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事故防止に効果を発揮するヒヤリ・ハット劇場


 医療事故を防止しようと、ヒヤリ・ハット報告書の収集分析やマニュアルを作成する医療機関は増えつつある。しかし、それらをいかに現場に根付かせるかが課題だ。佐野厚生総合病院(栃木県佐野市、485床)で行われている「ヒヤリ・ハット劇場」は、事故防止策を視覚に訴えるとともに、実際に体感することで効果をあげている。

演じるのも職員、観るのも職員

 幕が開く。場面は病棟の一室だ。患者に取り付けられた人工呼吸器のアラームが鳴り響いている。アラームの原因がわからない看護師は右往左往するばかり。遅れて駆けつけた医師は機械が作動していない事を発見。即座に応急処置が行われ、幕が閉じた。

 続いて、第2幕。場面や状況は同じ。しかし、今回は看護師の対応が異なっている。チューブが外れていないか、人工呼吸器が停止していないかを冷静に確認。即座にアンビューバックで換気を行うとともに、医師に連絡を取った。

 幕が閉じると、呼吸器内科の医師によって説明が行われた。

「アラームが鳴ったら、とにかくその場に駆けつける事。そして、機械がおかしいと感じたら、すぐに外して、アンビューバックで換気を行う事が大切です」

 これは佐野厚生総合病院で毎月1回開催されているヒヤリ・ハット劇場の一幕だ。舞台は院内の会議室。役者は院内の医師や看護師、薬剤師などで、それぞれが実際の職種を演じている。観客となる職員は、全職員約600人のうち、毎回200〜250人程度が参加するという盛況ぶりだ。

「これまでさまざまな事故防止策を検討してきたが、なかなか減らなかった。マニュアルに書いてあっても、ミスをしてしまうのが現実だった。でも、ヒヤリ・ハット劇場を行ってからは、ミスが激減している」と、同院の院内事故対策委員会の副委員長である奥沢星二郎外科医長は語る。
 



ヒヤリ・ハット劇場の一幕

ヒントはテレビドラマから

 同院がヒヤリ・ハット劇場を始めたのは、2001年5月から。きっかけとなったのは、奥沢医長がテレビドラマの監修を依頼された時の事。

「目の前で行われる撮影シーンは迫力があり、脳裏に鮮やかに焼き付けられた。これは使えるな、と思ったのです」と、当時を振り返る。

 寸劇の内容は、注射や点滴、与薬、レントゲン検査、患者に対する接遇など多岐にわたっており、日常業務で同じミスを起こさないように工夫されている。これらは院内で起こった事故やヒヤリハット事例、他病院で起こった事故事例を収集し、院内事故対策委員会でその防止策を検討したものが反映されている。台本の執筆は、ヒヤリ・ハット劇場事務局の奥沢医長が担当している。


ヒヤリ・ハット劇場の効果

 寸劇は1回約1時間の上演で、15本程度が演じられる。冒頭で紹介したように、3部構成になっているのが特徴だ。まず1部で、実際の事故事例を紹介。次に同じ事例で適切な対処方法を紹介、最後に専門家による解説という流れになっている。専門家とは、薬局長や呼吸器内科の医師など、院内の職員だ。

 1回の上演に登場する役者は20人程度。各病棟が持ち回りで担当し、メンバーは毎回異なっている。公演前には、台本をもとに1回1時間程度のリハーサルを3回行う。使用する医療器具は本物で、パネルなど必要な小道具は事務局で準備される。

「単に観るだけよりも、実際に演じさせた方がより効果的。演じた人は同じミスをしない」と、奥沢医長。

 実際に、同院における事故やヒヤリ・ハット事例は、寸劇を開始する前と比較して半減しているという。また、再発しやすかった点滴に関するミスにおいても、関連の寸劇を重点的に再演することで、ミスがほとんどなくなったという話しだ。

 職員からは、「目の前で同僚が演じる寸劇を観て、日常業務で生じるさまざまなミスを容易に理解し、すぐにでも実践可能な防止対策が自然に習得出来る」と、好評のようだ。

 ヒヤリ・ハット劇場の効果はそれだけではない。寸劇を通して、他職種の仕事が理解されるようになり、職員に連帯感が生まれているようだ。

「これまで1つの事を全職員が一緒に行う機会はなかった。ヒヤリ・ハット劇場を通して、全職員が互いの職種を理解するとともに、一緒になって事故防止に努めようとする機運が高まっている。まさにチーム医療によるエラー管理が効果をあげている」と、奥沢医長。

 ヒヤリ・ハット劇場がスタートして約1年半。この10月からは、少し趣向を変える予定らしい。事故事例を演じた後に、観客に防止策を聞き、その内容をアドリブで演技の中に盛り込みたい考えだ。

「最近は、近隣の医療機関からの参加も少しずつ増えている。他の医療機関にも参考となれば嬉しい」と、奥沢医長は話している。




ヒヤリ・ハット劇場を発案した奥沢星二郎医師

*興味のある方は、事前に下記まで連絡をすれば、ヒヤリ・ハット劇場の観覧が可能。
〒327−8511 栃木県佐野市堀米町1555 佐野厚生総合病院 ヒヤリ・ハット事務局宛
FAX:0283−24−9665  メールアドレス: jasanoko@apricot.ocn.ne.jp 


資料1 シナリオの一例 「人工呼吸器アラーム事件」

寸劇1 事故の再現
情景 ナレーション・セリフ
登場人物
 患者(事務が担当)1名
 看護師 2名
 医師 1名

ナレーション:今回の医療機器は人工呼吸器に関するものです。ヒヤリ・ハット事例の分析から、ひとつ間違うとこんなに恐ろしい事故が起きる可能性があります。それではご覧ください。


(舞台の幕が開く) 
音楽スタート
病室。患者が舞台中央のベッドに横になり、人工呼吸器(実物)につながれている。
ナレーション:急性呼吸不全の患者です。今、自発呼吸はなく、人工呼吸器で調整呼吸が行われています。意識はありません。
突然、人工呼吸器のアラームが鳴り始める(キーボードでアラーム音)。 ナレーション:突然、呼吸器のアラームが鳴り始めたので、すぐに看護師2人が駆けつけました。
舞台に看護師2人が駆け足で入ってくる。
2人は人工呼吸器の配管や操作ボードなどをあちこち見回しながら、不安そうに。 看護師A:「どうしたのかしら」
看護師B:「チューブも外れていないし、何がいけないのかなあ」
2人は落ち着きなく、あちこち調べ続ける。 ナレーション:アラームは鳴りっ放しです。そこへ少し遅れて医師がやってきました。
医師が入ってきて、看護師に尋ねる。 医師:「どうかしたの」
2人の看護師は困り顔で、医師に返答する。 看護師A:「アラームが鳴り続けているんです。原因がわからなくて……」
医師は呼吸器を確認して、すぐに大きな声で。 医師:「大変だ!人工呼吸器が動いていないぞ。すぐにアンビューバッグを用意して」
看護師、あわてて傍らのアンビューバッグを取って、医師に手渡す。 看護師A:「先生!アンビューバッグです」
医師はすぐに呼吸器を外し、アンビューバッグを装着して換気を始めながら。 医師:「バイタルのチェックを」
看護師A、B:「はいっ」
(舞台の幕が閉じる) 
音楽ストップ
ナレーション:これは、コンプレッサーの故障が原因で人工呼吸器が止まってしまった事故です。アラームで駆けつけた看護師2人は配管の接続ばかりに気を取られ、肝心の人工呼吸器自体が作動していない事に気づきませんでした。ひとつ間違ったら、大変な事故になるところでした。

寸劇2 事故の防止(寸劇1に続いて上演)
情景 ナレーション・セリフ
ナレーション:それでは、このような状況において、駆けつけた2人の看護師の取るべき正しい処置をご覧ください。
ナレーション:突然、呼吸器のアラームが鳴り始めたので、すぐに看護師2人が駆けつけました。
看護師A:「どうしたのかしら」
看護師B:「大変、チューブは外れてないけど、人工呼吸器が動いていない。すぐにアンビューバッグで換気しなくちゃ。アンビューバッグを取って」
看護師A:「はいっ」
看護師B:「これでよしと。大至急、○○先生に連絡して」
看護師A:「了解。○○先生!」
医師:「どうした」
ナレーション:いかがですか。大切な事は人工呼吸器のアラームが鳴ったら、看護師はまずは管が外れていないか、次に人工呼吸器の作動状態を確認する事です。呼吸器が作動していなかったら、ただちに呼吸器を外し、アンビューバッグで換気してください。呼吸管理だけに迅速な処置を行わないと、患者様に大きな危険を負わせる事になってしまいます。
内科○○医師が舞台幕前中央に登場。舞台の幕を開け、実際に人工呼吸器を見せながらわかりやすく解説する(約5分間)。 それでは呼吸器内科の○○先生、人工呼吸器のアラームが鳴った時、職員はどんな点に配慮すべきなのか、ご専門の立場から解説をお願いいたします。
ありがとうございました。


資料2 「ヒヤリ・ハット劇場の台本製作から上演までの流れ」

  1. 院内での医療事故やヒヤリ・ハット報告、マスコミなどで報道された医療事故事例の収集

  2. 院内事故対策委員会での分析、検討

  3. ヒヤリ・ハット劇場事務局で、プラン作成
  • 台本の製作
  • 開催日時の広報など
  1. ヒヤリ・ハット劇場の準備
出演者の選択
すべて本物の職種で、病棟持ち回りとし、毎回メンバーが変わる。
小道具の準備
本物の医療器具を使用、パネルなどは事務局で準備。
リハーサル
本番の3週間位前から演出、演技指導、音楽合わせなどを3回行う。
  1. 上演
舞台・会場の設営
マイクやビデオカメラ、小道具の設営など。
多くの職員が観る事が出来るように、同じ上演内容を2カ月にわたって行う。