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事故発生から3年後に病院はどのように変わったのか


 千葉県立東金病院(千葉県東金市、216床)において、人工透析患者が医療事故によって死亡してから間もなく3年になる。この事故によって病院はどのように変わったのか。平井愛山院長に当時を振り返ってもらいながら、これまでに同院が行ってきた医療事故対策と今後の課題について話しを聞いた。
      


事故の情報開示のあり方と遺族への謝罪

Q.まずは、当時の事故の状況を教えてください。

 それは2000年5月25日、午後4時過ぎの事でした。透析担当の内科医師から、ある入院患者さんの状態が急変し、現在、心肺蘇生中であるという電話を受けたのです。この患者さんは、透析に引き続いて行われた抗生剤の点滴終了直後に状態が急変したというのです。私は直ちに現場に駆けつけ、職員から状況を聞きましたが、一見してこれは極めて重大な医療事故が発生したと感じました。その後、午後5時9分、患者さんは残念ながら亡くなりました。

Q.事故の原因は何だったのでしょうか。

 直接的な原因は、透析後の返血操作を行った後に、透析回路を用いて抗生剤の投与を行う過程で看護師が血液ポンプを再作動させたことにより、透析回路内に空気が流入し、加圧されたこと。さらに、抗生剤の点滴が終了した時点で、別の看護師が透析回路を止めていたペアン(回路鉗子)を開放したことも原因でした。これらによって、加圧された空気が患者さんの血管内に流入し、空気塞栓を起こしたのです。

 ただし、これはあくまでも直接的な原因であり、このような事故が起こった背景や、病院が抱える根本的な問題などは、「医療事故調査委員会」が2000年7月に発表した報告書に記載されています。その内容は当院のホームページ上で公開していますので、参考にしてください。

Q.事故発生の翌日には記者会見が開かれましたね。情報開示についてはどのような方針で臨まれたのですか。

 医療事故が発生した場合に大事なのは、情報を一元化することです。緊急事態ではさまざまな情報が錯綜しがちです。それゆえ、組織の最高責任者あるいは意思決定を行う部門が、適切な判断が下せないまま迷走するというケースも見受けられます。当院では緊急事態の知らせを受けてから、事務局長室に院長である私と事務局長が張り付き、全ての情報を1カ所に集中させました。外部との連絡も全てここを通じて行うことにしたのです。また、幹部職員とは最新の情報を共有するようにしました。

 さらに県庁には速やかに連絡を入れて指示を仰ぐとともに、所轄の警察署にも即座に連絡をとりました。医療事故であるという認識がありましたから、医師法21条の異状死体の届出義務に該当すると思ったのです。患者さんの死亡確認直後には遺族の了解を得て、改めて警察に連絡を入れました。

 記者会見は、翌26日、当院において行いました。全国には約20万人の人工透析療法を受けている患者さんがいますから、事故による影響は計り知れませんでした。しかし、だからこそ事故内容を速やかに公表すべきであるという結論に達しました。この方針は県庁との話し合いを通じて、事故当日の深夜には決まっていました。記者会見の内容については、プライバシーを保護するため、何をどのように公表するかについてご家族と詳細に打ち合わせを行いました。

 先ほども言いましたように、当院は事故の内容や原因などをホームページ上で公開しています。電子掲示板で意見交換も行っています。事故を起した病院の中には、その事実を隠蔽あるいは改ざんするところもあるように聞きますが、そんなことをしても何のメリットもありません。むしろ情報を積極的に公開して、病院を改善する契機にしていった方が得策です。

Q.ご家族にはどんな対応をされたのですか。

 内科医師から急変の知らせを受けて私が現場に駆けつけた時点で、これは医療事故である可能性が高いと判断しましたから、患者さんのご家族には私がその旨を伝えるとともに、謝罪しました。このような事態が起こった場合、病院側は誠意を持って、速やかに患者さんやご家族に状況を説明し、病院長などしかるべき立場の者が率直に謝罪することが何よりだと思います。ましてや医療過誤である可能性が否定出来ないのであればなおさらです。その後の調査で医療過誤でないことが判明したとしても、それはその時点で是正すれば良いだけのことなのですから。今回の事故では2000年10月に示談が成立しておりますが、このような早い段階で決着出来たのも初期対応が迅速だったからだと考えております。

Q.ご家族の反応はいかがでしたか。

 患者さんが亡くなった直後に、所轄の警察署の人が即座に駆けつけてくれました。これら病院側がとった迅速な対応に関しては、「誠意を感じます」という評価を受けました。ただし、医療事故については、「無念である。何が起こったのか、なぜ起こったのかを明らかにして欲しい。そして2度と起こらないようにして欲しい。最大限の誠意を示して欲しい」と言われました。当院ではこの言葉を真摯に受け止め、事故原因の解明と再発防止に向けて努力をする決意を新たにしました。


事故防止の具体的な取り組みと風化しつつある職員の意識

Q.では、事故の再発防止に向けて、具体的にどのようなことに取り組まれてきたのですか。

 まず、組織改革を行いました。院内に「医療安全委員会」と、その下部組織である「リスクマネジメント部会」を設置しました。同部会は各診療現場において実働部隊的なリスクマネジメントにあたる組織です。インシデントレポートの制度化も行いました。このインシデントレポートは、各部署で発生したものだけでなく、他部署で発生した事例についても気づいた人が提出するようにしています。

 また、事故防止や安全対策にあたるジェネラルリスクマネジャーを配置することとし、診療部長を任命しました。2001年4月からは看護部におけるリスクマネジメントを専門に行う、副看護部長ポストも設けました。さらに、「医療事故調査委員会」から指摘されていた透析科の組織体制も強化しました。診療部の中に独立した科として位置づけ、その管理や責任を明確にするために透析部長を配置しました。



 
 事故を防止するためのシステムも構築しました。「人は間違いを犯す」という視点に立ち、医療機材や医薬品、業務手順などを見直すとともに、オーダリングシステムや「薬剤名入力システム」を導入しました。「薬剤名入力システム」とは、同一の商標で複数の剤形や含量規格がある薬剤について、その表記と分量の表し方を見直したものです。

 人材の育成にも力を入れています。事故を防止するには、各職場におけるインシデントや事故の原因を的確に分析し、事故防止対策を企画・立案出来るリスクマネジャーの存在が不可欠です。事故原因を分析する手法には「4M−4E方式」や「SHELモデル」などがありますが、それらを現場に活かすには事例を積み重ねてスキルを磨いていくしかありません。当院では私の指導のもと、リスクマネジャーと徹底したやり取りが繰り広げられています。

 看護職員の教育についても継続的な教育システムを整備し、リスクマネジメントに関する院内および院外教育の機会も設けています。

Q.事故が発生してから3年目を迎えます。何か課題はありますか。

 正直言いまして、事故を防止しようという職員の意識が薄れつつあるのを懸念しています。患者確認の方法をマニュアル化しているにも関わらず、それを遵守しようとしない職員がいるのはその1例です。現在、バーコードを用いた患者確認システムを導入しようと検討していますが、どんなに良いシステムを取り入れても、それを守ろうとする意識が欠如していたら意味はありません。

 当院では、これまで事故を起した当事者の責任を追求するのではなく(責任追及型)、事故原因を徹底して追究する姿勢でやってきました(原因追求型)。事故の当事者は一定の処分を受けましたが、個人の責任は問われず、今も当院で働いています。しかしながら、このような対応が、むしろ事故を起した責任の重大さを風化させることにつながったのではないかと思っています。今後は組織として事故防止対策を講じていくことはもちろんのこと、インシデントや事故を繰り返す職員に対して、何らかのペナルティを科すことも必要だと考えています。

 昨年6月には、事故を教訓として再発防止を図っていこうと、「東金病院医療安全の日」を制定しました。今年は6月7日に外部から講師を呼んで、事故防止対策について改めて考える予定です。ご遺族の気持ちを決して無にすることがないよう、職員一同が気を引き締める機会にしていきたいと思っています。

 

千葉県立東金病院の平井愛山(ひらい あいざん)院長