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アセスメントツールの導入でわかった転倒転落を防止する鍵

患者の転倒転落を防止したいと努力しても、思うように事故が減らない。これという決め手が見つからないまま、どこかに諦めムードが漂う。かつての京都第一赤十字病院(京都市東山区、745床)はそうだった。だが、アセスメントツールの導入によって、ある変化が見られるようになってきた。
 

【事故を予測しながら防げないジレンマ】

 京都第一赤十字病院の看護部は、2003年4月から6月に提出されたインシデントレポートから転倒転落事故の分析調査を行った。その結果、次のような事がわかった。
 
  1. 看護師は患者の転倒転落の危険性を予知しながらも、具体的にいつ危険なのかを予測出来ていない。
  2. そのため、漠然と環境整備や患者の行動を観察し続け、観察出来なかった隙をついて転倒転落事故が起きている。
  3. 転倒のほとんどが排泄をするために歩こうとして転倒するなど、患者の能動的な行為の結果起きている。
 「この調査を通して、患者さんが何をしようとしていたのかという、転倒転落に至るプロセスを知ることが予防につながるのではないかと考えました」と、分析に携わった看護師の大牧あけみさんは言う。

 転倒転落に至るプロセスの把握−。しかし、それを解明しようとインシデントレポートを見ても、具体的な対応策が導き出せない。そんなジレンマに陥っていた。


【アセスメントツールの導入】

 その打開策として考えられたのが、転倒転落防止のためのアセスメントスコアシートの導入だ。

 アセスメントスコアシートは、個々の患者の状況をアセスメントして、転倒転落の危険性を見極めるもの。その危険性の程度は、アセスメント結果をスコア化することによって導き出す。

 そこで同院は、東京都病院経営本部が作成したものを参考にしながら、「年齢」「身体的障害」「認識的障害」などの分類ごとに、独自のスコアを設定。同院のインシデントレポートのデータを基に、事故発生率を計算して出した。

 また、アセスメントスコアシートで出した危険度ごとに、具体的な対応策の一覧表も作成した。交替制勤務のどのシフトにおいても、統一した判断や予測、対応を行う必要があると考えたからだ。やはり東京都のものをベースにして、同院の医療事故防止マニュアルの一部を抜粋して作られた。

 これらアセスメントツールの使い方はこうだ。まず、患者の入院時に、看護師が聞き取りや様子観察によって、アセスメントスコアシートを記入。原則、日勤帯の看護師が行う。項目ごとのスコアを集計したら、危険度を判定。その危険度ごとに、「転倒・転落危険度別対応策」に記された対応策を実施する。

 「危険度供廾幣紊砲弔い討蓮入院時の看護計画において「転倒リスク状態」を立案する。また、アセスメントスコアシートは、入院時、転入時(病棟の変更)、患者の状態が変化した都度、記入することとした。


【アセスメントツールによる変化と効果】

 導入当初は、「記入する用紙が多いので大変だ」という声も一部で聞かれたが、すぐに慣れたようだ。アセスメントツールについて看護師にアンケート調査をした結果、「転倒転落に対する認識が高まった」「転倒転落予防に関心がある」という回答が見受けられたという。

 「以前は、看護計画を作成する場合に、疾患に関わる問題やセルフケアへの援助などが問題として挙がることはあっても、転倒転落が課題になることはなかった。事故に関わった者だけが、インシデントレポートに記入している状況だった。しかし、アセスメントツールを導入してから、転倒転落が看護上の問題としてしっかり取り上げられるようになってきた」と、大牧さんはツールの導入効果をこう語る。

 アセスメントスコアシートを繰り返し記入することによって、患者に対する観察力が高まりつつあるとも感じているようだ。さらに、看護部内のカンファレンスにおいても、転倒転落について話し合われる機会が増えてきたという。


【患者の協力も不可欠】

 ただ、一方で課題も見えてきた。対応策に記入されていることが、必ずしも十分に浸透していない面があるのは事実だ。転倒転落のリスクが高い患者に対しては、協力を要請する必要性も感じている。

 そのため同院では、近々、表3のようなパンフレットを患者に配布する予定だ。それには、転倒転落の危険度を自己チェックしたり、防止するための注意点などが書かれている。患者と看護師が互いに協力しながら事故を防ごうという試みだ。

 「これからも実行可能な対応策を具体的に検討していかなければならない。インシデントレポートの書式も転倒転落のプロセスが一目でわかるようなものに、いずれ見直す必要があるかもしれない。事故を予防するには、日々関心を持ち続けることも必要ですね」と、大牧さんは結ぶ。

 アセスメントツール導入後のインシデントレポートの数が、今後どのように変化するかも気になるところだ。事故をゼロにするのは難しいかもしれないが、かつてのような諦めムードはもう見られない。インシデントレポートの分析から始まった問題意識を、今後どのように活かしていけるのか。その行方を注目していきたい。


京都第一赤十字病院の病棟係長(看護師)の大牧あけみさん。