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病院運営における「常識化」を目指す
QMS-H研究会が平成21年度の成果を報告

日常業務に「品質」重視の考え方を取り入れることで、医療全体の質の向上を目指す「QMS-H研究会」(代表=飯塚悦功東京大学工学系研究科特任教授)の平成21年度成果報告シンポジウムが3月14日、東京大学本郷キャンパスで開かれた。同シンポジウムは「医療QMSモデル―進展する組織的改善」をテーマに(1)研究会の基本的な考え方や目標(2)大学・病院双方の個別的成果発表(3)パネルディスカッション――などに大別された計8つのセッションで構成。当日の内容から、研究会のあらましと、参加病院の院長らによるパネルディスカッションの要点をまとめた。

シンポジウムの様子1
シンポジウムの様子1

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患者側から見た評価を重視

QMS-Hは「Quality centered Management System for Healthcare(医療における質中心経営管理システム)」の略称である。その名の通り、活動の中心となる考え方として「品質」に着目しているのが特徴。一般消費財に代表される量産型の工業製品の世界では、ごく当たり前の「品質」を医療の世界で追求しようという試みである。

「サービスを受ける側、すなわち、患者から見た評価をいかに高めるか」――。飯塚会長の唱える到達点は明快だ。QMSでは、顧客志向=誰のために、目的志向=何のために、をきちんと定めることが取り組みの出発点になる。「顧客満足と良質製品の提供」こそがQMS構築の大きな目的だからだ。

品質のよい製品やサービスを効率的に提供するためには、製品やサービスに「固有の技術」はもちろん大事であるが、それを生かすためには、現場の実情に応じた「管理技術」が必要となる。

管理技術とは手順やマニュアル、ガイドライン、帳票類などである。このようにマネジメントの「仕組み」に力点を置いていることにQMS-Hの独自性がある。

QMS-Hは現場における個別改善の集積を総合的なシステム構築につなげられるのが利点だ。経営に直結した品質マネジメントの推進は、それに携わる人の育成や組織能力を高める効果もある。

医療の質・安全を維持、向上させるためには、固有の知識や技術を組織的に生かすマネジメントが不可欠。そうした取り組みを通じた「社会技術としての医療の質的向上」こそ、QMS-Hの到達点といえる。

医療の特徴を踏まえたSDCA回す

QMSの重点は、個人個人の能力に頼るのではなく「システムで質を保証する」ことにある。そうした理念に沿って2007年に立ち上げられた同研究会には東京、早稲田両大学の研究者と、会の考えに賛同する病院が参加。(1)医療におけるQMSモデルの構築(2)医療機関へのQMS導入、推進方法の確立など――を目的として、実践的で活発な議論を重ねている。

参加病院ごとに3年間の活動を振り返ると、07〜08年度は(1)QMSの新規導入・推進=大久野病院、仙台医療センター、前橋赤十字病院、武蔵野赤十字病院(2)QMSの継続的導入・推進=(株)麻生飯塚病院(3)QMSの再構築=城東中央病院、(株)日立製作所水戸総合病院――という実績を重ねた。

同時期には、(1)の4病院が揃ってISO9001を導入。大久野病院と仙台医療センターは認証を取得している。麻生飯塚病院は06年に導入し、08年に認証取得。城東病院と水戸総合病院は参加以前に認証取得している。

09年度はQMSの新規導入・推進施設として、幸手総合病院が参加。既存の7施設はいずれも、QMSの継続的導入・推進、改善活動に駒を進めた。一連の取り組みは「Plan(計画)⇒Do(実施)⇒Check(確認)⇒Action(処置)⇒Plan……」を回していくPDCAサイクルが基本となっている。

同研究会では、このPlanをStandardに置き換え「決める⇒業務を行う⇒業務がうまくいっているか評価する⇒標準を改定する⇒決める……」というSDCAサイクルを回すことにより、QMSに医療の特徴を反映させたQMS-H=医療QMSモデルにまで高めていくことを目指している。

では、それが、どのように実践され、現場で貢献しているかをパネルディスカッションの討議から見ていこう。

シンポジウムの様子2
シンポジウムの様子2

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【パネルディスカッション】
個人の力よりも組織の力を重視

パネルディスカッションは「組織改善へのQMSアプローチ」をテーマに開催。パネルリーダーを飯塚会長が務め、パネリストとして、8病院から、田中二郎(麻生飯塚病院)、進藤晃(大久野病院)、福田隆(城東中央病院)、菊地秀(仙台医療センター)、宮崎瑞穂(前橋赤十字病院)の5院長が参加した。

『QMS-H活動に取り組もうとした狙い』
田中
(1)患者第一(2)品質(3)医療安全(4)職員満足度(5)現場力――を5本柱として取り組んでいる。(1)の実現には(2)と(3)が特に重要。品質を高める上では、QMSとISOの果たす役割が大きいと思う。
進藤
当院のような慢性期の病院では、事故を起こさないことが患者満足度の向上につながる。そこで、医療安全に重点を置いたQMSを導入することにした。QMS活動を通じて、医療事故を減らしたいと考えている。
福田
医療安全と品質に対する実践として03年にISO9001の認証取得に中心的に関わった。しかし、実際の現場では、品質が上がったかどうかが、よく分からない。そこで、それを立て直そうと考えて取り組んだ。
菊地
院長になる前から、医療安全や品質向上のためには個人レベルではなく、組織全体として働きかける必要性があると思い、参加した。この間、07年にISO9001に取り組み、08年の認証取得に至っている。
宮崎
病院には、個人商店の集まりという側面がある。そこで、職員間の水平的な風土づくりを目指したが、なかなかうまくいかないので、もう少し統一的なものにしたいと思い取り組んだ。かつて、大きな事故を経験していたので、質の管理には強い興味があった。
『どのような推進体制で臨んでいるか』
福田
院長の直轄部署として「TQM推進室」を設けている。薬剤師を専従としたため、当初は院内から反発されたが、今は2人体制で対応。専従者とは日常的に意見交換している。
田中
「医療安全推進室」(3人)を中心に活動している。QCサークル、ISO9001と段階的に導入し、QMS-Hで弾みをつけた。PDCAを回すことで論理的に取り組めるようになった。
菊地
プロジェクトチームを立ち上げ、現在は「TQM推進室」が活動の中心となっている。専従者を1人置いた20人の組織だ。活動の様子はレポートで随時報告を受けている。
宮崎
「質の管理課」を置いている。日々の作業が多忙なのは承知の上で、各職員に活躍の場を与えるという形で参加機会を増やしている。併せて、幹部教育に力を入れている。

シンポジウムの様子3
シンポジウムの様子3

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人的要因を理解した仕組みづくり

『医療安全にQMSは貢献しているか』
菊地
「どれくらい貢献できるか」が曲者。注射業務の標準化などは難しい。医療安全達成のための内部監査の際に問題点をチェックする。このような活動を通して、よりよい体制を作り上げていくことが大切ではないか。
宮崎
医療事故は些細なことで起き、大きな結果を招く。インシデントレポート(IR)は集めるだけではだめ。警鐘的な事例は結果分析して原因をつぶす。一方、数の多い事例はQMSを活用することで解決できると思う。
田中
MRM委員会は月1回なので、読み込みだけで終わる。それに代わるのが医療安全推進室。ここで分析し、情報還元するという予防教育をせねばならない。数を集めるだけでなく、データベースを蓄積することが大切だ。
進藤
当院は明快に事故防止を目的としてQMS活動に参加。いろいろ試してみて、事故防止には、この方法しかないと思う。単に質を上げるのではなく、事故防止に結びつけると後回しできる作業があることも分かる。
福田
IRの書き方がかなり改善されてきている。これを契機に標準化が進んだと思う。研究会の活動を通じて、QMSに沿ったIRの書き方の指導を受けたのが非常によかった。
飯塚
医療におけるヒューマンファクターの占める割合は他の産業分野よりもかなり大きい。それを理解して仕組みをつくることが重要だ。ミスやエラーは仕事の仕組みの脆弱性の現われといえる。だから、その原因を明らかにし、強くしていくことが大切だ。
IRを見れば、事故の流れは分かる。ところが、では、どこに起こるかは分からない。つまり、未然防止ができない。だから、我々は業務におけるシステムを強めることで安全を担保したいと思っている。カギを握るのはQMSだ。その意味で、人間ならではの弱さに配慮したシステムをつくっていきたい。

会への参加条件は院長の「やる気」

シンポジウムの総括で、研究会副会長の棟近雅彦早稲田大学教授は、同研究会がこの3年間で活動に一応の区切りをつけることを報告。「我々が目指すのは、QMSを病院において常識化すること」と強調した。

構想では、国内9000弱の病院のうち、500〜1000施設に普及させ、多くの施設が取り入れているIRのように、病院業務の常識として認知されるレベルにまで高める。「そのためにも先行している病院が良いモデルをつくっていただきたい」と参加8病院を励ました。

今回の成果報告で、ひとまず区切りをつけたQMS-H研究会の活動は遠からず、新たな形で再スタートを切るはずだ。「研究会への難しい参加条件はない。参加費も無料。唯一の条件は推進役を務める院長にやる気があること」。研究会の到達点を唱える会長と同様、新規参加を考える病院に対する副会長の呼びかけも明快だ。


2010年04月09日(取材:伊藤 公一)