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患者と医療者をつなぐ患者図書館の役割


 9月にオープンした県立静岡がんセンターにある「あすなろ図書館」は、全国初の専任司書が常駐する患者図書館として注目されている。インフォームドコンセントやセカンドオピニオンが叫ばれて久しいが、患者が納得して治療に参加するのに役立ちそうだ。コミュニケーション不足による誤解も減るかもしれない。
 


 BGMが静かに流れる館内。点滴をぶらさげたパジャマ姿の患者が、雑誌を見ている。
外来で病院を訪れた患者は探していた本を見つけ、カウンターで貸し出しの手続きを済ませた。

 「患者だって一市民。治療ばかりに明け暮れるのではなく、ここが癒しの場になれば良い」と、専任司書の菊池佑さんは語る。



「あすなろ図書館」で本の貸し出し手続きを行う専任司書の菊池佑さん


 あすなろ図書館が設置されているのは、外来や病棟の患者が来訪しやすい1階のフロア中央。広さ120屬隆枡發砲蓮2,000冊の一般図書をはじめ、500冊の医学書やビデオ等が並んでいる。癒しの場としてだけでなく、がんに関する医療情報の提供も目的とされているからだ。




「あすなろ図書館」には医学書をはじめ、一般雑誌や新聞等もあり、
誰もが気軽に利用できる

 館内には情報を検索できる端末もあり、インターネットの利用も自由だ。雑誌や新聞等も置かれ、患者だけでなく一般市民も気軽に立ち寄れる場となっている。また、病室のベッドサイドにある端末からも蔵書の検索が出来るようになっている。

 オープンから約2カ月半。来館者は日を追うごとに増えており、最近では1日60人程度が訪れている。利用者からは、「自分の病気について納得できた」という声が聞かれる等、評判は上々のようだ。

 菊池さんは月曜日から金曜日まで図書館に常駐し、患者が求めている図書や文献等を探したり、情報提供等を行っている。利用者から、「この病気に関する文献はありますか」と具体的に訊ねられるケースもあるという。

 「今やインターネットで情報を簡単に入手できる時代となったが、患者に合った、正しい情報を提供するためには専任司書の果たす役割は大きい」と言う。

 あすなろ図書館の構想が持ち上がったのは3年程前。患者が自らの病気についての理解を深めるとともに、一市民として趣味や学習が継続できる場として、患者図書館が設置される事になった。長年、患者図書館の必要性を訴え、日本病院患者図書館協会の会長でもある菊池さんはアドバイザーとして迎えられ、場所の選定や設計等に関わった。車いすの利用者や高齢者にも使いやすいように書架を低めにしたり、通路を広くしたのも菊池さんのアドバイスだ。

 図書の選定にあたっては、同センターの疾病管理センターの石川睦弓看護師が行った。インターネット等で患者が理解しやすい医学書の収集に努めたという。患者会や患者支援団体から「患者の闘病記も参考になる」という話しを聞き、それらも出来るだけ取り寄せた。また、医療情報は常に進化するため、医学関連雑誌も置いて、新しい情報の提供にも配慮している。

 「患者の医療情報は不足している。インフォームドコンセントとはいえ、病名だけしか告知しない医師もまだまだ多い。抗がん剤の副作用さえ知らない患者もいる。医師と患者のコミュニケーション不足を痛感している。患者主体の医療を提供するには、医療情報の提供は不可欠です」と、石川看護師。

 普段は同センターの「よろず相談所」において、患者や家族からの病気や治療に関する質問や悩みに答えているだけに、その言葉には重みがある。心のケアが必要な患者も適切な情報さえあれば概ね解決できるとも考えているようだ。

 菊池さんは、「患者図書館はセカンドオピニオンの宝庫。インフォームドコンセントを補う役割もある。医師が患者に病気をわかりやすく説明する際にも利用できるのではないか」と、患者図書館の有用性を訴えている。



 このように患者の期待に応えられる投資や人員を配置できるのは病院の中では非常に稀なケースであろう。しかし、医師と患者のコミュニケーション不足解消等のためには、知恵を絞っていくことが必要と思われる。例えば、図書館とまではいかなくても、医療従事者や職員が本を持ち寄ったり、自費出版の自伝的闘病記などを集めたり、司書でなくても、ボランティアで交流のパイプ役になってくれる人を迎える等アイディアを出し合ってみたらどうだろうか。この図書館での工夫の一片を、それぞれの立場に応用できないかを考える一助にしていただければ、と思う。