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失敗から学ぼう!JR東日本の「事故の歴史展示館」


 「失敗学」で有名な工学院大学の畑村洋太郎教授によると、失敗時の怖さを学ぶことが事故の防止に役立つという。JR東日本が11月に開設した「事故の歴史展示館」は、社員に事故の怖さや社会的影響を体験させるユニークな研修施設だ。残念ながら一般には公開されていないが、同社安全対策部の木村吉宏副課長にその概要と活用方法等について話しを聞いた。



Q.「事故の歴史展示館」を開設されたきっかけは何だったのですか?

 鉄道の安全性を維持する仕組みやルールは、過去に起きた事故を教訓に作られてきました。しかし、その事故の記憶は時とともに風化し、作られたルール本来の意味も忘れてしまいがちです。システム化や世代交代も進んでいます。そこで、事故の教訓を忘れることなく、引き続き謙虚に事故から学んでいくために開設しました。

Q.「事故の歴史展示館」の概要を教えてください。

 場所は福島県白河市のJR東日本総合研修センター内にあります。展示館の広さは130屬如■複凖貽本をはじめ、国鉄時代や民鉄各社で発生した25件の重大事故について、その原因や対策等を写真入りのパネルで紹介しています。コンピュータグラフィックスを活用して事故を再現するコーナーもあり、事故に至ったメカニズムを容易に理解出来るように工夫しました。

 例えば、1988年に発生した東中野駅の列車衝突事故のパネルには、ホームに停車していた先行列車に後続列車が追突した時の様子を図入りで解説しています。また、どのような背景で事故が生じたのか、当時の保安装置システムの仕組みはどのようなものだったのかも紹介し、事故後にとられた対策との因果関係がわかるようにしました。

 展示館の中央には、事故当時の新聞記事や被害者の声を紹介する「報道と被害者の証言」コーナーがあります。これは、事故被害者の家族や関係者がどれほど寂しい思いをするのか、事故の社会的影響がどの程度であるのかをわかってもらいたい、という思いから設置しました。

Q.展示されている25件の事故はどのような基準で選ばれたのですか?

 忘れてはならない事故等、鉄道会社社員として最低限知っておくべきものを中心に選びました。他の民鉄各社で発生した事故も一部展示していますが、これは当社でも気をつけなければならないと考えたからです。展示内容はこれから随時変更していく予定です。

Q.これらはどのように活用されるのですか?

 社員教育のカリキュラムに展示館の見学を組み込み、社員の安全に対する意識を高めてもらいたいと考えています。これまでの研修ではプリント教材で事故の説明をするにとどまっており、実感しにくかった点は否めません。展示館で事故の悲惨さや社会的影響の大きさを体感してもらう価値は大きいはずです。すでに展示館を見学した社員からは、「事故を身近に感じた」という声も聞かれました。

 現在は、入社2年目の運転業務従事者に対する研修のみで使われていますが、将来的にはキャリア別の研修にも活用し、事故の起きた背景を探ったり、現場の安全対策にどのように結びつければ良いかを話し合えるような機会も作りたいと考えています。





JR東日本総合研修センター内にある「事故の歴史展示館」

Q.鉄道事業と医療では業種が違いますが、人の命を預かる仕事という点では共通しています。御社ではどのような安全対策がとられているのでしょうか。

 1987年の会社設立時から、「安全」を経営のトップ・プライオリティに位置づけ、お客様に信頼される安全な鉄道システム作りに取り組んでいます。具体的には、次のような安全対策を行っています。これは国鉄時代の上意下達を改め、社員1人ひとりの自主性を尊重する安全対策となっています。
●全社的な「安全風土」作り
現場第一線の社員と経営幹部が共に安全について議論する「安全キャラバン」や、安全についてさまざまな視点から考える鉄道安全シンポジウム、各支社ごとの安全フォーラム等の実施。

●1人ひとりの自律的な安全行動
社員1人ひとりが安全について自主的に考え、議論し、行動する「チャレンジ・セイフティ運動(CS運動)」の展開。

●安全設備の計画的な整備(5カ年計画)
「安全重点投資計画」(1989年〜1993年)、「安全基本計画」(1994年〜1998年)、「安全計画21」(1999年〜2003年)の策定、実行。

●安全組織の充実
現場第一線の安全性向上のための技術開発を行う安全研究所、各支社における安全対策室、総合訓練センターの設置。

●責任追及から原因究明への転換
事故を正しく把握することを基本とし、原因を的確に究明することが再発防止策の原点であることの認識と実践。
Q.チャレンジ・セーフティ運動(CS運動)とは、どのようなものですか。

 全社的な取り組みとは別に、社員1人ひとりが自分の身の回りで何をすれば安全に役立つかを考え、現場で実行するというものです。例えば、通路にテープを張って注意を促し、ケガを防ぐ等、ちょっとした現場の工夫で事故を防げる方法はあります。それらを推進するのがねらいです。

Q.安全対策にはどの程度の費用をかけているのですか?

 年間約800〜900億円です。投資額全体の4割程度になります。

Q.それは相当な額ですね。

 それでも、国鉄時代は「安全」は収入につながらないからと言って、なかなか投資対象にならなかったんです。ともかく合理化に注力されていました。民営化されてからは、安全に関する投資について、経営幹部の理解が得られるようになりました。また、システムが高度化するとともに、それに伴い発生する事故も複雑になっています。どんなに技術が進歩しようと、パーフェクトな設備というものはありません。事故とシステム開発は常にいたちごっこの状態。たとえ最先端の技術であっても、どこかに弱点はあり得る。システムのレベルアップには限りがないのです。それに事故を一度でも起こせば、社会的信用等、失うものは大きいですからね。

Q.実際に事故は減っているのですか。

 はい。1987年度には376件の鉄道運転事故が発生しましたが、2001年度には121件に減りました。3分の1以下になっています。しかし、事故が減ったという事は、逆に考えれば、社員が事故に遭う機会が少なくなっているという事です。つまり、事故の教訓が生かされにくい。もちろんベテラン社員から若手に伝授する事は可能です。でも、伝え聞いたのと、実際に経験したのとでは明らかに受け止め方が異なります。社員も自分の失敗体験は話したがりません。だからこそ、事故の歴史展示館を開設した意義があるのです。

Q.安全対策への意気込みをお願いします。

 今日の鉄道事業の発展は、事故の教訓が生かされてきた結果です。事故対策を考える場合に大切なことは、個人の責任を追求するのではなく、事故の背景や原因を検証し、全社員がその情報を共有化し、再発防止に取り組むことです。安全対策に終わりはありません。これからも組織全体が一丸となって、安全対策に取り組んでいきたいと思っています。





JR東日本安全対策部の木村吉宏副課長