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患者持参薬―複写式一覧表でリスク軽減


東京慈恵会医科大学第三病院

 医療過誤、医療事故の中で医薬品の投与に関連するエラーが大半を占めるといわれている。中でも最近注目されているのが、患者の持参薬に関連する過誤・事故の事例である。他院や外来で処方された医薬品が病棟でのチェックをすり抜け、重複投与や相互作用などの事態を引き起こすことがある。2004年に国立大学病院で持参薬にからむ死亡事故が発生し、問題がクローズアップされた。今日、多くの病院で持参薬管理システムが構築されるようになったが、ここでは東京慈恵会医科大学第三病院の取り組みを紹介する。

川井課長
写真=川井課長
平島係長
写真=平島係長

■従来は看護師主体で確認

 患者が持参した医薬品を院内で正確に把握し、有害事象の発生を未然に防ぐことは薬剤師に課せられた義務とも言えるが、全入院患者についてリアルタイムで把握することはマンパワーや勤務体制の面から困難だ。

 薬剤部の平島徹係長によると、従来、同院では患者の持参薬に対する明確な方針がなかった。持参薬は主に看護師が中心になって確認しており、薬剤師は看護師が把握した内容の確認や薬剤の鑑別を依頼されていた。この場合、薬剤師は患者と接触していないため、服薬状況や薬剤管理、副作用、アレルギーなど患者に重要な情報を看護師に伝えることができなかった。

 また、看護師が確認した後で薬剤管理指導業務(薬剤師が病棟で行う服薬指導や薬歴管理)について医師の同意を得て、入院患者に指導する際に「看護師にも話したのに薬剤師にも同じことを話すのか」といった苦情もあったという。薬剤部では以前から独自に持参薬確認表を作成していたが、薬剤師が確認したものを看護師が転記して必要な情報を利用していた。この方法では転記ミスも生じやすい。また看護師や医師が確認した場合には、同院の採用薬との比較や規格チェックなどにも膨大な労力がかかっていた。

 要するに、医師、看護師、薬剤師がそれぞれの立場で取り組んでいたために、労力の割には効率が悪く、必ずしも患者の安全に結びついているとはいえない状況だった。



■3枚複写式持参薬一覧表で情報を共有化

 こうした中で、持参薬問題にどのように対応できるかを模索した。そこで検討されたのは、医師、看護師、薬剤師の連携とすべての持参薬に対する薬剤師の関与である。

 持参薬対策については、2004年10月に薬剤関連事項検討委員会で医師、看護師、薬剤師の三者による協議を行い、全ての入院患者の持参薬に薬剤師がどう関与し、患者の安全を確保するかを検討した。現状を分析した結果、医師は非常に多忙であり、患者の持参薬を確認することは困難な状況がある。看護師も多忙という点では同じであり、かつ医薬品に対する知識が不足しているため、持参薬剤師の管理を行うにはリスクが大きい。

 それでは薬剤師が全面的にかかわることができるかといえば、薬剤部も日常業務に忙殺されており、リアルタイムで対応できない事情がある。また、病棟に出向いても薬剤管理指導業務の同意が得られない患者には直接面接できないという、難点がある。

 これらの様々な事情を踏まえつつ、検討委員会では患者の安全を最優先にすることで意見を統一。従来看護師が行っていた入院時の持参薬の管理を処方の責任者である医師と薬剤師が行うことで基本的な合意を得た。しかし、前述のような各職種の事情があり、具体的にどのような手法によって行うかを検討した。

 検討の結果、3枚複写式の「患者持参薬一覧表」という帳票を導入することとした。この結果、全ての入院患者の持参薬確認に薬剤師が関与することが可能になった。患者持参薬一覧表は、1枚目を医師カルテ控え用、2枚目を看護師病棟控え用(投薬管理に使用)、3枚目を薬剤師控え用とした。

 一覧表の記載項目は、患者氏名、生年月日、性別などの基本情報のほか、薬物アレルギーの有無、副作用歴、服用困難な剤形の有無など、薬物治療上必要な情報、患者持参薬の商品名、規格、用法・用量とそれに対応する病院採用薬の有無、病院採用薬品の規格・薬効などが記載できるようになっている。また持参薬をそのまま服用する場合には、看護師が病棟で投薬管理表として利用できるように、看護師控え用には「投薬管理」欄を設けた。


一覧表 看護師用

 運用に当たっては、各職種の業務に支障を来たさないように、また効率的に活用できるようにと「運用マニュアル」を作成した。マニュアルは、医師による薬剤管理指導の同意書がある場合とない場合の2種類とした。マニュアルの要点は、必ず医師もしくは薬剤師が持参薬を確認すること。薬剤管理指導について医師の同意がある場合は、まず薬剤師が持参薬を確認すること、指導がない場合でも後日、必ず薬剤師が確認すること、看護師は医師の指示を待って持参薬の継続や中止を行うことである。


表1.運用マニュアル1(薬剤管理指導の医師の同意書がある場合)


  1. 病棟薬剤師は、患者持参薬を確認し、患者持参薬一覧表に記入する。
  2. 医師は病棟薬剤師が確認した内容をチェックし、看護師に継続・中止などの指示をする。
  3. 看護師は医師の指示を受けてから、投薬を開始する。
  4. 患者持参薬一覧表は、1枚目を医師、2枚目を看護師、3枚目を薬剤師がそれぞれ保管する。
  5. 病棟薬剤師が不在の場合には、医師が患者持参薬を確認し、一覧表の記載を行い、指示を出す。薬剤師は後日内容を確認し、必要に応じて情報提供を行う。

運用マニュアル2(医師の同意がない場合)


  1. 医師は患者持参薬を確認し、看護師に継続・中止などの指示をする。
  2. 看護師は医師からの指示を受けてから、投薬を開始する。
  3. 後日、薬剤師は医師が記入した患者持参薬一覧表を確認し、必要な情報提供やチェックを行い、病棟に搬送する。

 3枚複写式の持参薬一覧表の運用は2005年1月から開始した。開始後1か月経過した時点で薬剤部が中心になって新方式の評価についてアンケートした。

持参薬データ2

 その結果、持参薬確認(採用薬品名確認、規格確認、用法・用量確認、残数確認)については、導入前ではいずれも看護師が確認しているケースが多く、特に用法・用量では、50.6%、残数では81.0%にものぼった。また薬剤師は医薬品名、規格確認が多かったが、他のかかわりは極めて少なかった。

 一方、導入後は薬剤師のかかわりが全項目で2倍以上増えた。特に薬品名確認は38.1%から62.0%に、規格確認は39.7%から63.4%に増えた。

 また、医師が持参薬の継続処方を記載する際に一覧表を参考にするかどうかでは、96%が「参考にする」と答えており、「薬剤師が関与することで処方記載ミスが軽減した」(川井龍美薬剤部課長)という。

 持参薬一覧表を導入したメリットについて、医師、看護師、薬剤師の意見を聞いた。その結果、看護師からは「薬剤師の専門性が発揮される」との回答が多く寄せられた。これについて、薬剤部の平島徹係長は「薬剤師の業務が評価された」と歓迎する。


表2.一覧表の導入のメリット


()内は人数
看護師の意見
  • 薬剤師の専門性が発揮される(25)
  • 持参薬の適正使用に繋がる(12)
  • リスクが軽減される(11)
  • 看護師の業務が軽減される(6)
  • 当院採用品が一目でわかる(6)
  • 情報の共有化が図れる(5)
  • 患者持参薬に対する医師の意識向上に繋がる(4)
  • 複写式で便利である(2)
  • 確認がしやすい(2)
医師の意見
  • 持参薬の適正使用に繋がる(8)
  • リスクが軽減される(5)
  • 医師の業務量が軽減される(4)
薬剤師の意見
  • 当院採用品との比較が明確になる(14)
  • 持参薬の適正使用に繋がる(5)
  • 情報の共有化が図れる(5)
  • 薬剤部からの問い合せが減る(4)

 川井課長は、持参薬一覧表導入の結果、医師、看護師との連携が深まり、薬師の評価が高まったことについて、「薬剤師が病棟に出向いてチーム医療や患者の服薬支援に貢献してきたことが背景にあるのでは」と分析する。

 同院では2004年から全13病棟に薬剤師を常駐させている。そのうち3病棟については午前9時から17時まで、他の病棟は午前中の病棟派遣だが、これによって医薬品にかかわる業務は薬剤師が責任を負う体制ができあがった。持参薬問題で主体的に活動した平島係長は病棟薬剤師のリーダーでもある。



■薬剤部が手術予定患者の薬剤チェックも

 こうした活動が薬剤部の新しい展開を生み出しつつある。それは、1年前からトライアル的に進めてきた外科手術予定患者への薬剤調査への取り組みである。特に抗凝固薬を服用している患者の場合、手術に踏み切れないことが生じる。外科手術対象患者が発生した場合、薬剤部に連絡が入り、薬剤部で他院処方薬の有無を確認、休薬が必要かどうかを判断し、休薬期間についても何日必要かを依頼表に記載して担当医に渡す。場合によっては処方した医師と手術を行う医師とが話し合いを持ち、リスクの回避を図る。今年2月の段階では9件中4件で術前の休薬措置が取られたという。

 川井課長は、「院内のセーフティマネジメントの中に薬剤師を根付いてきたことで、医師・看護師・薬剤師のトリプルチェックが可能になった。今では病棟から薬剤師を引き上げることはできない。薬剤師にとっては業務は増えることになるが、スタッフは諸手を挙げて取り組んでくれた」と評価する。薬剤師の人員配置問題が厚労省の検討会で協議されているが、同院では薬剤師の貢献が認められ仮定数ではあるが、定員プラス2の増員が認められている。

外科手術等予定患者薬剤調査フローチャート

(取材・企画:藤田道男)