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「離島・へき地の医師不足対策」

〜長崎県離島・へき地医療支援センター〜

写真=大塚俊弘課長

数多くの離島を抱え、医師の偏在に悩む長崎県では、40年前からへき地の医師不足の問題に取り組んできた。平成16年には「長崎県離島・へき地医療支援センター」を設立。公務員の身分保障をするなど独自のシステムのドクターズバンク事業を推進し、成果を上げている。 長崎県福祉保健部医療政策課の大塚俊弘課長に話を聞いた。

40年前から離島医師養成システムをスタート

長崎県は大小約600もの島を有し、島の面積が全体の45%を占める離島県だ。現在のところ、有人離島は55あり、県の人口の約12%に相当する17万人が住んでいる。長年、離島医療の充実は県政上の最重要課題として対策がなされてきた。県の離島医療事業への取り組みは古く、昭和40年代にスタート。その二本柱は、「長崎県離島医療圏組合」と「長崎県医学修学資金制度」の設立だった。

離島医療圏組合は昭和43年、県と離島が一体となって病院経営を行うことを目的に、壱岐、五島、対馬の3つの大型離島に位置する市町村が設置した。現在は合計9病院を経営し、いずれも離島医療の拠点病院となっている(参考:組合の事業)。

一方長崎県医学修学資金制度は、昭和45年に創設された長崎県独自の奨学金制度である(参考:長崎県医師養成制度の概要)。県が長崎県医学修学資金貸与制度をスタートさせてから2年後の昭和47年に、へき地医療・地域医療を充実させることを目的に自治医科大学が開学。以後、長崎県は県独自の貸与制度と自治医科大学の「自治医科大学派遣制度」の両輪で離島医師の養成を進めてきた。

今も続く離島医師養成システムでは、県の医学修学資金を貸与されている医学修学生、自治医科大生双方に在学中から共通の研修プログラム(離島でのワークショップやミーティング、病院見学など)が提供される。卒業後も『長崎県養成医』として、同じ臨床プログラムをこなしていく。

離島医師養成システムは功を奏し、現在、対馬、下五島、上五島の3地域においては、心臓外科手術、脳外科手術、未熟児対応などの特殊高度医療以外のすべての疾患に対し、島の中だけで完結できるようになった。

小さな診療所にも医師の派遣を

「長崎県離島・へき地医療センター」を新設

ところが長崎県の離島医師の確保は病院中心で行われてきたため、診療所の医師の確保は立ち遅れてしまった。図は、長崎県内各地の人口10万人当たりの医師数を示している。

長崎県の人口10万対医師数
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長崎県全体では全国平均の209.8人を上回り、261.1人の医師がいるが、離島や半島部などでは足りていない。とくに、長崎県離島医療圏組合病院のない離島診療所の医師不足は深刻だ。自身も医師として離島の勤務経験がある大塚課長はこう話す。

「離島に勤務する医師は、医療技術に関する不安、子どもの教育や家族の生活の不安、将来的な老後の不安など様々な問題を抱えます。それを少しでも解消することが重要です」

そこで平成16年、離島診療所の常勤医を確保するための県独自の強化策として、長崎医療センターの中に「長崎県離島・へき地医療センター」を新設した。離島・へき地医療センターの最も重要な役割は「ドクターバンク事業」だ。

離島の市町からの要請を受け、医師を全国的に公募して県職員として採用し、離島の公立診療所へ医師を派遣する。派遣は原則2年が1単位で交代制。ただし、1年半勤務したのち、本人の希望があれば残りの半年間の有給自主研修期間が取得できるシステムも用意した。これは、離島に勤務することで最新の医療情報や技術から取り残されるという医師側の不安の解消と、慣れない離島生活からのリフレッシュのために県が独自に考えたもの。派遣医師の給与は、面歴10年目で離島医療圏組合病院の医師と同水準の年収1600万円程度(研修期間は減額)であり、派遣を受けた市町村が負担する。退職金は派遣元である県が支払う。

各診療所に交代で複数の医師を派遣するのは「医師個人がひとつの離島診療所を支えるのではなく、『長崎県離島・へき地医療支援センター』というチームで、長崎県の地域医療を支えてもらう」という考えで負担を減らしてもらう狙いがある。さらに、支援センターの専任医師および国立長崎医療センターのスタッフが、24時間365日の支援体制を取る。離島医療を経験したことのない医師でも安心して勤務できるよう、万全のバックアップをするわけだ。

2007年1月現在、問い合わせは87名、応募者は12名、条件付きで応募の意志表示をしている医師も10名ほどいる。これまで派遣要請のあった5つの診療所(小値賀町診療所、長崎市池島診療所、佐世保市宇久診療所、平戸市大島診療所、西海市松島診療所)に常勤医を派遣したほか、9名の医師を離島・へき地の診療所・病院へ斡旋紹介した。応募者のプロフィールは、開業医や救急病院の勤務医、元大学教授などさまざま。年齢も30代から70代まで幅広いが、40代、50代が約半数を占めている。ドクターズバンク事業への参加動機として、いずれも離島における地域医療に高い関心を示しているほか、県の全面的なバックアップに安心する医師も少なくない。大塚課長はこう話す。

「私自身も離島勤務を経験したから言えることですが、人口移動が少なく、コンパクトにまとまった小コミュニティや限られた医療資源しかないという離島の環境は、地域医療を行うにも疫学研究をするにも最高のフィールドです。医師の募集活動で最も大切なことは、離島医療の魅力を丁寧に伝えていくこと。問い合わせがあった場合には、私も離島医師時代の経験をお話しするようにしています」

また、大学にも積極的に地域医療にかかわってもらおうと、県では2004年度長崎大学大学院に「離島・へき地医療学講座」という寄附講座を開講した。

長崎県離島へき地医療支援体制図
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「これまで大学は離島部の一部の病院への医師派遣は行ってきましたが、医師養成までは着手していませんでした。しかし開講以後は、大学側も離島・へき地医療スタッフの養成を大学教育の重点課題として位置づけてくれるようになりました」

現在離島部の医師不足は解消されつつあり、県では今後、やはり医師不足が深刻な半島部の対策にも力を入れていくという。ITを利用した遠隔地診療システムやヘリでの搬送なども導入し、どこの地域でも安心して暮らせる医療体制作りを目指している。


(取材:熊谷わこ)