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治療や事故防止にも役立つ患者会の活動

 医療事故を防止するためには、患者と医師が互いにそれぞれの思いを理解し合い、何でも気軽に話せる関係を築くことが望ましい。とはいえ、現実には「3時間待ちの3分診療」と揶揄されるように、短い診療時間中に互いの意思疎通を図ることは容易ではない。だが、大阪府八尾市にある松尾クリニックでは、「松樹会」という患者会を組織化することで、互いのコミュニケーションを円滑にする試みが成功している。その具体的な取り組みと、効果について、同クリニックの松尾美由起院長に話しを聞いた。

Q.「松樹会」という患者会を始められたきっかけは何だったのですか?

 1985年に当クリニックを開業して間もなく、患者さんから、「病気について気軽に話し合える場が欲しい」と持ちかけられたのがきっかけでした。もともと地域に根ざした医療を目指して開業したこともあり、患者さんの声をもっと聞きたいと思っていました。それに、患者さんにとっても病気の知識を得たり、情報交換の場になれば良いと考えたのです。それで早速に声をかけたら、100人近くの患者さんが集まってくれました。

Q.具体的にはどのような活動をなさっているのですか?

 現在、「松樹会」の会員は約250人いますが、年に4回集まる機会を作っています。近くの市民会館などを借りて、病気についての講演をはじめ、ティッシュケースを一緒に作ったり、童謡を唄うなどのレクリエーション活動も併せて行うようにしています。
 また、年に1度は日帰り旅行も実施しています。患者さんの平均年齢は約70歳ですが、中には外出がままならない方もいます。こうした旅行を催すことで、外へ出かけるきっかけが作れれば良いと思っています。

 他にも、病気の対象者を中心として、定期的に糖尿病や高血圧など疾病ごとの勉強会も実施しています。例えば、糖尿病教室では病気の基礎的な勉強をはじめ、栄養士と一緒に食事を作る場も設けています。これはとても好評で、私自身も患者さんの食生活がわかるなど勉強になっています。

 さらに、患者さんが講師となって七宝焼きや手芸、書道などのクラブ活動も行なわれています。これらは手先を動かすことになるので、痴呆の予防にもいいんです。患者さん自身が俳優となって、一般市民向けに演劇を行うこともあるんですよ。テーマは病気や介護の話しを織り交ぜたものですが、講演よりも理解がしやすいですし、何より楽しい。劇中ではアドリブが盛んに飛び出すなど、患者さんの俳優業も板についてきた感じです(笑)。

Q.これらの活動を続けてこられて、患者さんや先生自身に変化はありましたか?

 まず何より、患者さんの病気に対する理解が深まり、治療に対しても積極的になります。そして、「病気で悩んだり、苦しんだりしているのは自分だけではない」と思ってくれるようになりました。互いに話しをする機会が増えますから、患者同士で連帯感も生まれているようです。例えば、1人暮らしの患者さんの体調が悪い場合には、隣近所で見守るようにしてくれるなど、ネットワークも自然に出来ています。
 「松樹会」には私をはじめ、看護師などの職員も一緒に参加しますので、互いに話しがしやすくなり、患者さんが疑問に思った事などを気軽に質問してくれるようにもなりました。クリニックに対する要望も聞けるので、サービスの向上にも役立ちます。

Q.医療事故の防止にもつながるでしょうか?

 クリニックでは同姓同名の患者さんが多いので、日頃から交流があると相手を確認するのに役立ちます。また、コミュニケーションが取りやすくなるので、患者自身が何か変だと思ったら連絡をくれます。例えば、当クリニックは薬を院外処方にしていますので、薬局が間違える場合もあります。そんな時でも連絡をくれるので、事故の防止につながります。

Q.確かにさまざまなメリットがあるようですが、このような取り組みをするには費用的な負担が大きいのではないでしょうか?

 費用と言っても、市民会館を借りる費用が数千円〜1万円程度。資料代は実費で徴収していますので、ほとんど負担はありません。それよりも、患者さんのイキイキした姿を見ることは私自身の励みになります。患者さんに癒されることも多いんすよ(笑)。

Q.このような活動を他の病院でも始めるには、どうしたら良いのでしょうか?

 患者会は、医師が自分の気持ちや思いを伝達する手段だと思えば良いのです。最近はホームページなどで医療機関がさまざまな情報を提供する機会が増えましたが、これもその1つだと考えたらいかがでしょうか。それと、最初から大規模にやろうとしないで、出来るところから始めればいいと思います。何より大切な事は、自分自身が楽しむこと。そうすれば、患者さんも楽しくなりますし、いろいろなアイデアも生まれます。長続きするコツは意外にこれかもしれませんね。
松尾美由起先生
1948年、大阪生まれ。'73年、広島大学医学部卒業。淀川キリスト教病院で研修後、内科医として勤務。その後、八尾徳州会病院を経て、'85年に松尾クリニックを開業。在宅医療にも積極的に取り組んでいる。同クリニックのホームページは、http://www.reference.co.jp/Medical/matsuo.html