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食品メーカーの製造システムが医療現場のミスを防ぐ!


 マヨネーズやドレッシングでお馴染みのキューピー。同社が開発した、「医療行為支援システム」が医療現場における事故の防止に役立っている。もとは200種類以上あるドレッシングを製造する際の、原料の計量ミスや配合ミスを防ぐ目的で作られたFA(ファクトリー・オートメーション)システムの機能を応用させたもの。同社の社員が入院時に他人の点滴を投与されそうになった経験がきっかけになって、出来上がったシステムだ。

 医療行為支援システムは、バーコードで患者と投与する点滴や注射を照合し、間違いがあれば警告音が鳴る仕組み。点滴などを実施する看護師のバーコードも読みとるため、誰が実施したかもわかる。バーコードを読みとる携帯端末は、患者の血圧や体温、食事量の入力も可能で、その結果をパソコンに送信すればグラフなどを作成することも出来る。

 使い方は簡単。まず、小型の携帯端末で患者のリストバンドに付いているバーコードを読み込む。次に投与する点滴や注射に貼付されたバーコードを読み込む。この時、他の患者の点滴であった場合は警告音が出て、間違いを知らせてくれる。無事に照合が済んだら、最後に看護師の名札についたバーコードを読み込めば完了だ。点滴や注射は看護師1人で行うことが多いが、このシステムによって患者の誤認を防ぐことが出来る。


 患者に投与する点滴を
 バーコードでチェック。
 間違いがあれば、
 ピピッと警告音が鳴る。


 このシステムを2000年7月から導入した横浜総合病院(神奈川県横浜市青葉区、ベッド数300床)では、「注射業務における精神的な負担が減った」と看護師に好評だ。そこで、導入のきっかけやその効果などについて、同病院の看護部長である桃田寿津代さんに話しを伺ってみた。

Q.きっかけは?

 患者の安全を追求するのはもちろんのこと、看護師の負担を少しでも減らすことが目的でした。看護師はもともと人員配置が豊富でないうえ、業務も煩雑。作業を途中で中断されることも多い。そのせいで事故が発生しかねない。実際、注射や投薬時にヒヤリとしたり、はっとした事故が多かった。看護師が疲れ切った顔をして事故報告書を持ってくる姿が忍びなかった。業務量は増える、さらに事故の責任まで看護師が負わなければならないとなると、なり手がいなくなるという懸念もありました。

Q.なぜ、このシステムを導入しようと思ったのですか?

 すでに当院ではオーダーエントリーシステムを導入しており、医師の処方がコンピューターに入力され、ラベルシールが注射や点滴などに張られていました。なので、バーコードさえ付ければ、これはすぐに使えると思ったのです。システム導入前には、ベッドサイドで看護師が患者の名前を確認していましたが、患者はたとえ間違っていても「はい」と答えがち。患者の高齢化や重症化が進んでおり、ますますチェックが難しくなっていたという背景もあるのです。

Q.導入はスムーズでしたか?

 院長はすぐに了承してくれました。患者の安全や安心を実現するには不可欠であるとの判断でした。ただし、看護師にとっては余分な作業が増えるので抵抗もありました。そこで、まずは注射の少ない整形外科病棟から始めることにしました。患者には腕にバーコード付きのリストバンドを装着してもらいますが、モノとして扱われている印象を持たれないよう、名前とバーコードの大きさを同じにしたり、入院時に文書を交付して説明することにしました。

Q.使ってみた結果はいかがでしょう?

 看護師にアンケート調査を実施したのですが、「精神的な負担が減った」とする回答が76%に上っています(グラフ参照)。患者に薬を投与する段階では、看護師が1人で確認作業をしなければなりませんでしたが、このシステムでダブルチェックが出来ます。患者に対してもアンケートを行いましたが、「安心感が得られる」という回答が82%になっています。これまでにエラーが7件発生していますが、このシステムがなければ、それが事故につながっていた訳ですから、やはり入れて良かったと思っています。

Q.他の病院へのアドバイスがありましたら。

 このシステムを導入するには、オーダーエントリーシステムが導入されていることが前提条件になります。医療行為支援システムのみの費用は、1病棟あたり約500〜600万円ですが、まずはそれら費用をどのように捻出するかが一番大きな問題でしょう。せっかく導入するなら、あれもこれもとさまざまな機能を考えがちですが、すぐに使える、簡単な機能の方が職員に好まれます。

 また、各部門間の協力関係が不可欠です。さまざまな場所で、このシステムについて講演をする機会を頂きますが、「誰が点滴ボトルにラベルシールを貼るのか」というところから話題になる病院さえあります。(ちなみに横浜総合病院では薬剤部でラベルを貼っています。システム略図参照)組織が縦割りなんですね。ですから、日頃から努力して、お互いに風通しを良くしておくことが必要です。患者のための医療であることを考えれば、解決できる問題は多いと思います。



Q.今後の予定は?

 現在は、整形外科と脳外科のみでこのシステムを導入していますが、今年は全科で導入する予定です。また、点滴と注射時のみに適用していますが、将来的には薬剤にもラベルシールを貼付できるようになれば良いと思っています。そうすれば、薬剤を調合する際のミスを防げるからです。ただし、これには薬剤メーカーの協力が不可欠です。他にも、電子カルテと連動させたり、リアルタイムで医師の処方が携帯端末に送られる仕組みも検討していきたいと思っています。

取材:長岡美代(ながおかみよ) フリーライター
月刊誌や週刊誌、専門誌等に介護や高齢者関連等の記事を執筆。