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(財)日本医療機能評価機構/医療事故防止センターの取り組み

 財団法人日本医療機能評価機構・医療事故防止センター(野本亀久雄センター長)はこのほど、医療事故情報収集等事業の第5回報告書をまとめた。(※)同事業は報告義務対象医療機関ならびに参加登録申請医療機関から報告された医療事故情報等を収集・分析、提供することにより、医療機関が医療安全対策に取り組む際の有用な情報を共有するとともに、国民への情報提供を通じて医療安全対策の一層の強化を図ることが目的。


■医療事故防止センターの概要

ushiro
日本医療機能評価機構
後(うしろ)部長

 (財)日本医療機能評価機構(以下機構)といえば、病院機能評価事業や医療機能評価に関する調査研究などがイメージされるが、医療機能評価以外にも、医療情報サービス事業、認定病院患者安全推進事業、医療安全支援センター総合支援事業など幅広い事業を展開しており、医療事故防止事業もその一環。

 機構が医療事故防止事業に取り組むに至った経緯について触れると、厚生労働省の医療安全対策検討会議の中に設けられた「医療に係る事故事例情報の取り扱いに関する検討部会」が平成15年に公表した報告書で、「医療事故事例情報を幅広く収集し、総合的に分析・検討したうえで、その結果を事故の発生予防・再発防止に役立てるために幅広い仕組みを構築すべきであること。そのために行政および医療事故の直接の関係から独立し、国民や医療関係者から信頼される中立的な第三者機関が必要である」ことを提言したことがきっかけになった。機構が医療事故防止センターを付設したのは平成16年7月1日。同年10月1日付で医療法施行規則の一部改正が行われ、特定機能病院等に対して医療事故の報告が義務付けられたことを受け、機構が厚生労働大臣の登録を受け、法令に基づく医療事故情報の事故等分析事業を行う登録分析機関となった。

 一方、厚労省は平成13年から医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(現(独)医薬品医療機器総合機構)を通じて医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリ・ハット事例収集事業)を開始していたが、16年度からは機構が同事業を引き継ぎ、第11回以降のヒヤリ・ハット事例収集にも取り組んでいる。ヒヤリ・ハット事例収集事業、医療事故情報収集事業は、いずれも関係医療機関のほか、ホームページを通じて広く国民にも情報提供されている。

 機構が医療安全に取り組む意義について、医療事故防止センター医療事故防止事業部の後信(うしろ・しん)部長は、「第三者機関が中立的な立場で行うことで意識や関心が高まり、医療関係者だけでなく広く社会的に医療安全対策を考える上での基礎資料になる」と語る。


■医療事故情報収集・分析・提供事業

 同事業で情報収集する医療機関は、(1)報告義務対象医療機関(2)参加登録申請医療機関―の2種類。報告義務対象医療機関とは、法令で定められた医療機関で「国立高度専門医療センター及び国立ハンセン病療養所」「独立行政法人国立病院機構の開設病院」「大学の附属病院(分院を除く)」「特定機能病院」で現在272施設。また参加登録申請医療機関とは任意に申し込んで参加することになった施設で、現在288施設が登録している。(図表1)

【図表1】

 医療事故防止センターが実際に医療事故の収集事業を始めたのは平成16年10月からで、第1回報告書は平成17年4月に提出されている。調査内容は毎回同じような項目で行っているが、それとは別に個別項目を取り上げ、一定期間継続的に行うなど工夫を凝らしている。



■第5回報告書の内容

 第5回報告書は平成18年1月から3月までの3か月間で報告件数は330件であった。ちなみに平成17年1月から12月までの1年間では1114件の報告が上がっている。第5回報告書から『事故の概要』をみると、件数的には「治療・処置」が112件で全体の33.9%とトップ。平成17年の1年間でも30.2%を占めている。次いで「療養上の世話」が76件、23.0%、「その他」62件、18.8%、「医療用具等」41件、12.4%などだった。
 『事故の程度』では「障害残存の可能性がある(低い)」が184件、55.8%、「死亡」52件、15.8%、「不明」47件、14.2%、「障害残存の可能性がある(高い)」43件、13.0%などだった。
 『発生場所』では「病室」が圧倒的に多く、全330件中、148件、44.8%だった。次いで「手術室」の61件、18.5%だった。
 『関連診療科』では、「消化器科」が31件、7.8%、次いで「整形外科」「外科」「循環器科」などの順だった。なお、「その他」の場所も50件、12.6%が上げられた。
このほか第5回報告書から主な特徴をピックアップすると―。

●発生曜日では木曜日がトップ
 アメリカの自動車工場では月曜日に組み立てた車は危険といわれるが、医療事故報告書では、木曜日が64件、金曜日60件、火曜日58件で、月曜日はウイークデーでは最も少ない41件だった。(図表2)

●発生時間帯は10〜11時台、14〜15時台が52件で最も多い

 通常の診療時間帯に多いが、午後10時〜午前1時といった深夜にも事故が発生している。

●入院・外来の区分
 入院・外来の区分では圧倒的に入院で全体の80%超。入院期間は31日未満が192件で全体の6割弱。32日超は71件だった。

●当事者の職種(複数回答)
 医師265件、看護師183件でいずれも患者に接する機会が多い職種だった。(図表3)

●当事者の経験年数、部署配属年数
 職種別経験年数では、医師は4年時に23件とピークがあり、0年、1年といった若年に特に多いわけではなかった。看護師は0年、1年、2年に多い傾向があり、経験年数が浅いほど当事者になるケースが多かった。また、部署配属年数では、医師、看護師とも0年が最も多かった。(図表4,図表5

●勤務時間
 長時間勤務で疲労が溜まって事故につながるとも考えられる。当事者の直前1週間の平均勤務時間では医師が49.2時間、看護師が37.4時間であった。やはり医師の勤務時間は長いようだ。ただ、看護師は3交代の勤務体制が把握しやすいが医師の場合、「どこまでが勤務なのか、勤務外なのかの判断がつきにくい」(後部長)ため、実際の勤務時間は不明だ。

【図表2】


【図表3】


【図表4】


【図表5】



■個別テーマの検討

 医療事故防止センターの医療事故情報収集等事業で特徴的なのは、個別のテーマを取り上げ、重点的に継続調査をすることである。平成18年1月1日から3月31日の間に報告された事例からは「薬剤」「医療機器」「医療処置」「患者取り違え」などを取り上げている。
 例えば薬剤では、薬物療法を行う際の業務の流れを5段階に分類して整理した。各段階における事例は以下の通り。

  1. 指示段階=指示段階における事例は5件。内訳は同系薬との間違い、アレルギー禁忌薬剤の投与、投与量の間違い、急性硬膜下血腫に気づかず、抗凝固剤を投与―など各1件だった。
  2. 指示受け・申し送り=事例は2件。内訳は口頭指示による薬剤の投与方法の間違い、指示内容の誤認により適切に薬剤投与がなされなかった事例である。
  3. 準備段階=事例は7件。薬剤間違い1件、薬剤量間違い4件、薬剤濃度間違い1件、薬剤日数間違い1件だった。
  4. 実施段階=事例は1件で、同一薬剤を投与予定だった他の患者の薬剤を間違えて投与した。
  5. 実施後の観察及び管理=事例は2件。2件とも高齢者へのフルニトラゼパム製剤の経静脈的投与後の心肺停止だった。
  6. その他=上記段階以外の事例は3件。検査前処置薬により腸閉塞と腸管壊死が発生した事例1件、造影剤使用後の意識障害1件、薬剤の副作用による不可避的な事例1件だった。

■共有すべき医療事故情報

 通常ではあってはならない、考えられない事故が稀に発生する。専門的な知識や特別の配慮がなくとも対応できるはずが、ちょっとした油断や不注意から事故につながることがある。報告書では事故事例の分析班等において広く共有すべきであると考えられた事例の概要を示している。

〔事例1〕療養上の世話
 患者の入浴介助中の熱傷。1件はエレベートバスでお湯の温度を確認しなかったために起った。もう1件はシャワー使用中に切り替えたカランから熱湯が出ていた事例。
〔事例2〕医療処置
 手術の前処置としてグリセリン浣腸を患者の希望からトイレで立位により行って、直腸穿孔を起こした。


■研修会

 医療事故防止センターの医療事故情報収集等事業では、報告書の発表を受けて「医療事故の分析と報告に関する研修会」を開催している。昨年は3月に実施し、69人が受講、今年は7月に50人の参加で行った。参加人数が少ないのは、「事故事例を根本的に解明する手法(RCA)についての指導者が不足しているため」(後部長)という。申し込み自体は定員の3〜4倍あるものの需要に追いつけないのが実情だ。昨年は年1回の開催だったが、今年度は2回を計画している。研修は2日間にわたり、RCA演習、RCA運営の実際、スクール形式での発表など極めて内容は濃い。


■課題

 ヒヤリ・ハット事例も含む医療事故情報収集等事業の報告書は、報告書がまとまった段階で記者発表され、ホームページでも公開されているため、医療関係者のほか一般国民も閲覧することが可能だ。しかし内容は膨大であり、すべてを読みこなすことは困難。自らも外科医である後部長は「医療従事者の気持ちとしては、現場の医師や看護師などは業務に追われて目を通す時間が足りない、と感じているのではないか」と指摘する。そのため「個別の施設ごとに、共有すべき事例などに対象を絞って院内でキャンペーンを行うなどすればかなり効果は上がるのではないか」という。とくに共有すべき事項であげられた熱傷事故などは、「温度確認」の注意を呼びかけるだけでも違うはずだ。

 報告書の内容について後部長は、「チェック欄よりも文字で記載する欄の情報量が足りない報告例がまだある」と指摘する。詳細な報告が事故防止対策にもつながるだけに、質の向上を図りたい考えだ。研修会でも報告書の書き方などを指導しているところだ。また、研修会については指導者の関係で定員を絞り込まざるを得ない。「指導者の養成も大きな課題」と後部長。

※財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集・分析・提供事業」に関するホームページ http://jcqhc.or.jp/html/accident.htm#med-safe