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ベッド等に関する事故の実態と課題



 療養に用いられる用具は『諸物品』として取り扱われており、薬事法の『医療用具』には該当しない。そのため、これまでインシデントや事故が表面化する事がなかった。また、メーカー1社の市場占有率が高いために競争が起こりにくく、安全性による差別化が十分になされてこなかった。また、療養環境において製品が利用される場合の安全性の基準もなかった。      
   
 これらのことから、3月29日、療養環境で使われているベッドや車いす等の諸物品や、設備、建築等についての安全性や快適性を研究するための「療養環境研究会」(代表=三宅祥三、武蔵野赤十字病院院長)が発足した。

  療養環境研究会代表の三宅祥三氏


 当日は、2002年度の厚生労働省科学研究「医療及び療養環境で使われる諸物品の安全性の問題についての研究」(主任研究者=三宅祥三氏)において、ベッド等の諸物品に関するインシデントや事故を調査した結果も発表された。調査対象となったのは、急性期病院が5カ所と老人保健施設が1カ所。調査期間は2002年8月12日から9月2日で、合計109件の調査票が回収された。
 それによると、療養環境で発生しているインシデントや事故は、物品の種類によってばらつきがある事がわかった。中でも、電動ベッドは患者の死亡事故や骨折という重大な結果を引き起こしており、さらに転倒や転落も多い事がわかった。

 

 具体的な電動ベッドに関するインシデントや事故として、患者自身がベッドを操作中に体が傾き、ベッド柵のすき間に首が挟まって死亡した事例をはじめ、柵と柵のすき間に足や腰がはさまった事故や、患者が柵を乗り越えて転落した事故等が紹介された。

(発足式では参加者からの具体的な事故事例の発表や意見交換がなされた→)



 また、その他の物品では、ベッド上で使うオーバーテーブルや、点滴スタンド、ポータブルトイレ、車いす、シャワーチェアーに関するインシデントや事故もあった。

 これらが起こる背景には、(1)患者の状態、(2)医療従事者の操作方法、(3)物品や特定部位の機能、(4)物品の組合せ、(5)物品と周囲との関係、が原因になっているという。

 まず、(1)患者の状態では、以下のような特徴が見られた。
  ・体型(体が小さい、やせている、体格が良い)
  ・年齢層(小児、高齢者)
  ・意識レベルの低下(せん妄、痴呆、理解力の低下)
  ・病状(麻痺、全身浮腫、虚弱)
  ・その他(運動能力、四肢の動きが激しい)

 (2)医療従事者の操作に関するものでは、患者の状態を未確認のままベッドを操作したためにインシデントや事故につながったものがあった。

 (3)物品や特定部位の機能では、ベッド柵のすき間に由来するものや、点滴スタンドのフックがカーテンにひっかかったために起こったもの、利用方法の変化や、目的外利用、製品の老朽化や高度化が原因となっていた。

 (4)物品の組合せでは、ベッドに褥瘡予防用マットを敷いたために患者の体位が高くなり転落の危険性が増したものや、ベッド柵とマットレスとの間にすき間が生じたために体の一部が挟まったり、点滴スタンドに取り付けた輸液ポンプが重かったためにバランスを崩したものがあった。

 (5)物品と周囲との関係では、エレベーターの溝に点滴スタンドのキャスターが挟まり転倒したもの等、病院の構造物と医療用具との関係があることもわかった。

 三宅氏は、これら療養に用いる物品の安全対策を進めるにはいくつかの問題点があることも指摘した。まず、患者の年齢や状態等が多様化しているにも関わらず、それへのリスク対応が明確になっておらず、物品との整合性もとれなくなっている。また、可動性の高い用具と固定して用いる用具、移動を前提とした用具が混在することによってトラブルが起きている事も問題視した。

 そして、看護職はこれら諸物品に関するインシデントや事故が起きた場合に、その原因を巡回不足等、自らの責任にしてしまう傾向があるとも指摘した。さらに、医療現場では既存の諸物品をいかに工夫して活用するかが重視されてきたために、用具の改善をメーカー側に訴えたり、情報を共有する場がなかった。たとえ改良品が製品化されたとしても、コストが高く、財政的な問題で買い替えが進まなかったり、物品の購入決定プロセスに看護職等の医療従事者が関わっていないという問題もある。

 また、メーカー側が物品を利用している患者や看護職から意見を聞く機会がない一方で、安全性が高まった新製品の情報が現場に届かなかったり、アクシデントが発生した時にメーカーが現場で検証する機会がない等、メーカーと医療現場の情報格差がある事も課題だと語った。

 そのため、療養環境研究会には医療従事者や患者、メーカー、建築や設備の関係者、行政等の幅広い人が参加して互いに情報を共有し、改善策を検討する場になる事が期待されている、と話した。具体的には、諸物品に関するインシデントや事故情報の収集とフィードバック、改善策の専門的な分析とその情報発信の場となる予定。テーマ別のワークショップの開催や、ホームページの開設、事例報告書の作成も行いたいと考えている。将来的には、学会への発展も視野に入れている。
 

*療養環境研究会事務局 国立保健医療科学院施設科学部
 TEL:048−458−6111 FAX:048−468−7982