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東大病院が行う看護師復職支援プログラム

〜自信を持って職場復帰するための技術を再教育〜

看護師不足が続く中で、資格を持ちながら看護職に就いていない「潜在看護師」の活用が求められている。しかし高度な医療に対する技術不足などから、なかなか再就業が進まない。東大病院では民間企業と協力し、こうした潜在看護師を対象に再教育をおこなって再び職場へと送り出す取り組みを始めた。


東大病院

榮木実枝看護部長

医療技術に自信が持てず、職場復帰を躊躇

近年日本では、急速な高齢化などによって医療の需要が増大し、慢性的な看護師不足が続いている。さらに2007年4月には診療報酬改定に伴い、それまでの「患者10人に看護師1人」という看護配置基準の上に、「7対1」という新たな基準が導入された。看護師不足はさらに深刻になり、病院間で看護師を奪いあっているような状況だ。

そんな中で、資格を持ちながら職場を離れている「潜在看護師」の存在が注目を集めている。厚生労働省の推計によると、現在、潜在看護師は全国におよそ55万人。看護師資格を持つ人は圧倒的に女性が多いため、離職の理由のほとんどを結婚や妊娠、出産、子育てが占めている。こうした潜在看護師の中には、生活が落ち着いたら、あるいは子どもの手が離れたらまた看護師として働きたいと望んでいる人も少なくない。

しかし、医療技術の進歩は日進月歩。ほんの数年職場を離れている間にも新しい医療機器や薬が次々登場し、以前習得した知識や技術では対応しきれないこともある。復職前あるいは復職後すぐに、現状に見合った技術を習得させる教育が必要だが、経験者の研修は、就職後に少し行ったり、配属先に一任されたりする程度であることが多く、ギリギリの人数で仕事をしている職場では十分な知識を身につけることは難しい。医療関係の仕事は、小さなミスでも命を脅かすような一大事に発展する可能性があるだけに、せっかく資格を持ちながら看護職への復職を躊躇してしまう人も少なくないという。

3つの視点を切り替え、多角的に確認

「Smile」は操作開始時にプレパレーション対象者である患児の性別によって主人公のキャラクター(男女)を選択する。自らを重ね合わせることで、より理解を深めさせることを狙いとした一種のカスタマイズである。

既存のプレパレーション・ソフトにはない最大の特徴は展開する画面の視点を切り替えられることだろう。3次元CGならではの機能といえる。例えば、手術用画面では、すべての場面で(1)第三者(2)看護師(3)患児――の視点を任意に切り替えられる。

全体の様子が見える第三者の視点では文字通り、客観的な状況を説明する導入部として役立つ。どの画面でもマウスの動きに応じてキャラクターも動く。

患児は患児、看護師は看護師の立場で自らの視点はもちろん、相手の視点を疑似体験できるのが要点だ。自らが主人公でもある患児自身の理解を深めるという点で効果は大きいだろう。

患児の視点を選ぶと看護師は患児が本能的に感じるさまざまな「恐さ」を体感できる。例えば、ストレッチャー上で横たわる子どもが見上げる角度には威圧感がある。そのことを知っていれば、声のかけ方とか、接し方とかを考える。

つまり「恐さ」を知った上で、患児にどう接するべきかという看護師教育にも役立つわけだ。こうした経験の積み重ねが医療事故を未然に防ぐ手立てとしても活用できるだろう。

復職前に現場の勘を取り戻す

東京大学医学部付属病院(東京都文京区)では2007年7月から、看護人材派遣会社大手の(株)スーパーナース(新宿区)と組んで、潜在看護師の復職を支援する取り組みを始めた。「Re‐ナース」プランと名づけられたこのプログラムでは、東大病院が再教育(講習)を担当。スーパーナースは復職希望の潜在看護師の募集と、講習修了後の就職支援を行う。東大病院の榮木実枝看護部長は「就職前に時間をかけて研修を受け、現場の感覚を取り戻せば、ブランクがあることに対する不安をかなり軽減できます」と話す。

講習は東大病院の施設を利用して行う。講師も同院の認定看護師や専門看護師、各分野の専門医師や臨床検査技師、理学療法士などが担当する。5日間と10日間の2コースを開設し、経験年数や離職期間などに応じて選択。定員は各10人だ。両コースとも、講義と実習を組み合わせた授業を1日8時間集中して受ける。

【研修プログラム詳細】
■5 日間コース
  • 定員:10 名
  • 対象:目安として離職期間 3 年〜4 年程度
  • 研修内容:医療界・看護界の動向、安全対策・感染対策、個人情報の保護、薬剤、 ストレスマネジメントの講義、薬剤調合、輸液ポンプ・シリンジポンプ、注射、静脈穿刺、採血、一次・二次救命処置の演習、一般病棟見学など。
■10 日間コース
  • 定員:10 名
  • 対象: 目安として離職期間 5 年以上
  • 研修内容:上記 5 日間コースの内容に加え、心電図、糖尿病患者・がん患者・重症患者の看護、褥瘡・創傷ケア、体位変換の演習、ICU見学、シミュレーションによる看護実践練習など。

学んだことをすぐに臨床の場で生かせるよう、実習を重視した内容が特徴の一つだ。

「実習には、当院で使用している一般的な機器や、他院で使用されている機器も準備して実習します。輸液ポンプなどは少し前とはかなり使い方が変わっているので、『自分が使っていたものとは全然違う』とびっくりされる方がほとんど。事前に使っておけば、職場で戸惑うことはありません。操作ミスも防止できます」(榮木部長)

なお、点滴の練習の際の薬剤などは、安全に対する意識を高めるために、すべて本物を使用する。一回ずつ廃棄しなければならないので費用はかさむが、参加者の真剣さが違うという。

「少人数制なので、マンツーマンに近い指導ができます。自信のない実技は何度も確認して、講習期間中に確実に習得できるようにじっくり指導していきます」
 と、榮木部長は話す。

どのような働き方にも対応できるような指導を

2007年は9月と12月、08年は1月に講習を実施。出席日数や評価で修了基準を決めており、2008年4月現在までに41名(1期生〜3期生)が修了証書を受け取った。榮木部長はこう話す。

「講習に参加を希望する人の多くは向学心に溢れていて、医療安全や看護に対する意識も高い。30代前半から50代後半まで幅広い年齢層が参加していましたが、みなさんとても熱心です」

また受講者同士、連帯感も生まれるという。

「講習中は、注意しなければならない点を指摘しあうなど、いい刺激を受けています。休み時間には子育てや再就職などの情報交換もしているようです」(榮木部長)

なお当初5日コースは7万、10日コースは10万円の受講料が必要だったが、同プランが文部科学省の平成19年度「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」に採択されたことから、実費負担(5日コースが900円、10日コースが1800円)だけで 参加が可能になった(2010年まで)。

「看護師の働く場はたくさんあります。しかし、夜勤も含めてフルタイムでバリバリ働きたい方もいれば、お子さんが小さいのでパートタイムで、という方もいらっしゃる。どのような働き方を望んでいるかは、人それぞれ違います。どのような働き方をするにしても、みんな自信を持って職場復帰していけるようにしていくことが、『Re−ナース』プランの役割です」と榮木部長は話している。


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(取材・企画:熊谷わこ)