「手術のテクニックは、人体でなければ学べないことが少なくありません。特に、整形外科、脳神経外科など骨を削る手技が伴う手術は、実際の人体で確かめることが非常に重要です」と蜂谷氏。 現在、実際の手術に最も近い形で技術を学べる方法として注目されているのが、「献体(亡くなられた本人または遺族の意思により寄付される遺体)」を用いたトレーニングだ。米国はもとよりタイ、韓国など、海外には献体でサージカル・トレーニングが受けられる施設があり、医療安全のために技術を身につけたいという多くの医師に利用されている。ところが日本の場合、献体は医学生の解剖実習に使われることがほとんどで、外科医の手術のトレーニングに用いられるケースは非常に少ない。その大きな理由は、死体解剖にかかわる法律の運用が曖昧なことにある。 「死体解剖保存法は、『医学教育や研究目的の解剖』を認めていますが、『医学教育』の中に『外科医の技術向上のための研修』が含まれるか否かは、明確に規定されていない。いわばグレーゾーンです。禁止されているわけではありませんから、強行してしまうことも可能でしょう。しかしグレーのままで実施しても、今後の発展は期待できません。また、献体受付の窓口である篤志家団体の理解も得られないでしょう」と、蜂谷理事長は言う。 国内では事実上、献体による研修を受けることはできないため、海外の施設を利用する日本人医師も少なくない。しかし渡航などで高額な費用がかかるうえ、遠方ゆえに休診する期間が長くなるという問題が生じている。アメリカで2日間研修を受けるだけでも1週間、一番近い韓国でも、最低4日間は診療を休まなければならない。医師が自分一人しかいない地域で、代わりの都合がつかないようなケースでは、研修には行けないということだ。蜂谷氏はこう話す。 「こうした問題は、日本で献体を使用したトレーニングができるようになれば、解決することが可能です。また、医療技術の習得や開発のために、外国の施設や善意にいつまでも頼るのではなく、医療の質と安全については、日本国民みずからが負うべきではないでしょうか」 |