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自分で考え、行動する活動が医療の安全を確保する


 医療事故を防止するには、個々の職員の努力だけでは限界がある。組織的な取り組みが不可欠なのは言うまでもない。そこで今回は、組織を挙げて医療の質向上活動(Medical Quality Improvement、MQI活動)に取り組みながら、医療の安全確保を図ろうとしている練馬総合病院(東京都練馬区、244床)を紹介したい。
      
   
人工呼吸器の安全管理対策

 練馬総合病院では、毎年1回、業務改善策の発表大会が開催される。全職種にわたる全職員がチームに分かれて検討した結果を発表する機会だ。看護師の三嶋ミナ子さんが所属していたチームでは、「人工呼吸器の安全・速やかな稼動」をテーマに、おととしから昨年度にかけて改善策を検討し、その内容を発表した。

 メンバーは看護師をはじめ、医師や臨床検査技師、中央材料室の職員、設備係から構成された総勢8人。きっかけは、人工呼吸器の取り扱い方法が全職員(看護師)に普及していなかったからだ。

 そもそも人工呼吸器は患者の状態が急変したり、術後の状態が悪いなどの理由で呼吸不全に陥った際に使われるが、それ程使用頻度が高い訳ではない。そのため看護師の中には、「取り扱い方法がわからない」「難しい」「面倒だ」と考える人が多かった。

 また、同院で使われている人工呼吸器は多種多様。それぞれに部品や回路の接続方法も異なっていた。さらに、部品の点数が多いため、看護師が誤って汚物として捨ててしまうという事態も起こっていた。

 そこで同チームは、まず1〜2年目の看護師を対象に、人工呼吸器を稼動させるまでの時間を計測。あわせて部品や回路の接続が正確に行われているかどうかも調査した。

 「調査の結果、30分から63分までと看護師によって接続時間に大きな開きがあることがわかりました。接続方法も正しく理解されていませんでした」と、三嶋さん。

 一方で、接続工程も洗い出した。すると、機種の中には53の工程が必要なものもあった。看護師全員に人工呼吸器の使い方が周知徹底されているかどうかもアンケート調査したが、およそ半数の看護師が手順書の存在を知らなかった。

 これらの調査から、同チームは機種を簡単な操作のものに統一することを病院幹部に提案。発表大会を待たずに、年度の途中で同型の機種が4台購入された。これによって、接続工程は27にまで減らすことが出来たという。その使い方の手順書は1枚の紙にまとめられ、写真入りで、誰が見てもわかりやすいようにした。また、回路などの接続部分にシールを張り、他の部品と間違って接続しないような工夫もした。さらに、人工呼吸器の消毒方法も統一して、写真入りの手順書を作成。部品の紛失を防ぐことを目指した。
 



人工呼吸器の接続回路にシールを張って、接続を間違わないように工夫している。





人工呼吸器の接続手順は、写真入りでわかりやすく解説されている。

 このような取り組みの成果は、早速目に見える形で表れた。以前は人工呼吸器の接続に30分から1時間近くかかっていたものが、5分から11分に短縮された。接続も正しく行われるようになったという。

 「人工呼吸器の取り扱いを毛嫌いする看護師も少なくなりました」と、三嶋さんは言う。



左から、看護部長の高橋礼子さん、看護師の三嶋ミナ子さん、
看護師の中園まゆみさん。三嶋さんは人工呼吸器の安全管理を、
中園さんは転倒・転落事故の防止策をチームで検討した。




医療の質向上活動とは

 練馬総合病院ではこのチームのように、職員が独自に業務改善のための活動を行っているのが特徴だ。人工呼吸器の安全管理以外にも、患者の転倒・転落防止策や褥瘡対策などを検討しているチームがある。

 チームの編成は、医師1名以上を含み、他職種で構成されたメンバーであれば、職員が自由に行える。各チームは、年度ごとに決められる統一テーマに従って、具体的な活動内容を決定。ちなみに、2001年度の統一テーマは「安全」、2002年度は「評価」だった。

 活動内容を決定したチームは、事前に院内に設置された「推進委員会」にそれを諮り、承認が得られれば、活動開始となる。活動期間は半年間。活動終了後には完了報告書として取りまとめ、発表大会において報告することになっている。さらにその内容は標準化され、日常の業務に活かされる。同院ではこのような取り組みを「医療の質向上活動(MQI活動)」と名付け、1996年から始めているという。

医療の質向上活動(MQI活動)の流れ
  1. テーマの選定
  2. チームの結成
  3. 活動テーマ登録
  4. 推進委員会審査
  5. 病院検収・承認
  6. 活動実施
  7. 完了報告書提出
  8. 推進委員会・病院審査
  9. 発表大会
  10. 歯止め・標準化案提出
     標準化

 


練馬総合病院の飯田修平院長。
 「患者さんに信頼され、選ばれる病院になるためには、業務の効率化を図るのはもちろん、医療の質を向上させなければならない。事故や失敗を繰り返さないためにも、組織として質の保証に取り組むことが不可欠なのです」と、飯田修平院長はMQI活動の必要性をこう語る。

 今年でMQI活動を始めて7年目になるが、課題も見えてきた。チームにおける活動が発表大会で報告するためのものとなってしまいがちで、本来の目的が見失われがちになっている面もあるという。

 「いかに活動の成果を日常業務に落とし込んでいくか。それが出来てこそはじめて、MQI活動が成功したと言えるのです」と、飯田院長。 

 冒頭で紹介した人工呼吸器の管理にしても、「最近は延命を拒否する人が増えており、以前より人工呼吸器を利用する頻度が少なくなっている部署もある。いかに活動の成果を維持するかも課題です」と、看護部長の高橋礼子さんは話す。

 安全確保の取り組みに終わりはないが、職員の自発性を活かしたMQI活動には期待が持てる。