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最先端医療シミュレーション施設 「メディカルプラネックス・イースト」


〜シミュレーションで安全管理を体得〜

 年々高度化する医療機器を模擬体験できる施設として、多くの医師に利用されてきたメディカルプラネックス。医師ばかりでなく看護師なども安全管理を学べる新棟が増設され、2007年4月のオープンを迎える。施設内の様子を一足早くレポートする。



自分の手で機器を動かし、技術を習得する

 近年、医療の現場における安全管理に対する意識は高まりつつあり、各医療施設でもさまざまな対策を講じている。しかし、ますます高度化し、効率化が進む現代医療の中で、ヒヤリハット事例や医療事故は後を絶たない。これらの一因には、医療従事者のスキル不足がある。たとえば内視鏡手術の操作やICU内での管理の中で生じるミスなどは、医療従事者がある程度のトレーニングを積み、状況に慣れていれば避けることができたかもしれない。現在こうしたトレーニングを積む機会は、大学や医療関連の専門学校の中の教育課程などごくわずか。そのため臨床の場がいきなりトレーニングの場になっている場合も少なくない。

 こうしたニーズに応える施設として、2002年、神奈川県足柄上郡中井町に医療トレーニング施設「メディカルプラネックス(現・ウエスト棟 延べ床面積約七千平方メートル)」が設立された。医療機器メーカーの テルモ株式会社 (本社・東京)が運営しており、同社製品の研究開発機関を兼ねているが、学会や医療機関、大学医学部などの教育機関単位での利用者も多く、高い評価を得ている。施設内には、X線造影室2室、内視鏡室1室ならびに手術室3室と全6室を設置。X線造影室では、最新式の血管造影装置や生体情報モニタを備え、実際にカテーテルを使った実験ができる。手術室では心臓手術時に不可欠な人工心肺装置を直接操作することが可能だ。これまでに医師ら1万人超の利用があった。

 2007年4月には、この施設を拡張して新棟「テルモメディカルプラネックス・イースト」がオープンする。 テルモ株式会社 の 君島邦雄 広報室長はこう説明する。

 「既設のウエスト棟が開設された5年前と較べると、医療の現場はますます高度化と効率化が進み、それにともなってヒヤリハット事例や医療事故も頻発しています。臨床の現状に合わせたトレーニングのニーズがますます高まってきていると言えるでしょう。そこで実際の病院と同様の設備やコンピュータを使った最新のシミュレーション機器などを備えた施設を新たに設置することにしました。また、ウエスト棟は医師の利用が中心でしたが、昨今はチーム医療が一般化し、安全管理には医療関係者全員で臨む必要があります。そこで新棟は医師だけではなく、看護師、臨床工学技士、薬剤師など幅広い職種の医療関係者がトレーニングできるような施設にしてあります」



君島邦雄広報室長

病院と同じ状況を忠実に再現 チーム医療としての安全管理を検証

メディカルプラネックス・イースト

 イースト棟は延べ床面積が、地上二階地下一階建てで、延べ床面積七千平方メートル。「Hospital Studio」、「Simulator Zone」、「Art of Medical Engineering」の3つのゾーンから構成されている。

■Hospital Studio


Hospital Studio

模擬病院イメージ1

 新棟最大の特徴が「模擬病院」設備だ。広大な1フロアに、手術室のほか、集中治療室(ICU)、病棟、調剤室などを備える。ベッドや医療機器類にはすべてキャスターがついており、それぞれの病院や研修内容に合わせて自由に配置を変えることができる。医療現場同様の環境の中で、医療事故を回避するためのトレーニングを行うことが可能だ。

 「病院におけるヒヤリ・ハットは、自分が気をつけるだけでは解決しない場合も多い。自分も含め、その場にいるすべての人の行動を検証することも非常に大切です」と君島室長。

フロアの周囲には一段高い場所を用意し、評価を行うスコアラーが立てるようにした。

 フロア上でのそれぞれの動きはビデオで記録し、手術室内は動線をリアルタイムで表示する設備を備えている。

 今回、手術室で血管造影検査の際の看護師から医師への器具の受け渡しの場面を再現してもらった。医師と看護師に扮したスタッフが、とくに意識しない受け渡し方と、より的確で効率良くした場合の二通りを実施。後者の方法で行えば、看護師が患者へのケアに集中できることを検証した。

 また、ICUのゾーンでは、ダミー人形を寝かせた二台のベッドを設置。輸液や薬液の点滴、機器類のコードなども、実際の病院と同じものを用意した。ミスのない配置法や最も効率的な動線の確保などを習得できるようにしてある。

 「実際の病院では、ICUは重篤な患者さんが対象なので、教えるほうにも教わるほうにも余裕がありません。忙しい中で一から教育しようとすると、患者さんに対する処置がおろそかになる危険もあるし、教える内容に漏れも生じます。こういう場で注意事項を頭にいれたうえで、実際のICUで実践するという方法もあります」と君島広報室長。

 なお、調剤室には薬剤のミキシングを行う安全キャビネットやクリーンベンチを設置。無菌調剤の研修にも対応している。

模擬病院イメージ2


■Simulator Zone


 医療機器の進歩とともに、新しい手技の習得が医師にも求められる。シミュレータ・ゾーンでは、内視鏡下で行う血管採取術や、カテーテル脳血管手術、身体に負担の少ない腕からのPTCA(経皮的冠動脈形成術)などを行うシミュレータを設置した。

 人体の形を透明な樹脂で作った「脳血管モデル」では、脳内血管の太さ、形状、位置をリアルに再現。平面ではわかりにくい血栓の位置などを間近で確認できる。今回は透明の血管を用いてコイル塞栓の様子を観察した。

シミュレータ・ゾーンイメージ1

シミュレータ・ゾーンイメージ2

 また、心臓血管のモデルでは、あらかじめ内蔵された10症例のうち1症例を選び、模擬カンファレンスを実施。狭窄を起こしている部分へ血管造影の画像を確認しながら、カテーテルを挿入するという体験をさせてもらった。実際とまったく同じカテーテルが挿入されていく感触を体験することができる。


■Art of Medical Engineering


 現在医療経済の圧縮が進められ、在院日数の短縮とともに、在宅医療が推進されている。今後は病院だけではなく、家庭へと医療の場が広がっていくことを予測し、新棟には模擬居宅も作った。人間工学の見地からの検証、ユーザビリティテスト、医療関係者の在宅医療研修などを実施していく予定だという。




 今後は医師の学会や看護師の団体などに利用を呼び掛け、有料で運営していくという。
(料金については4/7以降公表される予定です)

 「病院間の垣根を越えて最新の技術を習得したり、安全管理を意識するのは大きな意味があると考えています。また、こうした設備を設けることは、医療機器の開発担当者がユーザーである医師ら医療関係者から直接ニーズを聞き取る機会にもなり、より安全な医療機器の開発にも結びつくはずです」と君島広報室長は話している。




(取材・熊谷わこ)