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医療機器の一元管理化がもたらす安全性と効率性


 医療機器は多種多様で、使われる頻度も高い。その一方で、輸液ポンプや人工呼吸器などに絡んだインシデントや事故事例なども報告されている。国立国際医療センター(東京都新宿区、925床)では、医療機器をコンピューターで一元管理する事で、安全な医療機器を現場に提供する仕組みを築いている。その取り組みがもたらす効果を取材した。



バーコードによる医療機器の管理

 国立国際医療センターの中央機材室は、人工呼吸器やシリンジポンプなど、医療機器の貸出返却の窓口となっている。

 看護師の1人が輸液ポンプを借りに来た。バーコードが印刷された伝票を差し出すと、中央機材室の職員がバーコードリーダーを取り出し、看護師の名札と伝票のバーコードを読み取る。コンピューターの画面上に医療機器の種類や機種などが表示されると、職員はその内容を確認。看護師に該当する輸液ポンプが貸し出された。

 これは同院が開発した、バーコードによる医療機器管理システムの運用例だ。医療機器の貸出返却をバーコードで管理する事によって、各医療機器の稼働状況などが、リアルタイムでわかる仕組みとなっている。

 各病棟で医療機器を使う場合には、あらかじめ医師や看護師がコンピューター上で機器の在庫状況を確認し、コンピューター上で登録。伝票を出力して、中央機材室に借りに来るという流れだ。

 使い終わった医療機器は、中央機材室に返却。職員による機器の清掃や消毒の後、臨床工学技士による保守点検が行われる。それらが終了すると、貸出可能な医療機器としてコンピューターに登録される。同院では、常に保守点検の済んだ医療機器が使えるという訳だ。もし仮に保守点検が済んでいない医療機器がまぎれ込んでいた場合には、バーコードでチェックした際に、コンピューター画面上に「貸出不可」と表示される優れものだ。

 「どの病棟でどんな医療機器が使われているかが把握出来るので、故障などのトラブルが生じても、即座に修理などの対応が可能になる。医療機器ごとの修理履歴も残る。厚生労働省からの医療機器に関する安全情報を周知する場合でも、迅速に対応出来る」と、中央機材室で医療機器の管理と保守点検を担当している主任臨床工学技士の目黒勉さんはシステムのメリットをこう話す。


保守点検の仕組みをルール化

 同院がこうした医療機器管理システムを導入したのは、2003年3月からだ。それまでは伝票処理による運用だったため、機器の正確な情報を把握出来ていなかった。その解決策として考案されたのが、バーコードによる医療機器の一元管理だった。すでに稼働していた電子カルテシステムに機能を付加する形で、運用される事になった。

 「このシステムのもう1つの特徴は、電子カルテシステムと連動している点。どのような治療を受けている患者にどんな医療機器が使われたかが履歴として残るので、感染症対策にも活用出来る。医療機器の管理情報と患者情報が結びついたシステムは、日本でも当院だけ」と、電子カルテと医療機器管理システムの企画開発にあたった同院医療情報システム開発研究部部長の秋山昌範さんは自信をのぞかせる。

 とはいえ、当時はコンピューターで医療機器を一元管理しようにも、医療機器がどこに何台あるのかさえわからない状態だった。そこでシステム導入に伴い、院内で使われている医療機器の実数を把握する事から始めた。全ての医療機器にバーコードの付いたシールを貼付。医療機器の管理台帳も作成した。その結果、30種2千台以上の医療機器が使われている事がわかった。

 また、医療機器を保守点検する際のルールも統一した。人工呼吸器や輸液ポンプなど医療機器ごとに点検する項目を洗い出し、点検表を作成。それに基づいて保守点検する事で、医療機器の安全性を担保した。この点検表は「医療機器カルテ」と名付けられ、保守点検記録としても重要な役割を担っている。

 さらに、医療機器の故障を報告する形式も統一した。それまでは故障や動作異常が生じると、各病棟から中央機材室に電話で連絡が来たり、修理の依頼内容をメモに書き記したものが張り付けられて返却されるなど、対応がバラバラだった。そこで目黒さん達は、「保守点検修理等依頼書」を作成し、各病棟に配布。医療機器が故障したら、この書類に必要事項を記入し、機器と一緒に提出してもらうよう依頼した。点検や修理が終わると、臨床工学技士によって修理箇所と原因が同書類に記入され、各病棟にフィードバックされる事になっている。


医療機器が故障する理由

 「医療機器の一元管理化に伴い、こうした保守点検に関するルールを決めた結果、これまでわからなかった医療機器に関するトラブルの原因が明らかになった」と、目黒さんは当時を振り返る。

 その1つが、輸液ポンプのバッテリー交換に関するものだ。各病棟から、「規定の稼働時間が維持されない」という報告が多く寄せられたため、臨床工学技士が点検してみると、耐用年数を過ぎたバッテリーが、交換されないまま使用されている実態が判明。院内にある約300台の輸液ポンプのうち、約200台のバッテリーが交換された。その後はバッテリーに関する動作異常のトラブルが著しく減少したという。

 生体情報モニターの部分破損や、記録装置の整備不良による動作異常も多かった。目黒さん達はそれら機器に付いた埃を取り払うとともに、メーカーに破損や損傷部分の修理を依頼した。中には、心電図の波形をとっている際に別の病棟の患者の波形が出る(幽霊心電図)というトラブルもあった。調べてみると、メーカー側の不適切な指導によるチャンネル設定やモニター改造が原因である事がわかった。

 「中にはバッテリーが交換されないまま、7〜8年放置されていた医療機器もあった。他にも、機器や架台のキャスターにゴミや髪の毛が絡まり、キャスターが動かないものもあった。それらが倒れると、医療機器を破損する恐れがある。看護部門で生じるインシデントや事故の中には、機器の保守点検が不十分なために起こる例もあると思う。医療機器を一元管理する事で、こうした事故の防止にもつながる」と、目黒さんは言う。

 そもそも同院では、なぜ医療機器が使われないまま、長らく放置されていたのか。それは医療機器の貸出返却や保守点検がルール化されていなかったからに他ならない。各病棟は医療機器の故障や不具合が生じた場合に備え、必要な台数以上の医療機器を借りていた。それら予備で借りたものが、使われないまま放置されている例が少なくなかったようだ。

 「一元管理化によって、医療機器のコスト削減にもつながる可能性がある」と、目黒さんは指摘する。

 修理が必要になったら、中央機材室が即座に対応してくれるという安心感があるため、予備で医療機器を借りなくてもよい。その結果、本当に必要な医療機器だけが貸し出され、余分な医療機器を購入しなくて済むからだ。

 ただ、システム導入によるメリットがある一方で、運用上の課題は残されている。いまだに行方不明になる医療機器がある事だ。夜間休日は中央機材室の職員が不在となるため、看護師が1人でバーコードを使って貸出返却する事になっている。だが、中にはその入力操作をしないまま持ち出してしまう例があるため、医療機器の在処がわからなくなる場合があるという。

 「長期で貸し出している医療機器の故障頻度が高い点も課題。その対策として、臨床工学技士が病棟を巡回して、定期的に保守点検する方法などが考えられるが、それには現在の人員体制では無理。臨床工学部門を組織化し、専任で医療機器の管理や保守点検にあたれる相応の人材を配置して欲しい」と、目黒さんは話す。

 今後は貸出返却のルールをさらに周知徹底すると同時に、システムを使って、どの病棟でどの位の頻度で医療機器が紛失し、修理が必要になるかをデータ化し、それらの防止に努めていきたいと考えている。

  


国立国際医療センターの中央機材室。
ここで人工呼吸器や輸液ポンプなどの医療機器の貸出返却が行われる。
病棟に貸し出される前に、臨床工学技士による医療機器の保守点検は完了している。



医療機器を貸出返却する際には、
バーコードリーダーで医療機器などのバーコードを読み取る。
コンピューター上で、医療機器の貸出状況や保守点検、
修理状況などが一目でわかる仕組みとなっている。



医療機器の点検表がファイルされた、「医療機器カルテ」。
医療機器ごとに点検の履歴がわかる。
点検表に基づいた保守点検が終了すると、
コンピューターに登録され、貸出可能となる。