HOME >> コンテンツ一覧 >> 医療安全をとりまく動向ここに注目! >> 「医薬品の処方チェック用データベース」

医薬品の処方チェック用データベース

 近年、医療安全に対する意識は高まりつつある。しかし医薬品の誤投与や投薬後の副作用など医薬品にかかわる医療事故は後を絶たない。こうした医療事故をどのような方法で防ぐことができるのか。対策のひとつとして、医薬品の処方チェックをするデータベースの活用が図られている。開発に取り組んできた「株式会社メソナ(本社・東京都)」のCOO兼副社長・竹之内喜代輝氏を取材した。


処方の自動チェックが可能に

 現在日本では、18,000種類もの医療用医薬品が販売されている。これらひとつひとつに適応症、用法・用量、禁忌などが細かく決められており、その情報は膨大な量におよぶ。医師や薬剤師が医薬品に関するすべての情報を理解し、特定の疾患に対して最適な治療薬を迅速かつ的確に選択するのは非常に難しい。
 薬学博士でもある竹之内氏は
「医薬品を適正に使用するためには、その膨大な情報が十分に整理され、さらにチェックされることが必要です。つまり電子カルテや医事会計システムなどの医療情報システムによる自動チェック化が求められているのです」
と話す。
 同社は、医薬品の検索や処方チェックするデータベースである『投薬基本情報マスター』を開発した。この商品を既設の医療情報システムに組み込めば、処方した薬が治療の目的とする病名に適合しているか、使用してはいけない疾患の患者に投与されていないか、併用してはいけない薬と同時に処方されていないか、などを瞬時にチェックできる。
「医師が処方した薬の内容をチェックするには、医薬品情報を収載したマスターが必要なのに、これまで汎用的なチェック用のマスターがなかったため、各医療機関が自主的に作成しなければならず、マスターの作成・維持という作業が大変でした。そのため、せっかく電子カルテを導入しても、医薬品の処方に関してはノーチェックという事態も生じていました。これまでは何とか頑張ってきた医療機関でも、今後は、ジェネリック医薬品の普及による代替調剤や持参薬への対応等のために院内採用薬以外にも対応しなければならないので、マスターの維持は事実上不可能となっています」
と、竹之内氏は話す。
 医薬品の処方チェックをする場合、情報のおおもととなるのは添付文書だ。しかし添付文書に記載されている内容は、チェックを自動化するにおいて十分なものとは言えない。
 たとえば「併用禁忌」に関しては、銘柄名での表記ではなく一般名しか書かれていない場合が多い。しかし臨床現場での処方は銘柄名で行われるため、添付文書の内容をデジタル化しただけのテキストデータでは、まったくチェックできないことになる。また、単純に銘柄名でテキストデータを作るにしても、同じ銘柄名でもさまざまな剤型があったり、病名によって投与量に違いがあるなど、自動チェック化はできなかった。


医薬品情報をコード化

 そこで同社ではチェックマスターを開発する際に、医薬品の添付文書をひとつひとつ解析し、効能・効果、禁忌など医薬品チェックのためのキーワードを切り出して、コード化した。さらにそれぞれの項目を関連付ける作業を重ねていった。


【図表1】


適応病名、禁忌病名に関するデータベース化は、次のような3段階の作業で行われる。
1.添付文書の記述を解析して「キーワード化」を行う。
2.関連病名を整理・整頓して、採否を決める。
3.病名にICD10コードおよびレセプト電算病名コードをふる。

実際どのようにコード化した内容がチェックに使われるのか、「ボスミン注」を例に説明する。「ボスミン注」の添付文書には、併用禁忌薬として、以下のような記載がある。
(1)ハロタン等のハロゲン含有吸入麻酔薬
(2)ブチロフェノン系・フェノチアジン系の抗精神病薬、α遮断薬
(3)イソプロテレノール等のカテコールアミン製剤、アドレナリン作動薬

 しかしこれらの文字情報だけでは、コンピュータによる自動チェックはできないため、投薬基本情報マスターでは、(1)から(3)のような禁忌相手薬のカテゴリーを分類。おのおのについて、約18,000の医療用医薬品の中から該当するすべての医薬品を抽出し、その個別商品コード(YJコード)をデータ化している。
 以下は、「投薬基本情報マスター」の中の「ボスミン注」の併用禁忌薬のフィールドのデータだ。


【図表2】

1112700X1011\1112700X1038\1119401A1028\1119701G1025\1119701G1041
\ 1119701G1050\1119702G1020\1151001F1020\1151400A1020\1169006C1020
\1169006M1026\1169006M2022\1171001F1014\1171001F1022\1171001F1073
\1171001F2010\

(省略)

\2590402A1016\2590402A1024\2590402A1040\2590402A1059\2590402A1075
\2590402A1083\2590402A1091\2590402A1105\2590402A1113\2590402A1121
\2590402A1130\2590402A1156\2710804U1022\6391700X1027\6391700X2023
\6391700X3020\6391700X4026\7290404A1020\8219500A1029\8219500A2025


¥を区切り記号として12個の数字とアルファベットが並んでいるが、これがボスミン注の併用禁忌薬の個別医薬品コードで、全部で713個ある。
 例えば、最初の「1112700X1011」は、「ハロタン」で、(1)の「ハロタン等のハロゲン含有吸入麻酔薬」に該当する。最後の「8219500A2025」は「タラモナール」で(2)の「ブチロフェノン系の抗精神病薬」に該当する。

 なお、併用禁忌相手薬は、銘柄名で指定してある場合は少なく、○○系剤とか一般名での指定が普通である。Aという薬の添付文書にはBが併用禁忌となっていても、Bの添付文書にはAが併用禁忌になっていないことがある。(通称:片思い)。投薬基本情報マスターでは、この様な場合、BからみてもAが禁忌になるようにマスターを構成している(通称: 両思い)。
 また、先発品には併用禁忌の記載があっても、ジェネリックには記載がない場合がある。投薬基本情報マスターでは併用禁忌を一般名で管理しているので、記載のないジェネリックでも正確なチェックが可能だ。
 莫大な量の医薬品をカテゴリー分類し、整理整頓し、採否を決めて管理するのは大変な作業だが、コード化されたマスターデータベースを用いたことで、医療情報システムによる自動チェックが可能になった。また、コード化のおかげで、投薬基本情報マスターは、下記のような多くのチェック機能を備えたデータベースに仕上がっている。

□併用禁忌チェック
□用法用量チェック
□禁忌病名チェック
□適応対象病名チェック
□非適応対象病名チェック
□重複投与チェック
□妊婦投与禁忌チェック
□授乳婦投与禁忌チェック
□小児投与禁忌チェック
□高齢者投与禁忌チェック
□粉砕可否チェック

 なお禁忌病名チェックや適応対象病名チェックでは、病名のデータも必要になる。投薬基本情報マスターでは、財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS−DC)の標準病名マスターに対応し、ICD‐10コードおよびレセプト電算処理コードのいずれを使ってもチェックができるようにした。
 また、医薬品の名前には非常に似たものが多く、これまでに類似医薬品を誤投与する医療ミスがしばしばあった。たとえば血圧の薬アルマールを投与するつもりが、血糖降下剤アマリールを投与してしまった場合は非常に危険で、実際に死亡例もあるほどだ。投薬基本情報マスターでは病名と医薬品名の関連付けを行って、情報をコード化したおかげで、こうした類似医薬品の誤投与は防ぐことができているという。
「医療現場はとにかく忙しく、医師や薬剤師に誤投与には注意しようという意識があっても、人間の力には限界があります。即座にこれだけ多くの項目を自動的にチェックできれば、頻発している投薬ミスの多くは防げると考えています」
と、竹之内氏は話している。


薬剤師や事務方の負担も軽減

 投薬基本情報マスターはデータベースなので、ソフトがあればいろいろな使い方ができる。電子カルテばかりではなく、多くの病院が設置しているようなレセプト電算システムなどの医療情報システムに組み込めば、自動的に医薬品の処方もチェックされる。診療報酬を請求する前に医薬品の適正使用のチェックをすることで「返戻」を減少させる効果も期待できる。
 また、自院採用薬データのメンテナンスは、法令改正時はもちろん、日々の更新作業についても担当者にとって大きな負担となっているが、投薬基本情報マスターは、最新データを年4回(1月、4月、7月、10月)提供しているので、メンテナンスを簡単に且つ確実に行うことができる。
 医薬品を処方する医師ばかりではなく、薬剤師や事務方も含めた負担の軽減につながりそうだ。
「医薬品の適正使用というのは、副作用問題で取り沙汰されているような医療安全という面だけではなく、医療の質の向上や医療に関する業務の効率化も同時に実現するものでなければなりません。多忙な医療現場で、こうしたツールを上手に利用していただきたいと思っています」
と、竹之内氏は話している。