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いよいよ本格化か!? SARS患者受け入れ医療機関の冬場対策

 シンガポール保健省は、9月9日、新たに男性1人のSARS感染者を認定したと発表した。WHO(世界保健機関)の終息宣言によって一息ついたかに思えたが、これによってSARSに対する警戒感は高まったようだ。すでに冬場に向けて、対策を検討し始めた医療機関もある。SARS患者の受入れ医療機関はどんな準備をしているのか。その動向を追った。
 

【適切なトリアージと消毒で対応】

 10日、東京都が主催した「救急医療機関におけるSARSなどの感染症対策」と題したシンポジウムに、大勢の参加者が訪れた。前日にシンガポール保健省の報道があっただけに、SARSに対する関心が特に高かったようだ。


東京都が主催した感染症対策のシンポジウムでは、
SARS対策に熱心に耳を傾けている参加者が多かった。


 今春の流行時に、救急医療機関としてSARS疑い例の患者を受け入れた清智会記念病院(東京都八王子市、177床)は、マニュアルを作成して、対応にあたったという。SARSの疑い例や可能性例(擬似症例)の患者が来院した際の、院内における連絡体制を整備した他、患者の誘導経路を確保し、特別診察室を設置した。

 一般患者とのトリアージを、受付の段階でいかに行うかがポイントのようだ。感染が疑われる患者から事前に連絡があった場合は、来院時に病院前に設置したインターフォンを鳴らしてもらい、通常の玄関とは別のルート(誘導経路)で特別診察室へ案内した。

 一方、事前連絡がなく来院があった場合に備えて、玄関前に注意書きを掲示。事前にインターフォンで連絡をするよう注意喚起した。その場合も、問診票による状態把握などを行い、感染の疑いがあると判断された場合には、特別診察室に案内した。

 特別診察室では、防護服に身を包んだ医師1人が診察を担当。可能性例だと判断した場合は、SARS専門医療機関に転送。疑い例の場合は、外来治療や自宅安静で様子を見守ることとした。

 診察後の消毒にも気を配った。マスクや手袋など個人用の防御用具は、感染性廃棄物として処理。手指の消毒はヒビスコールで行い、リネン類は熱水洗濯、またはハイターで消毒した。室内は十分に換気した後に、次亜塩素酸Naで消毒を行った。患者と接触した職員には、10日間は健康状態に留意するよう注意を促した。

 都健康局医療サービス部感染症対策課の研究員、大石修さんは、「SARSウィルスの排出量は、発病後数日間は比較的少ないが、10日前後に最大となる。その時期は患者が医療機関に入院していることが多いので、医療従事者の感染対策が不可欠」と、注意を促した。


【SARS患者受け入れ医療機関同士の話し合いもスタート】

 成田空港がある千葉県は、海外からの帰国者が最初に降り立つことの多い地域だ。同県の医療機関における対策はどうなのだろうか。



 「今春の流行時には、院内感染がきっかけとなってSARSを拡大させた地域が多い。医療機関内における感染対策がSARSの市中感染を食い止める鍵となる」というのは、千葉大学医学部附属病院(千葉県千葉市、835床)の感染症管理治療部部長の佐藤武幸医師だ。

 同院では、SARSなど感染症患者専用の外来診察室を病院の救急外来入口脇に設置した他、入院患者用の病室2床も確保。外来診察室と病室のいずれにも、陰圧式空気清浄機を設置した。この清浄機は荏原実業が販売しているもので、空気を3段階で濾過するフィルターが装備されている。本体価格は170万円で、一般病室を容易に陰圧式(あるいは陽圧式)に変更出来る。

千葉大学医学部附属病院の救急外来入口脇に設置された、
SARSなど感染症患者専用の外来診察室。



一般病室を陰圧式に変更出来る空気清浄機が置かれた、
千葉大学医学部附属病院のSARSなど感染症患者専用の外来診察室内部。


 「置くだけで、即座に陰圧式に変更できる点がメリット。SARS対策だけでなく、結核など他の感染対策にも使える。患者さんだけでなく、医療従事者の安全を確保するという観点からも必要性のあるものだと感じている」と、佐藤医師は話す。

 同院では、今冬の流行に備えて、すでに準備を始めた。SARSは飛沫・接触感染が経路とされているため、患者と接する医師や看護師などが着用する防護服を、以前よりも重装備にした。まず、顔も含めて、肌がほとんど露出しないようにした。さらに、脱ぐ際の感染にも備えて、1枚のつなぎタイプのものに変更した。その脱ぎ方についても、いかにウィルスに接触しないようにするか、その研修を行う予定だという。

 

今春のSARS流行時に千葉大学医学部附属病院で
用いられていた医療従事者の防護服。
今冬は肌の露出部を極力なくし、1枚つなぎのものに変更する予定。


 また、SARS患者を受け入れる県内の他の医療機関と、実務者レベルでの話し合いも始めている。各医療機関が受け入れ範囲を超えた場合の協力方法や、患者を受け入れた場合の必要な人員体制などが検討されているという。

 「SARS患者を受け入れる医療機関がしっかりとした体制を整えておけば、診療所など、地域の医療機関は安心して患者に対応できるのではないか」と、佐藤医師。

 患者と最初に接する機会の多い診療所などに対しては、「SARSの疑い例や可能性例を見逃さないように、どのような症状がそれに該当するのか、最新の正しい情報の入手に努めて欲しい。防護服のような準備は必要ないかもしれないが、手洗いやうがい、手袋・マスクの着用はもちろんのこと、その着脱方法や処理方法などについても検討しておくことが大切です。SARS対策を行うことで、各医療機関が感染症全般に対する対策を考えるきっかけになってくれれば良い」と話している。
 
(参考)疑い例と可能性例について

○ SARS疑い例
  1. 平成14年11月1日以降に、38度以上の急な発熱及び咳、呼吸困難等の呼吸器症状を示して受診した者のうち、次のいずれか1つ以上の条件を満たす者
    1. 発症前10日以内にSARSの「疑い例」・「可能性例」を看護若しくは介護していた者、同居していた者又は気道分泌物若しくは体液に直接触れた者
    2. 発症前、10日以内に、SARSの発生が報告されている地域(WHOが公表したSARSの伝播確認地域)へ旅行した者
    3. 発症前、10日以内に、SARSの発生が報告されている地域(WHOが公表したSARSの伝播確認地域)に居住していた者
  2. 平成14年11月1日以降に死亡し、病理解剖が行われていない者のうち、次のいずれか1つ以上の条件を満たす者
    1. 発症前10日以内にSARSの「疑い例」・「可能性例」を看護若しくは介護していた者、同居していた者又は気道分泌物若しくは体液に直接触れた者
    2. 発症前、10日以内に、SARSの発生が報告されている地域(WHOが公表したSARSの伝播確認地域)へ旅行した者
    3. 発症前、10日以内に、SARSの発生が報告されている地域(WHOが公表したSARSの伝播確認地域)に居住していた者
○ SARS可能性例
  SARS疑い例のうち、次のいずれかの条件を満たす者
  1. 胸部レントゲン写真で肺炎、または呼吸窮迫症候群の所見を示す者
  2. 病理解剖所見が呼吸窮迫症候群の病理所見として矛盾せず、はっきりとした原因がないもの
  3. SARSコロナウイルス検査の1つ又はそれ以上で陽性となった者