書かれてある文章を、改めて家に帰ってきちんと読んでいく時間を患者さんに提供することができます。もちろん十分な時間がない中で意思決定をしなければいけないこともありますが、少なくともそうした同意書を渡されていた、読むチャンスがあったということを後から示していくことができるからです。
ただ、同意書があるということで、きちんと説明をしたということは示すことができます。ですから、同意書がどのような書式になっているかが重要になるわけです。同意を取るだけの書式ではなくて、同意に向けての説明が書かれているかどうか。また、同意書の中には、文章の中にわからないことがあったらいつでも聞いてくださいということや、この同意をした後でも、気持ちが変わったら申し出てください、そのことが診断、治療の不利益にはなることは決してありませんというようなことも書き加えているものもあります。そのようなことも含めて、同意書の書式を考えていただきたいと思うし、当然、同意書の写しを患者さんに渡していただきたいと思います。そこに書かれてある文章を、改めて家に帰ってきちんと読んでいく時間を患者さんに提供することができます。もちろん十分な時間がない中で意思決定をしなければいけないこともありますが、少なくともそうした同意書を渡されていた、読むチャンスがあったということを後から示していくことができるからです。
Q: マニュアルについて
病院勤務の薬剤師です。医療過誤対策委員会の委員として、過誤防止マニュアルの作成にも携わっています。その中で意見が分かれるのは、完璧なマニュアルを作るべきか、現状で実施できる範囲のマニュアルを作るべきかということです。どちらがよいのでしょうか。
病院勤務の薬剤師です。医療過誤対策委員会の委員として、過誤防止マニュアルの作成にも携わっています。その中で意見が分かれるのは、完璧なマニュアルを作るべきか、現状で実施できる範囲のマニュアルを作るべきかということです。どちらがよいのでしょうか。
(更新日:2002-12-13)
A:まず「完璧なマニュアル」など、ないのではないかと思います。今、作ることができるマニュアルを作り、機能するマニュアルとしてよりよいものに近づけていく。そのためにも、マニュアルを維持管理していく体制を機能させていくことが重要になります。
なお、たとえマニュアルとして完璧であっても、それが実行できないのであれば意味がありません。まずは、現状で実施できる範囲のマニュアルを作っていくべきであるということになると思います。
なお、たとえマニュアルとして完璧であっても、それが実行できないのであれば意味がありません。まずは、現状で実施できる範囲のマニュアルを作っていくべきであるということになると思います。
Q: ペイシェント・レプリゼンタティブという職種について。
(更新日:2003-10-15)
A: ベス・イスラエル・メディカルセンターにおける職種としてのペイシェント・レプリゼンタティブについてお話をさせていただきます。
ペイシェント・レプリゼンタティブ(Patient Representative以下PR)というのは、日本語に訳がないので「患者代理人」としてご紹介させていただいていますが、いうなれば患者さんの不満よろず解決人です。投書箱とかアンケートとか、いろいろな方法はあるものの、もっと積極的に患者さんの声を聞きたい。そのためにきちんと人を置く。その人が責任をもって問題を解決する。そういう趣旨で置かれている職種です。
当然、PRのところに入ってくる情報はさまざまですし、なかにはリスクマネジメントの視点から大変重要ものもありますから、リスクマネジメント部とは密接な連携を取っています。
ベス・イスラエル・メディカルセンターの場合、PRは病院の職員です。所属については、日本でいうと事務部長のようなところに直属の形で配属されていたと記憶しています。確実ではありませんが、いずれにしても、極めてトップに近いところに配属されていたということは申し上げていいと思います。どういうことかと言えば、PRのところに入ってくる情報というのは、それがどう解決されたかも含めて、病院として大変貴重な情報であると位置づけているということです。トップがダイレクトに聞く。場合によっては、聞いたあとストレートに指示を出していく。そういった、トップダウンで動かしていくような枠組の中に置かれている職種だということもご紹介しておきたいと思います。
なお、このPRについては、決してポジティブな見方だけをされているわけではありません。「患者代理人?笑っちゃうよ。所詮は病院の職員でしょう」。こういう言い方は当然出てくるわけです。最終、ギリギリのところでどちらに立つのか。「お給料をもらっている病院でしょう。それで何が患者の代理?」。こじれてくれば、そういう言い方をされる。実際、されている職種でもあります。
ただ、病院の職種ではありますが、できるだけフェアに、患者さんの立場に立ってものごとを見ていこうとするそのことを具体的な職種というかたちにしているという意味で、医療の現場に必要な、そして、注目すべき職種ではないかと思っています。
もう1点、あるPRがこう話してくれたこともご紹介しておきたいと思います。「気を付けないと、本来直接話し合うべき人たちの壁になってしまうことがある。患者さんと医師が直接向き合わなければいけないのにPRがいるために向きあわないようなことになってはいけない。別な言い方をするなら、医師に都合良く使われてしまって、向き合うことを避けさせているようなことになってはいけない。PRが単なる防火壁になってしまわないように注意している。」
なおこれはあくまでも、ベス・イスラエル・メディカルセンターのPRです。
PRのあり方は病院によってもさまざまです。「ペーシェント・リプリゼンタティブ」という名称を使っているところもあれば、「アドボケイト」という名称を使っているところもあります。心理学、社会学を学んだ事務職がやっているところもあれば、看護師等の医療職がやっているところもあります。ポジションも、トップに近いところに配属というご説明をしましたが、そうではない場合もいっぱいあります。いずれにせよ病院によってさまざまだということです。
ここまでは、あくまでも病院の職種としてのPRですが、アメリカには、患者代理人という機能を果たす職種が他にもいろいろあります。例えば、患者に雇用されるPRもいます。患者自らがPRを雇う、私の代理人として一緒にこの診断・治療に参加してもらいます、という具合です。医療の現場で先生から話を聞いてもよくわからない。一緒に聞いてもらって、あとから私に詳しく説明をしてもらう。意志決定にいろいろとアドバイスをもらう。こう決めたということを、先生になかなか話せない。一緒に行って上手に話してください。・・・というようなことをやってくれるPRを患者が雇用するわけです。これはまさに患者代理人という機能を果たしている職種です。ボランティアのような団体のなかで活動している方もおられれば、個人営業ベースで仕事をしていらっしゃる方もおられます。
ペイシェント・レプリゼンタティブ(Patient Representative以下PR)というのは、日本語に訳がないので「患者代理人」としてご紹介させていただいていますが、いうなれば患者さんの不満よろず解決人です。投書箱とかアンケートとか、いろいろな方法はあるものの、もっと積極的に患者さんの声を聞きたい。そのためにきちんと人を置く。その人が責任をもって問題を解決する。そういう趣旨で置かれている職種です。
当然、PRのところに入ってくる情報はさまざまですし、なかにはリスクマネジメントの視点から大変重要ものもありますから、リスクマネジメント部とは密接な連携を取っています。
ベス・イスラエル・メディカルセンターの場合、PRは病院の職員です。所属については、日本でいうと事務部長のようなところに直属の形で配属されていたと記憶しています。確実ではありませんが、いずれにしても、極めてトップに近いところに配属されていたということは申し上げていいと思います。どういうことかと言えば、PRのところに入ってくる情報というのは、それがどう解決されたかも含めて、病院として大変貴重な情報であると位置づけているということです。トップがダイレクトに聞く。場合によっては、聞いたあとストレートに指示を出していく。そういった、トップダウンで動かしていくような枠組の中に置かれている職種だということもご紹介しておきたいと思います。
なお、このPRについては、決してポジティブな見方だけをされているわけではありません。「患者代理人?笑っちゃうよ。所詮は病院の職員でしょう」。こういう言い方は当然出てくるわけです。最終、ギリギリのところでどちらに立つのか。「お給料をもらっている病院でしょう。それで何が患者の代理?」。こじれてくれば、そういう言い方をされる。実際、されている職種でもあります。
ただ、病院の職種ではありますが、できるだけフェアに、患者さんの立場に立ってものごとを見ていこうとするそのことを具体的な職種というかたちにしているという意味で、医療の現場に必要な、そして、注目すべき職種ではないかと思っています。
もう1点、あるPRがこう話してくれたこともご紹介しておきたいと思います。「気を付けないと、本来直接話し合うべき人たちの壁になってしまうことがある。患者さんと医師が直接向き合わなければいけないのにPRがいるために向きあわないようなことになってはいけない。別な言い方をするなら、医師に都合良く使われてしまって、向き合うことを避けさせているようなことになってはいけない。PRが単なる防火壁になってしまわないように注意している。」
なおこれはあくまでも、ベス・イスラエル・メディカルセンターのPRです。
PRのあり方は病院によってもさまざまです。「ペーシェント・リプリゼンタティブ」という名称を使っているところもあれば、「アドボケイト」という名称を使っているところもあります。心理学、社会学を学んだ事務職がやっているところもあれば、看護師等の医療職がやっているところもあります。ポジションも、トップに近いところに配属というご説明をしましたが、そうではない場合もいっぱいあります。いずれにせよ病院によってさまざまだということです。
ここまでは、あくまでも病院の職種としてのPRですが、アメリカには、患者代理人という機能を果たす職種が他にもいろいろあります。例えば、患者に雇用されるPRもいます。患者自らがPRを雇う、私の代理人として一緒にこの診断・治療に参加してもらいます、という具合です。医療の現場で先生から話を聞いてもよくわからない。一緒に聞いてもらって、あとから私に詳しく説明をしてもらう。意志決定にいろいろとアドバイスをもらう。こう決めたということを、先生になかなか話せない。一緒に行って上手に話してください。・・・というようなことをやってくれるPRを患者が雇用するわけです。これはまさに患者代理人という機能を果たしている職種です。ボランティアのような団体のなかで活動している方もおられれば、個人営業ベースで仕事をしていらっしゃる方もおられます。
Q: 厚生労働省のヒヤリ・ハット事例収集への参加が決まっておりますが、それだけでなく、あえて今日、目を向けていかなければいけない問題があると思います。個人への教育はどうでしょう。病院団体の医療事故担当として、さまざまなケースを見てきました。あの医師の、あの看護師のあのひと言がなかったら、訴訟にまでいかなかったのではないかというケースが多々あります。事故が起こって初めて、あの人は前々から言動に問題があったでは、リスクマネジメントとして何もしていないと責められても仕方がないことです。個人の教育をどこに求めていけばいいでしょうか。
(更新日:2003-10-15)
A: 人は誰でも間違える。それを前提にした事故防止、安全管理を考えていかなければいけないというアプローチはそのとおりです。しかし、人は誰でも同じように間違えるわけでもない。そこのところはきちんと整理していかなければならないと思っています。
組織や環境やシステムの問題を考えていくと同時に、個人の問題も考えていかなければいけない。「どちらか」ではなくて「どちらも」だと思っています。
個人の問題は、アメリカでも大変重要な問題とされています。人は誰でも間違えることを前提にきちんと事故防止を考えていこう、人が持つ限界に配慮したシステムを作っていこうとすると同時に、安全に問題がある医療従事者を特定して、対応できるメカニズムを作っていくことも大事であるとしています。そしてそのことは、リーダーシップに関わることであるとしていることも付け加えておきたいと思います。
ちなみに、アメリカの医療の現場では、それなりにいろいろなことに取り組んでいます。こんな例でご紹介しておきたいと思います。
ある病院が、薬剤の事故防止に取り組みました。取り組む前に、なぜ事故が起きているのかを調べてみたところ、医師の汚い字、わかりにくい指示で起きていることが少なくないということがわかった。で、どうしたのか。薬剤部長名と薬物療法部長名で、先生宛に手紙を出すことにされたそうです。「ディア・ドクター・レター」という名称です。どんな中身か。「○○先生。先生の字はいかんともしがたく読み難い。もっとちゃんと書いてね」。詳細は省きますが、単に出すだけではなくて、何回出しても改善の余地が見られないと、ちゃんと書けるようになるまで、しばらく外来の診療停止といったペナルティがかかる仕組みだそうです。
さて、いまの私たちの取り組み、いかがでしょう。「あなたの問題」を「みんなの問題」にしてしまっているようなことはないだろうか。「これとこれをこうしなさい」とすべき話を「きちんとやりましょう」という話にしてしまっているようなことはないだろうか。あらためて見直してみる必要があるのではないでしょうか。
組織や環境やシステムの問題を考えていくと同時に、個人の問題も考えていかなければいけない。「どちらか」ではなくて「どちらも」だと思っています。
個人の問題は、アメリカでも大変重要な問題とされています。人は誰でも間違えることを前提にきちんと事故防止を考えていこう、人が持つ限界に配慮したシステムを作っていこうとすると同時に、安全に問題がある医療従事者を特定して、対応できるメカニズムを作っていくことも大事であるとしています。そしてそのことは、リーダーシップに関わることであるとしていることも付け加えておきたいと思います。
ちなみに、アメリカの医療の現場では、それなりにいろいろなことに取り組んでいます。こんな例でご紹介しておきたいと思います。
ある病院が、薬剤の事故防止に取り組みました。取り組む前に、なぜ事故が起きているのかを調べてみたところ、医師の汚い字、わかりにくい指示で起きていることが少なくないということがわかった。で、どうしたのか。薬剤部長名と薬物療法部長名で、先生宛に手紙を出すことにされたそうです。「ディア・ドクター・レター」という名称です。どんな中身か。「○○先生。先生の字はいかんともしがたく読み難い。もっとちゃんと書いてね」。詳細は省きますが、単に出すだけではなくて、何回出しても改善の余地が見られないと、ちゃんと書けるようになるまで、しばらく外来の診療停止といったペナルティがかかる仕組みだそうです。
さて、いまの私たちの取り組み、いかがでしょう。「あなたの問題」を「みんなの問題」にしてしまっているようなことはないだろうか。「これとこれをこうしなさい」とすべき話を「きちんとやりましょう」という話にしてしまっているようなことはないだろうか。あらためて見直してみる必要があるのではないでしょうか。
Q: アメリカの中小病院、診療所のリスクマネジメントについて。
(更新日:2003-10-15)
A: アメリカの中小病院、診療所も、中小病院、診療所なりのリスクマネジメントに、大変熱心に取り組んでいます。
アメリカ医師会からは、かなり早い時期に診療所向けのリスクマネジメントのテキストも出ています。テキストには、診療所ならではの視点からこういうところに注意していこうということが具体的に書かれているのですが、その背景には、診療所であればこそのリスクマネジメントが大事である、スタッフ一人ひとりの教育が大事である、スタッフ一人ひとりがリスクマネジャーの気持ちになって取り組むことが大事である、といった姿勢があったように思います。
アメリカ医師会からは、かなり早い時期に診療所向けのリスクマネジメントのテキストも出ています。テキストには、診療所ならではの視点からこういうところに注意していこうということが具体的に書かれているのですが、その背景には、診療所であればこそのリスクマネジメントが大事である、スタッフ一人ひとりの教育が大事である、スタッフ一人ひとりがリスクマネジャーの気持ちになって取り組むことが大事である、といった姿勢があったように思います。
Q: 在宅、老健等の長期療養施設のリスクマネジメントについて。
(更新日:2003-10-15)
A: いま日本において、在宅、長期療養施設での事故、そして続く紛争、訴訟が問題になりつつあります。アメリカでも、在宅、長期療養施設におけるリスクマネジメントの必要性は早い時期から指摘されていました。
在宅、長期療養施設であれば、病院とはまったく違う視点での事故防止、安全管理も必要になってくると思います。例えば老健施設の場合、生活に近いレベルで起きる事故の防止を考えていく必要があります。本当に思いがけないことが起きますから、防止もさることながら、いかに早く対処するかというところに力を発揮しなければいけないことにもなります。また、在宅の場合、病院のように何かあるときすぐに応援が得られないなかでの対応を考えておかなければなりません。自宅という場で比較的関係者が少ないなかで起きていることが、事故、紛争、訴訟、いろいろな時点での問題の解決を難しくしていくことも多いようです。
在宅、長期療養施設であれば、病院とはまったく違う視点での事故防止、安全管理も必要になってくると思います。例えば老健施設の場合、生活に近いレベルで起きる事故の防止を考えていく必要があります。本当に思いがけないことが起きますから、防止もさることながら、いかに早く対処するかというところに力を発揮しなければいけないことにもなります。また、在宅の場合、病院のように何かあるときすぐに応援が得られないなかでの対応を考えておかなければなりません。自宅という場で比較的関係者が少ないなかで起きていることが、事故、紛争、訴訟、いろいろな時点での問題の解決を難しくしていくことも多いようです。
Q: 病院内、特に看護部で、リスクマネジメントに取り組んでいます。最近、ヒヤリ・ハット、インシデントを起こしているスタッフが、業務において、何をするにも萎縮してしまっているように思えるという、現場からの指摘を受けました。
私自身は、起こしたことを分析して、再発防止につなげていこうとしているつもりですが、「責めている」と言われているようなところもあるのか。こういうことが起きるのでしょうか。
私自身は、起こしたことを分析して、再発防止につなげていこうとしているつもりですが、「責めている」と言われているようなところもあるのか。こういうことが起きるのでしょうか。
(更新日:2003-10-15)
A: 「再発防止につなげていこうとしているつもりなのに、『責めている』と言われてしまうようなことが起きるのか」ということであるならば、「そうことも起きます」とお答えすることになります。再発防止を考えていく立場からはそのつもりがなかったことも、事故を起こした当事者にとっては違って聞こえることは決してめずらしいことではありません。というよりそういうことが起こりうるという可能性を常に意識しておく必要があると思います。だからこそ、責めているのではなく、事故防止、安全管理の視点からの取り組みなのだということを、常にアピールしてもいかなければいけないことになります。
また、もし「責めている」という思いを持たれた方がおられたとするなら、どういうところでそういう思いを持たれたのか、聞かれてみることも大事だと思います。
「あのひと言がこたえた」「あの言われ方が辛かった」「時間に追われている中で、責められているような気がした」というような意見から、こういうところに気を付けていかなければいけないという一つひとつに気付くことができます。
また、もし「責めている」という思いを持たれた方がおられたとするなら、どういうところでそういう思いを持たれたのか、聞かれてみることも大事だと思います。
「あのひと言がこたえた」「あの言われ方が辛かった」「時間に追われている中で、責められているような気がした」というような意見から、こういうところに気を付けていかなければいけないという一つひとつに気付くことができます。
Q: インシデントレポートの報告について「報告者が正直に報告することで院内的に不利な扱いを受けることがない」として報告書を積極的に書いてもらっていますが、一方で重大な事故を起こした場合や繰り返し事故を起こす職員は院内的にも処罰の対象となったり、賞与検討の材料になる可能性があります。そのあたりの兼ね合いはどう考えたらよろしいのでしょうか?
(更新日:2004-8-16)
A: まず、「インシデントレポートの報告」についてですが、「インシデント」という用語の使い方も組織によってさまざまです。「インシデント」については、「患者さんに傷害が起きていないもの、いわゆるヒヤリハットを意味している場合」と「患者さんに傷害が起きているものと起きていないものの両方を含む場合」がありますが、ここでは、前者であるとして考えてみます。そして、「一方で重大な事故を起こした場合や繰り返し事故を起こす職員」について。「事故」についても、一般的に「不可抗力」によるものと「過失」によるものがあるわけですが、ここでは、後者の「過失によるもの」であるとして考えてみます。
「インシデント」が「患者さんに傷害が起きていないもの、いわゆるヒヤリハットを意味している場合」、すなわち、「間違いに気付き事故にならずにすんでおり、その間違いを、間違いの再発防止ならびに事故の発生防止に活用するために報告されたもの」であるならば、「報告者が正直に報告することで院内的に不利な扱いを受けることがない」ということでもいいと思います。ただ、ご質問の「一方で重大な事故を起こした場合や繰り返し事故を起こす職員」を読みかえて、「一方で過失による重大な医療事故を起こした場合や繰り返し過失による医療過誤を起こす職員」への対応を考えていくというのであれば、傷害が起きていない場合と同じ、というわけにはいかないのではないでしょうか。過失によるものであればなおさら、事故防止・安全管理の取り組みの報告以前に、業務の報告が行われていかなければならないはずです。「院内的にも処罰の対象となったり、賞与検討の材料になる可能性」もあるのではないでしょうか。
それからもう一点、ご質問にある「繰り返して事故を起こす職員」について。もし「繰り返して事故を起こしている」ということがわかったのであれば、見過ごすべきではないと思います。「事故」が、不可抗力によるものなのか、過失によるものなのか、同じ事故を繰り返し起こしているのか、異なる種類の事故をいろいろ起こしているのか、それによって対応が違ってきます。また、「事故」だけでなく「繰り返して間違いを起こす職員」についても同様です。同じ間違いを繰り返し起こしているのか、異なる種類の間違いをいろいろ起こしているのか、それによって対応も違ってきます。いずれにしてもまずは「繰り返している」という事実を本人に気付かせることです。
「インシデント」が「患者さんに傷害が起きていないもの、いわゆるヒヤリハットを意味している場合」、すなわち、「間違いに気付き事故にならずにすんでおり、その間違いを、間違いの再発防止ならびに事故の発生防止に活用するために報告されたもの」であるならば、「報告者が正直に報告することで院内的に不利な扱いを受けることがない」ということでもいいと思います。ただ、ご質問の「一方で重大な事故を起こした場合や繰り返し事故を起こす職員」を読みかえて、「一方で過失による重大な医療事故を起こした場合や繰り返し過失による医療過誤を起こす職員」への対応を考えていくというのであれば、傷害が起きていない場合と同じ、というわけにはいかないのではないでしょうか。過失によるものであればなおさら、事故防止・安全管理の取り組みの報告以前に、業務の報告が行われていかなければならないはずです。「院内的にも処罰の対象となったり、賞与検討の材料になる可能性」もあるのではないでしょうか。
それからもう一点、ご質問にある「繰り返して事故を起こす職員」について。もし「繰り返して事故を起こしている」ということがわかったのであれば、見過ごすべきではないと思います。「事故」が、不可抗力によるものなのか、過失によるものなのか、同じ事故を繰り返し起こしているのか、異なる種類の事故をいろいろ起こしているのか、それによって対応が違ってきます。また、「事故」だけでなく「繰り返して間違いを起こす職員」についても同様です。同じ間違いを繰り返し起こしているのか、異なる種類の間違いをいろいろ起こしているのか、それによって対応も違ってきます。いずれにしてもまずは「繰り返している」という事実を本人に気付かせることです。
Q: ヒヤリハット事例も確かに重要ですが、事故事例の収集をどのように質を高めて収集するかということは、現在の日本では対策が遅れており、個人的には非常に重要だと思います。事故発生時のリスクマネジャーの責務は大きいのではないでしょうか。アメリカでは事故発生時にリスクマネジャーは緊急に呼び出され、医師を含めたスタッフに適切な指示をしてできるだけ正確な状況記録の保全を行うと聞いています。それらの証拠がその後の分析、対策、予防に結びついていくことを考えると日本でも早急にこのようなシステム作りをしていくことが重要ではないでしょうか。
(更新日:2004-8-16)
A: このご質問はヒヤリハットの話ではなく、実際に事故が起きた時のかかわり方の話です。
まずご質問にあるアメリカの現場について。テキスト20ページのフォーカスト・オカレンス・レポートティング・フォームを見ていただきながらお話しておこうと思います。フォームには16項目あるのですが、例えばその6番目「Status」にある3つ(入院して24時間以内の死亡、退院して24時間以内の再入院、予期せぬ死亡)のいずれかが起きた場合には、該当する欄にチェックをして、報告書を提出することになります。リスクマネジャーは、必要に応じて、入院してきた直後の対応に問題はなかったか、退院そのものの判断にまちがいはなかったか、予期せぬ死亡に至る過程に何らかの問題はなかったか、といった調査を始めます。患者さんやご家族からいろいろなご指摘を受ける前にできるだけ早く対応していこうというわけです。
テキストでもご紹介した「Proactiveな対応」です。
ご質問にあるように、このところの事故防止・安全管理のとりくみは、防止がとても大事だということから、事故になる手前のヒヤリハット事例の活用から再発防止を考えていくことには焦点があたっているのですが、気が付くと重大な事故が起きた時の体制が意外と手薄になってしまっていることがあるようです。具体的にいえば、現場のリスクマネジャーや安全管理担当者が事故発生時にどのように関わることになっているのか、きちんと検討されていないことが少なくないのです。大きな事故であればあるほど「病院長に直ちに連絡」という仕組みになっている中で、「ヒヤリハット事例については知らされるけれど、大きな事故であればあるほど蚊帳の外に置かれてしまっていて何が起きているのかわからないまま」ということも少なくありません。
事故防止・安全管理はもちろんですが、事故発生時の対応も重要です。事故発生時には皆さんの組織のリスクマネジャーや安全管理担当者がその発生を知らされるのか、知らされないのか、知らされるならどこまでどのように知らされるのかといったことを、組織の中で整理しておくことがとても大事です。院内研修のテーマとして「事故発生時の対応」を取り上げ、組織の共通の認識としてもっておかれることをお勧めします。
また、「事故発生時の対応」については、特に「事故発生時の記録」にしっかり焦点をあてておくことも必要でしょう。まずは、事故の事実関係をしっかりとつかんでおくこと。これは、そのあとの事故防止のためであれ、紛争・訴訟に向き合っていくためであれ、大変重要です。あらためて、事故の事実関係をしっかりつかんでおくこと、そしてそれを記録としてとっておくことが重要であることを強調しておきたいと思います。
なお、「事故発生時の記録」として考えておかなければならないものは、診療記録ばかりではありません。「事故発生時」には、関連する多くの「記録」があります。その記録のひとつとして医療機器に関する記録も重要です。医療事故であれば医療機器が関わるものが少なくありません。再発防止の検討においても、紛争・訴訟の対応においても、そのとき医療機器がどういう状況にあったのかということがあとからとても大きな問題になることがあります。ところがいざとなると「その時どういう状況にあったのかわからない」ということが少なくないのです。すでに医療過誤訴訟の中では医療機関対機器メーカーという図式の中で訴訟が紛糾していくことも起きています。医療機器が関わる事故については、事故発生時の医療機器の状況があとから大きな問題になる可能性があるということをしっかり認識したうえで、事故発生時には、その医療機器をできるだけそのまま“保全する”ということを心がけていただきたいと思います。とはいっても医療現場では問題になる可能性のあるその医療機器を使って患者さんの救命処置にあたらなければならないことがあるので、思っているほど保全するということは簡単ではありません。であればこそ、あとから大きな問題になる可能性があるということを心に留めて、例えばその時の目盛りやスイッチの状態を記憶しておくというようなことが必要になってくるわけです。ひとりではなく現場の仲間と声をかけあって複数の人間で記憶しておく、といったことも現場の工夫のひとつです。また、必要に応じてカメラでその現場を撮っておくこともお勧めします。医療機器というと、ポンプや人工呼吸器といった高度に複雑なものをイメージしがちですが、実はベッドからの転落ひとつとってみても、そのときのベッドの位置とか柵の状態などがあとからわからなくなってしまい、大きな問題となってくることがあるのです。床でも柵でもその場で印をつけておくといったことも工夫のひとつです。
【注】文中のテキストとは、日本医師会医療安全推進者養成講座で使用している教科書「リスクマネジメント概論(2004年3月発行、第3版)」のことです。
まずご質問にあるアメリカの現場について。テキスト20ページのフォーカスト・オカレンス・レポートティング・フォームを見ていただきながらお話しておこうと思います。フォームには16項目あるのですが、例えばその6番目「Status」にある3つ(入院して24時間以内の死亡、退院して24時間以内の再入院、予期せぬ死亡)のいずれかが起きた場合には、該当する欄にチェックをして、報告書を提出することになります。リスクマネジャーは、必要に応じて、入院してきた直後の対応に問題はなかったか、退院そのものの判断にまちがいはなかったか、予期せぬ死亡に至る過程に何らかの問題はなかったか、といった調査を始めます。患者さんやご家族からいろいろなご指摘を受ける前にできるだけ早く対応していこうというわけです。
テキストでもご紹介した「Proactiveな対応」です。
ご質問にあるように、このところの事故防止・安全管理のとりくみは、防止がとても大事だということから、事故になる手前のヒヤリハット事例の活用から再発防止を考えていくことには焦点があたっているのですが、気が付くと重大な事故が起きた時の体制が意外と手薄になってしまっていることがあるようです。具体的にいえば、現場のリスクマネジャーや安全管理担当者が事故発生時にどのように関わることになっているのか、きちんと検討されていないことが少なくないのです。大きな事故であればあるほど「病院長に直ちに連絡」という仕組みになっている中で、「ヒヤリハット事例については知らされるけれど、大きな事故であればあるほど蚊帳の外に置かれてしまっていて何が起きているのかわからないまま」ということも少なくありません。
事故防止・安全管理はもちろんですが、事故発生時の対応も重要です。事故発生時には皆さんの組織のリスクマネジャーや安全管理担当者がその発生を知らされるのか、知らされないのか、知らされるならどこまでどのように知らされるのかといったことを、組織の中で整理しておくことがとても大事です。院内研修のテーマとして「事故発生時の対応」を取り上げ、組織の共通の認識としてもっておかれることをお勧めします。
また、「事故発生時の対応」については、特に「事故発生時の記録」にしっかり焦点をあてておくことも必要でしょう。まずは、事故の事実関係をしっかりとつかんでおくこと。これは、そのあとの事故防止のためであれ、紛争・訴訟に向き合っていくためであれ、大変重要です。あらためて、事故の事実関係をしっかりつかんでおくこと、そしてそれを記録としてとっておくことが重要であることを強調しておきたいと思います。
なお、「事故発生時の記録」として考えておかなければならないものは、診療記録ばかりではありません。「事故発生時」には、関連する多くの「記録」があります。その記録のひとつとして医療機器に関する記録も重要です。医療事故であれば医療機器が関わるものが少なくありません。再発防止の検討においても、紛争・訴訟の対応においても、そのとき医療機器がどういう状況にあったのかということがあとからとても大きな問題になることがあります。ところがいざとなると「その時どういう状況にあったのかわからない」ということが少なくないのです。すでに医療過誤訴訟の中では医療機関対機器メーカーという図式の中で訴訟が紛糾していくことも起きています。医療機器が関わる事故については、事故発生時の医療機器の状況があとから大きな問題になる可能性があるということをしっかり認識したうえで、事故発生時には、その医療機器をできるだけそのまま“保全する”ということを心がけていただきたいと思います。とはいっても医療現場では問題になる可能性のあるその医療機器を使って患者さんの救命処置にあたらなければならないことがあるので、思っているほど保全するということは簡単ではありません。であればこそ、あとから大きな問題になる可能性があるということを心に留めて、例えばその時の目盛りやスイッチの状態を記憶しておくというようなことが必要になってくるわけです。ひとりではなく現場の仲間と声をかけあって複数の人間で記憶しておく、といったことも現場の工夫のひとつです。また、必要に応じてカメラでその現場を撮っておくこともお勧めします。医療機器というと、ポンプや人工呼吸器といった高度に複雑なものをイメージしがちですが、実はベッドからの転落ひとつとってみても、そのときのベッドの位置とか柵の状態などがあとからわからなくなってしまい、大きな問題となってくることがあるのです。床でも柵でもその場で印をつけておくといったことも工夫のひとつです。
【注】文中のテキストとは、日本医師会医療安全推進者養成講座で使用している教科書「リスクマネジメント概論(2004年3月発行、第3版)」のことです。
Q: 組織として事故を理解するために当事者にかなり深い内容を問いますが、これが訴訟などで当事者に不利益となる内容が相当に含まれると考えますが、組織の利益のために必要なこととして当事者に納得してもらわなければならないのですか。
(更新日:2004-8-16)
A: ご質問にあるように、大きな事故が起きると、医療機関が自ら「事故調査委員会」を立ち上げて事故調査を行い、その結果を「事故調査報告書」としてまとめること、そして、そうした「報告書」を公表するとも少なくなくなってきました。他の医療機関にとっても、そうした「報告書」は事故防止・安全管理の視点から、本当に貴重な資料です。ただ、これから刑事・民事・行政上の処分が問われようとしていく中で「事故調査報告書」が無条件で発表されるということはそれなりにいろいろな影響を及ぼすことになっていきます。「事故調査委員会」の事故調査も、まとめられる「事故調査報告書」も、その目的は、事実関係を明らかにし、再発防止に活かすことにあります。「事故調査報告書」を公表するのは、そうした事故事例を共有し、他の医療機関における発生防止に活かすことにあります。であればこそ、そうした目的で行われた事故調査ならびに作成された報告書が、現実には、その目的以外に使われる可能性、具体的には先に述べたような刑事・民事・行政上の処分に利用される可能性があるということについて、本気で検討していかなければならないと思います。航空機事故調査については、「国際民間航空条約第13付属書」のなかで「罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない」と明記されています。医療事故調査についても、事故調査ならびに事故調査報告書がどのように取り扱われていくことになるのか、法的な環境整備も含んで、早急な検討が必要です。
なお、この「法的な環境整備」の検討は、事故調査ならびに事故調査報告書ばかりでなく、ヒヤリハット報告書、事故報告書、そして、届出など、事故防止・安全管理の取り組みのいたるところで必要とされていることであることも付け加えておきたいと思います。
そのうえで、それでもなお、「事実関係を明らかにする」ことがやはり何より大事である、としておきたいと思います。負わなければいけない責任があるとするならば負っていくしかありません。「当事者の不利益」にはいろいろなものがあります。検討されるべきことが検討されないまま当事者がひとり不当な法的責任を問われることも「不利益」ではないでしょうか。医療の現場で起きる、さまざまな要因が複雑に絡んで起きる事故の責任を、当事者とされる人がひとりで負ってそれで決着といったことがないよう、限られた条件のなかであれ、医療の現場を知り、その事故ならではの状況を明らかにし得る可能性のある医療機関自らが、誠実に事故調査を行い報告書をまとめていくことは、ご質問にある「組織の利益」のためでなく、当事者の権利を守っていくことになるということも心にとめておきたいと思います。
なお、この「法的な環境整備」の検討は、事故調査ならびに事故調査報告書ばかりでなく、ヒヤリハット報告書、事故報告書、そして、届出など、事故防止・安全管理の取り組みのいたるところで必要とされていることであることも付け加えておきたいと思います。
そのうえで、それでもなお、「事実関係を明らかにする」ことがやはり何より大事である、としておきたいと思います。負わなければいけない責任があるとするならば負っていくしかありません。「当事者の不利益」にはいろいろなものがあります。検討されるべきことが検討されないまま当事者がひとり不当な法的責任を問われることも「不利益」ではないでしょうか。医療の現場で起きる、さまざまな要因が複雑に絡んで起きる事故の責任を、当事者とされる人がひとりで負ってそれで決着といったことがないよう、限られた条件のなかであれ、医療の現場を知り、その事故ならではの状況を明らかにし得る可能性のある医療機関自らが、誠実に事故調査を行い報告書をまとめていくことは、ご質問にある「組織の利益」のためでなく、当事者の権利を守っていくことになるということも心にとめておきたいと思います。
Q: リスクマネジメントは組織の資産を効率よく守るのであって事故の防止のとりくみにより医療の質の最低限度の確保がなされても医療の質の向上、水準の向上、医学の進歩前進に関していうと、むしろその足を引っ張る性格のものであると思われる。つまり確立されたことのみをやり続けることが最も安全であり、進歩するすなわちリスクを伴うものでしかないからである。したがって、リスクマネジメントの価値の比重が大きくなりすぎると、危ないことを試みる行為が悪となる可能性があると感じるがどうだろうか。もちろんリスクマネジメントの重要性は認識すべきものだが。
(更新日:2004-8-16)
A: 「リスクマネジメントを考えていけばいくほど新しいこと、進歩することができなくなるのではないだろうか」というご質問として取り上げさせていただきます。このご質問を取り上げさせていただくのは、そうであってはならないということをお話しておきたかったからです。
リスクマネジメントの対応方法には4つ(回避、低減、保有、移転)あるとされています。やるべきではないというのも、ひとつの判断です。でも、やらねばならぬ、やろうということになったのならば、どのようなやり方がいいのかを考えて選択していく。まさにそれがリスクマネジメントだということになります。
日本経済新聞社から「リスク‐神々への反逆‐」という本が出版されています。リスクとは何か、リスクマネジメントとは何かについて、医療の現場に限らずさまざまな分野のリスク全般について書かれた力作です。その本によれば、riskという言葉は、イタリア語の勇気をもって試みるという意味を持つrisicareという言葉に由来するのだそうです。そのご紹介をしたうえで、リスクマネジメントというのは、「向上、進歩、前進の足を引っ張るものではなく、向上、進歩、前進のために、どのようなやり方がいいのかを考えて選択していくものである」、また、「危ないことを試みる行為を悪いこととするのではなく、危ないことを試みなければならないのであれば、その危なさを的確に把握し、どういうやり方がいいのかを考えて選択また危ないことを試みることができるために、活用していくべきものである」としておきたいと思います。
リスクマネジメントの対応方法には4つ(回避、低減、保有、移転)あるとされています。やるべきではないというのも、ひとつの判断です。でも、やらねばならぬ、やろうということになったのならば、どのようなやり方がいいのかを考えて選択していく。まさにそれがリスクマネジメントだということになります。
日本経済新聞社から「リスク‐神々への反逆‐」という本が出版されています。リスクとは何か、リスクマネジメントとは何かについて、医療の現場に限らずさまざまな分野のリスク全般について書かれた力作です。その本によれば、riskという言葉は、イタリア語の勇気をもって試みるという意味を持つrisicareという言葉に由来するのだそうです。そのご紹介をしたうえで、リスクマネジメントというのは、「向上、進歩、前進の足を引っ張るものではなく、向上、進歩、前進のために、どのようなやり方がいいのかを考えて選択していくものである」、また、「危ないことを試みる行為を悪いこととするのではなく、危ないことを試みなければならないのであれば、その危なさを的確に把握し、どういうやり方がいいのかを考えて選択また危ないことを試みることができるために、活用していくべきものである」としておきたいと思います。
Q: National Patient Safety Goalsに関連した質問です。Improve the accuracy of patient identification(患者確認の正確性の改善)に関連して、日本では電子カルテが取り入れられてリストバンドと三点確認が行われつつありますが、アメリカではそのようなものはないのですか?
また、電子カルテのリスクマネジメントに占める役割をどう考えますか?
また、電子カルテのリスクマネジメントに占める役割をどう考えますか?
(更新日:2006-1-16)
A: アメリカでも、さまざまな方法で正確性の確保が試みられています。リストバンドは日本で一般的に使われるようになったはるか以前から導入されていますし、近年では電子カルテはもとより、バーコード、チップといった、いわゆるITを活用しながら、より確実な確認のシステムの構築がさかんに検討されつつあるところです。
「電子カルテとリスクマネジメント」については、「ITと医療安全」としてお話しておきたいと思います。
アメリカにおいて、いまITは、医療安全のみならず医療の質を向上させるうえで大変重要なツールとして位置づけられています。「To Err Is Human(人は誰でも間違える~より安全な医療システムを目指して~)」の後に発表された「Crossing The Quality Chasm(医療の質~谷間を越えて21世紀システムへ~)のなかでも、「ITの活用」は、「エビデンスの現場医療への反映」「質改善に向けた診療報酬支払い方式の見直し」「医療従事者の育成訓練」とともに、医療をめぐる新しい環境の確立に向けて、変革が必要な4つの主要領域のひとつとされています。
ITが重要な役割を果たすようになるであろうことは、日本でも同様だと思います。ご質問にある電子カルテが医療安全に占める役割もとても大きいと思います。なんといってもそれまでにない情報の共有ができるようになります。これまではカルテが手元になければ得られなかった情報が瞬時に見られるようになります。患者情報へのアクセスが容易になるということが、医療安全にとても大きい役割を果たすといわれています。加えて、アクセス可能な人であれば誰もが見ることができることになります。多くの人が見るというのは、安全の視点からとても大事なことです。チェック機能を利かせることもできます。図らずも、誰かが何かに気付くかもしれません。患者情報に関連して、より安全な環境整備が整うことになることも電子カルテのメリットです。
ただ万能ではないということもお話しておきたいと思います。
電子カルテについても、その導入によって、電子カルテだから起きたという事故がすでに起き始めています。これは電子カルテだけでなくITすべてにいえることです。厚生労働省の報告書「今後の安全管理対策について(平成17年6月8日)」には、将来像として「ITの活用」が挙げられていますが、「IT化に伴って生じるリスクがあることや、ITに頼りすぎることの危険性等も考慮されている」ことの必要性も挙げられています。ITで自動的にWarning(警告)がでてくる環境のなかで仕事をしていることによって、ITのWarning無しでは気付くことができなくなってしまっているようなことはないかという現場からの危惧も聞こえてくるところです。
いずれにしても「これが完璧」という再発防止策などどこにもありません。何かが起きて新しい再発防止策を検討する。その新しい再発防止策そのものには新しい事故の要因が潜んでいます。できることは、新しい再発防止策を検討する、その新しい再発防止策によって起きる新しい事故の可能性を検討する、そして、今のものと新しいものとどちらがより安全か、この比較のなかで、選択していくしかありません。
今後ITがさまざまなかたちで活用されていくことになるのは間違いありません。だからこそ、「新しい技術」「新しい環境」であれば、またそれに対応した「新しい医療安全」を検討していかなければならないことを心しておく必要があります。
「電子カルテとリスクマネジメント」については、「ITと医療安全」としてお話しておきたいと思います。
アメリカにおいて、いまITは、医療安全のみならず医療の質を向上させるうえで大変重要なツールとして位置づけられています。「To Err Is Human(人は誰でも間違える~より安全な医療システムを目指して~)」の後に発表された「Crossing The Quality Chasm(医療の質~谷間を越えて21世紀システムへ~)のなかでも、「ITの活用」は、「エビデンスの現場医療への反映」「質改善に向けた診療報酬支払い方式の見直し」「医療従事者の育成訓練」とともに、医療をめぐる新しい環境の確立に向けて、変革が必要な4つの主要領域のひとつとされています。
ITが重要な役割を果たすようになるであろうことは、日本でも同様だと思います。ご質問にある電子カルテが医療安全に占める役割もとても大きいと思います。なんといってもそれまでにない情報の共有ができるようになります。これまではカルテが手元になければ得られなかった情報が瞬時に見られるようになります。患者情報へのアクセスが容易になるということが、医療安全にとても大きい役割を果たすといわれています。加えて、アクセス可能な人であれば誰もが見ることができることになります。多くの人が見るというのは、安全の視点からとても大事なことです。チェック機能を利かせることもできます。図らずも、誰かが何かに気付くかもしれません。患者情報に関連して、より安全な環境整備が整うことになることも電子カルテのメリットです。
ただ万能ではないということもお話しておきたいと思います。
電子カルテについても、その導入によって、電子カルテだから起きたという事故がすでに起き始めています。これは電子カルテだけでなくITすべてにいえることです。厚生労働省の報告書「今後の安全管理対策について(平成17年6月8日)」には、将来像として「ITの活用」が挙げられていますが、「IT化に伴って生じるリスクがあることや、ITに頼りすぎることの危険性等も考慮されている」ことの必要性も挙げられています。ITで自動的にWarning(警告)がでてくる環境のなかで仕事をしていることによって、ITのWarning無しでは気付くことができなくなってしまっているようなことはないかという現場からの危惧も聞こえてくるところです。
いずれにしても「これが完璧」という再発防止策などどこにもありません。何かが起きて新しい再発防止策を検討する。その新しい再発防止策そのものには新しい事故の要因が潜んでいます。できることは、新しい再発防止策を検討する、その新しい再発防止策によって起きる新しい事故の可能性を検討する、そして、今のものと新しいものとどちらがより安全か、この比較のなかで、選択していくしかありません。
今後ITがさまざまなかたちで活用されていくことになるのは間違いありません。だからこそ、「新しい技術」「新しい環境」であれば、またそれに対応した「新しい医療安全」を検討していかなければならないことを心しておく必要があります。
Q: 当院の事例報告ではアクシデント数がインシデント数をはるかに上回っています。これはインシデントとアクシデントの用語定義がもうひとつ明確でないためかと考えられますが、現在のところリスクマネジメントのプロセスの第一段階であるリスクの把握がうまく機能していないように思われます。インシデントとアクシデントの定義はいろいろあると思われますが、リスクを把握するための報告を収集するにおいて的確な定義があれば教えて下さい。
(更新日:2006-1-16)
A: 2つ、お話しておきたいと思います。「的確な定義があるのか」という話と、「アクシデント数がインシデント数を上回っているということをどう考えるか」という話です。
まず、「的確な定義があるか」についてですが、「どこかにそういうものがあるわけではありません」というお返事になると思います。「インシデント」「アクシデント」ですら定義は組織によって異なります。大事なことは、どういう情報が欲しいのかということです。そこから「定義」が決まってきます。ただ、その定義ですが、どのように細かく定義しても、必ずグレーゾーン、「では、これはどっちですか」ということが出てきます。となれば、医療安全の視点からは、「わからないものはとにかく出して下さい」ということになるわけです。
それから、「アクシデント数がインシデント数を上回っている」ということについて。もちろん、現場に入ってもっといろいろなことを伺ってみないとなんとも言えないのですが、なんであれ、「アクシデントが出てきている」というのは大事なことではないでしょうか。そしてそのうえで、なぜアクシデント数がインシデント数より多いのかということについていうならば、いろいろな理由が考えられます。まだアクシデントを報告することの大事さの方が先にたっていて、その手前のインシデントを報告して再発防止につなげていこうという取り組みの意味と意義が職員に十分に伝わっていないのかもしれません。インシデントの報告が何故大事なのかについて、職員研修などで、あらためてお話されるような機会を設ける必要があるかもしれません。
「あなたがやってしまうことは、たぶん他の人もやってしまうから」ということの大事さを確認しておきたいと思います。意外と気付いていただけていないようにも思います。 例えば私がある仕事を指示されたとします。容器からコップに中味を入れ替えて患者さんのところへ持って行ってねと言われ、入れ替える途中でこのコップではなかったと気付きます。ヒヤリハット報告を書く動機を敢えて言えば、「冗談じゃないわよ、勘弁してよ」でいいと思います。「入れ替えてはいけないコップが何故同じトレイの中に置かれているのよ!置かれていたら入れたくなっちゃうじゃない!」という気持ちです。これをこのままにしていたら、次に同じ仕事をする人も同じように間違えて入れ替えてしまうかもしれない。私は気付いたけれど次の人は気付けないまま入れ替えてしまって事故になるかもしれない。これをこのままにしておいたら他の人も同じように間違ってしまう、それを助け、大きな事故になるのを防ぎたい。そこに気付いていただくと、体験したヒヤリハット事例を組織で共有していくことの大事さをもう一回見直していただけると思います。 考えてみれば、インシデントの共有なんて、実は特別な事ではないのです。ロッカールームで帰り際にいろいろな会話を交わします。「今日は参った、もうドキドキだったの。」「どうしたの?」「実はね・・・」という会話があって、「わぁ、大変だったわね、私も気をつけよう。」「じゃぁ、またね。」と別れて帰ることもよくあると思います。残って一人で着替えながら「あぁ、そういうことってあるんだな、私も気をつけよう。」と思う、そういうことを医療従事者は積み上げてきているわけです。ただロッカールームの会話だとその2人の会話で終わります。それを組織の事例として共有して、50人、100人が知れば、その情報はもっと有効に活用されることになります。そして、「気をつけよう」だけではなくて、皆で起きないようにするにはどうしたらいいかを考えて、起こさずに済むようにできることになります。日頃やっていることを組織のシステムとしていこうというだけのことだということに気付いていただくこともいいのではないでしょうか。
まず、「的確な定義があるか」についてですが、「どこかにそういうものがあるわけではありません」というお返事になると思います。「インシデント」「アクシデント」ですら定義は組織によって異なります。大事なことは、どういう情報が欲しいのかということです。そこから「定義」が決まってきます。ただ、その定義ですが、どのように細かく定義しても、必ずグレーゾーン、「では、これはどっちですか」ということが出てきます。となれば、医療安全の視点からは、「わからないものはとにかく出して下さい」ということになるわけです。
それから、「アクシデント数がインシデント数を上回っている」ということについて。もちろん、現場に入ってもっといろいろなことを伺ってみないとなんとも言えないのですが、なんであれ、「アクシデントが出てきている」というのは大事なことではないでしょうか。そしてそのうえで、なぜアクシデント数がインシデント数より多いのかということについていうならば、いろいろな理由が考えられます。まだアクシデントを報告することの大事さの方が先にたっていて、その手前のインシデントを報告して再発防止につなげていこうという取り組みの意味と意義が職員に十分に伝わっていないのかもしれません。インシデントの報告が何故大事なのかについて、職員研修などで、あらためてお話されるような機会を設ける必要があるかもしれません。
「あなたがやってしまうことは、たぶん他の人もやってしまうから」ということの大事さを確認しておきたいと思います。意外と気付いていただけていないようにも思います。 例えば私がある仕事を指示されたとします。容器からコップに中味を入れ替えて患者さんのところへ持って行ってねと言われ、入れ替える途中でこのコップではなかったと気付きます。ヒヤリハット報告を書く動機を敢えて言えば、「冗談じゃないわよ、勘弁してよ」でいいと思います。「入れ替えてはいけないコップが何故同じトレイの中に置かれているのよ!置かれていたら入れたくなっちゃうじゃない!」という気持ちです。これをこのままにしていたら、次に同じ仕事をする人も同じように間違えて入れ替えてしまうかもしれない。私は気付いたけれど次の人は気付けないまま入れ替えてしまって事故になるかもしれない。これをこのままにしておいたら他の人も同じように間違ってしまう、それを助け、大きな事故になるのを防ぎたい。そこに気付いていただくと、体験したヒヤリハット事例を組織で共有していくことの大事さをもう一回見直していただけると思います。 考えてみれば、インシデントの共有なんて、実は特別な事ではないのです。ロッカールームで帰り際にいろいろな会話を交わします。「今日は参った、もうドキドキだったの。」「どうしたの?」「実はね・・・」という会話があって、「わぁ、大変だったわね、私も気をつけよう。」「じゃぁ、またね。」と別れて帰ることもよくあると思います。残って一人で着替えながら「あぁ、そういうことってあるんだな、私も気をつけよう。」と思う、そういうことを医療従事者は積み上げてきているわけです。ただロッカールームの会話だとその2人の会話で終わります。それを組織の事例として共有して、50人、100人が知れば、その情報はもっと有効に活用されることになります。そして、「気をつけよう」だけではなくて、皆で起きないようにするにはどうしたらいいかを考えて、起こさずに済むようにできることになります。日頃やっていることを組織のシステムとしていこうというだけのことだということに気付いていただくこともいいのではないでしょうか。
Q: 看護部はリスクマネジメントの取り組みを熱心にしていますが、医師はあまり熱心ではありません。医師をリスクマネジメントに積極的に取り組ませるにはどうしたら良いでしょうか。具体的に良い方法はありますか。
(更新日:2006-1-16)
A: 「リスクマネジメントの取り組み」を「医療安全の取り組み」としてお話させていただきます。
「医師があまり熱心ではない」「良い方法はありますか?」というのは、よくいただく質問です。残念ながら、これという「具体的に良い方法」をお示しすることができません。
ただ、医療安全において医師が果たすべき役割はとても大きい、というより中心的役割を果たしていただかなければやはり最後のところで成果があがらない。では具体的にどうしたらいいのか。「あきらめてはいけない」と思います。病院のなかには、熱心、とまではいかなくても、大事だと言ってくださる医師がおられるのではないでしょうか。いろいろな局面でバックアップをしてくれる、一緒に取り組んでくれる「チャンピオン」を探して成果をあげていく、というのは、現実的なアプローチのひとつだと思います。
そうした現実的なアプローチで取り組みつつ、「現場で良い方法を探して」というだけではなく、医師に限らず、医療に関わる全職種が医療安全について共通の意識を持つことができるように、それぞれの卒前教育の過程における医療安全に関する体系的な教育が早急に検討されることも期待したいと思います。
また、「医師からの報告書が少ない」というご質問もいただいています。これもよくいただく質問です。とはいえ、現場で仕事をしていると、そうはいってもずいぶん出てくるようになりましたよね、という思いもあります。こんな例があります。少し前ですが、若手の医師が「ヒヤリハットでは遅いのではないか、ヒヤリハットしそうという段階で報告していかなければいけないのではないか」と言ってくれました。楽天的だといわれるかもしれませんが、嬉しくなります。
ちなみに、「医師からの報告書もたくさん提出されている」という病院のお話を聞くと、やはり医師の中に「大事だから出していこう」と言ってくだっている方がおられるようです。特にトップの方が率先して出そうといって下さることが大きいようです。
ただ繰り返しますが、「報告書が提出されるかどうか」ということだけが問題ではないと思います。医療安全の視点でいうならば、大事な問題が検討されているかどうか、です。例えば死亡症例検討会で医療安全の視点からも検討され、そこからの再発防止策が共有されていくのであれば、そこでひとつ、医療の質にも踏み込んだ質の高い議論ができることになります。アメリカでも死亡症例検討会にリスクマネジメントや医療安全に関する部署であるQuality Improvementのメンバーが参加することで、死亡症例検討会そのもののありようが変わってきたことを報告している病院があります。我々の取り組みも、次のステップとしてそのようなことも視野に入れていくことになるのではないでしょうか。
「医師があまり熱心ではない」「良い方法はありますか?」というのは、よくいただく質問です。残念ながら、これという「具体的に良い方法」をお示しすることができません。
ただ、医療安全において医師が果たすべき役割はとても大きい、というより中心的役割を果たしていただかなければやはり最後のところで成果があがらない。では具体的にどうしたらいいのか。「あきらめてはいけない」と思います。病院のなかには、熱心、とまではいかなくても、大事だと言ってくださる医師がおられるのではないでしょうか。いろいろな局面でバックアップをしてくれる、一緒に取り組んでくれる「チャンピオン」を探して成果をあげていく、というのは、現実的なアプローチのひとつだと思います。
そうした現実的なアプローチで取り組みつつ、「現場で良い方法を探して」というだけではなく、医師に限らず、医療に関わる全職種が医療安全について共通の意識を持つことができるように、それぞれの卒前教育の過程における医療安全に関する体系的な教育が早急に検討されることも期待したいと思います。
また、「医師からの報告書が少ない」というご質問もいただいています。これもよくいただく質問です。とはいえ、現場で仕事をしていると、そうはいってもずいぶん出てくるようになりましたよね、という思いもあります。こんな例があります。少し前ですが、若手の医師が「ヒヤリハットでは遅いのではないか、ヒヤリハットしそうという段階で報告していかなければいけないのではないか」と言ってくれました。楽天的だといわれるかもしれませんが、嬉しくなります。
ちなみに、「医師からの報告書もたくさん提出されている」という病院のお話を聞くと、やはり医師の中に「大事だから出していこう」と言ってくだっている方がおられるようです。特にトップの方が率先して出そうといって下さることが大きいようです。
ただ繰り返しますが、「報告書が提出されるかどうか」ということだけが問題ではないと思います。医療安全の視点でいうならば、大事な問題が検討されているかどうか、です。例えば死亡症例検討会で医療安全の視点からも検討され、そこからの再発防止策が共有されていくのであれば、そこでひとつ、医療の質にも踏み込んだ質の高い議論ができることになります。アメリカでも死亡症例検討会にリスクマネジメントや医療安全に関する部署であるQuality Improvementのメンバーが参加することで、死亡症例検討会そのもののありようが変わってきたことを報告している病院があります。我々の取り組みも、次のステップとしてそのようなことも視野に入れていくことになるのではないでしょうか。