HOME >> コンテンツ一覧 >> 医療安全をとりまく動向ここに注目! >> 「外部のチェック機構が病院を変える!」

外部のチェック機構が病院を変える!


 市立枚方市民病院(大阪府枚方市、442床)は、医療事故をきっかけに、市民を交えた第三者による監査機構を設けて、医療事故防止に取り組んでいる。事故の被害者も参加し、病院の安全対策の検討に関わる事例は全国でも珍しい。事故の教訓は生かされるのか、同院の監査機構の取り組みを取材した。 


きっかけは被害者の訴え


 「医者はリスクマネジャーの言う事を聞いてくれますか」

 2月中旬。市立枚方市民病院の会議室は、緊張感に包まれていた。同院の「医療事故等防止監察委員協議会」(以下、「協議会」)のメンバーの1人が、医療安全管理者(兼看護師長)の岩崎敏子さんに質問した。

 「事故対策は安全管理委員会やリスクマネジメント部会で検討し、提言しています。時には、院長に相談して対応してもらう場合もあります」と、岩崎さんは回答。続けて、「医者が言う事を聞かなければ、私が直接指導している」と、院長の森田眞照さんも付け加えた。

 市立枚方市民病院は、2002年1月から外部の第三者から成る「医療事故等防止監察委員制度」を導入している。メンバーは9人。医師会や歯科医師会、看護協会、学識経験者などの他、市民も名を連ねる。監察委員は不定期に開催される協議会に参加し、病院の医療事故対策が妥当かどうかを検討。市長に提言する役割を担っている。

 きっかけは、1990年に同院で起きた陣痛促進剤による医療事故だ。同院の医師が母親の承諾を得ずに陣痛促進剤を投与。胎児の状態を見る分娩監視装置の装着を怠った結果、仮死状態で出産。赤ちゃんは8日後に亡くなった。

 事故の被害者である勝村久司さん夫妻は、92年に市と主治医を相手取って提訴。一審での請求は棄却されたものの、99年には大阪高裁が夫妻の主張を認め、逆転勝訴。それを機に、勝村さん夫妻は「事故の教訓を生かしてもらいたい」と、病院側に要望書を提出したが、ほとんど聞き入れられなかった。

 ところが、2000年6月に病院側の不祥事が次々に発覚。当時、名誉院長だった元院長による医療ミスや贈収賄事件、カルテ偽造などが明るみになり、元院長は収賄罪で逮捕されるに至った。病院側は失われた信頼を取り戻そうと、ようやく勝村さん夫妻と交渉を再開。その結果、市民も交えた、外部の目が入る監査機構を設置する事を決定。勝村さんは市民代表として、監察委員に選任された。


協議会の提言で事故対策が進展

 協議会の開催は、今回が4回目だ。前回の開催から1年3カ月ぶりになる。この日は、協議会が03年3月に市長に提言した「市立枚方市民病院における医療事故等の防止に関する提言」に沿って、病院側がその取り組み状況を報告。監察委員との質疑応答が繰り広げられた。協議会が提言した内容は、以下の7つだ。
  1. リスクマネジャーの専任化
  2. カルテ改ざん防止マニュアルの策定
  3. 情報公開(カルテ開示)の徹底
  4. 電子カルテ、オーダリングシステムの導入
  5. 院外処方の促進
  6. 処方箋のカルテ添付
  7. 医師の人事交流の促進
 中でもいち早く取り組まれたのが、3.の情報公開の徹底だ。同院では03年4月から、患者や遺族の請求があれば、カルテなど診療情報を例外なく全面開示している。以前は、治療効果などに悪影響が懸念される場合は、公開しない事になっていた。だが、監察委員からの強い要望によって、例外規定を削除。患者から求めがあった場合、カルテや看護記録、X線写真、検査結果などを必ず公開することに改めた。

 また、カルテ改ざんを防止するため、医療事故発生後、院長が直ちに患者のカルテを別の場所に保管する制度も同じ時期に導入した。同院は勝村さん夫妻との訴訟中に、カルテの一部を改ざんした苦い経験がある。その反省が生かされた形となった。

 さらに、04年7月には、カルテ改ざん防止の取り組みを強化した。医療事故が発生した場合、院長は当事者から事故の報告を受けるとともに、それまでのカルテなど診療情報の写しを患者や家族に速やかに提供するよう、「医療事故発生時における対応指針」に盛り込んだ。事故発生後、即座に患者にカルテを渡してしまえば、改ざんのしようがないという訳だ。

 「04年3月からは電子カルテを導入しており、カルテを修正した場合は、誰が入力したかも含め、履歴が残るようになっている。改ざんは実質的に不可能になっている」と、森田院長は話す。05年2月までに、指針に基づいてカルテを提供した事例はないという。

 その他の提言事項についても、取り組みは進んでいるようだ。リスクマネジャーの専任化は、3月に市の条例が改正されれば、05年4月から「医療安全管理室」が新たに設置され、医療安全管理者が専任で業務にあたる予定だ。

 電子カルテとオーダリングシステムは、04年3月から導入。院外処方については、04年10月から院外処方箋を全面的に発行している。

 処方箋のカルテ添付は、与薬事故を防止するため、注射薬の処方箋にカルテを添付して、薬剤師のチェックが働くようにするのが狙い。実務上は困難だという判断もあり、一部の監察委員のみが要求していた事項だったが、これも電子カルテの導入により可能となった。薬剤部で電子カルテを開き、処方箋に疑義がある場合は、医師に照会する事が出来るようになっている。

 医師の人事交流の促進は、民主的な病院運営のために幅広い大学や医療機関から医師を招へいするよう求めたもの。だが、学閥があり、思うように進んでいないのが現状だ。そのため、「自前で医師を育てる事も1つの方法」(森田院長)として、臨床研修医制度を活用し、さまざまな大学病院から研修医を受け入れる事にしている。

 こうして見ると、同院は協議会の提言事項の実現に向けて、着々と取り組んでいるようだ。しかし、運用面では課題も残されている。カルテ改ざん防止の取り組みが、その1例だ。医療事故が発生したら、院長は患者にカルテなど診療情報の写しを手渡す事になっているが、「あくまでも、死亡に至るような医療事故の場合に限る」と、森田院長は話す。さらに、医療事故かどうかの判断はあくまでも病院側が行う。つまり、医療事故が発生しても、死亡に至らず、病院側が事故だと判断しなければ、自主的に開示されないという訳だ。

 同院では医療事故が発生した場合に、「安全管理委員会」を開催して、事故原因や再発防止策を検討するが、「事故なのか、それとも合併症なのかを判断するのは難しい」と、森田院長は言う。判断の客観性を担保するという意味では、安全管理委員会に第三者を加えるのは手だろう。その意味でも、協議会が今後どんな役割を担っていくのかが期待される。

 事故防止策を協議会が提言してから3年。市立枚方市民病院と協議会の関係は、新たなステージに突入したと言える。事故の教訓から生まれた貴重な財産を活かして、同院の事故対策が一層進展するのを期待したい。



市立枚方市民病院の院長、森田眞照さん。
「第三者を入れた医療事故対策の取り組みは、
今後も続けていきたい」と語る。



市立枚方市民病院の外観。