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米スペースシャトル事故から考える安全性とコストの関係


 2月1日に起きた米スペースシャトル「コロンビア」の空中分解、墜落事故から半月あまりが経過した。米航空宇宙局(NASA)が設置した独立事故調査委員会による事故原因の解明が続けられているが、いまだその理由はわかっていない。しかし、2月4日付の日経産業新聞によると、事故の背景にはNASAが推し進めてきた効率化策が裏目に出たのではないかという見方もある。安全性を維持するためには、ある程度のコストはかかる。医療事故の防止策とも関連するテーマだ。日経産業新聞で同記事を執筆した安藤淳記者に事故の詳しい背景を聞いた。



Q.事故のニュースを知った時はどう思われましたか。

 とにかく衝撃的でした。私は昨年3月までの4年間、米国に駐在していましたが、その間に何度もスペースシャトルの打ち上げを見に行きました。打ち上げ時の緊張感や危機意識は相当なものです。しかし、今回の事故は地球着陸寸前に起きました。これまでそのような局面で事故が起こるのは有り得ない話しだったので、驚きました。


Q.事故の背景には、NASAに対する予算の削減が関係しているという意見があるようですね。

 NASAの関連予算は10年前から年々削減されています。緊縮財政を余儀なくされてきたのは事実です。ダニエル・ゴールディン前NASA長官時には、国際宇宙ステーションの開発に予算を回さなければならず、有人宇宙飛行、つまりスペースシャトルの予算を削らざるを得ませんでした。また、NASAはスペースシャトルだけでなく、他にもさまざまな事業を行っています。限られた予算の中で、有人宇宙飛行にばかりコストをかけられないという事情もあるのです。


Q.2001年秋に就任したシャーン・オキーフ新長官はコストカッターという異名があるそうですが、コスト削減に拍車がかかったのでしょうか。

 ブッシュ政権後、NASAに対する見方は厳しくなっています。景気が悪化していることもあり、有人宇宙飛行自体の意義が問われるようになっていました。国際宇宙ステーションにしても、ロシアの財政難や相次ぐ計画の遅れで出費が予想を大きく上回り、NASA予算の一番の押し上げ要因になっていました。そのような流れの中で就任したのがオキーフ新長官だったのです。オキーフ長官は前任が行政管理予算局次長です。無駄が多いと言われてきたNASAのコストを徹底的に洗い直し、業務を効率化することが最優先課題でした。
 
 オキーフ長官が就任してから1年以上が経過しましたが、現在のところ、NASA全体の予算は横ばいを維持しています。しかし、その配分を見ると、有人宇宙飛行以外に重点を置こうとするメッセージが伝わってきます。


Q.そのような背景の中で、優秀な人材が集まらないという実態もあったようですね。

 米国が旧ソ連と宇宙開発を競っていた頃、米政府は巨額の予算を注ぎ込み、大学も宇宙工学の教育を拡充。若い人材がNASAに集まってきました。しかし、予算が削られる中で、スペースシャトルの部品供給や維持管理業務などは外部委託されるようになり、NASA本体の技術者は減っています。民間企業の方が給料が高いこともあり、優秀な人材はそちらに流れる傾向がありました。NASAが宇宙開発に対する明確なビジョンを示せないことも原因なのでしょう。魅力が薄らいでいるのです。


Q.合理化が技術水準や士気の低下を招いたという話しもあります。

 以前のように、宇宙開発に夢を託す人が少なくなっているようです。スペースシャトル打ち上げ直前に工具が発射台近くで見つかったり、ソフトのちょっとしたミスで発射が遅れるという事態は往々にしてありました。


Q.事故原因は解明されていませんが、現時点でのお考えを聞かせてください。

 外部燃料タンクの断熱材がはがれ落ち、車輪格納庫の耐熱タイルを破損したのが事故原因ではないかという見方がありますが、私が米国でシャトルの打ち上げを見に行っていた当時も、何度か耐熱タイルの破損があったのを記憶しています。耐熱タイルが剥れても問題はないとされていたため、それを防ごうとしてこなかったのかもしれない。どこかに油断や過信があったとしたら問題です。

 また、異常に気づいた早い段階でシャトルを戻すという選択肢もあったでしょう。それらが合理化を優先するあまり見過ごされてきたとしたら、考え直さなければなりません。米政府はNASA予算を急遽、約5億ドル増やすことにしました。宇宙にはまだまだ未知な部分がたくさんあります。1日も早い事故原因の解明に努め、再発防止策を講じて欲しいものです。