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『院内感染防止に使いやすい消毒薬のガイドラインを作成』

〜東北感染制御ネットワークの『消毒薬使用ガイドライン2007』〜

院内感染を予防する上で、「消毒」は非常に重要な役割を果たしている。東北6県の医療関連施設で働くスタッフで結成された「東北感染制御ネットワーク(代表・賀来満夫東北大学教授)」は、消毒薬を適正に使用してもらうため、「消毒薬使用ガイドライン2007」を作った。 作成委員をつとめた山形大学医学部の白石正准教授(同大医学部附属病院副薬剤部長、感染制御部副部長)に話を聞いた。

写真=白石正准教授

消毒薬の適正使用に向け、情報の共有化を

東北6県(青森・秋田・岩手・山形・宮城・福島)では地域ごとに医療施設関係者らが感染対策の活動に取り組んできたが、その活動は東北全域へと広がり、2005年には『東北感染制御ネットワーク』が設立された。白石氏はこう話す。 「感染対策においては、医療施設間で情報の共有化や感染対策の連携、支援を図ることが不可欠です。実際、東北地方全体で連携し活動を行ってみると、地域あるいは施設ごとに感染対策にかなりばらつきがあることがわかりました。医療の現場では欠かすことのできない消毒薬も、こうしたばらつきが目立ったもののひとつでした」

消毒の基準や方法は、医療施設ごとに作成している。その際日本病院薬剤師会が作成した消毒薬使用指針やCDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病予防管理センター)のガイドライン、各消毒薬の添付文書などを参考にしているものの、施設間でかなり違いが見られた。そのため、新任者や他の施設からの転任者はもちろんのこと、長く勤務しているスタッフでも自分の病院でどのような消毒方法を採っているのか理解していなかったり、不明な点が出てきたときに何を参考にすればいいのか、誰に聞けばいいのか迷う人も多かった。そこで同ネットワークでは、東北地方の医療関連施設共通でスタッフ誰もが使えるようなわかりやすいガイドラインを作成することを検討し始めたのだという。


実は同ネットワークの前身である宮城感染コントロール研究会が2003年7月に「抗菌薬使用ガイドライン」(右画像)を策定している。これは感染後の対策である抗菌薬の適正使用を、B6版の薄い冊子にまとめたもの。発刊以降、希望者に頒布して使用してもらったところ、「コンパクトなので、病棟でもすぐに開くことができる」「必要最低限の内容だけを載せてあるのでわかりやすい」と好評だった。消毒薬使用ガイドラインの作成に当たって、こうした経験は非常に役に立ったという。

「消毒薬に関するガイドラインやマニュアルはたくさん作られて発売されていますが、大量の情報が漏れなく収載されているために、大きくて分厚いものがほとんど。これでは処置室や病棟に置きにくいし、持ち運ぶのも大変です。またこうした資料のほか、各消毒薬の添付文書は最も参考になる情報源ですが、小さな文字で実際には必要ないような細かい内容まで網羅されているため、消毒薬の専門家ではない医師や看護師が限られた時間の中で必要な情報だけを選択するのは非常に難しい。その結果、『めったに開かれることのない資料』になってしまっていました」

そこで消毒薬使用ガイドラインは、次のような基本方針で作成することになった。

  1. 医療現場ですぐ使用できるものとする
  2. エビデンスに基づいたものにする
  3. 文章量を極力少なくし、表などを多用して見やすくする
  4. 消毒薬一覧には多くの商品名を記載した
  5. 添付文書に記載されていても現実に使用されない項目は記載しない
  6. 持ち歩いてもらえるよう、コンパクトなものにする

「我々が目指したのは現場で使ってもらうためのガイドラインですから、内容は現場に則したものだけに絞りました。それ以上の詳しい内容を知りたい人は、必要に応じて個々にほかの資料を調べてもらえばいい、と割り切るようにしました。その結果、『抗菌薬使用ガイドライン2003』と同じB6版(41ページ)のコンパクトなものが出来上がりました」

エビデンス重視型のガイドライン

ガイドラインは、「総論」と「消毒薬各論」の二部で構成され、そのほかに消毒薬一覧が付けられている。それぞれには、以下の内容を収載した。

  1. 総論
    • 加熱消毒
    • 薬剤消毒
      1. 手指・生体消毒薬:スクラブ、ラビングなど
      2. 器具器械消毒薬:クリティカル器具、セミクリティカル器具、ノンクリティカル器具、内視鏡、手術器具、吸引カテーテル、加湿器など
      3. 環境消毒薬:病室や手術室など
  2. 消毒薬各論
    • 高水準消毒薬:グルタラール、フタラール、過酢酸
    • 中水準消毒薬:アルコール類、ポビドンヨード、次亜塩素酸ナトリウム
    • 低水準消毒薬:クロルへキシジン、第四級アンモニウム塩、両性界面活性剤など
      (※各消毒薬の使用濃度、適応、禁忌、注意点など)
付録:消毒薬一覧

ガイドライン作成の基本方針にもあるように、エビデンスを重視した内容を優先した。つまり、消毒薬の添付文書に記載されていても実際に医療現場で使用する際にそぐわない事項はガイドラインに盛り込まず、添付文書で指示されていなくても確実な感染予防効果があると確認できた項目は記載するようにした。

例えば日常的な床の消毒について、消毒薬の添付文書には「◎%の濃度に薄めて拭き△分放置して…」などと記載されている。しかし、このような時間や手間、費用がかかる方法をとらなくてもこまめに清掃すれば十分だということがわかっている。CDCの2003年環境感染管理のガイドラインでも、床を含む環境表面全般については定期的に清掃すること、ならびに付着した汚物は直ちに清掃することを勧告した上で、汚れの内容が不明な場合や多剤耐性菌による汚染の恐れがある場合のみEPA(Environmental Protection Agency)承認の消毒薬入り洗浄剤で清掃することを勧告している。そのため、消毒薬使用ガイドライン2007には定期的な清掃を重視するよう記したという。

消毒薬一覧を充実

消毒薬一覧には、商品名をすべて記載した。各消毒薬は、使用濃度別に多くの後発商品が発売されており、価格が違うこともあって医療機関ごとに採用している商品が異なっている。そのため一覧では、一般名だけでなく商品名からも使用濃度、消毒対象、適応微生物、適応ウィルスなどの情報を調べられるようにした。

例えば、ハロゲン系薬剤のポビドンヨード(一般名)は5つの濃度で使われており、原液10%使用の場合だけでもイソジン、JDポビドンヨード、ボンゴール、Jヨード、ネグミンなど20近い商品が発売されているが、どの商品を採用していても消毒薬一覧で調べられるという。

パソコンを利用し、迅速に編集

ガイドライン作成の話が持ち上がったのは、2006年4月のこと。その後、同ネットワークのメンバーの中から消毒薬に詳しい薬剤師ら10名を作成委員として選出。6月に初めて作成委員会を開き、それからわずか半年の間に執筆、校正などを行って3月の発行にこぎつけた。

「現場で活用してもらうために、早く形にすることは非常に重要でした。今回、作業を迅速に行うことができたのは、情報技術が普及したおかげです。また、メンバーの中に情報技術に詳しい八戸市民病院の平賀元先生がいたことも大変助かりました。」と白石氏。

通常ガイドラインを作成するとなると、内容の検討、原案の作成、役割分担、原稿の執筆、校正、それぞれの原稿の取りまとめなど、いくつもの工程を経なければならない。そのたびに会議を開いたり、原稿の受け渡しをしたりなど、手間も時間も費用もかかる。

「東北地方での活動とはいえ、最北の青森県から最南の福島県までかなり広範囲に渡っているため、比較的都合のつきやすい日曜日に会議を設定しても、勤務の関係で誰かが欠けると次の作業へ進めない。日程の都合がついたとしても、誰かが幹事になって会場や弁当の手配をするなど大変な作業になってしまいます」

今回は委員全員をメンバーとするメーリングリストを作成。意見交換や情報の共有はすべてメール上で行った。また、原稿の素案を作成した段階でメール上に公開したため、早い段階で文体の統一を図ることができ、校正の際も多くの目で確認した。会議は2回だけで済んだという。

感染対策には消毒薬使用の教育が不可欠

こうしたガイドラインを発行した理由のひとつには「医療スタッフに基本的な消毒の知識が不足している」という背景があったという。

「消毒をしなければならないということはわかっていても、正しくやっていない人が少なくありません。例えば速乾性擦り込み式消毒剤で十分に手指を消毒には、ポンプ式の容器一押し分3mlが必要です。ポンプを一番下まで押し下げることで、ちょうど3mlが出るように容器が設計されているにもかかわらず、軽く押して出てきた分だけを擦り込んでいる人が多く、これではきちんと滅菌ができません」

そこで山形大学医学部附属病院では、2007年から新任の研修医に対して「消毒」にかかわる講習を実施している。感染制御部門の医師、看護師、薬剤師らが2時間を使って消毒の知識を教えるほか実習も行う。実習では手指の洗い方、手術用ガウンやマスクのつけ方などを実際に研修医に体験してもらう。

「基本的なことばかりですが、実際にやってもらうと、きちんとできていないことも多い。でも自分ではできているつもりになっているんですね。そこでグリッター・バグ(*写真注釈)なども導入して、自分の目で洗い残しがあるかどうか確認をしてもらっています。消毒薬に関して最初に教育すると同時に、日々の業務の中でこうしたガイドラインを利用しながら再確認をしていくことが大切だと考えています」と白石氏は話している。

グリッター・バグ
汚れに見立てた専用ローションを手指に均一に擦り込む(汚れが手についている状態)。
その後手洗いをする。
手をボックスの中に入れてかざしてみると、汚れている部分が白く浮き上がる。

なお、東北感染制御ネットワークでは「消毒薬使用ガイドライン2007」を実費500円で頒布している。問い合わせは同ネットワーク事務局まで。

東北感染ネットワーク事務局
仙台市青葉区星陵町1-1
東北大学医学部附属病院検査部感染管理室
TEL 022-717-7841
FAX 022-717-7842

(取材・企画:熊谷わこ)