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安全性を高める色のとりいれ方

 普段、何気なく見ている色。実は人の心や身体の働きに影響を与えているという。カラーコンサルタントで、「介護に役立つ色彩活用術」(現代書林)の著者がある南涼子さんに、色の効用と、病院や高齢者施設の安全性を高めるための色の使い方について話しを聞いた。
 


Q.特別養護老人ホームなどの高齢者施設で色彩計画を手がけていらっしゃるそうですね。まずは、介護と色を結びつけられたきっかけを教えてください。

 ある特別養護老人ホームの改修工事に伴い、色彩のアドバイスを依頼されたのが始まりです。それまで介護に全く無縁であった私にとって、それが高齢者施設に足を踏み入れる第一歩となりました。

 それまで高齢者施設には、何となく暗くて閉鎖的なイメージを抱いていたのですが、いざ行ってみると、高齢者の表情が明るかったのでほっとしました。でも、同時に違和感も感じたのです。ホームの内装が薄暗く、高齢者や職員の明るい表情と大きな落差があったからです。入居者の生活の場となっているにも関わらず、内装は色に乏しく、収容所的な印象を持ちました。

 色は、使い方によって暮らしを快適にします。視覚機能の低下した高齢者にとっては、色が方向認識を手助けする役割もあります。そんな理由から、介護の世界に色をもっと取り入れたいと思うようになりました。今では、「色彩レクリエーション」という活動を通して、高齢者のメンタルに役立てるボランティア活動も行っています。

Q.そもそも人はなぜ色を認識するのでしょうか。また、色は人にどんな影響を与えますか。

 色は光の1種であり、電磁波です。電磁波には、音波、電波、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線などの放射エネルギーがありますが、その中の目に見える波長で、可視光線と呼ばれる範囲の電磁波が光であり、色なのです。物体に当たって反射した光が目に入ると、初めて色と認識されます。色の違いは、光の波長の長さによります。ちなみに人間には、約750万〜1,000万の色が見えると言われています。

 また、色は視床下部を通って、大脳の視覚野で色と認識されますが、人の欲求や感情、内臓機能などに影響を与える大脳辺縁系と深い関わりがあります。さらに、色は視覚だけでなく、皮膚でも感じられます。皮膚が色の光に反応し、筋肉を緊張させたり、弛緩させたりします。これは皮膚が色の放射エネルギーを感じ取り、自律神経に働きかけることを示します。つまり、色は情動を呼び起こし、身体にも影響を与えるのです。ですから、色は使い方によって、人のやる気や情緒の安定に役立てることが出来るのです。

Q.病院や施設の色使いをご覧になって気づいた点を教えてください。

 内装の壁や天井に、白が使われていることが多いですね。汚れが目立ちやすく、清潔感があるからでしょう。しかし、この色は体力が低下した人には眩しく、疲れやすくなる色でもあります。実際、私も病院に入院した経験があるのですが、その際、白い壁が冷たい印象を与え、不安を覚えることもありました。

 蛍光灯が使われているところも多いのですが、青みがかった色は寒々しく、冷たい印象を与えがちです。施設内も殺風景に見えます。患者の顔も元気がないように見えます。

 最近は、手すりと壁の色を同系色に合わせるところがありますが、それらはいくら格好が良くても、使う人がいざという時に手すりを認識出来ない場合があります。壁と手すりには、しっかり色のコントラストを付けた方が良いですね。

 良い取り組みもあります。空間を色で区別している点です。例えば、床と壁がはっきりわかるように色で区切っているのもその一例です(写真参照)。ただ、色の選び方が悪い場合がありますね。区別するからには、用いる色のコントラストをはっきりさせることが大事です。写真の例にあるように、白い床と壁の境に緑を使うのも良いでしょう。

 特に高齢になると、色のコントラストを識別する能力が弱くなりがちです。瞳孔も小さくなり、光が入りにくくなりますから、よりコントラストをはっきりさせることが必要になります。また、夜間になると明かりが不足するので、色は識別しにくくなります。

 色は、方向の認識を手助けするサインとしても役立てられます。視覚機能が低下した高齢者にとって、色による方向誘導サインは欠落した機能を補います。高齢者は背骨が曲がっていることが多く、視点がどうしても低くなりがちですから、床に方向誘導サインを施すのも効果的です。

 ただし、見た目のデザインだけを考えて色を用いることは、方向誘導を妨げる原因にもなります。ある施設では、床に大きな円形デザインを施しましたが、高齢者はそれを水溜りだと勘違いして、そこを通る時にそうっと足を踏み入れたり、避けて通るという行動が見受けられました。また、床にムラや影がある場合は、違う色に見える場合もあります。歩行時のバランスを崩して転倒する恐れもありますので、やはり注意が必要です。

Q.安全という視点から、他に注意することはありませんか。

 まず、階段です。段鼻と踏み面の区別がつくように、明度差のある色でコントラストを付けると良いでしょう。同じような色だと階段を踏み外す危険性が高まります。さらに階段の素材には、光を反射する金属製のものは使わないでください。これは床も同じです。
反射すると目の前が見えにくくなり、空間認識や奥行きがわかりにくくなるからです。

 採光や照明にも気を配ります。特に高齢者は光の変化に弱いので、明るい場所から暗い場所に移動した際、またはその逆の場合でも、目が順応するまで時間がかかります。また、夜間トイレに行く人のために、廊下は程よい明るさの常夜灯を設置しておきます。

 ナースコールやトイレ内の緊急ボタンについても、はっきり認識出来るような色使いをして欲しいですね。枠にカラーテープを張って、目立たせるという方法もあります。

Q.職員にとって役立つ色はありますか。

 注意力を喚起するには、赤色が役立ちます。ただし、必要なところに少しだけ使うのがポイントです。目立つ色ばかりに囲まれていると、逆に注意が散漫になるからです。

 職員の休憩場所には、薄い青色が良いでしょう。青色は緊張感を緩和させ、冷静な判断力を高める効果があります。

 他にも、チームワークを高める色があります。オレンジ色と黄色です。ある施設で職員のユニフォームの色を明るいオレンジ色に変えたら、それまでぎくしゃくしていた職員同士の人間関係がなくなったと言います。コミュニケーション力や決断力が高まったとも聞きました。その実証は出来ませんが、オレンジ色や黄色は親近感を高め、人間関係にプラスに作用します。

 また、ある工場で色彩を計画的に取り入れたところ、作業能率が高まり、事故も減少したという話しもあります。色の使い方次第では、職員のメンタルにも大きな作用を及ぼすのです。

 色が人の心理や身体に与える影響は、計り知れないものがあります。実証データはまだ少ないのですが、2003年4月に立ち上げた日本ユニバーサルカラー協会を通じて、これからも調査や検証を行っていきたいと思います。


色のコントラストに欠けた施設内の廊下。無味乾燥な印象を与える。

色でコントラストを付けた廊下。活気が生まれた。
奥行きが把握しやすくなることで、空間認識が容易になる。




トイレのサイン。
男女の図の色とその下地の明暗が不足しており、非常にわかりにくい。



駅施設で用いられている案内表示。
明るさのコントラストが乏しく、目立たせるために用いた黄色が見えにくくなっている。



施設内の階段。段差が見えにくい。
明るさの差が少ない上に、反射も加わっているため、視認性が低下する。





カラーコンサルタントの南涼子さん。
高齢者施設などの色彩計画を手がけ、
高齢者や痴呆症に関する色の研究にも取り組んでいる。
日本ユニバーサルカラー協会の理事長でもある。
参考図書:「介護に役立つ色彩活用術」
南涼子著、現代書林発行、2003