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ガイドラインの作成で事故防止〜国立大学附属病院の安全管理対策


 全国には42カ所の国立大学附属病院がある。それら病院間におけるネットワーク化と安全な医療提供体制を推し進めるため、2002年10月に「国立大学病院医療安全管理協議会」が設立された。その活動内容について、同協議会の事務局を務める大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部部長の武田裕さんに話しを聞いた。
 


Q.まずは、「国立大学医療安全管理協議会」(以下、「協議会」)が設立された経緯をお聞かせください。

 国立大学病院が医療事故対策に本格的に取り組むようになったのは、1999年からです。国立大学病院長会議において、「医療事故防止方策の策定に関わる作業部会」が設置され、事故対策について話し合われるようになったのが始まりです。その後、2001年6月に、「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて」という提言がとりまとめられ、各病院における事故対策が進められるようになりました。

 この提言の内容は、大きく分けると3つになります。1つは、安全管理に対する総合的な体制を整備すること。具体的には、病院長を中心とした事故防止委員会の設置をはじめ、専任のリスクマネジャーを配置した「医療安全管理部」の設置、インシデントレポートの報告システムの導入などです。

 2つ目は、医療そのものの改善を通じた安全性の向上です。診療体制の見直しや、診療録(カルテ)の記載方法の改善などがこれに当たります。

 3つ目は、事故発生時の対応です。インフォームドコンセントやカルテ開示の全面実施、事故が発生した場合の公表に関する基準などが盛り込まれています。

 さらに、2002年3月には、「国立大学附属病院の医療提供機能強化を目指したマネジメント改革について」という提言がとりまとめられました。これは国立大学が2004年度から独立行政法人化されるのに伴い、病院のマネジメント体制を強化するための方策が盛り込まれているものです。その中で、安全管理体制を機能させるには、各病院の取り組みをサポートし、病院間の連携協力体制を図るための全国組織が必要であると提言されました。それが契機となって、2002年10月に協議会が設立されることになったのです。

Q.協議会は具体的にどのようなことを行うのでしょうか。

 協議会のメンバーは、ジェネラルリスクマネジャーや安全管理室長、医事課長などで、各病院から3人ずつ選出されています。それらの人達が年1〜2回集まって、安全管理に関する情報を共有化しています。また、協議会の下部に「管理部会」「事務部会」「専任リスクマネジャー部会」が設置されており、それぞれがメーリングリストを設けて、情報交換をしています。他にも、教育プログラムの企画開発や、各種ガイドラインなどを作成していく予定です。

Q.すでに作成されたガイドラインもあるようですね。

 はい。各病院がインシデントレポートで報告すべき範囲と、医療事故を判定するためのガイドラインを作成しました。前者についてはその範囲を、1:患者に傷害が発生した事態、2:患者に傷害が発生する可能性があった事態、3:患者や家族からの苦情、としました。

 ただし、院内感染や食中毒、職員の針刺し事故、暴行傷害、窃盗盗難、医療行為に関わらない患者や家族からの苦情は、対象外としています。院内感染や食中毒を対象外としたのは、国立大学病院長会議内に「感染対策協議会」が別に設立されていますから、そちらに委ねることにしたのです。

 具体的なインシデントの内容については、図表1のように「レベル0」から「レベル5」までの8つに分類しました。さらにその中から、1:医療側に過失があり、2:患者に一定程度以上の傷害(図表1の「レベル3b」以上)があり、3:前記1と2に因果関係があるものを、医療事故としました。

 さらに、用語の定義も行いました。医療事故と同じように使われる「アクシデント」や「医療過誤」も、医療事故と同義であると定めています。一概に医療事故と言っても、その定義は明確ではありません。各病院によって捉え方はマチマチです。そのため協議会では、インシデントと医療事故の用語を定義することが大事であると考えたのです。

Q.医療事故を判定するためのガイドラインとは、どのようなものなのですか。

 インシデントレポートとして報告されたもののうち、「レベル3b」以上の重大な事態が生じた場合に、その緊急性を判断し、素早く対策を講じるための組織をつくるというものです。

 例えば、大阪大学医学部附属病院では、病院内情報ネットワークの端末コンピュータを使って、誰もが簡単にインシデントレポートの報告ができるようになっています。そこで報告されたインシデントレポートは、その日のうちに院内のリスクマネジャーが必ず目を通します。そして、「レベル3b」以上のインシデントについては、院内の「医療クオリティ審議委員会」に諮られ、緊急性の高い医療事故か否かの判断がその日のうちになされるようになっています。緊急性の高い医療事故と判断された場合には、「医療事故報告書」を提出してもらい、医療事故対策委員会で対応策が決められます。

Q.今後作成される予定のガイドラインなどはありますか。

 今年中に、医療事故が起こった場合の、院内および院外への公表方法についてのガイドラインを作成する予定です。教育プログラムについては、来年5月に新人リスクマネジャー向けの研修会を予定しています。いずれは、その上級コースも設けていきたいと思っています。

Q.今後の抱負をお聞かせください。

 これまでの大学病院は、診療よりも、研究に重点が置かれてきたきらいがあります。そのため患者のための医療という視点が欠けていたり、安全管理対策も十分に尽くされてきたとは言えない状況だったかもしれません。しかし、国立大学病院を取り巻く環境は大きく変化しています。来年度からは独立行政法人化され、新たに研修医の卒後研修制度がスタートします。国立大学病院の教育機関としての役割と、マネジメント能力がますます問われるようになる訳です。そのためにも、協議会を通じて、全国共通のガイドラインや教育システム、安全管理のための評価システムを作り、安全で質の高い医療の提供ができるようにしていく必要があります。

 医療事故が発生した場合に、個人を罰しても問題解決にはなりません。PDCA(Plan、Do、Check、Action)というサイクルを繰り返しながら、組織として事故が防げるような仕組みをいかに作っていけるかが問われています。いずれは、医療安全管理手法の開発・標準化や、医療安全管理学も確立していけたら良いと考えています。
 


国立大学医療安全管理協議会の事務局を務める、
大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部部長の武田裕さん


 

図表1 インシデントのレベル(国立大学病院医療安全管理協議会)

影響レベル
(報告時点)
傷害の継続性 傷害の程度 内容
レベル0 エラーや医薬品・医療用具の不具合が見られたが、患者には実施されなかった
レベル1 なし 患者への実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない)
レベル2 一過性 軽度 処置や治療は行わなかった(患者観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査などの必要性は生じた)
レベル3a 一過性 中等度 簡単な処置や治療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など)
レベル3b 一過性 高度 濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者の入院、骨折など)
レベル4a 永続的 軽度〜中等度 永続的な障害や後遺症が残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
レベル4b 永続的 中等度〜高度 永続的な障害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題を伴う
レベル5 死亡 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)
その他
この中には、不可抗力によるもの、過失によるもの、予期せぬ事態などが含まれる。