訴訟に勝っても負けても、納得のいかない虚しさや恨みを持ち続けている患者・家族も少なくない。医療事故市民オンブズマンメディオの調査では、医療裁判を経験した患者・家族のうち、66%が弁護士に不満を持ち、71%が訴訟後も納得していない。 訴訟は決して真相を明らかにしてくれる手段ではない。訴訟で明らかとなるのは、「法的効果を確定するために必要な事実」であって、臨床経過の全体像が明らかになるわけではない。また訴訟は対立構造を前提としているため、両当事者が対決的に攻撃と防御を尽くすことになってしまう。さらに、訴訟は再発抑制に役立つ背景要因の分析や防止策の検討などはされにくいのが実情だ。 訴訟の増加は既に、医療のシステム全体に大きな影響を及ぼしている。医師がリスクの高い治療や処置を回避し、本来の診療より訴訟回避のための同意書の取得などに過剰なエネルギーを費やすこと、患者と医療者の関係が、疑心暗鬼に満ちた関係になり、コミュニケーションが貧困化することでかえって事故のリスクが高まること、などが挙げられる。 もちろん、悪質なケースや医療機関の対応によっては、訴訟が必要なケースが存在することを否定するものではない。しかし、訴訟が医療紛争を処理する仕組みとして中心的役割を担うような状況は、個々の患者・家族にとっても、国民全体にとっても、必ずしも好ましくないのだ。医療事故の多くは、医療者が故意に起こしたものではない。このような事故は、法によって厳格に取り締まっても決して減ることはない。私たちは「法の限界」を認識すべきであろう。
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