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病院と連携して開放型病床を活用
安全にがんの専門治療とプライマリケアを

近年がん医療は多様化し、病診連携が進められつつある。設備や人材に限りがある診療所であっても、病院と手を結ぶことで専門性の高い治療とプライマリケアの両方をより安全に提供することが可能になってきている。

高安幸生院長
高安幸生院長

副作用がより少なく、奏功率がより高い治療を

神戸市灘区で消化器科・放射線科のクリニックを開業する高安幸生医師は、長年IVR(Interventional radiology)を駆使した臨床腫瘍学に取り組んできた国内有数のプロフェッショナルだ。IVRは、画像誘導下に針やカテーテルを用いて行う、経皮的な診断手法および治療行為の総称。小さな切開創から挿入したカテーテルを目的の場所まで到達させ、造影剤を注入して撮影するほか、このカテーテル先端から局所的に薬剤を注入したり、先端に風船のついたバルーンカテーテルによって狭くなった血管を拡げたりする治療法が考え出され臨床に応用されるようになった。

IVRの最大の特徴は、同等の治療あるいは診断的な効果をあげるための外科的手技に比べて侵襲が少なく、迅速におこなえる点にある。そうした特徴を生かし、QOL ( quality of life )を尊重したがん医療においては重要な役割を担うに至っている。

肝転移などに対してリザーバーを留置して行う動注化学療法も、IVRのひとつ。同療法は鎖骨の下や足の付け根に挿入したカテーテルを、動脈を通して患部手前に持っていき、薬を注入する。臓器の全体にがんが点在し切除が難しくなったケースなどでは、非常に有効な治療法だ。ここ30年ほどの間に確立された治療法で、全身化学療法に比べると患者の体への負担が軽く、奏功率も高い。患者は治療期間中、カテーテルを体内にとどめたままで生活し、定期的に抗がん剤を投与する。抗がん剤の投与は通院で行うことができるので、これまでとほぼ変わらない生活を送ることも可能だ。

IVR施術写真
IVR施術写真

外来機能だけを持ち、近隣の開放型病床を利用

兵庫医科大学放射線科の助教授もつとめ、とくに肝臓がんの動注化学療法で多くの症例をこなしてきた高安医師がIVRの施術・管理を含めたプライマリケアを行うクリニックを開設したのは、2002年11月のこと。高安医師は開業の理由についてこう話す。「大学病院などで多くの患者さんにIVRを施術してきました。しかし主治医として施術後のがんの患者さん一人ひとりと向き合い、精神面も含めたきめ細かいケアを行っていくのは大きな病院では非常に難しかった」

高安医師のようなIVRを標榜するクリニックの開業は、非常に難しいとされている。通常リザーバーを留置するためのIVRを安全に行うには、アンギオシステムなどの高額な医療設備のほか、看護師や放射線技師などのスタッフが欠かせない。コスト面を考えると、無床の小規模診療所でなかなかこうした体制を整えることができないという。またIVRでリザーバー挿入を行う際には安全面から1〜2泊入院することが望ましく、無床診療所で行うことは厳しいとされてきた。

こうした問題点を高安医師は近隣病院の「開放型病床」を利用することで解決した。開放型病床とは厚生労働省が推進している病診連携の一環で、「病院のベッドの一部を地域の診療所の医師に開放し、双方の医師が共同で診療を行う」というシステムだ。

地域の診療所は開放型病床を持つ病院にあらかじめ登録しておけば、手術や入院が必要な患者が発生したときにベッドを利用できる。開放型病床では、単にベッドだけを借りるわけではない。地域診療所の医師は患者を提携病院に入院させた後も、担当医として病院へ訪問し、病院の医師と協力して治療にあたる。開放型病床を利用すれば、外来診療のみの無床診療所であっても入院設備のある病院同様の治療が可能になるというわけだ。高安医師は言う。

「IVR適応患者は、カテーテル挿入時だけではなく、在宅治療期間中に急変した場合や、ターミナルケア時にも入院が必要になる場合があります。いざというときの受け入れ先が用意されていれば、患者さんは安心して地域の開業医にかかることができます」

高安医師のクリニックは2つの病院に登録し、開放型病床を提供してもらっている。クリニックで入院が必要な患者が発生したときは、即座に高安医師が提携病院の看護師長に携帯電話のホットラインで連絡を取り、スケジュールを調整する。IVRは高安医師自らが病院に出向いて施術。入院中は主治医としてベッドサイドでの診療も担当するため、毎朝クリニックの診療時間前に提携病院へと回診に出向く。提携病院のひとつは歩いて2〜3分の距離なので大きな負担はなく、患者の容態が急変した場合にもすぐに駆けつけることができる。

「提携病院は、クリニックからの距離が近いということが必須条件です。開放型病床を確保できたとしても、移動が億劫になるほどの距離ならかかりつけ医が診る意味がなくなってしまいます」と高安医師。

提携病院へのIVR適応患者の入院は少ないときで2名、多いときには10名の間で推移しており、平均すると5〜6名程度。退院後はクリニックで抗がん剤の投与を継続する。

病診連携の際の安全管理

病診連携システムにおいて、クリニック側は医療安全対策をどのように行っているのだろうか。高安医師にいくつかのポイントを挙げてもらった。

(1)提携病院との信頼関係は不可欠

病診連携が活発化する中で、開放型病床を積極的に活用しようという病院は多い。しかし院内で開業医が診察することに対して病院スタッフの抵抗感が強い場合もあり、うまくいかないケースもある。高安医師の場合、開業する前からIVR専門医として提携病院の診療に参加し、病院スタッフとは顔なじみを超えた信頼関係が築いてきたという。高安医師は「患者が絡むことについては病院スタッフに言うべきことは言う。逆に不満を含めた意見も聞きたい」と話す。

その結果、活発な意見交換もなされている。例えば、個々の患者のインフォームドコンセントのための治療方針説明はクリニックの外来でまず行われるが、さらに開放型病床入院後あらためて病院スタッフの医師・看護師とともに行い、チームとして情報を共有しディスカッションを欠かさない。IVR室では、施術前に看護師・技師と具体的な治療方針やリスクについて事前の打ち合わせと検討を行う。必要な器具の発注は担当のコ・メディカルが独自に行うシステムが確立している。この病診連携が発足した翌年には、ふたつの提携病院が相次いで「より安全で高度なIVRを行うために、最新鋭のデジタルアンギオグラフィーシステムを設置する」ことに踏み切った。「各病院の協力によって、患者にいい医療を安全に提供することが可能になっている」と高安医師は言う。

(2)病診間で患者情報を交換できる環境を用意する

開業時には提携病院と電子情報交換を行うことができる環境を整えた。電子カルテを導入したほか、クリニックで行うヘリカルCTやエコーなどの画像はすべてDICOM(digital imaging and communications in medicine)規格でデジタル保存できるようにした。クリニックにある患者情報を提携病院で容易に取り出すことが出来、病院の医師と情報交換もしやすくなっている。逆に、提携病院で行ったIVRの画像もオフ・ラインでクリニックに保管することができ、患者に対して、治療効果や2回目以降のIVRの説明に有効性を発揮している。

(3)自分の目と手の届く範囲にしぼって診療する

たかやすクリニックのスタッフは、高安医師のほか、看護師や診療助手など4名のみだ。

「人手を要するIVRの施術や入院は開放型病床を利用しているので、クリニックは最小限の人数のスタッフで運営し、検査なども自分自身が行っています。スタッフをしぼった理由はコストの問題が一番ですが、開業医の場合はスタッフの数を多くすれば安全管理が行き届くとは言い切れない。むしろ不慣れなスタッフを数多く抱えることで注意が散漫になり、事故などのリスクを増加させてしまう危険もあります」

高安医師が考える「より安全にクリニックを運営するコツ」は、自分自身で確認できる範囲にとどめるということ。こうすることで、患者と接する時間が増える。顔を見て話をする中で状態をより正確に把握することもできるし、注意してほしい点なども各々の患者に合わせた伝え方ができるという。

(4)開業医もつねに新しい情報を得る努力を

医学上の知識にしても、あらゆる設備や機器にしても進歩のスピードは非常に速い。ところが個人開業の医師の場合、最新の情報を入手するには自助努力の面が少なくない。しかも新しい治療技術や機器の情報をキャッチしても使いこなせなければ意味がなくなってしまう。以前、高安医師は年に10回以上の内外の学会に参加してさまざまな情報を得、また発信していたが、開業後は医師一人の体制でクリニックを切り盛りしているため、なかなか時間が取れなくなった。それでも学会や研究会に所属し、可能な限り参加することだけでなく、役員としての務めも果たしている。医薬品医療機器総合機構専門委員や厚生労働省班研究、医師会理事など公的な仕事もこなす。仲間の医師たちとの交流で、少しでも最新の情報やトレンドに接しておこうという狙いもあるという。

高安医師が開業してからまもなく5年が経つが、クリニックにおいても提携病院の開放型病床においても医療事故は一例も起きていない。地域のホームドクターとしての認知度も高まり、IVR以外の一般診療の患者が年々増加しつつあるという。

「少人数のスタッフで運営しているクリニックの安全管理では、マニュアルを用意することよりも医師自身が患者さんとできるだけ話をし、信頼関係を築くことのほうが重要だと考えています」(高安医師)。


(取材・企画:熊谷わこ)