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イントラネットを活用したインシデント報告システムとその効果


 医療事故を防止する上で、インシデントレポートの収集とその分析は欠かせない。だが、提出頻度の高い部署とそうでない部署との隔たりは大きい。名古屋第二赤十字病院(愛知県名古屋市昭和区、835床)では、イントラネット(院内LAN)を活用したインシデントレポート報告システムの導入によって、各部署の提出頻度が高まったという。そのシステムを取材した。
 


リスクマネジャーの仕事ぶりがわかる報告システム

 名古屋第二赤十字病院では、院内にある約750台のパソコンを通じて、誰もがインシデントレポートを提出することが出来る。その仕組みはこうだ。まず、院内専用のホームページを通じてインシデントレポートを開き、項目に従って内容を入力する(図表1、2参照)。報告は無記名となっている。

 入力が完了すると、部署ごとに配置されているリスクマネジャーと所属長宛にその内容が電子メールで送信される。リスクマネジャーはこの内容について、各部署の職員と具体的な事故防止策を検討した上で、コメント(提言)を入力(図表3参照)。それらはメールで医療安全推進課に送られ、同課でレポートに個人情報などが含まれていないかどうかを確認。なければ、院内にいる約90人のリスクマネジャー全員に、電子メールで情報が公開される仕組みとなっている(図表4参照)。

 このシステムの何よりの特徴は、インシデントレポートに対して、各部署のリスクマネジャーがコメントを入力しないと先に進まないという点だ。インシデントが報告されてから、全リスクマネジャーに公開されるまでの進捗状況を、ネット上で誰もが確認する事が出来る。各自が入力したインシデントに対して、どのような処理がなされているのかが一目瞭然であるため、リスクマネジャーは手抜きが出来ないようになっている。

 「インシデントレポートは集めるだけでは意味がありません。それに対して、どのようなアクションを起こすかが重要なのです。リスクマネジャーの責任を明確にして、各部署で再発防止策を検討してもらうのを目的にしています」と、同院の医療安全管理委員会の委員長である安藤恒三郎副院長は語る。

 名古屋第二赤十字病院が、インシデントレポートの提出をイントラネット上で行うようになったのは、2002年2月からだ。それまでは文書による提出だったが、さまざまな問題を抱えていた。

  1. 手間や時間がかかるため、思うように集まらない
  2. 集計作業に労力がいる
  3. 他部署や他職員との情報共有が難しい
  4. 報告者に偏りがある
 というものだ。これらを解決するために導入されたのが、イントラネットを活用したインシデントレポート報告システムだった。 実際にシステムを導入してから、効果は表れはじめている。その1つが、報告者の偏りが解消しつつある事だ。例えば、システム導入前のインシデント報告率は、看護部が90.2%、診療科部が2.1%、薬剤部が4.3%、検査部が0.4%、放射線科部が2.0%、その他が1.0%と、看護部が抜きんでていた。しかし、システム導入1年後には、看護部が78.6%に下がり、診療科部が7.1%、薬剤部が7.6%、検査部が2.2%、放射線科部が3.0%、その他が1.5%と、他部署の報告比率が高まった。全体の報告件数も増えているという。

 「手軽に報告出来る点が良いのでしょう。各部署で起こったインシデントが、毎日のようにメールに入りますから、他部署の動きもわかるようになりました」と、医療情報部部長で小児科医でもある岸真司さんは、システム導入のメリットをこう語る。

 岸さんはこのシステム作りに関わった人物で、いかに入力しやすいフォーマットを作成するかに苦心したという。

 また、同システムは集計作業の効率化にも役立っているようだ。

 「以前のような文書による提出だと、集計作業に時間がかかりました。このシステムでは、インシデントの入力と同時にデータが蓄積されますから、統計処理も瞬時に出来ます。医療安全対策を行う場合に、どこに重点を置けば良いかがわかりやすくなりました」というのは、医療安全推進課長の池上健二さんだ。

 同院では、職員による事故防止対策の報告会を毎年実施しているが、今年は薬剤に関する事故対策をテーマにした。データによって、この関連のインシデントが最近増えている事がわかったからだという。
 

 


左が医療情報部部長の岸真司さん、右が医療安全推進課長の池上健二さん。

事故を未然に防ぐための危険予知システム

 イントラネットの活用は、インシデントレポートの報告システムだけではない。医療事故を防止するためのチェックリストも、全職員がネット上で見ることが出来るようになっている(図表5-1、5-2参照)。

 チェックリストとは、インシデントやアクシデントを通じて、各部署が事故防止対策を検討した結果作られたものだ。これを見ることであらかじめ起き得る事故を予測し、予防できるという事から、「危険予知システム」と呼ばれている。チェックリストの数は400種類以上もあり、イントラネット上で部署別、あるいは内容別に検索も可能となっている。

 このチェックリストの特徴は、具体的な行動を明確に示している点だ。例えば、「〜を理解する」という抽象的な表現は避け、「〜を準備する」とか「〜を変更する」など、行動につながる言葉で記入されている。また、内容は誰もが到達可能なレベルに合わせている。

 「残念ながら、部署によってチェックリストの内容や数に格差はあります。しかし、これらは職員が話し合いをしてゼロから作り上げたもの。その作成過程に意義があります。実際の業務では、チェックリストを見ながら行うことは余りありませんが、定期的な見直しを通じて、事故防止への意識を高めてもらいたいと考えています」と、安藤副院長はその効果に期待を込めている。


名古屋第二赤十字病院の医療安全管理委員会委員長の安藤恒三郎副院長。



図表1 インシデントレポート入力画面(PAGE1)


図表2 インシデントレポート入力画面(PAGE2)


図表3 リスクマネジャーのコメント入力画面


図表4 全リスクマネジャー宛のメール画面


図表5-1、5-2 医療事故を防止するためのチェックリスト(危険予知システム)の画面