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医療事故を防ぐために患者がすべきこと、医師がすべきこと

 がんに関する情報の提供や相談を行っている「キャンサーネットジャパン」(代表・南雲吉則さん)は、9月19日、医療事故の防止をテーマにシンポジウムを開催した。医療安全対策に取り組む病院や、患者からの医療相談を受ける医師や看護師らの報告に、参加者は真剣に耳を傾けていた。
 


生かされるか?医療事故の教訓


 まず最初に、今年4月から東京慈恵会医科大学付属青戸病院の副病院長に就任した吉田和彦さんより、「なくせるか?がん治療の事故とミス」と題した基調講演が行われた。

 冒頭、吉田さんは、患者の医療への期待が過度になっている点があると指摘。「先端医療や名医にかかれば健康になれると信じ込んでいる患者が少なくない」と、語った。

 しかし、初回入院がん患者の5年生存率は5割程度という現実があることを説明。患者側には、こうした現在の医療水準も理解してもらいたいと述べた。

 また、科学的根拠に基づいた医療行為(EBM)が約30%〜40%程度であると試算し、医療には不確実性があるとも話した。

 一方、EBMには、「無効もしくは有害であることが証明された治療法は行わない」「有効性があることが証明された治療法を適応症例に考慮する」「有効性の証明された治療法があれば、有効性の証明されていない治療法に優先する」という基本があることも提示。

 このEBMの普及によって、患者はいつでも標準的な医療内容を知ることが可能になるとともに、医師も客観的で質の高い診療を追求するよう動機付けされるメリットがあるとした。そのため、患者はインターネットやセカンドオピニオンなどを通じて、病気に対する知識を持って、医師と付き合って欲しいと話した。

 さらに、米国や日本における医療事故の現状を紹介しながら、その多くが外科的治療によって生じていると解説。患者がこうした医療事故を回避するには、手術経験の豊富な医師や医療機関を選択することが重要であると述べた。ただし、それには医療機関や医師によって、手術経験数や治療成績(生存率、手術死亡率、合併症発生率)などの情報が開示されることが必要不可欠だと指摘した。

 吉田さんは、2002年11月に起きた東京慈恵会医科大学付属青戸病院での医療事故についても触れた。この事故は、前立腺がんの患者に腹腔鏡を使ってがんを切除する手術を行った結果、医師のミスによって患者が死亡に至ったもの。後に、内視鏡による手術経験がほとんどなかった医師が携わっていたことなどが判明し、医師3人が業務上過失致死で逮捕された。大きな社会問題にもなった事件だ。

 同院の医療安全管理室長でもある吉田さんは、医療への不信を招いた事を詫びながら、この医療事故が起きた要因として、「経験の少ない医師が手術するという管理監督の欠如」「医師の未熟な手術経験」「開腹手術への変更の遅れという医師の独善性」「輸血の遅れというコミュニケーションの不足」などがあったと説明。

 同院ではこのような医療事故が2度と起きないように病院を挙げて再発防止に取り組んでいると話し、その1例として、今年6月から「外科系医師信任制度」を導入したことを公表した。

 これは、あらかじめ医師から専門医資格や手術経験数などの情報を開示してもらい、各種手術をする資格があるかどうかを病院側が判断するという仕組み。具体的には、医師から手術室に「手術伝票」が提出されると、手術室の看護師と麻酔科医が各医師の資格認定表を見て、手術資格の有無を確認するというものだ。

 もし手術資格のない医師から「手術伝票」が提出された場合には、手術室から各科の診療部長に連絡が入り、中止させることになっている。一方、手術経験の少ない医師への対策として、必ず手術資格のある医師と一緒に組んで手術させることにしたという。

 「これまでは医学部の卒業年度でしか医師の能力を判断していなかったが、この仕組みを導入したことによって、各医師の実績などが明らかになった」と、吉田さんは話す。

 他にも、院内死亡率や術後30日以内死亡数、再手術数、術後合併症などのデータを収集し、医療の質(安全)を測るデータとして活用していく方針を示した。問題のある症例があれば、その内容を検証し、医師の手術資格の制限や再信任の可否、再教育の必要性などを判断していく考えがあることも紹介された。


患者の知る権利と選ぶ権利を保障するために

 続いて行われたパネルディスカッションでは、患者が納得して治療を受けるために、医療側がどんな点に注意すべきかについて話し合われた。

 患者からの医療相談や適切な医療を受けるためのアドバイスをしている医療コーディネーターの嵯峨崎泰子さんは、「医師の説明が不十分な結果、患者が相談してくる例も多い」と報告。

 「医師の説明と患者の理解には大きな差がある。医師は十分に説明したつもりでも、1回の説明で、患者さんはその5%程度を理解していれば良い方」(嵯峨崎さん)と、医療側が患者の理解度に配慮する必要があると話した。

 しかし、インフォームド・コンセントの重要性は理解していても、外来で待っている患者も多く、医師が十分に説明する時間がとれないことも多い。東京慈恵会医科大学付属青戸病院副病院長の吉田和彦さんは、短い診療時間を有効に活用する方法として、治療方針を書いた紙を患者に渡し、次回の診察日までに患者に病気について勉強してもらった上で質問を受けるようにしている方法を紹介した。

 キャンサーネットジャパンの代表で、ナグモクリニック院長の南雲吉則さんは、「医師の前では、緊張して話せない患者への配慮も必要」と、患者にメールアドレスを渡し、インターネット上でも相談にのっていると述べた。

 嵯峨崎さんは、患者からの相談を受ける際に、規定のフォームに相談内容を書いてもらい、ファックスやメールで受け付けるようにしているが、「書くことで自分の病気を客観視でき、何がわからないのかも明確になる」と、話した。

 パネルディスカッションでは、患者がセカンドオピニオンを受けやすくする方法についても意見が交わされたが、まだまだ現実は厳しいようだ。

 「早く手術をしないと治療に悪影響を及ぼす」と言ってせかしたり、病名を告知する前に入院させ、手術前日になってようやく病気の説明を始める医療機関の例も挙げられた。

 「告知はあくまでも外来でやるべき。そうでないと、患者はセカンドオピニオンも聞けないし、医療機関も選べない」と、南雲さんはこうした医療機関の現状に懸念を示した。

 患者がセカンドオピニオンを受けるには、まだまだ乗り越えなければならないハードルは多い。キャンサーネットジャパンのような相談機関や医師と患者の間をとりもつ医療コーディネーターの存在が必要とされるのも、こうした医療機関の閉鎖的な体質が背景にあるのだろう。



今年4月から、東京慈恵会医科大学付属青戸病院の副病院長に就任した吉田和彦さん。
医療安全管理室長として、事故防止対策にも取り組んでいる。
キャンサーネットジャパンのボランティア医師として、患者からの医療相談にも応じている。




東京ウィメンズホールで開かれたキャンサーネットジャパンのシンポジウムの様子。
キャンサーネットジャパンは、1991年に米国の国立衛生研究所が作成した
乳がん患者向けのパンフレットを翻訳し、日本で無料配布する活動を始めた。
現在は、ボランティアの医師や看護師によって、患者からの医療相談や情報提供を行っている。